第23章 鬼①
鬼①
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20022年4月1日
今日は、クルス商会の入社式だ。
と、言っても、クルス商会の従業員では無い。
オレの直轄の配下としての入社だ。
今年、クルス学園で最初の卒業生が卒業した。
その中で、特別クラスの計30人が、3月30日の卒業後にオレの直轄に入る事が決まっていたのだ。
この特別クラスは、第1クルス島村と王都ビルスレイア、サーラールの街の3ヶ所しか無い、オレの配下になる為のクラスだ。
因みに、希望すれば誰でも入れる。
しかし、授業の段階での落第も有り、一度落第した者は二度と戻れない。
このクラスは、通常の一般教育の授業に加えて、礼儀作法や戦闘訓練など、学校のお勉強と並行して、ウチの執事やメイドとして働ける技能の習得もこなさなければならない。
此処の卒業生は、所謂、幹部候補生な訳だ。
正直言って、初年度から30人も居るとは思わなかった。
このクラスのカリキュラムは、オレと最高幹部達で作ったモノだが、非常に優秀で、且つ、かなりの根性が無いと生き残れないレベルの難易度設定にしたつもりだった。
最初の卒業生は、1人だけの可能性も考えていたのだ。
その1人は、黒火一族の天才少年のルクスだ。
彼はスーパー飛び級で、オレが学園に特別クラスを作った時からの生徒だ。
オレとの合同訓練に5歳から参加していて、若干9歳でSSSランクの魔獣も1人で狩ってくる程になっている。
卒業の可能性は彼だけだと思っていたのだ。
しかし、ルクスの様に余裕で卒業した訳ではないが、他の29人も最後まで根性で喰らい付いて、何とか卒業したのだ。
29人の内訳は、第1クルス島村のオレの配下の子供が15人。
王都ビルスレイアの配下の子供が4人。
サーラールの街の配下の子供が5人だ。
第1クルス島村の15人と王都ビルスレイアの4人の中には、昨年、一昨年前の晩餐会参加者もいる。
オレへの憧れで頑張ってくれたのかと思うと、嬉しい様な恥ずかしい様な感じだ。
サーラールの5人は全員が現地採用幹部の子供だった。
そして、全員が元サーラールのスラムの子供達だ。
生きて行くのに精一杯だった彼らは、文字や計算も一から学んだ筈だ。
本当に頑張って卒業した事だろう。
そんな30人は、今日の入社を持って全員が最初から統括部の勤務だ。
それ以外の、諜報守護部と研究部に関しては、現在、入社試験と審査を行っている。
商業部、製造部は、通常の入社審査を随時行っているので、其方に希望者は入社してから、幹部となった者だけが、オレの直轄だ。
そんな訳で、本日入社は、この30人のみだ。
「私達、クルス学園特別クラス卒業生30名は、レンジ クルス様に永遠の忠誠を誓います。
クルス学園特別クラス代表、ルクス クロヒ」
オレがいつも、非常に短い挨拶しかしないせいか、ルクスの挨拶も非常に短い…………
「おまえ達の忠誠を受け取ろう。
だが、最後にもう一度確認だ。
ルクスを含め、このクラスの卒業生は、殆ど、飛び級での卒業だ。
だから、特例として第1期から第6期迄は、卒業後、直ぐに働かなくとも卒業資格を有したまま、成人迄は自由にしても良い事になって居る。
其れでも、全員がクルス商会への今期の入社を希望しているんだな?」
「「「はい!!」」」
「分かった。
じゃあ、今日から宜しくな」
「「「はい!!宜しくお願い致します!!」」」
短い、式典の後は、いつもの様に、パーティーだ。
参加者は、今日の主役の30人に加えて、その家族とオレの家族と最高幹部は全員だ。
特にオレの家族と最高幹部については、ルクス以外は全員を知っている訳では無いので顔合わせも兼ねている。
「ルクス、さっきの挨拶でも聞いたけど本当に良かったのか?
他の子達と違って、おまえはオレが学園に行く様に指示しただけで、あと、20年は遊んでても良かったんだぞ?」
「お館様、あと20年も遊んでたら、オウレンに追い抜かれちゃいますよ。
僕にも兄としてのプライドがあるので」
「…………オウレン、まだ、0歳だぞ?」
「でも、3歳からは今の訓練に参加するでしょ?
そうしたら、直ぐに追い付かれちゃいますよ。
カテリーネもたった半年で、5歳の頃の僕より、ずっと強いんですから」
「うぅ〜ん……。そうか…………」
ルクスの母親は、ケイシェットだ。
つまり、オレの息子のオウレンとは、異父兄弟になる。
そして、カテリーネはオレが黒火一族を傘下に加えた時に0歳だった赤ん坊だ。
ルクスは、オレが黒火一族を丸ごと傘下に加えた事で、他の子供達と違って、唯一の例外で子供の頃からオレとの合同訓練に参加していた。
だから、今後、年下の子や弟達に追い抜かれるのではないかと思っていた様だ…………
「ルクス……。その……。すまないな…………」
「え?」
「カテリーネもだが、グレンやオウレン達、レイムもレニアもなんだが…………。
その…………。
ルクスの様に、子供の頃から合同訓練に参加させるつもりは無いんだ…………。
だから、自力で限界突破しない限り、レベル9,999以上には、成人してか、オレの配下になる迄は、ならないんだよ…………」
「…………え?」
「セバス達とは話してたから、てっきり、ルクスも知っていると思っていた…………」
「…………で、でも、自力で限界突破して、追い抜かれるかもしれませんよね?」
「まあ、そうだな。
其れに、合同訓練に参加しなくても、シロネコ達と訓練したり、たまたま、オレと訓練する機会があって、その時に限界突破するかもしれないな」
「で、ですよね!!
ぼ、僕だけが、無理して、背伸びしているだけみたいには、ならないですよね?!」
「うん、そうだな。多分…………」
「!!た、多分…………」
「ルクス、心配しなくて良い。
グレンには、ルクスの記録を追い抜ける様に、しっかりと教育するつもりだ」
「セバスニヤン様!!」
「おいおい、セバス。
グレンに無理させるなよ?」
「もちろんで御座います。
キッチリと、休息も睡眠も食事も取らせた上での、教育を致します」
「ちゃんと、遊ぶ時間もしっかりと取ってやれよ?」
「!!遊ぶ時間で御座いますか?!」
「子供に遊ぶ時間をしっかり取らせるのは、当然だろ?なあ、ルクス?」
「ええっと…………」
「……………………ルクス、普段、どんな遊びをしていたんだ?」
「そのぉ〜……。訓練をしたり…………。魔獣を狩りに行ったり…………」
「…………セバス、オレは明日から1週間、オモチャの開発を行う。
そして、ルクスの最初の仕事は、そのオモチャの使い方を覚えてカテリーネと一緒に遊ぶ事だ。
ルクスは、当面オレの直接の指揮下にする。
これは、決定事項だ」
「「はい!!畏まりました!!」」
オレが、ルクスを学園に行かせたのは、ミミッサス村には同年代の子供が居なかったからだ。
特別クラスに入れたのは、オレの配下に入れる為では無く、ルクスが優秀だったのと黒火一族での英才教育を受けていたので、一般クラスでは授業のレベルが低すぎるだろうと思ったからだ。
しかし、経過の確認をしなかったのが良くなかった。
まさか、遊びもせずにより高みを目指す事だけに注力していたとは…………
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翌日から3日間の新人達の予定は、クルス商会のシステムを学ぶ事と、命令系統や各種装備品等の勉強なので、ルクスもそちらに参加させて、オレは家族達と“遊び”について、話しを聞いていた。
「…………と、言う訳で、“遊び”の道具を作る事にしたんだけど、みんなは子供の頃、どんな事をして遊んでたんだ?」
「私は、お料理でしょうか…………」
と、ルナルーレ。其れは、遊びでは無い。
「私は、剣術ですわね」
と、ラム。其れは修行だ。
「私も槍術です」
と、リム。其れも修行だ。
「私は、魔導書を読んだりしていました」
と、キスラエラ。其れは、勉強だ。
「私は、少女漫画を読んだり、お人形遊びをしたりかなぁ〜…………」
と、クリシュナ。人形は良いとして、少女漫画を描くのは、オレにはハードルが高い。
「私は、政策や領地運営の本を読んだりしていましたね」
と、セレン。其れは、仕事だ。
「私は、狩りに行っていました」
と、セリン。其れも仕事だ。
「…………私は、アニメと株とFX」
と、レン。聞くんじゃ無かった…………
「…………とりあえず、参考にならないと言う事が分かった…………。
この世界には、異世界転移者が定番で作る、リバーシとかチェスとかトランプはあるのか?」
「それなら、一応、有るには有るんだけど…………」
「……何かあるのか?クリシュナ」
「あんまり、流行らなかったの。
知力ステータスが高い人の方がほぼ勝っちゃうから…………」
「…………なるほど…………。
考えるゲームだと、知力ステータス。
動くゲームだと、ステータスの俊敏が邪魔してゲームとして成り立たないのか…………。
まあ、そうか。
ジャンケンですら、絶対にオレが勝つもんなぁ〜…………」
「…………それは、レンジさんが後出しするからじゃ…………」
レンがボソッと何か言ったが良く聞こえない。
「しかし、困ったな。
ステータスの高さに依存され難い遊びか…………
知力に影響を受け難い…………
閃き……発想力……想像力……なら、自由な組み合わせか…………
俊敏に影響を受け難い……
後出し……ターン制か…………
よし!!試しに作ってみよう!!
みんな、ちょっと協力してくれ。
ゴーレムのデザインをして欲しい。
強そうなヤツ、カッコイイヤツ、可愛いヤツ。
思い思いのモノを描いてくれ。
但し、今回は、人型だけで頼む。
あと、ギルスーレ、スキル全集と魔法全集の最新のモノを用意して置いてくれ」
みんなにそれだけ頼むと、オレは職権濫用をしにクルス商会本部のデザイン室と自由研究工房を回って、同じ様に、ゴーレムのデザインを頼んで行った…………
今回、オレが作ろうとしているオモチャは、テレビゲームなんかで有る、ロボットを自由に組み立てて、戦わせるオモチャだ。
長く、じっくり遊べる様に、見た目の組み合わせだけで無く、武器やスキルや魔法も組み合わせられる様にして、自由度を上げて作るつもりだ。
ロボット本体には、指定されたステータスやスキル、魔法が反映されて動く様に小型の魔導頭脳を組込み、その、ロボットに設定を入力して、動きを覚えさせる為のドック、動きを指示する為のコントローラー、対戦のダメージ判定と、発動した魔法を演出する為の此れも魔導頭脳組込みのリングで、ワンセットとして遊ぶ仕様だ。
ステータス、スキル、魔法は、どんな見た目でも1万ポイントを振り分けて、肉体派の美少女キャラでも、重装備の魔法キャラでも好きに出来る様にしている。
ロボットのパーツも、手足と胸部、腰部、頭と分かれていて好きに組み合わせられる。
但し、武器と技術スキルは一致していないといけない。
一応、軍事転用防止の為に、ロボット本体には動力源は無い。
動力源はリング側だ。
あくまで、リングの上でしか動かない様にしている。
戦闘は、ターン制で交互に攻撃をする形だ。
デザインが大量に上がって来たので、男性型と女性型を20種類づつ試しに作り、ローラス社長とルクスも交えて、妻達と遊んでみたが、結構、大人が遊んでも白熱した。
ルクスは、もちろん本人に遊ばせる為だが、ローラス社長は商品化についての意見を聞く為だ。
商品化は、即決定し、ローラスも大絶賛だったのだが、オレの仕事が1つ増えてしまった…………
絶対に大量に売れるので、専用工場を建設して欲しいそうだ……
王都ビルスレイアに、第5工場を建設する事になった…………
ビルスレイア女王国の雇用が増えて、喜ばしい限りだ…………
しかし、作るなら、さっさと工場を建てて、大勢で遊べる様にした方が良い。
なので、早速、工場を作り、デザインも500種類分の製造ラインを作って、販売と同時に孤児院への配布をさせる様に手配させた。
さすが、ローラス。
オレが工場を準備している間に、専用のペイントインクや、持ち運び用のケースなんかも商品化していた。
ちゃんと、ルクスにも好評だったが、ルクスよりもカテリーネの方がハマってしまった。
ルクスを遊ばせる為に作ったオモチャだったのだが、カテリーネに延々と付き合わされてしまっている様で、ルクスの苦労人っぷりが伺えてしまった…………
ルクスの任務は今後、孤児院で、オモチャの使い方を教えて、一緒に遊んで来る事だ。
これで、強制的にルクスを遊ばせる事に成功した!!
本人が毎日、非常に疲れている様に見えるのは、きっと遊び疲れているに違いない!!
ルクスの問題が解決した後、シエラールルが、次の問題を持って来た…………
第1メイド部隊を希望する、“未成年”問題だ…………
真無限ダンジョンの開設によって、戦闘力不足だった為にメイド部隊への移籍が出来なかった者達が多数、メイド部隊に入った。
第1メイド部隊は、オレとペット達の身の周りの世話と護衛に加えて、臨時の諜報が主な仕事だ。
しかし、オレの“夜の相手”を行う者は、全員が第1メイド部隊の所属となっている。
元々は人数の問題で、第1メイド部隊だからといって、必ずしもオレの相手をしていた訳では無いが、人数が増えた事で今の第1メイド部隊は全員が“そう”なのだ。
この世界では、見た目年齢と実年齢は、本当にバラバラだ。
だから、見た目に関わらず、未成年は配属しなければ良いだけだと思っていたのだが…………
問題は、レン達、元勇者パーティーの“人種族”だった。
彼女達は、成人が15歳なのだ。
今回、入社した中には、彼女達より年上の20代の未成年がいる。
最も未成年の入隊を強く希望しているのは、ナルミン ナタリア、シーナリス ヘイモンド、スーナリス ヘイモンドの3人だ。
この3人は、一昨年前のクルス商会周年祭での売り上げ競争優勝者の娘達で、オレのファンだと言って集まった子達だ。
3人共、レン達と同じ21歳なのだが、3人の家系の成人は40歳だと言う。
19年後迄待たせるのも可哀想だから許可すれば良いかというと、そうも行かない。
ナルミンは、見た目も年齢も20歳くらいだが、シーナリスとスーナリスは、小学生に上がるかどうかと云う見た目なのだ…………。
更に困った事に、見た目を理由に断る事も出来ないのだ。
黒火一族の合法ロリ代表のサーニヤとアキナは、10歳くらいにしか見えない60代だが、シーナリスとスーナリスの母は、更に上を行く。
幼稚園児の様な、5,000歳オーバーなのだ。
一緒に居た時は、三つ子の様だった…………
たとえ、19年後でも、今の幼い見た目と変わらないだろう…………
非常に悩ましい問題なのだ…………
オレは、1人で悩むのを諦めた…………
「どうしたら、良いと思う?」
情け無い事に、妻達に相談した…………
「そうですわね。シエラールルさんは審査の結果、どう思われているのかしら?」
ラムの質問に、少し考えてから、
「私としましては、入隊を許可しても良いのではないかと考えております」
と、シエラールル。
「シエラールルさんが、大丈夫だと、言われるなら、良いのではありませんか?レンジ様」
と、ルナルーレが、賛成に1票。ラムも頷き、賛成2票。
「でも、シーナリスちゃんとスーナリスちゃんは、ちょっと犯罪の臭いがしない?」
と、クリシュナが反対に…………
「…………クリシュナさん、サレナリス全副学園長は?」
「そっか……。じゃあ、アリなのかな?」
ならなかった…………。レンの言葉で、簡単に賛成に周った。
「お父様は、今回の事というよりも、今後の事を心配されているんですよね?」
「まあ、そうだな。
今回の事を拒めば、飛び級や特別クラスを作った意味が無いし、受け入れると収集が付かなくなりそうだからな…………」
「それなら、受け入れて問題無いのではないですか?」
「どう言う事だ?リム」
「特別クラスの授業内容は、とてもレベルが高いので、本当に幼い子供では、簡単には卒業出来ません。
ルクスくんは例外中の例外で考えて良いと思います。
其れに、第1メイド部隊で、お父様の夜のお相手をされたとしても未成年では妊娠しませんし」
「え?」
「お父様は、ご存知ありませんでしたか?
各種族や一族で成人年齢が違うのは、妊娠が可能な年齢かどうかです」
「…………そう言えば、必ず妊娠する天女種族も成人していればって言ってたな。
其れは、未成年だと、妊娠するかしないか分からないんじゃ無くて、未成年だと妊娠はしないって意味だったのか?」
「はい、そうです」
「なるほどな、妊娠出来る様になって、初めて成人したって事なのか。
じゃあ、男の成人年齢は其れに合わせているだけって事か」
「いいえ、男性でも未成年では“妊娠させる事が”出来ません」
「おっと、そうなのか。
だったら、許可しても良さそうだな…………
いや、ちょっと待て…………。
本人は良くても、親は許さないんじゃないのか?」
「第1メイド部隊がどういった部隊か知らない親は今回に限ってはおりませんので、現状、誰からも抗議の声が無いと言う事は容認しているのではないでしょうか」
「だが、あの3人の父親は、オレの配下じゃないよな?
他にも、オレの配下が片親だけの者もいるんじゃないのか?」
「…………レンジさん、それなら、親の承諾書を取らせればいいと思う……」
「…………なんか、レンは彼女達に協力的だな。何かあるのか?」
「…………同い年なのに、私達だけなのはフェアじゃ無いから……」
「なるほどな…………。
今回は、相手がオレだったから、色々と考えてしまったけど、恋愛の自由は認めて、公平にすべきではあるか…………
分かった。
じゃあ、未成年が第1を希望する場合は、夜伽がある事も話した上で、親に承諾書を貰う事を条件にする。
親を説得出来なかった者は、第2に配属だ。
これなら、後は本人次第だろう」
「畏まりました。
では、その様に致します」
親に反対されたなら、成人する迄、待って貰えばいいだろう…………
そう、思っていたのは、オレだけだったらしい…………
翌日には、希望者は全員、第1メイド部隊に配属となった…………
1人くらい、頑固親父が居てもいいんじゃないだろうか…………
そして、シエラールルの攻めた性格は、さすがの一言に尽きる。
初日に、いきなりシーナリス、スーナリス双子をぶっ込んで来た…………
オレは人として…………
いや、彼女達は21歳、親公認だ!!
大丈夫だ!!




