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第2章 ミミッサス大森林⑧

ミミッサス大森林⑧



▪️▪️▪️▪️




初めての訓練から2週間、充実した平和な日々が続いていた。


オレの狩りは再開後、最初の“スーパーウルトラグレートボア”だけを丸ごと納品して、それ以降は討伐部位を納品する様にした。


残った肉は、“ディファレントスペース”の一部を“常時時間の止まっている倉庫”にして“解体して”貯めて行っている。


家では、スキル全集の内容を自身のスキルに落とし込む事と、“森羅万象”で確認した実在する魔導具の再現と更に進化した魔導具作りに励んでいた。“スキル 解体”も入手済みだ。


ルナルーレの休日はオレも休日にしてショッピングやピクニックをして過ごした。

訓練も初回同様のペースで行い、3人の能力も上がって来ている。




そんな時に事件が起こった。

この事件はオレに“大きな発見”と“大きな決断”を齎した……






今日は訓練日だった。

訓練を終えて“本来の夕食”を食べ終わったところに、我が家に初めての来客があった。


来たのはギルド職員さんで、ギルドマスターから「大至急来て欲しい」と言う伝言を伝えに来たと言う。

急ぐなら、オレ1人で行くとルナルーレ達に伝え、ギルド職員さんを残して、ギルドに向かった。


冒険者ギルドに入ると、ビーンズウッドさんに案内されてギルドマスター室へ。



“炎の爪”の時のムキムキさんとリサリナちゃんがいた。

オレの表情に気付いたのか、まず自己紹介からされた。


ムキムキさんはギルドマスターのサラス ロールストスさん、リサリナちゃん、改めリサリナさんは副ギルドマスターだった。


ロールストスさんが話しを切り出した。


「早速だが本題に入りたい。黒竜が現れた、時間稼ぎをして貰いたい」


オレのハテナ顔にビーンズウッドさんが説明を引き継ぐ。



そもそも“リュウ”には“竜”と“龍”がおり、今回の黒竜は“竜”だ。


こちらの“竜”の不味いところは“低所でも定住する可能性”がある事だ。

ミミッサス大森林でも住み着く可能性があり、もしも、巣を作るなら卵の安全の為に周囲の生き物を狩って周るそうだ。


次に不味いのは“黒竜”だと言う事だ。

“黒竜”は別大陸にいる“SSSランクの暗黒竜”の眷属で、“生まれた時”からAランク、成竜ならSランクはあるそうだ。今回の目撃情報では成竜だという。


Sランクの魔獣の討伐なら、複数のSランクパーティーでのレイドかハルマール王国軍が全力で当たる程の脅威だそうだが、魔獣の比較的少ないこの国には全員がSランクのパーティーはおらず、外国からの召集となり、時間がかかる。軍の方も戦争中の為、時間がかかる。


目撃位置は村から1,000km程のBランクとAランクの魔獣が混同している辺りで、今の1匹だけならば村が襲われる可能性は高く無いが、討伐準備の間に子供が生まれた場合はこの村は放棄して、黒竜の巣の周囲1,000〜2,000kmは危険域になるそうだ。



本来なら、Sランクパーティーに指名依頼を出して、調査と卵を発見した場合は可能ならば卵の破壊をして貰うそうだが、現在この国にSランクパーティーは北の国境のルルレの街と西海岸沿いのコクスクの街にしかいないそうだ。南東にあるラットック村はどちらからも最も遠い。


調査の開始すら1〜2週間掛かるかもしれないという。



「Bランクであるクルスくんには、本来Sランクの指名は出来ない。だから、これはお願いだ。

黒竜の調査をして貰えないだろうか」

と、締め括った。



少し考えて、“森羅万象”に尋ねる、

『ミミッサス大森林にいる黒竜のステータスは?』


回答の声では無く、頭な中に情報が浮かぶ。



----------


名前

年齢 1,224

種族 黒竜

称号 暗黒竜の眷属


レベル 22万


体力 4億/4億

魔力 3億2,000万/3億2,000万


力    2,200万

耐久   3,100万

知力   1,200万

魔法耐久 3,700万

俊敏   1,700万

器用   1300万


スキル

黒竜のブレス、竜の爪、飛翔、闇属性魔法LV10、雷属性魔法LV10、複合魔法、限界突破LV4



----------



『…………人間が勝てる訳ねぇ〜〜!!ステータスMAXのオレで一撃死じゃねーか!!

せめて、炎だけならどうにかなったかもしれんが、闇属性魔法と雷属性魔法は喰らう!!


…………いや…………待て、まてまてまて!!…………これは、伝説の“アレ”じゃないか…………

そうか、“アレ”があるなら…………』



“思考加速”で一瞬ではあったが、沈黙したオレに、


「無茶は承知で、お願いしたい!!この通りだ!!」


ビーンズウッドさんがそう言うと3人が頭を下げた。


「皆さん、頭を上げて下さい。いつも、お世話になってますから、条件次第でお受けします」


オレがそう答えるとロールストスさんが、


「条件?聞こう!!」


とクワッと目を見開いて喰い気味に顔を寄せて来た。


「幾つか聞きたい事と、お願いがあります。

まず、黒竜の発見の報告とSランクパーティーの召集は本部とかそう言うところにもうしてますか?」


「発見報告は冒険者ギルド総本部とハルマール王国本部にしてありますが、Sランクパーティーへの召集と依頼はまだ行っておりません。

クルスさんのお答え如何によって依頼内容が変わってしまいますので」


と、リサリナさん。


「では、“黒竜はすでに死んでいて、たまたま死体を発見した”事に出来ますか?」


「「「!!!」」」


「どう言う事だい、クルスくん?」


「オレが黒竜を討伐したら、“黒竜は元々瀕死で、丁度、森で息絶えた”。

それをオレが“偶然見つけた”。そんな風にして欲しいんです」


「「「!!!」」」


「討伐出来る作戦があるのかい?」


「はい、確定ではないですけど、あります。

なので、Sランクパーティーへの依頼は待って下さい。


あと、今回は“秘密兵器”を使わないといけないかも知れないので、倒し方は詮索しないで下さい」


「秘密兵器?倒し方を詮索しないとは……」


「はい、リサリナさんが副ギルドマスターだったと言う事は、今まで、ビーンズウッドさんとリサリナさんだけがオレの対応をしてくれていたのは、オレが“異世界転移者”だからですよね?」

「「「!!!」」」


「皆さんがご想像の通り、オレには“秘密”があります。

皆さんの事は信用していますし、ここのギルドは良い人ばかりですが、それでも、お話し出来ません」


「この国に利用されない為か?」


「ご想像にお任せします」


「…………分かった、その条件を呑もう」


僅かに考えたロールストスさんだったが、ゆっくりと頷いてそう答えた。


「しかし、マスター!!それですと、“採取”になります。

“討伐”報酬をお出しする事は出来ません。黒竜の買取金だけになってしまいます。

それに“採取依頼”を出す訳にも行きませんから、ランクアップ条件に反映する事も出来ません」


有り難い事に、リサリナさんはこの状況でもオレの事を考えてくれている様だ。


「では、死体だけ確認したら素材は全部引き取らせて下さい。

討伐証明部位も含めて。報酬はいらないので」


「クルスくん、黒竜はデカい。肉も大量だ。保存はどうする?

万が一腐った場合、強力なドラゴンはドラゴンゾンビになってしまう可能性が高いんだが……」


「それは大丈夫です。“ディファレントスペース”が使える様になったので」


「な!!いつの間に!!」


「で、貰っても大丈夫ですか?」


「少しの肉とカケラでいいから魔石の一部を貰えるか?死亡確認の証明に使いたい」


「分かりました。Sランク冒険者への依頼はどれくらい引き延ばせますか?」


「……出来て3日だ」


「分かりました。なら、明日の朝までにオレが戻って来なかったら依頼を出して下さい。

その場合は多分死んでるんで。なので、今夜はどなたかギルドに詰めてて貰えますか?」


「全員で君の無事の帰還と、“採取”の成功を待つ!!」


「分かりました、助かります。

もし無理そうなら、一度戻って来るのでその時は、もう一度対策を相談させて下さい」


「分かった、無理はするな!!」


「ありがとうございます」


そう言って、目撃情報のあった場所を聞いて、ギルドマスター室を後にし一旦、家に帰った。






▪️▪️▪️▪️





家に帰ると、3人とも待ってくれていた。

心配してくれる3人に、「あまり時間がないから訓練場で説明する」と言ってついて来るよう促す。


訓練場に着くと、直ぐに“時間を100倍”にして、休憩室で飲み物を準備して貰い、ギルドでの話しを説明した。




「そんなの無茶にも程があります!!

なんでレンジ様がそんな危険な事をしなければいけないんですか!!

そんなの絶対にダメです!!」


最後まで黙って聞いていたルナルーレが泣きながら立ち上がって叫んだ。

ランドとグッサスも何も言わないが、「絶対に行くな!!」と目で言っている。


オレも立ち上がり、そっとルナルーレを抱き締めて優しく頭を撫でる、


「ルナルーレ、落ち着いて聞いて欲しい。問題はそこじゃ無いんだ」



そう言ってルナルーレともう一度座る。


「はっきりとは言えないが“黒竜には多分勝てる”。

これから準備をしてみないと分からないが多分、大丈夫だと思う。

準備の段階で無理そうなら挑まないから安心してくれ。


問題はその後だ。


討伐が成功したら、さっきも言った様に、“たまたま死体が見つかった”事にして貰う予定になっているが、いつかは“バレる”だろう。


もしバレて、“オレが討伐した”もしくは“オレが討伐した可能性がある”、そうなった場合、オレは“この村から出て行かないといけない”。



初めて会った日、オレは“2、3ヵ月でこの村を出る”と言ったが、最近は、この村で1年準備が出来るなら、半年〜1年、離れるだけで済むかも知れないと、考えていた。

でも、その可能性がとても低くなってしまうだろう…………」


ルナルーレはオレの腕にしがみついて、また、泣き出してしまった。

ランドとグッサスも複雑な表情をしている。


「ランド、グッサス!!その時はルナルーレを頼む!!」


真剣な目で2人を見つめて、ガバッと頭を下げた。


「任せて下さい、レンジさん!!嫁入り前の大事な妹です。

キッチリ無傷でレンジさんに嫁がせますんで!!」


「ああ、命に代えてもルナルーレは守ります」


力強く応えてくれた2人にオレも安心して、笑顔を返す。


「ありがとう、でも、ちゃんと2人も無事で居てくれよ?」


「「そこは、まぁ〜、努力します」」


声を揃える2人に「おいおい……」と笑って返すと、ルナルーレも涙を拭いて笑う。


そして、真剣な表情で、


「お待ちしています。何があっても、愛するレンジ様を、ずっと、お待ちしています」

そう言って、初めてルナルーレの方からキスをしてくれた…………





「何か手伝う事は無いか?」と聞かれたので、風呂と食事の準備をお願いする。

「ここで作るか、運んで来る」と、言われたが、「危険だから」と、上で準備だけして貰った。



3人が出て行くのを見送り、準備を始める。


今回の“黒竜討伐”の必須条件は、“黒竜のステータス”で見つけた“伝説のアレ”だ。

ゲームによっては“ここからが本番”と言ってもいい。



“限界突破”だ!!



オレのステータスはレベル9,999、ステータス値は999万9,999で打ち止めだった。


レベル9,999の時点でステータス値100万を超えていたのは体力と魔力だけでそれ以外は高くても知力の70万程だった。だから、オール999万9,999は破格だと思っていたのだ。



違った。更なる高みがあったのだ!!


更なる高みへ!!“スキル 創造”!!“スキル 限界突破”の指輪!!




----------


限界突破の指輪


オリハルコンの指輪

スキル 限界突破を習得する


----------



出来た!!指輪をはめて、スキル習得の為、“リターン”でAランク魔獣狩りをしていた狩場へ。


今回は、時間が無いので、“感知”と新たに習得していた“夜目”をフル稼働して、空中から魔法で瞬殺して周る。

死体の回収は明日以降だ。



30匹程でレベルが1万になった。回収予定の魔獣には結構強いのが混ざっているかも知れない。

“リターン”で訓練場に戻って指輪を外して確認。


“限界突破 LV1”がちゃんと反映されていたので、直ぐに“スキルレベル操作”だ。




----------


スキル


限界突破

LV1 レベル上限が5桁になる

LV2 ステータス上限が9桁になる

LV3 手加減習得、任意に設定したステータスで行動が出来る

LV4 レベル上限が7桁になる

LV5 ステータス上限が10桁になる

LV6 手加減向上、複数のステータスを設定出来る

LV7 レベル上限を自由に設定出来る

LV8 ステータス上限を自由に設定出来る

LV9 手加減修得、ステータスを最大値以下で自由に設定し行動出来る

LV10 他者の限界突破を促す事が出来る



----------



何処までも強くなる事が出来る様になった…………


しかし、“限界突破スキル”なのに、一緒に覚える“手加減”。

これは、やり過ぎると、この世界が“綺麗な花火”になってしまうからだろう。



そして、ステータスにもう1つ“重大な問題”が発生したが、一旦、保留にして“今、必要な事”を進める。



ステータス値の検証は後日じっくりやる事にして、今は“黒竜を倒せる”ところで留めて置く。


分かり易く、且つ、安全マージンを取って、“ステータス操作”で全て100億にして、“手加減”で“力と知力と俊敏”を現在の約10倍の1億にして、コントロール出来る様に訓練して行く。

それが終われば次は10億、そして100億だ。



10日掛かった……途中、睡眠と食事をとっていたとはいえ、長かった……


そして、食事を持って来て貰わなかった事にとても後悔した……


無限収納袋小にずっとあった、保存食用のスッティック状のパンと干し肉、“ディファレントスペース”のクマと猪の肉を毎日食べるのは辛かった……



“スキル 創造”で調理器具や調味料を作るのでは無く、直接、“料理を創造”すれば良い事に気付いたのは10日目の朝だった。

億超えの知力にもっと仕事をして貰いたかった……



この特訓で愛刀になった“オリハルコンを圧縮した刀”を2本腰に下げて、“時間延長100倍”を切って、リビングに戻る。




駆け寄って来たルナルーレを抱き締めて、


「ごめん、結構時間が掛かった。夜更かしさせちゃったね」


「いいえ……」


小さく呟く、ルナルーレの頭をそっと撫でて、待ってくれていたランドとグッサスに礼を言って風呂に入る。


準備されていた服を着て、食事を取ると“4時”になろうとしていた。




2本の刀を下げて、玄関に向かう。

何も言わず3人が見つめて来るので、笑顔で、


「大丈夫!!」


と、言って、ルナルーレに近付いて、唇を指差してキスを求める。

恥ずかしそうにキスをした後、涙目で微笑むルナルーレに、


「楽勝だから、先に寝てていいよ!!」


と、軽く手を振って玄関を閉めた…………




▪️▪️▪️▪️






“黒竜が目撃された場所”は、ラットック村から南西方向だった。


普段は家が東門に近い事から、南東に向かう事が殆どで、今回の南西方面には初めて向かう。



黒竜からパクった“スキル 飛翔”で一気に駆け抜ける。


目標ポイントに近付くと“感知”に引っ掛かった。

一目瞭然、今までの比では無い圧倒的な反応だ!!


スキル“夜目”と“遠視”で黒竜を“見る”。黒竜も気付いている様で目があった!!



“スペースジャンプ”で一瞬で首元に跳び、“クルス流剣術1”、“一閃”!!

抜刀術の飛ぶ斬撃で下から首を斬り飛ばした!!



失敗した……

『決まった!!』と思った時には降り注ぐ“黒竜の血の雨”でドロドロだった……


特訓漬けの成果だったので、ちょっとハイになっていた……

“心の声”は“思考加速”されなかった……




“ウォーター”と“ウィンド”で取り敢えず綺麗にして、“ディファレントスペース”に黒竜の死体を放り込むと卵があったのでそれも放り込む。


最後に愛刀を仕舞って、“リターン”で家の庭に帰り、玄関を開けるとまだ3人がいてビックリしてこちらに駆け寄って来る。


「何か、お忘れ物ですか?それとも、今回の討伐はお辞め頂けたんですか?」


「いや、もう終わったから安心して欲しいって伝えに帰って来たんだ。

これから、ギルドに報告に行くから、そっちの方が時間が掛かるかも知れないから、安心して先に寝ててよ」


「「「!!黒竜を倒したって事ですか??」」」


「ああ、そうだよ、だから安心して……」


「「「たった5分で?!」」」


『なんか、久しぶりだな、3人のハーモニー……』


「そう!!だから安心して3人とも、もう寝るように!!じゃあ、ギルドに行ってくる!!」

そう言って、説明責任を放棄するかのようにギルドに向かった。




念のため、風属性魔法“ウィンドフライ”でギルドに向かう。

念のためは正解で、幹部3人揃って入口の前に立っていた。少し手前に着地して声を掛ける。


「お待たせしました。終わりました」


「クルスくん……終わったと言うのは……」


「はい、ちゃんと“黒竜の死体を採取”して来ました」


「「「!!!」」」


「確認して欲しいので、いつもの東門の外の解体庫にどなたか着いてきて貰えますか?」


「全員で行く。直ぐに向かおう!!」




3人と共に解体庫へ、ここは以前オレが作ったモノを改造して使っている。

中に入り、リサリナさんが灯りを付けてくれている間に“ディファレントスペース”から黒竜を引っ張って来る。


「「「!!!……」」」


3人とも放心状態だったので、先に、魔石と肉を切り出して3人の前に置く。


「肉はこれくらいで足りますか?魔石はどの位、必要ですか?」


「ハッ!!あ、ああ……これだけ有れば肉は大丈夫だ、魔石はこの角の一部分で足りる……

おい!!リサリナ!!鑑定だ!!」


「ハッ!!はい!!」


「!!!…………」


「リサリナ、鑑定は出来たのか?おい!!」


「で……出来ました……黒竜で間違い有りません……」


「!!そうか、で、その……レベルは?」


「22万です……」


「「!!」」


「22万か……レベル22万の黒竜をたった1人で……」


「では、ビーンズウッドさん魔石のカケラです。残りは片付けますね」

そう言って“ディファレントスペース”にもう一度、黒竜を引き摺り込む。



「“お願い”はこれで、達成ですよね。それじゃあ、オレはもう帰りますね、眠たいので」


「ちょっと待て、クルスくん!!」


「どうしました、マスター?」


「話しがある、明日の夜、ギルドに来てもらいたい」


「分かりました。何時に?」


「君の都合に合わせる」


「…………じゃあ、21時で」


「分かった、宜しく頼む」


そうして、家路に着いた。





家に帰るとリビングでルナルーレは待っていた。


「ただいま」


「おかえりなさい。本当にご無事ですか?お怪我は有りませんか?」


「心配するなって言っても無理だよな。怪我は無いけど汚れちゃったから、もう一回風呂に入りたいんだけど、背中流してくれる?見れば安心でしょ?」


「はい!!流させて頂きます!!」



オレの背中を流しながら、「よかった……」と、小さく呟くルナルーレに、

『本当に愛されてるなぁ〜』と、強く感じた……







▪️▪️▪️▪️





翌日2人共、昼過ぎに一緒に起きた。


2人共、裸だが、これは“そういうコト”では無い、帰って来て、そのまま風呂に入ったので、着替えを持って行っていなかっただけだ。



昨夜はそんな雰囲気では無かった。

『これで、11日“おあずけ”だなぁ〜』と言う、もう1人の自分の声を抑え込み、ちゃんと空気を読んだのだ。


それと、“昨夜の訓練中に発生した問題”がまだ解決出来ていない。と言う理由もある。



少し遅めの昼食を一緒に食べて、そう言えば、今日の狩りはどうなったのか聞いてみると、


「今日は、お休みする事になりました。ランド兄さん達は食事も外で済ませるから、今日は2人っきりでいる様にと」


「そうか、オレは良い“お義理兄さん達”に恵まれたな。なら、お言葉に甘えてゆっくりしよう…………」


「?どうか、されましたか?」


「いや……ちょっと、“片付けないといけない問題”と、21時にギルドに行く約束をギルドマスターとしてしまってて……」


「そうなんですかぁ〜……」


顔に“残念”と大きく書いてあるルナルーレに、


「ギルドマスターとの約束は無視出来ないけど、“片付けないといけない問題”は直ぐに片付けるから、ちょっとだけ待っててくれ!!」


言うが早いか、オレはダッシュで訓練場に行き、速攻で“時間100倍”にした。







“片付けないといけない問題”、それは“限界突破”がレベル10になって現れた



----------


称号


至神

神に至った者


種族が神になる


----------



だ!!



見た瞬間は…………


「なんと、神様になっちゃったょ、ハハ……本当に人間辞めちゃったなぁ〜、じゃあ、ルナルーレとの間に子供が出来たら“神子”かな?“神子”だな!!


“神子”って種族かなぁ〜?称号かなぁ〜?……………

って!そうじゃない!!まずい!非常〜〜にまずい!!


そんなのバレたら、絶対に狙われるじゃないか!!

この世界は妊娠率がとても低いみたいだけど、絶対安全じゃない!!


もしも、オレが“この村を出た後”で妊娠が分かったら、そして、もしも“神子”が本当に生まれて、もしも、バレたら?


とてつもなく、“2人とも”危険だ!!

ダメだ!!絶対に今、妊娠させたらダメだ!!


良し!!2年後か、3年後か分からないが“迎えに来れるまで”は我慢しよう!!

それまで、オレは耐え抜いてみせる!!」


オレは“鋼の意思”で強く決断した!!




その1分後…………


「ルナルーレになんて言えば良いんだぁ〜〜〜〜!!!!


『神様になっちゃったから、キミの安全のために控えよう』なんて、言えるわけがない!!


それに、そもそも、毎晩同じベットで寝ながら耐えられるのか?

答えは“否”!!断じて“否”だ!!

なんとしても、“我慢”以外の方法を考えなくては!!」


と、言う“問題”を抱える事になった…………


“鋼の意思の決断”は1分でへし折れた。そもそも、この世界の鋼は大したことない。

“オリハルコンの欲望”が勝つのは当然の帰結だった。




そして、今、“100倍の時間”の中でその問題に取り組む!!

オレを導いてくれ!!“森羅万象”!!


「この世界に避妊具はあるのか?」

『有る』


「どんな避妊具が有る?」

『コンドーム』

まんまか、絶対に“業の深い先達”だな、何人いるかは分からんが……


「他には無いのか?」

『…………』


ノーコメント、無いのか……


「避妊をする時はみんなコンドームを使うのか?」

『…………』


また、ノーコメント、でもこれはきっと、人それぞれパターンなんだろうな。



「避妊具以外の避妊の方法は?」

『行為の禁止、無精子射精、体外射精、避妊の魔導具の使用、避妊スキルの習得、精管断絶、卵管断絶、排卵停止……』


「いや、もういい、もう大丈夫だ!!」


なるほど、盲点だった。

魔導具やスキルで避妊とは……


そりゃそうか、魔導具で身体能力が上がるんだ、もちろん可能だろう。


それに、剣を振り続けて“剣術”を覚えるなら、避妊をし続ければ、“避妊”のスキルにもなるだろう。


まだまだ、前の世界の先入観に引きづられてるな、気を付けよう!!


解決した!!魔導具作りに置いて、オレの“スキル 創造”に勝るものは無い!!





指輪を1つ付けて、リビングで待つルナルーレの元に駆けた。


やり遂げた、達成感のハイテンションと“実質11日間のおあずけ”の影響で、流れる様にルナルーレを2階にさらって行った。


ご近所さんの「昼間からお盛んねぇ〜」と言う声が聞こえた様な気がした……






▪️▪️▪️▪️





幸せな時間はあっという間で、少しイチャイチャしていたら、とっくに日は沈んでいた。

ルナルーレも昨日の心配の反動からか、イチャイチャもその他諸々も大変、悦んでいた。


慌てて風呂と食事を済ませて、急いでギルドに行く。

今のオレなら走っても1秒あれば着くが、人を轢き殺さないように5分前に出た。



ギルドに着いて、例によってビーンズウッドさんとギルドマスター室に。

そして、例によって、ロールストスさんとリサリナさんが待っており4人で席に着く。


「お待たせしました。念のためお聞きしますが、倒し方を聞かれる訳では無いですよね?」


「ああ、もちろんだ。“採取”に“倒し方”は無いからな。

今日は君に伝えるべき事があって来て貰った。ビーンズウッド!!」


そして、例によって、説明はビーンズウッドさんに丸投げの様だ。




「クルスくん、君は“異世界転移者”についてどう思っている?」


「……余所者?」


「まあ、それもあるが、この世界には“異世界転移者”や“異世界転移者の子孫”、“異世界転生者”も結構いる。

偶然来た者も居るかも知れないが、ほぼ“スキルで呼ばれる”。


“異世界転移者召喚”のスキルは特殊で、人それぞれ、様々な“発動条件”がある為、幾らでも行うというのはほぼ無理だ。だから、“必要な人材”を呼ぶんだ」


「なるほど……」


「元々、察しは付いていたんだね。

そう、呼ばれるのは“異世界の知識”か“戦力”として“必要な人材”だ。


この国で、最も有名なのは“2,000年前の大魔王を倒した勇者”だ。

最も有名な理由は簡単だ、この国はその勇者の活躍によって出来た。

だから、広く英雄譚として伝えられたからだ。



だが、“英雄譚”なのは、この国でだけだ。


他国では勇者を使った“大魔王の暗殺”、勇者の多くの仲間達の活躍も“人間兵器”による、“侵略戦争”だと言われている。


そもそも、“2,000年前の大魔王”も“現在の3人の魔王”も一国の国王でしか無い。


確かに、他の国とは違い、“魔族の国”では“王の血筋”では無く、“最も強い者”が王になる。

だが、それは単に“実力主義”なだけで、別に“悪では無い”。


そもそも、魔族も“人間”なんだ。


この“ハルマール王国”と北の“グラール帝国”だけが、魔族を含め、“人種族以外”を“亜人”として“人間として認めていない”んだ」


「そうなんですね。でも、結論は“ほぼ予想通り”です」


「ああ、前置きが長くなったが、今回の“ハルマール王国が召喚した異世界転移者”は、戦争中の魔族の国“ドルレア王国”を“侵略する為の人間兵器”だ!!」



ビーンズウッドさんの話しで確信が持てた。

思っていた通りだった…………



「ありがとうございます、話してくれて。でも、話して大丈夫なんですか?」


「問題ない。ハルマール王国との約定は“ハルマール王国の国民”に話さない事だ。

君は“ハルマール王国国民”では無いだろう?」


「そうですね、全く問題ありませんね。でも、どうしてこの話しをオレに?」


「我々は約束は守る!!

“今回の黒竜の採取”に関しては、虚偽の報告をしてでも外部には漏らさない。

しかし、君も予想しているだろうが“怪しむ人間”は必ず居るだろう。


君がこの村に来てからの討伐内容は、敢えて報告していない。

だが、“君がこの村に居る”事と、“急激にランクを上げた”事は国にも伝わっている。

この国の事だ。何時、何をして来るか分からんから伝えておいた」


「ありがとうございます。最初から、気を遣ってくれてたんですね」


「マスターはこの国が嫌いなだけですので、お気遣い無く。

それに、私も今ではマスターの最初のご判断は正しかったと思います。

クルスさんはこの、ラットック村の冒険者に多大な貢献をして下さってますので」


「オレが嫌いなのは、この国の“王侯貴族”と“軍”だけだ!!」


「そうですね、“あの人達”、胡散臭いですもんね」


その後、もし、何かしらの動きがあれば直ぐに伝える、と、約束してくれた。




▪️▪️▪️▪️






ギルドから帰って、オレが何も言わなかったからか、ルナルーレも何も聞いて来なかった。

ランドとグッサスも黒竜の事について何も聞いて来なかった。

3人の気遣いに、早く、守れる様になろうと思った…………






それからは狩りは少し休み、黒竜素材の活用と限界突破ステータスの向上に努めた。


狩りを休んだ理由は、時間を作る事と、Aランク魔獣あと1匹で冒険者ランクがAに上がってしまうので、必要になるまで上げない為だ。


黒竜退治の時にレベルアップの為に狩りまくった魔獣を回収後に勢い余って納品しなくて良かった。




黒竜素材はとても良かった。

愛刀を作る時に思いついた、“重力魔法”による圧縮と“錬金術”での加工で、鱗は黒い布に、卵の殻は白い布に、牙はボタンに生まれ変わった。


“器用”さ億超えの“錬金術”で肌触りも最高品質だ。



地下室に放置気味だった、洋服達の見本を元に色々と作って行った。

3人にも肌着用のTシャツを5枚づつ作り、狩りや訓練時に着る様にさせた。



金一色だった愛刀も柄や鞘を黒くした。



限界突破ステータスもどんどん10倍づつ上げて慣らして行った。





そして、気付く。料理問題が“創造”で解決した為、朝から晩まで“時間延長100倍訓練場”で過ごして居る…………

もちろん、“夜には”家に帰っているが、10時間が1,000時間、1日で40日以上経っている。



「オレ、老けるんじゃね?この世界はステータスが高くなると老化が遅くなるらしいが、異世界転移者のオレにも適応するか分かんないし……


神様になったから老けないのか?

いや、神様はむしろおじいちゃんイメージの方が多い気がする。

念のため、作っておくべきだ!!」



“スキル 不老永寿”の指輪、付けて外すと“スキルを習得”していたので、やっぱり老化は進んでいた様だ。

“不老不死”にしなかったのは“死にたくても死ねない苦しみ”的なイメージが湧いたからだ。


必要ならスキルを切ればいい話しだが、万が一“スキル使用可否”が効かなかったら嫌なので辞めておいた。


魔導具を作ったり、訓練したりしながら日々を過ごして行った……





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