第22章 天女の女王④
天女の女王④
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女王の街その2、此処は、クティン クレディーの支配する街だ。
例によって、“スキル 殺気コントロール”での平和的交渉で、クティン クレディーを呼び付けた。
クティン クレディーもスィオー達と同じ様に、ゴスロリ衣装だ。
但し、スィオー達5人と違って、大変スレンダーな体型で、背も低いので、正しい服装センスと言えるかもしれないが。
「で、何の用だ」
「スィオーやスイージュ同様に、天輪を捨てろ。
そうすれば、天女種族の呪縛が解ける」
「其れは、“妊娠し続ける”事か?
だが、不老不朽はどうなる?」
「不老不朽も呪縛だ。もちろん、失う」
「私に死ねと言うのか?」
「死ねる事も時には必要な事だ」
「死ねる事?必要な事?何を言っている。
誰だって死にたく無いに決まっている」
「其れは、死んだ方がマシだという体験をした事の無い人間の考えだ」
「…………アレの事を言っているのか?」
「いや、不老不朽のままだからこその苦しみが有ると言う事だ」
「…………スィオー カルディアとスイージュ スイージュは、其れを知ったから不老不朽を自ら捨てたと?」
「まあ、そんな感じだ」
「其れは、おまえの攻撃によるモノなのか?」
「ああ、オレの魔法だ」
「ならば、喰らわなければ良いだけだろう」
「其れは無理だな。
今のおまえ程度の強さじゃあ、防ぐ事も避ける事も出来ない。
因みに、この国の連中をどれだけ盾にしても、オレから逃げる事すら出来ないぞ」
「自分の強さに余程の自信があるのだな。
スィオーやスイージュに勝ったからと言って、私に勝てると思っているとは…………」
「おまえこそ、余程、自信が有る様だ。
その天輪の力、“天罪”の精神攻撃に」
「!!何故、知っている!!」
「この星の天使種族は、“魔導神が作った”者達だが、オレは別の星の天使種族に会った事が有る。
だから、天輪の力が、“スキル 鑑定”で見る事が出来ない事も知っていた。
なら、もちろん、“天輪の力を見る事が出来るスキル”を準備しておくのは当然だろ?」
「“天輪の力を見るスキル”……そんなモノが…………。
しかし、分かったからと言って防げるとは限らないだろう?」
「まあ、そうだな。
だったら、オレの不老不朽を捨てたくなる魔法と、おまえの罪の意識に苛まれる天輪の力と、何方が上か試してみるか?」
「そんな、口車には乗らない。
おまえは、此方の力を知って対抗策を考えている。
しかし、私は、おまえの魔法の効果を知らない。
何方が不利かは一目瞭然だ」
「じゃあ、どうする?
オレと全面戦争でもするか?」
「そうだな、今まで通りだ」
「分かった。
なら、明日から攻撃を始める。
ちゃんと、スィオーの国との国境から始めるから、安心していい」
「目の前の大将首を、無視して引き下がって良いのか?」
「ああ、戦力が圧倒的に上だからな」
「減らず口を…………後悔すると良い」
その後、ヘキカギュン ティースン、コウ ドゥー、ユウキュンカ ユースーとも交渉は決裂で、全面戦争での決着という形になった。
唯一、話しが通じたのは、ヒバデツリで、ヒバデツリは他の4人の国で種族変えが出来れば、受け入れるという事だった。
アルファへの移住希望者も前以て確認しておくそうだ。
クティン クレディー達には全面戦争などと言ったが、実際にはそんな大層なモノでは無い。
諜報守護部を各国に1部隊づつ向かわせて、ほぼほぼ捕虜を回収するだけの作業の様なモノだ。
現在の諜報守護部で部隊に配置されている者にレベル100万以下の者は居ない。
小隊長でもレベルは1000万オーバーだ。
スィオー達純血の天女種族の者ですらレベル100万前後で、天輪か翼の何方かしか無い天女種族はレベル1万以下ばかりで、人種族に関しては1000も無い。
ハッキリ言って圧倒的な戦力差だ。
たった1日で、4ヵ国が落ちて、30万人程の捕虜を確保して終了だった。
たった1人の例外を除いては…………
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ユウキュンカ ユースーは皇帝家に連なる公爵家の娘として産まれた。
3人兄弟の末っ子として生まれ、初めての娘だった事もあり父から多大な愛情と全てが許される程の我儘を叶えて貰いながら育った。
しかし、15歳を迎えたと同時に、重い病気に罹り医者に診て貰う必要が出来てしまった…………
ユウキュンカの父は公爵家の権力を使って、此れまでユウキュンカが天女種族であった事をひたすらに隠し続けて居た。
可愛い娘が子供を産む為だけの道具になって仕舞わない様に自らの天輪の力“天騙”で皇帝すら騙していたのだ。
だが、病気の治療の為には正しいステータスの状態を医者に見せない訳には行かない。
仕方無く、ユウキュンカの治療の間、“天騙”を解いた。
ユウキュンカの治療が終わり元気になった事で、治療をさせて居た医者は口封じの為に始末したが、皇帝の密偵にユウキュンカが天女種族である事がバレてしまう。
ユウキュンカの父は知らなかったが、ユウキュンカの患った病気は不老不朽である天女種族が成人すると同時に唯一患う病いだったのだ。
此れは厳密には病いでは無く、子供が出来続けると云う特殊な肉体に成人した事で変わって行く過程で起こる肉体変化の副作用だった。
そして、密偵が齎したユウキュンカの症状から天女種族である事がバレてしまい、ユウキュンカの父が皇帝をも騙していた事がバレてしまった。
ユウキュンカを含むユースー家の者を捕らえ様と多くの兵が囲む中、ユウキュンカは父から全てを聞かされた。
ユウキュンカが天女種族である事、父が其れを隠す為皇帝すら騙していた事、そして、天女種族の末路…………
生まれた時から我儘の限りを尽くして来たユウキュンカにはそんな事実は受け入れられない。
癇癪を起こして喚き散らして、
「此の私しが、そんな穢らわしい天女種族などで在る筈が在りませんわ!!!!」
と叫んだ瞬間、ユウキュンカの天輪が輝いた。
その瞬間から周囲に居た家族も、家を囲んで居た兵士達も、兵を派遣した皇帝も、誰一人としてユウキュンカの事を天女種族だと思わなくなった…………
其れからはまた今迄通りの我儘な生活をしながらも、自分の天輪の力がどう言ったモノかの実験も行った。
父と同じく“天騙”の力ではあったが、ユウキュンカの力は父が使うよりも遥かに影響力が強かった。
効果範囲は帝都を全て覆う程に広く、記憶の改竄と云える程に相手に思い込ませる事が出来た。
但し、強く思っている事を変えたり、完全に真逆にする様な事は上手く行かなかった。
例えば、目の前で残虐に恋人を殺した後で自分を愛する様に言っても、深い憎しみは変わらない。
とは云えこの天輪の力は、此の後の激動の時代に於いて途轍も無く優秀な力だった…………
ユウキュンカが20歳になった頃、各地の貴族が賊に襲われる様になった。
屋敷が正面から襲撃されて、どの屋敷も金品を全て奪われ、生き残りは僅かな女子供だけと云うくらいに殺されている程の惨状らしかった。
ユウキュンカはこの状況を利用して今迄出来ていなかった実験を行った。
“天騙”の力を使って大量に殺し合わせたのだ。
勿論、犯人は各地で貴族を襲っている賊に肩代わりして貰う。
そして、実験は成功した。
予想通りユウキュンカは大きくレベルアップしていたのだ。
“スキル 獣魔術”と同じ様に操った者の経験値を得られたのだ。
其れからは賊と同等か其れ以上に“虐殺ごっこ”をして遊んだ…………
そして程無く帝城が陥落した。
賊は3人の皇女を中心とした天女種族達だった。
その後、天女種族達は次々と男達を殺して行った。
情勢が完全に天女種族達に傾いていると判断したユウキュンカは、天女種族達の中心人物達に会いに行き、
「私しも同じ天女種族として、最初から貴方達に協力していたわ。
だって私しも幹部の1人なのだから」
と、言った…………
あっさりと幹部の地位を手に入れたユウキュンカは、その後何もせず、他の6人の幹部達に全て任せる事にした。
ユウキュンカは此の革命が全て完了してから、自身が女王に相応しいと思わせれば全てが手に入ると考えたのだ。
しかし、全ての男達も仙人種族達も人種族達も殺し尽くされた後、いざ自分が女王になろうとしたが、コウ ドゥーとヘキカギュン ティースンの『自分が女王に最も相応しい』と云う考えを変える事が出来なかった…………
このままでは、自分とコウ ドゥー、ヘキカギュン ティースンの三つ巴状態になってしまうと考えたユウキュンカは、残る4人の幹部達にも『自分が女王に最も相応しい』と思い込ませて幹部達を分断させる事にした。
そして、世界を7カ国に分断してからはユウキュンカはまた我儘な生活を再開した。
100年と云う我儘生活を送って来たユウキュンカだったが、此の100年で十分に準備を整えたコウ ドゥーが他の6カ国に宣戦布告し、ヘキカギュン ティースンが其れに即呼応して宣戦布告して来た。
ユウキュンカはコウ ドゥーとヘキカギュン ティースンの共倒れを待つつもりで居たが、戦場の状況に自身も動く決意をせざるを得なかった。
コウ ドゥーの天輪の力“天召”による異世界人の召喚と、ヘキカギュン ティースンの天輪の力“天罪”による死すら恐れない絶対服従の兵達。
圧倒的な兵数と“天騙”の効かない敵に自国と自身の強化無くしては危険だと判断したからだ。
そして、コウ ドゥーを真似て“天召”持ちの天使種族を使って異世界人を呼び寄せ戦力の増強を図りつつ、自身は再度同士討ちでのレベル上げに取り組んだ。
しかし…………
最初の内は効果が有った。
敵兵も天使種族の生き残りも多く、レベルも着実に上がって行った。
だが其れは僅かな間だけだった。
敵は弱卒ばかりになり、幾ら殺してもレベルは上がらない。
かと言って、時折現れる特殊なスキルを持つ異世界人の所為で無闇に敵国に攻め込む訳にも行かなくなってしまう。
ユウキュンカは此の状況が面倒になり、他国の真似事をさせたまま放置した。
どんどんと文明が衰退して行き、自分の我儘もどんどん叶えられ無くなる状況に周囲に八つ当たりをしては、直ぐに飽きてダラダラと過ごした。
そんな日々が長く続いたある日、スィオー カルディアとスイージュ スイージュが自身の存在を根底から覆す者を連れてやって来た。
ソイツは嘗て此の世界に“ヒト”を生み出した古の神と同じ世界からやって来たと云う。
そして、ソイツは“真偽の魔導具”と云うユウキュンカの“天騙”の天敵とも云える魔導具を持って居たのだ。
ソイツの要求は、「天輪を捨てろ」と云うモノだった。
スィオー曰く、「天輪を捨てる事で、不老不朽は失われるが“妊娠の呪縛”からも解放される」らしい。
ユウキュンカが天輪の力“天騙”を持っている事は誰も知らない。
『ユウキュンカは天輪の力を持って居ない。だから天輪が輝く事は無い』と、世界中の者が思っているからだ。
だからスィオーは不老不朽さえ諦めればユウキュンカにはデメリットは無いと考えて説得して来た。
しかし、ユウキュンカにとって“天騙”は絶対に手離せない力だ。
勿論交渉は決裂で、戦争になった。
開戦から30分、ユウキュンカは逃げ出した…………
其れは戦争と呼べるモノでは無く、完全なる蹂躙だった…………
3万の兵がたった100人に僅か30分で敗戦したのだ。
其れもご丁寧に全員を一人づつ気絶させられての敗戦だ。
ユウキュンカは同士討ちレベルアップで他の天女種族の者よりもレベルが高い。
其れでも遠目からすら全く動きが見えない者が何十人も居た。
更に“天騙”による同士討ちも効かなかった。
戦って勝てる相手では無い。
ユウキュンカは万が一の場合の避難場所である小さな無人島に逃げ込んだ。
ユウキュンカの国は大陸の南東の端だ。
南も東も海だ。
しかし、此の世界では島に住む者は居ない。
何故なら海の魔獣はヒトの手に負える存在では無いからだ。
恐らく世界一レベルの高いヒトであろうユウキュンカですらレベル150万なのに、海の魔獣はレベル1,000万を超えるモノがゴロゴロ居る。
故にヒトは海には近付かないのだが、ユウキュンカには“天騙”がある。
“天騙”を使って、「私しは貴方達の仲間だから、私しを守って」と言えば海の魔獣達はユウキュンカを襲って来ず寧ろ守ってくれる様になるのだ。
因みに、「私しは貴方達の女王だから、私しに従いなさい」と言っても従ってはくれなかった為、自由に命令出来る訳では無いが、現在の状況的に身を守ってくれるだけでも有り難い。
ユウキュンカは無人島の周囲に海の魔獣を次々と集めて敵が諦める迄隠れ潜むつもりで居た…………
「…………なるほどな。
つまり、このままユウキュンカ ユースーを放置しておけば、惑星ガンマの海産物が取り放題って事か」
全体指揮を取っていたガリーからの報告を受けて、オレはそう答えた。
ユウキュンカ ユースーの人物像を伝える為だろうが、前半の生い立ちなんかは別に必要無かった様な気もする。
一応、ユウキュンカ ユースーが何故海の魔獣を操れているかの確認と、オレがユウキュンカ ユースーを見た時に『天女って何?』と再度思いながら「特に強力な魔法スキルを持ってる訳でも無いのに、あの体型でどうやってあそこ迄レベルを上げたんだろうな?」と呟いた為に“スキル 万物の記憶”で一から調べた結果も報告してくれたのだろう。
ユウキュンカ ユースーはオオサカ国のボンクラ議員達の様にブクブクな体型だったから、人は見掛けに寄らないとは思いつつも思わず声に出てしまったのだ。
「じゃあ、とりあえずユウキュンカ ユースーは種族変えと移住が終わる迄は放置して、海の魔獣をしっかり狩っておいてくれ」
「畏まりました。
では、同時に海上戦闘と海中戦闘が得意では無い者の実戦訓練も行っておきます」
流石、訓練で癒される男ガリーだ。
『“原初のモノ”より高レベルの魔獣を食材扱いなんて、オレも大概だな』と思いながらの言葉だったが、ガリーは更に訓練に迄使うらしい。
惑星ガンマの魔獣達に心の中で合掌しつつも、勿論ガリーの意見を採用したのだった…………
惑星ガンマの各国で国民達の種族変えを行って、移住の希望を聞いた。
ヒバデツリのところは、スィオーのところと同様に8割程の移住希望だったが、他は5割程だった。
理由は分かる。
恐らく、支配者達への復讐だろう。
戦争の段階で分かっていたが、どの国も女王に忠誠を誓う者は皆無と言ってよかった。
大半の者が逆らえないだけか、操られているかだったのだ。
種族変えと移住が終わる頃には十分に海産物も確保出来、最後の1人のユウキュンカ ユースーの種族も変えて天輪の力を失わせてから国民達の前に放り出し、キッチリと月内に、最初の星、惑星ガンマの異世界召喚を止めたのだった…………




