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第20章 武芸者の国③

武芸者の国③





▪️▪️▪️▪️





本来の目的、新婚旅行の再開をした。


先ずは一悶着有って延期になった、大自然ダンジョンへのダンジョンアタックだ。


100段程の階段を降りると、一本道の洞窟が50m程あった。


そのまま、洞窟から出ると、そこには、眼下に見渡す限りの森が広がり、上には空が広がっている。

この洞窟は切り立った山の中腹に有る様だ。


其れにしても、空も山も、どう考えてもオレ達が降りて来た階段寄りも遥かに高い。

未だ嘗て無い規模のダンジョンだ!!


「此れは凄いな…………。

もしかして、この広い森で下への階段を探すのか?」


「レンジ様、冒険者ギルドで聞いた情報では、この森を抜けると海が有り、その向こうには、また、森が広がっていて、また海が有り、森が有ると言う、繰り返しで、段々と魔物が強くなって行くそうです。


それと、例外的に魔獣も居て、此方の強さはバラバラらしいです」


さすが、元冒険者のルナルーレだ。

事前にちゃんと、情報収集をしてくれていた様だ。


だが…………


「なあ、ルナルーレ。

ちょっと気になったんだけど、下の階層に行ったヤツは居ないのか?」


「はい、6つ目の森でSSSランクの魔物が大量に居て、其処よりも向こうに行った記録が無いみたいです」


「それは、東西南北どっちに行ってもそうなのか?」


「おそらく、そうだと思います。

洞窟を出て、真っ直ぐの方角は6つ目迄進んだ記録があったのですが、他の方角は、4つ目か5つ目迄しか情報は無かったですけど、同じく繰り返しだったみたいです」


「なんか、引っ掛かるな…………。


ラム、ちょっと、レイムを頼む。

みんな、少しこの辺で待っててくれ。

オレは、この山を見て回って来る」





「多分、コレが、次の階層への階段だ」


オレの予感は的中だった。


出て来た洞窟の遥か上。

山の頂上付近の岩と岩の間に、ひっそりと洞窟があって、その奥に階段があったのだ。


一旦、戻って、全員連れて、再度階段迄やって来た。



全員、固まっている。

エグいダンジョンを作る事に定評のある、クリシュナも固まっている…………



「レンジさん、何で分かったの?」


エグいダンジョンを作る事に定評のある、クリシュナが聞いてくる。


「分かった訳じゃ無いけど、違和感が有ったんだよ。

上に登って、その理由が分かった。


地平線だ。


多分、この階層は球体なんだよ。

だから、進み続けたら一周するんじゃないかと思ったんだ。


なら、出発地点がゴール地点だろうと思って探してみたんだ」


「……レンジさんって、ホントに天才だね。

私のダンジョンも攻略しちゃったもんね」


「あのダンジョンの方がエグいだろ。

此処は一応、一周したらこの山に戻って来るって云うヒントが有るからな。

とりあえず、進んでみよう」





階段を降りて、洞窟を抜けると、また、森と空が現れた…………


「多分だけど、今度は此処の真反対に次の階層への道が有ると思うんだけど、一応、この山も探しとこうか」


予想通り、山には何も無かったので少し森を進んで魔物と戦ってみたが、Bランクくらいだったのでシロリュウとクロリュウに乗って、一気に反対側を目指した。


そして、此れも予想通り、反対側には山が有り、洞窟と階段が有った。


第3層、此処でも違和感を感じた…………


「此処も違和感があるな……。

なんだろう…………」


すると、ミケネコが、


「影じゃないかな?

さっき迄は、影が真下だったと思う…………」


さすが、最も地面に近いミケネコだ!!

確かに、僅かにズレている。


「多分、正解だと思う。

きっと、次の目的地は少しだけ北なんだろう。

ちょっとだけ北に行って、影が真下になったら一周してみよう」


ミケネコの気付きはやはり正解だった。


4つ目の森の中、木々よりも低い小さな神殿の様な建物を発見したのだ。


念の為、建物の周囲を確認してから扉を開ける…………


「ようこそ、いらっしゃいました、賢き方。

此処は試練の神殿。


此処より先に進まれるには、7体の守護者を倒さねばなりません。


守護者との戦いは1対1で行い、1人1回しか戦う事は出来ません。

もしも、7人よりも少ない人数でお越しで有れば、再度、7人以上でお越し下さい」


扉の奥は誰も居ない廊下が続いていたが、反響する様に今のアナウンスが流れた。

もしも7人以下ならば、今なら引き返せると云う事だろう。



「なるほど、オレ達みたいに全く戦わずに飛んで来たヤツ対策か。

強制戦闘イベントだな。


でも、問題はたった7体しか居ない事だよなぁ〜……

一応、聞くけど、戦いたい人ぉ〜…………」


「「「はい!!」」」



予想通り、全員挙手でピッタリ声も揃っている……


いや、全員じゃない!!

レイムは、手を挙げて居ない!!

オレは独りぼっちじゃない!!



「…………この後の層で、また、同じく1人づつだったら今回のメンバーは外すけど、今回、戦いたい人ぉ〜…………」


「はい!!」


「じゃあ、ルナルーレは決定」


「「はい!!」」


「シロリュウとアカリュウも決定」


「…………はい!!」


「レンも決定」


「「「はい!!」」」


「ラムとリムとキスラエラも決定。


じゃあ、この7人だな。

7人とも、多分、正解だよ」


「!!どういう事っスかボス?!」


「じゃあ、最初に手を挙げたルナルーレに聞いてみよう。

何で、今回にしたんだ?」


「はい、恐らく次回が無いからです。


この神殿に来る途中の魔物ですらSSSランクだったので、この試練が全く戦闘をせずに来た人に対しての最初で最後の強制戦闘だと予想したんです」


「!!そんな!!

じゃあ、もう、敵は出て来ないんっスか?!」


「オレの予想もルナルーレと同じだ。

でも、この後、最後のボスの四天王みたいなヤツとか居るかもしれないし、分かんないけどな」


「!!最後のボスと自分は戦いたいっス、サシで!!」


「いや、最後のボスとは、我が…………」


「シェーシャ、ナラシンハ、レンジさんの予想で、もう戦闘が無いなら、きっと無いわよ……。

ボスも居ないわよ…………」


「「…………確かに……」」


「そんなに残念がるなよ。

まあ、もし、このまま、すんなり進めたら、帰りにこの3層辺りでオレが相手をしてやるよ。


偶には、森での訓練も良いだろう。

此処なら幾ら破壊しても問題無いだろうし」


…………大歓声が上がった…………

オレは人気者だ…………



神殿の奥に進み次の扉を潜ると、其処は10m四方の石畳のリングが有る部屋だった。

そして、全員が入ると入って来た扉が閉まる。


そして、向かい側の扉から2mくらいの7体のゴーレムが入って来た。



「驚いたな、レベル2,000万って、“原初のモノ”達よりも強いじゃないか。


もしかしたら、このダンジョンは無暦よりも更に前から有って、その頃の連中は今なんかより、ずっと強かったのか?」


「そうかもしれませんね。

強さもそうですが、ゴーレムのコンセプトが聖剣の有ったダンジョンと明らかに違います。


キングAさん達もですが、強いゴーレムは大きいのが基本です。

しかし、人と同じサイズで此処迄強いなんて」


「確かにな、さすがキスラエラ。

言われてみれば、人間サイズの高レベルの魔物はクリシュナの作ったヤツ以来だな」


オレ達が話していると、ゴーレムの1体がリングに上がる。

片手剣と丸盾を持ったゴーレムだ。


「ルナルーレ、大丈夫だとは思うが油断しない様にな。

剣盾装備なのに魔法のバリエーションが異常に多いし、予想外な動きをするかも知れない」


「はい!!集中して挑みます!!」


ルナルーレもリングに上がるとリングの周りに結界が張られる。

手出し無用と言う訳だ。


ルナルーレが杖を抜いて構えると、ゴーレムも盾を前に、剣を後ろ下段に構えて腰を落とした。


合図も無く、ゴーレムがルナルーレに突っ込む!!


ルナルーレは慌てる事無く“火属性魔法 ファイアアロー”をゴーレムの踏み込むタイミングで膝を目掛けて、左右から挟む様に放つ。


すると、ゴーレムは剣に炎を纏わせてファイアアローを斬った。

そして、ファイアアローは、その剣の炎に吸い取られる。



魔法を吸い取る魔法剣、この世界で初めて見るタイプの魔法だ。


ルナルーレは、それでも、ゴーレムの背後や足首などに向けてファイアアローを放ちながら、“風属性魔法”を纏って、ゴーレムから一定以上の距離を保っている。


そして、ファイアアローをまた背後から放ち、ゴーレムが後ろに斬りつけたのと同じタイミングで盾に“重力魔法”を掛けてバランスを一瞬崩させてから、股下から“土属性魔法 グランドピアーズ”で脳天まで貫いた!!


貫かれたゴーレムは、そのまま、ガクッと全身の力が抜け粉々になって消えていった…………。


カランッと、割れた魔核が床に落ちる。


ルナルーレは、もう6体のゴーレムを警戒したまま“風属性魔法”で、魔核を浮かべて取るとゆっくり戻って来た。


「お疲れ様。

初めて見た魔法剣だったけど、ルナルーレは見た事が有ったのか?」


「いいえ、ですが、同属性の魔法での相殺と同じ考えで対処したんです」


「なるほどな、冷静に対応出来てたよ。

結構動きの良いゴーレムだったのに」


「ありがとうございます。

でも、レンジ様の訓練用ゴーレムの方が剣筋も鋭いですから」


褒められて嬉しそうにしながらも、落ち着いた笑顔だ。


おっちょこちょいだったルナルーレが、どんどん淑女になって行くなぁ〜……などと思っていると、2体目がリングに上がって来た。


次は大剣装備の様だ。



「次は、どっちが行く?」


「では、私が」


そう言って、シロリュウがリングに上がって行く。


「シロリュウ、“見えてる”と思うけど、一応警戒するんだぞ」


「はい、お任せ下さい」


シロリュウが対面に来ると、ゴーレムは大剣を頭上に掲げた。

すると、ゴーレムが7体に分身した。

ゴーレムの持つ“スキル 分身体生成”だ。


対する、シロリュウも魔法を発動する。

最近のお気に入り、“九頭龍顕現”だ。



この魔法は、オレの作った“炎龍顕現”、“嵐龍顕現”、“岩龍顕現”、“氷龍顕現”、“闇龍顕現”、“輝龍顕現”、“電龍顕現”、“樹龍顕現”の半身を一気に生み出す魔法だ。


因みに、オレには使えない。

オレが使うと龍の頭は8個しか無いからだ。


シロリュウの頭があって、初めて九頭龍になる。



元々はシロリュウと、この“龍顕現”の魔法を同時発動する際に、どういう配置なら属性同士の干渉を減らせ、相乗効果を上げられるか話していた時に、オレが日本の九頭龍伝説を話したのがきっかけで生まれた魔法だ。


シロリュウが九頭龍伝説をとても気に入ったのだ。



「オレもそんなに詳しくは無いけど、九頭龍は大体悪者なんだけど、中には、水の神様だったり、縁結びの神様だったりするのもあるんだ」


オレの言った、“縁結びの神様”、このワードがきっとシロリュウの琴線に触れたのだろう。


そんな訳で、8つの属性の配置を決め、その上で一気に顕現させる魔法を作ったのだ。



シロリュウとゴーレムは戦いにもならなかった。

8つの頭が噛み付いて終わりだった。



魔核は、“嵐龍”が吸い込んで、シロリュウは戻って来た。

多分、“嵐龍”の口の中に、“ディファレントルーム”を開いたのだろう。


「お疲れ様、その魔法、本当に気に入ってるんだな」


「はい、主様と一緒に作った魔法ですし、この魔法は消費魔力が莫大なので良い訓練にもなりますから」


シロリュウもいつの間にか、己を鍛える事が当たり前な脳筋組みになってしまった…………





次のゴーレムは大盾とハルバード装備だった。

防御特化の様で変わったところは見られない。



「アカリュウ、一見して、変わったところが無い。

逆に、何か特殊な攻撃が有るかもしれないから気を付けろよ」


「はい、主様、行ってきます!!」


ゴーレムがハルバードを担ぐ様に構えると、アカリュウも手甲剣の左を前に突き出し右を引き絞る様に構える。


アカリュウの構えを見たゴーレムは、防御特化の見た目に反して全力で突っ込んで来た。

シールドタックルで突っ込んで来たゴーレムに対して、アカリュウはゴーレムの背後に回る様に避けた。


その瞬間、ゴーレムの大盾が爆散した!!


魔法の兆候は無かった。

恐らく火薬仕込みだったのだろう。


しかし、アカリュウは飛び散って来る盾の破片を両腕の手甲剣で器用に弾いて、そのまま、ゴーレムもバツの字に切り裂いた。


アカリュウは手甲剣を仕舞って、魔核を拾って戻って来た。


「アカリュウも剣技が大分、滑らかになって来たな」


「ありがとうございます!!

ボクも“原初のモノ”の方々に負けていられないんで、頑張ってます!!」


アカリュウは特殊では有るが、ウチのペットの中では唯一の通常の魔獣だ。

きっと、オレの見ていないところでも必死に努力したのだろう。





「レン」


「…………うん、気を付ける」


レンの相手は双剣のゴーレムだ。

そして、分かり易い要注意スキルを持っていた。


“スキル 未来予測”。


おそらく、起こり得る未来の可能性が高いモノを教えてくれるスキルだろう。



双剣のゴーレムもレンも、剣先を下げて自然体で構える。


双剣のゴーレムが“待ち”の姿勢だと判断したのだろう。

レンの方から仕掛けた!!



レンの右下からの斬り上げをゴーレムが左の剣で払おうとする。

レンは、剣が触れ合った瞬間に器用に手首を返して外に弾く。


左腕を持って行かれながらも、ゴーレムは右の剣を横凪に振って来るが、レンの蹴りを予測したのだろう、一旦、後ろにバックステップで下がる。


しかし、レンの方が速い。


追撃したレンの膝がゴーレムの鳩尾に入り、更に下がったゴーレムを右下から飛び上がりながら斬り裂いて、空中で一回転、右上からも斬り裂いてバツの字に4分割して一旦距離を取る。


崩れて行くゴーレムが、魔核だけになったのを確認してから拾って戻って来た。


「…………見た?」


「ああ、でも、2週間前にも見たけどな」


「…………覚えてるの?恥ずかしい……」


レンはやっぱり、ピンク好きだ。





次は、ラムが行く事になっていた。


対するゴーレムは槍使いの様だ。

そして、スピード特化の様だったが…………


キーーン


“クルス流剣術1 一閃”の抜刀術による飛ぶ斬撃で一瞬で終わった…………


「ラム、また、ちょっと抜刀術が速くなったな」


「さすが、あなた。

いつも見ていてくれて嬉しいわ」


ラムの刀は、1刀、2刀共に産後に一気に速くなった。


レベルをどんどん上げたのもあるだろうが、本人曰く、妊娠中のイメージトレーニングの賜物だそうだ。

よっぽど、暇だったのだろう。


だが、妊娠中の戦闘と訓練の禁止は絶対に変えないルールだ!!

万が一、訓練でオレがお腹の子供をぶった斬ってしまったら立ち直れない!!





次はリム、相手は両腕にガンドレットの体術ゴーレムの様だ。


リムは一歩も動かず構えた位置のままゴーレムの連打を捌き続けて、最後は胸を一突きで決着を付けた。


「リムは、もしかして、クロリュウに乗る時用に体幹を鍛えてるのか?」


「さすが、お父様!!

そうなんです」


「そうか、重心の移動が格段に滑らかになって来てるよ」


「ありがとうございます!!

次の合同訓練を楽しみにしておいてください!!」





最後はキスラエラ対魔法使いゴーレムだ。


しかし、この戦闘も一瞬だった。


ホネリュウのブレスと同じ、“空間を抉り取る魔法”で、ゴーレムは消え去った。


「キスラエラ、“空間除去魔法”は、ほぼ完成だな」


「はい、でも、もう少し小さく発動出来る様にしないといけませんね。

魔核が勿体なかったです」


「そうだな、もうちょっと研究が必要だな。

ついでに形状も球状以外での使い方もな」


「はい!!頑張ります!!」



キスラエラは最近、研究と訓練を繰り返す毎日を送っている。


国の運営は影武者に任せても全く問題無くなり、第二メイド部隊のメイド長の仕事も無くなったので、他の妻達同様に自由な時間がしっかり取れる様になったからだ。


その甲斐あって、魔法の研究もどんどん進んでいた。


今回使った“空間除去魔法”の研究もホネリュウがウチに来てから始めて、既に形になって来ている。

やはり、キスラエラは女王よりも研究者が向いているのだろう。




7体倒した事で、リングの中央に階段が現れた。

次は第4層だ。





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