第22章 天女の女王①
天女の女王①
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天女…………
其れは、羽衣を纏って空を舞い、眉目秀麗で、天候を操るなどの奇跡を起こす…………
そんなモノは只のオレの妄想でした…………
ボロ布を纏い、地上で棍棒で殴り合う、ボサボサ頭で野獣の様な、泥と埃に塗れた、綺麗にすれば、美女であろう女性達…………
それが、“天女種族”だった…………
この“天女種族”は、元々、魔導神が“作った天使種族”だ。
なので、基礎が“人種族”だからか、翼も天輪も無くなった小汚いだけの“人種族”と見た目の同じ““天女種族”だ。
まあ、女性側に翼や天輪が有っても、相手の男性は“異世界召喚された人種族”しか居ないのだから、徐々に、“天使種族”の特徴を失って行くのも仕方がないと言える。
そんな、“天女種族”達の、原始的な“ドツキ合い戦争を眼下に眺めながら、シルバーウィングは惑星ガンマの空を飛んでいた。
「ちょっと、これは酷いな…………。
完全に文明が退化しちゃってるなぁ〜……」
「そうですね…………。
アレは、軍や兵と言うよりも、ただの獣ですね。
魔法を使っている様子も有りませんし…………」
キスラエラも落胆の表情だ。
同じ女王として、この星の女王達の統治とも言えない惨状に思う処が有るのだろう。
「なんだか、まともな会話が期待出来そうに無い雰囲気だが、一応、女王達に会ってみよう。
もしかしたら、1人くらいはマトモなヤツがいるかもしれないし」
「そうですね、ご主人様。
もしかしたら1人くらいは…………」
女王の街その1に着いた。
その1と云うのは、オレが勝手に言っているだけだ。
女王達は、自分の街を女王の街と呼んでいるので、女王の街が複数有るからだ。
此処は、オレ達の星、アルファで言えば、大きめの村くらいの規模だった。
丁度ラットック村くらいの大きさと人口っぽい。
シルバーウィングが近付いた事で、入り口の門は閉められて門の周囲は臨戦大勢だ。
殆どが、ボロ布を着たモノ達だが、僅かに服を着ている者もいる。
おそらく、異世界転移者の物を奪ったのだろう。
そして、服を着ている者達の多くは、翼と天輪のどちらか、若しくは両方が有る者達だ。
「オレはクルスと云う。
此処の女王に話しが有って、別の星から来た。
女王を呼んで来い」
「貴様の様な怪しいヤツに女王様は、お会いになったりはしない!!」
翼と天輪の両方を持つ者が答える。
おそらく、服装の様に天使種族の特徴を強く持つ者の方が身分が高いのだろう。
「女王がオレに会うか会わないかをおまえが決めて良いんだな?
オレに会わなかった為に女王が死んだり、この国が滅んでも、おまえが責任を取るんだな?」
「貴様!!何を言って…………」
「「「!!!!」」」
オレの放った殺気に、目の前の連中が、全員、尻餅を着いて失禁しながら、ガクガク震え出す。
もちろん、さっき答えたヤツもだ。
そして、オレが殺気を放ったのは此処に居るヤツらだけでは無い。
街の中のおそらく、レベル1万を超えているだろう気配のヤツらにも、何となく気絶しないくらいに調整して殺気を放っておいた。
「で?女王を呼んで来るのか?
それとも、オレと話し合える機会を放棄するか?」
「お、おまえはもしかして、古の神なのか?」
「いや、違うが、その神と同じところから来た」
「!!同じところ?!わ、分かった。
直ぐに女王様に確認して来る。少し、そこで待っていろ!!」
そう言ったかと思うと、偉そうなヤツはダッシュで街の中に向かって行った。
翼は有るが、もしかしたら飛べないのかもしれない。
「おまえが、古の神と同じところから来たと言う者か?」
女王は、顔立ちはおっとり系美人なのに、雰囲気は非常に高圧的で、見た目とのギャップが強い。
そして、スタイルは良くて、背も高いのに、服装はゴスロリっぽい黒いフリフリ服で、色々とチグハグな人物だった。
「ああ、おまえらの言っているのは、“魔導神クスレン”の事だろ?
オレは、その魔導神と同じところから来た」
「では、おまえも新たな生命を生み出しに来たのか?」
「いいや、違う。
オレはこの星で行われている異世界召喚を止める為に来た」
「異世界召喚を止める?
おまえはこの世界がどう云う状況か分かって言っているのか?」
「一応、状況としては知っている。
おまえ達天女種族が、他の全てを滅ぼしたくせに人手不足を補う為に異世界召喚をしてるってな」
「ならば、おまえは異世界召喚を辞めて、我らに滅べと言うのか?」
「寿命は無いんだろ?
だったら、戦争を辞めれば当分は滅びないだろ?」
「寿命が無いのは、我ら極一部の純潔だけだ。
男とまぐわり、子を成した者も、“人種族との間に産まれた者”も、寿命は有る。
そして、あのクズ共との戦争を辞めるなど不可能だ」
「…………その情報は、無かったな…………。
なら、おまえ達は、元々は自分の永遠の命を守る為、純潔を守る為に、天使種族の男を滅ぼしたのか?」
「ああ、そうだ。
我ら天女種族は、純潔を守っていれば、老いる事も朽ちる事も無くなった。
しかし、それを疎んだ男達が天女種族の純潔を無理矢理奪って回り始めた。
天女種族の事が分かって居ない様だから教えてやろう。
本来の天女種族は、天使種族と天使種族の間にしか産まれて来ない。
そして、女児は全員が天女種族として産まれて来る訳では無い。
5人に1人くらいだった。
本来の天女種族の特徴は大きく2つ。
1つは、純潔を守って居る間は、不老不朽である事。
そして、もう1つは、男とまぐわれば、成人した者は必ず妊娠する事だ。
他の種族が、数十年、数百年に1人、子供が出来るかどうかに対して、天女種族は必ず毎年、子供を産む事が出来る。
その所為で我らの始祖達は、子供を産む為の道具として扱われて来た。
その解決方法は、只1つ、男共を根絶やしにする事だけだった。
だから、我らは立ち上がったのだ!!
いや、だから、立ち上がった筈だった!!
しかし!!あのクズ共は違ったのだ!!
あのクズ共は、自分だけが不老不朽の存在になり、全てを支配しようとしていただけだった!!
アイツらは自分以外の部下の純潔をこっそりと生かしていた男に奪わせ、自分以外の者達から不老不朽の力を奪って行きおった!!
今生きている、本来の天女種族は、あのクズ共と、この国の私を含む5人だけだ。
古の神の同胞よ、これで分かっただろう?
アイツらとの戦争は全員を殺す迄終わらん。
そして、もしも、戦争が終わったとして、たった数人の不老不朽の者だけが居たところで、滅び以外は無いだろう」
「…………なるほどな…………。
いや、話しが聞けて良かったよ。
オレはこの星で起きた出来事しか知らなかったから、天女種族は他の全ての種族を滅ぼした虐殺種族で、種族至上主義者なのかと思って居たからな。
ついでにちょっと聞いておきたいんだが、不老“不朽”と云うことは、純潔ならば何が有っても死なないのか?
それとも、肉体は無事でも、魂は失われるのか?」
「…………どう云う意味だ?
身体が傷付かないのに、魂だけが死ぬ事が有るのか?」
「そうだな…………。
さっきオレが殺気を放ったよな?
アレをもっと強くすれば、肉体は無事でも精神が崩壊する。
死の恐怖と自分が死んだと云う思い込みが強すぎて、精神が耐えられないんだ。
だから、身体は生きていても2度と目覚めない。
しかし、もしも魂迄不朽なら、もしかしたら、もう一度目覚める場合があるかと思ってな」
「言いたい事は分かったが、結果、どうなるかについては分からんな。
それを知ってどうするつもりだ?
我らを滅ぼす算段でもしているのか?」
「いいや、逆だな。
殺してやる方が優しさの場合も有るから聞いたんだ」
「殺してやるのが、優しさ?」
「例えばだ。
おまえはこれから、何も出来ず、何も見えず、何も聞こえず、たった1人の孤独の中で、何千億年も過ごすのと、死ぬのなら何方が良い?」
「なんだ、その例えは?」
「うぅ〜ん…………。
死なないと思ってるヤツにはピンと来ないのかな?
体験してみるか?」
「体験?幾ら我が不老不朽でも、何千億年も時間を無駄にする程、暇では無い」
「いや、試すのは1分で良い。
それに、恐らく1分も耐えられないだろう」
「…………嘘は、無い様だな…………。
それに、我が1分すら耐えられないと本気で思っている様だ」
「ああ、因みに30秒経ったら、十分だろうし、自力で出られるなら出ても良いぞ?」
「…………その攻撃が、おまえの考える不老不朽対策なのか?」
「ああ、魂だけを殺す事が出来なかった時のな」
「良いだろう。受けて立とう。
但し、我にそこまで言ったのだ。
我が耐え切ったら、あの船を寄越せ!!」
「アレはやる訳には行かないが、もしも、耐え切ったら同じ物を作ってやろう」
「良いだろう!!
その条件で、我ら天女種族を倒す方法とやら受けてやる!!」
「じゃあ、行くぞ。……“複合魔法 久遠の棺”」
オレが女王に手を翳すと、女王は一瞬で漆黒の箱の中に消えた…………
“複合魔法 久遠の棺”、この魔法は不老不死対策の一つとして作っておいた魔法だ。
組み合わせは、オリジナル“空間属性魔法 インポート”。
この魔法は、“ディファレントスペース”内の魔法陣上の物質を自由に取り出す事が出来る魔法だ。
これで、超圧縮クロオリハルコンを取り出す。
そこへ、錬金術の“金属を任意の形に形成、固定出来る”で、取り出したクロオリハルコンで相手を固めて、“物質に自身の魔法を込める事が出来る”で、オリジナル“時属性魔法 ハイスピードシンク”で、思考加速1億倍にし、オリジナル“呪属性魔法 ノーコミュニケーション”で、術者であるオレ以外とは、一切、念話や交信を出来なくして、オリジナル“呪属性魔法 ノーデッドエンド”で自殺も禁止する。
最後に、オレの魔力、9000無量大数でコーティングして、出来上がりだ。
1秒で、3年2ヶ月の閉鎖空間での身動きも出来ない孤独だ。
普通の人間なら、魔法を受けた瞬間に発狂するだろう。
しかし、“原初のモノ”達もそうだが、寿命のほぼ無い者達は時間に対して感覚が鈍い。
平気で数年、数十年寝るヤツらも結構居るらしい。
なので、“思考加速”だ。
時間の経過では無く、思考だけが早くなるので、寝ようと思っても身体が反応しない。
身体が反応する前に、既に次々と別の事を考えてしまっているからだ。
そして、この魔法は、“装備を作り出す魔法”である事も意味が有る。
通常、“呪属性魔法”を防ぐ場合、状態異常の“防止”を行う。
これは、状態異常を受けた時に効果を防ぐ効果が有る。
しかし、“天使種族の歌対策”をしていた時に分かった事だが、呪われた装備などの効果を打ち消すには、“防止”では無く、“効果無効”でなければならない。
この“状態異常効果無効”の魔導具は、一般的には出回っている物では無い。
本来、『呪われた装備を着ければ呪われ、状態異常の魔導具を着ければ状態異常になる』のは防ぐ事の出来ないモノと、云うのが常識だ。
“状態異常効果無効”と云うのは、オレがそんな魔導具対策で新たに生み出したスキルなので、似たようなスキルは有るかもしれないが、基本はオレの配下くらいしか持って居ない。
クルス商会でも、販売はしていないからだ。
女王の精神強度が分からないので、“久遠の棺”を使った瞬間に、オレも“並列思考”の一部の思考加速を“1億倍に落として”使い、同時に念話も繋ぐ。
最初は戸惑っていたが、この魔法が、こう云うモノだと分かった様で、他の国との戦争の事や、この国の政治についてなど色々と考え始めた。
それからは、無心になろうとしたり、寝ようとしたり、また、考え事をしたりしていたが…………
「我の負けだ…………。
何も出来ないのが、ここ迄辛い事とは知らなかった…………」
「……………………」
「…………負けを認める。
此処から出してくれ」
「……………………」
「まさか!!魔法が終わる迄、このままなのか?
一体、今、どれだけ経ったんだ?
あと、一体どれだけ、この状態がつづくんだ?…………」
女王は、0.1秒も掛からず負けを認めたが、まだ、この魔法の恐ろしさを彼女は分かっていない…………
「おい!!出せ!!此処から出せ!!もう良いだろうが!!
我の負けだと言っているだろうが!!」
「……………………」
「もう、良いだろう?此処から出してくれ…………」
「……………………」
「…………頼む…………出してくれ…………此処から…………出してくれ…………」
「……………………」
「…………出して…………下さい…………此処から…………出して下さい…………」
「……………………」
「…………お願いします…………此処から出して下さい…………お願いします…………」
「……………………」
「…………助けて…………誰か助けて…………助けて…………」
「……………………」
「…………もう死にたい…………もう死にたい…………もう死にたい…………」
「……………………」
「殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して…………」
「……………………救ってやろうか?」
「!!!!」
「そこから、救い出してやろうか?」
「お願いします!!何でもします!!此処から出して下さい!!」
「良いだろう…………」




