第17章 評議会⑦
評議会⑦
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8日間に渡る合同訓練が終わった。
今回は全員参加では無く、オレの直轄になったばかりの者は殆どが見学だ。
まだ、黒火一族の幼児用訓練をしている者もいるからだ。
見学者達が1番驚いていたのはもちろんオレだが、その後も妻達の強さや現地採用組は社長達の強さ。
ビルスレイア組は、早期にオレの直轄になった者達の強さに驚き。
最後は、最年少参加者のルクス、7歳の強さにトドメを刺されていた。
しかし、オレは更なる追い討ちを掛けた!!
いつもの様に、合同訓練の後は訓練場でみんなで食事を取ったのだが、最終日の食事中に新規のメンバーを集めて言った。
「みんな、今回初めて合同訓練を見て色々と思うところはあるだろうが、全員ちゃんと強くなれるから安心してくれ。
オレの第6夫人のセレンだが、彼女は元公爵で昨年迄は剣を握った事も無くレベルも30だった。
それが、今回からは、最上位のメンバーとして参加している。
因みに、最上位のメンバーにレベル100万以下は居ない。
妻達と違って、キミ達は通常の勤務もあるから同じペースとは行かないだろうが、何も知らない所から初めても、ちゃんと強くなれるという実例だと思って覚えて置いてくれ」
オレの言葉に全員が完全に固まっていた。
もちろん、オレは満面の笑顔だ!!
そして、今日からは周年祭の準備の為の会議だ。
去年よりも配下も従業員も非常に増えた。
出店をさせるにしても、去年の様に10人1組では何百店舗も出来てしまう。
そして、今年は特にオークションに出す様な物が無い。
東大陸での収集品は劣化が非常に激しく、一応クルス商会は調査を行っている名目だからだ。
さて、どうするか?と、いう所から会議を始めたのだが、商業部と研究部から即意見が出た。
商業部からは、先日の“寿司”と“日本酒”の実演販売。
研究部からは、調査済みの発掘品の処分の為のオークションの開催だ。
実演販売に関しては、それを行う事で出店の売り上げが上がらないのでは無いか?と、いう問題があると考えていたが、違った。
実演販売と聞くと無料試食を思い浮かべていたが、先に普通に出店で販売して、その後、“寿司と日本酒を作れる魔導具”を使って見せて売るそうだ。
寿司に関しては、“スキル 寿司職人の腕輪”、寿司用米、ワサビを商品化して、先行販売的に出店で寿司を売ってから、実演して見せる事になった。
日本酒に関しては、“日本酒製造魔導具”、日本酒用米、日本酒用水を商品化だ。
どちらも、その場では商品の販売はしない。
後日、クルス商会での販売だ。
どれ程の反響が有るかは分からないが、商業部からは直ぐにでも、製造ラインの作成と農地の拡大を依頼された。
社長のローラスを始め、みんな商魂逞しくなったものだ…………
続いて、研究部からのオークションの提案だが、去年の出品数よりも多くの物が、既に、分析と復元を終えていて、資料化も済んでいるそうで、特に家具や生活用品、生活用魔導具などは、あっても仕方ないので、アンティークコレクターにでも売ってしまいたいそうだ。
なので、今年もオークションは行う事にした。
去年同様に、2周年記念武器も作る事にした。
今回は、槍だ!!
“重力魔法”と“神聖属性魔法”、大きさ変更のスキル効果の有るモノにして、今作って渡しておいた。
別に買い手にターゲットがいる訳では無い。
お義理兄さんを喰い物にしようなんて、ちっとも思っていない。
最後に出店だが、製造部からオレの直轄の配下だけで無く、一般従業員にもバザーをさせてやれないか?との意見があった。
研究部と違って、製造部の自由研究工房の利用者は、結構、趣味で色々と作っている者が多く、販売の機会が余り無いので、祭りの勢いで買ってくれる人が居ればラッキーくらいでも良いそうだ。
それについては許可した。
バザーでモノを売るのも、祭りの楽しみ方の1つだろう。
通常の出店は妻達と最高幹部達の参加は無し。
オークションと実演販売に指名された者も参加は無しで、それ以外の配下達で出店希望を取る事になった。
ちゃんと、去年同様に売り上げ最高店舗はお願いを聞いて上げる。
但し、人数は10人以上で運営して、お願いはみんなで1つだ。
最後に大切なルールだ!!
オレを商品に使ってはいけない!!
去年の様な痴態を晒したくない!!
と、いった感じで全体の事を決めたら後は配下達に任せる。
オレには次の会議が待っているからだ…………
「…………以上がファレマーテ商会の顛末になります」
ナルクタスから先ずは報告を受ける。
ロロルー王国とリリルー王国のクルス商会、第3工場と第4工場の襲撃を行ったファレマーテ商会は、指示通り翌日の夜には全ての店舗が瓦礫と化して、全ての金も商品も馬も従業員が持ち逃げした。
商業ギルドを通して、クルス商会に賠償請求が来たが、
「世界中で起こる全ての不思議な出来事がクルス商会が行ったと考えられるのは根拠に欠ける。
明確な証拠と動機を揃えて、出直して来る様に」
と、突き返したそうだ。
その後、証拠の様な目撃者や似顔絵などを持って来た様だが、
「その様なモノは証拠足り得ない」
と、突き返し、自分達が第3工場と第4工場へ襲撃を行った報復だろうと正直な動機を示して来ても、
「当方の全ての工場からは、被害の報告を受けていない」
と、突き返し、グラール帝国の裁判所からの出頭命令にも、
「グラール帝国の法に従う理由が無い。
当方はグラール帝国への出店は行っていない」
と、突き返した結果、ファレマーテ商会の幹部達が全員自殺という形で処理されたらしい。
まあ、失敗した部下を処分したとか、そんな感じだろう。
と、ここまでで有れば報告を聞いて終わりなのだが…………
「で?次は、何処が何をして来たんだ?」
「はい、シレイブン商会が、現在1万人規模の船団で第1クルス島に向かっております。
それと、カマルタ商会が全世界への輸出を止め、それによってトルナ王国とオオサカ国からの抗議が来ております」
「シレイブン商会の船団の乗組員の構成と現在の距離は?」
「乗組員の8割は人種族以外の奴隷で、1割が人種族の奴隷、残り1割がシレイブン商会の所属です。
現在位置は西大陸の東方を北上中で後5日程で、第1クルス島を目視出来る距離まで近づくモノと思われます」
「…………成る程な…………。
第1クルス島襲撃に失敗してもオレに奴隷達を殺させて各国との不和を生む作戦か…………。
そうだな…………。
オレだったら、最初から死体や瀕死の者を混ぜておいて航海中にオレに殺された事にするな…………」
「お館様、海難事故に遭わせてはどうでしょう?」
と、此方も新規執事のアレイスが意見して来るが、
「ガリー」
「はい。恐らく海難事故に遭っても、お館様が強力な魔法で海難事故に見せかけたと主張して来ると思われます」
「そう言う事だ」
「申し訳ありません。出過ぎた発言でした」
「いや、意見を言うのは悪い事じゃない。思った事はどんどん発言して良い。
だが、力押しで簡単に済ませれば良い訳では無いって事だ」
「はい、精進致します」
「で、どうしようか…………」
「お館様、奴隷を全員開放するのも問題が有ると言う事ですよね?」
と、ナルクタスから質問が入る。
「ああ、それだと“商品を奪った”事になってしまう。
グラール帝国では奴隷は合法だからな。
今迄の様に解放して終わりという訳にも行かない。
はぁ〜〜……。戦って、勝ったら解決出来る国なら楽で良いんだがなぁ〜…………」
「それでしたら、正面から戦って勝てば宜しいのでは?」
と、シェーラ。
「どう言う作戦なんだ?」
「はい、先ずは……………………」
「良し、シレイブン商会に関してはシェーラの作戦で行こう」
シェーラの作戦は非常に大規模なモノだったが今後を考えて採用した。
「じゃあ、次は、カマルタ商会とトルナ王国、オオサカ国は何て言って来てるんだ?」
「はい、カマルタ商会は、産業ギルド加入国への輸出が出来なくなった事により、トルナ王国、オオサカ国だけへの輸出では採算が取れない為、輸出を取り止めると言っております。
それに対して、トルナ王国とオオサカ国が産業ギルド加入国に対して、商業ギルドへの再加入をする様に求めて来ております」
「で、各国の対応は?」
「ビルスレイア女王国、ロロルー王国、リリルー王国、は現在無視をしております。
ギルナーレ王国とロンドベレクロ王国は、産業ギルドへの加入を両国に進めております。
ドルレア王国は、正式に『勝手に飢えて死ね』と、返答しております」
「おう、さすがお義理兄さん、非常に分かり易い。
だが、狙いは世界規模の戦争だろうな。
トルナ王国とオオサカ国の食糧事情の困窮から宣戦布告をさせて、グラール帝国が其処に参入して来る筋書きなんだろうな。
お義理兄さんは、きっとそこまで読んでて煽ってるんだろう。
ビルスレイア女王国からも『食糧が必要なら買いに来い。その際に、産業ギルドと商業ギルドの2重課税になるのは、貴国の政治の問題だ』と、返答させてくれ。
あと、産業ギルドへ新法案を出してくれ、内容は『産業ギルド加入国が、他国からの明確な侵略を受けた際、Sランク商会は防衛と報復の援助を行う』だ。
多分、即可決だろう。
じゃあ、シェーラはシレイブン商会の対応、ナルクタスはビルスレイア女王国と産業ギルドの方を頼む。
オレは、第2工場で準備をしておく」
「「「畏まりました」」」
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第1クルス島の南の海上に20隻の船団があった。
しかし、それを阻む様に3隻の超大型船を含む50隻の船団が対峙していた。
「シレイブン商会の船団に告げる。
此方は、クルス商会所属、第1クルス島防衛艦隊である。
これ以上、第1クルス島に近付いた場合、島の防衛トラップに掛かる恐れがある為、速やかに転進されたし。
もしも、侵略が目的であれば直ちに排除する」
シェーラの鋭い声が響く。
まるで、予定されていたかの様に即返答が返って来た。
「此方、シレイブン商会所属、第2船団船長のバッカル シレイブンだ。
当方は魔獣の襲撃に遭い現在漂流中の為、食糧と水の補給を要請したい。
侵略の意図は無いので、船員の休息の為にも第1クルス島への入港許可を求む」
「了解した。
当方の“真偽の魔導具”にて、“魔獣の襲撃”、“漂流中”、“食糧と水の補給”が虚偽であり、侵略目的での入港を求めている事が判明した。
よって、これより貴殿らを排除する」
シェーラの声と共に、瞬く間に20隻の船団はバラバラに分解されて海へと沈んで行く。
錬金術の呪文化によって完成した“金属分離魔法”で船体の金属部分がバラされたからだ。
船の分解によって海に投げ出された者達が次々と“リターン”で逃げて行く中、そのまま、海に取り残された者達が順次拘束されて回収されて行く。
その様子を、オレはクルス商会本部の私室から“上空の映像”で眺めていた…………
今回のシェーラが立てた作戦は大規模だが至ってシンプルだ。
正面から対峙して、その様子を世界各地に放送するというモノだった。
今回戦闘が行われる予定地は、何処の国でも無い海上だ。
なら、此方の行いが正しいと多くの者が認めた方が正義になる。
なので、クルス商会の各店舗の屋上に上空に映像を映し出す魔導具を作って設置し、今回の戦闘を生放送したのだ。
もちろん、深夜や早朝の街でもお構い無しの生放送だ。
そして、戦闘行為で此方に正義があるなら放置された奴隷達は“戦利品”だ。
解放しても全く問題無い。
予想通り死体も含まれていた様だが、最初から死んでいたのも、この映像で見て取れる。
因みに、撮影は去年の周年祭で作った“空中監視魔導具”だ。
なので、ちゃんと録画もされている。
放送されていない部分も全てだ。
シレイブン商会への報復だが、今回は、ハッキリと分かり易い事はしない。
シレイブン商会の奴隷達の奴隷契約魔法や魔導具を解除して、抜け道を作って、そこに、旧キルス王国の内乱の時に手に入れたオオサカ国の武器を人数分置いておいただけだ。
命が大事な者は逃げるだろうし、怨みが強い者は復讐に向かうだろう。
どちらでも良い、本人の判断だ。
一応、逃げる事を選択した子供に限って、そっと保護する様に指示してある。
と、言う訳で、シレイブン商会問題は、これで一旦終了だ。
トルナ王国とオオサカ国は、ビルスレイア女王国での買付けも、産業ギルドへの加入も、明確な回答をしないままが続いている。
次に予想される問題は戦争だろう。
此方も“産業ギルド加入国が、他国からの明確な侵略を受けた際、Sランク商会は、防衛と報復の援助を行う”法案は、可決済みだ。
出来れば戦争は避けたいが、強攻策に出る可能性は否めない。
結局問題を抱えたまま、クルス商会周年祭を迎えたのだった…………




