第17章 評議会⑤
評議会⑤
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4月4日、グラール帝国 帝都グラール
商業ギルド本部に入ると、職員から案内を受け階段で5階へ。
「では、皆様、此方の魔法とスキルを封じる魔導具をお付け下さい」
今日のお供は、ダルグニヤンとシェーラだ。
オレは、“3人分の魔導具を手に取って”ダルグニヤンとシェーラに渡して自分も付ける。
ちゃんと、すり替えた“只の腕輪”を付けて部屋の中へ。
既に他の8人は揃っており円卓に座っている。
入って正面のヒョロっとした爺さんが口を開く。
「これは、これは、流石は飛ぶ鳥を落とす勢いの有る若者は違いますなぁ。
集合時間に遅れ、最後に現れておきながら謝罪の1つも無いとは」
ヒョロジジイの言葉に、「「「クック……」」」と、周りの連中もニヤニヤしながら笑っている。
オレは、1番手前の空いている席を踏み付けて叩き割る。
因みに、全員が豪華な椅子に座る中、その椅子は只の丸椅子だった。
全員がビクッとした直後、床から“土属性魔法”で普通の肘置きの有る椅子を作って座る。
「何故魔法を!!」「封じの腕輪はどうした!!」等々、言っていたが、
「こんな、オモチャが通じるモノか。
それと、ジジイ。
オレは、書かれていた通り、“10時に本部”に着いた。
落ち度があるのは部屋まで記載しなかったギルド職員と階段をトロトロ歩いていたギルド職員だ。
オレに恥をかかせた責任をギルドマスターの首で償って貰っても良いんだぞ?」
オレの発言に、オッサン達は驚いたり、怒ったりしていたが骨と皮だけの様なジジイだけが笑い出す。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、活きの良い若造じゃのぅ…………。
そんなに、腕っ節で解決したいのかね?
冒険者としては、Sランクでも商会長としては、Sランクは身に余るのではないかねぇ?」
「黙れジジイ!!
貴様もオレへの侮辱で死にたいのか!!」
「お前こそ、ローニンソン会長に何という口を利くんだ!!
この野蛮人め!!」
「まぁ、落ち着け、ファレマーテ会長。
このままでは無用な口論を生むだけじゃ、ギルドマスター、さっさと始めてはどうかね?」
「そうですな、では、評議会を開始します」
ギルドマスターヒョロジジイの開始の合図に、「フンッ!!」と、オレはそっぽを向いた。
「では、ローニンソン会長から、新法案の提案を」
「ウム、ワシは新たなエネルギー源となっておる魔力電池に70%の課税を提案する」
「なんだと!!巫山戯るな!!」
オレの叫びに、またも全員がニヤニヤしている。
非常に腹立たしい顔だ。
「では、採決をとります。賛成の方は挙手を」
オレを完全に無視したギルドマスターの声掛けに全員が手を挙げる。
「では、今後、魔力電池の売り上げに対して、70%の課税を行う事で決定致します」
ドンッというオレの机を叩く音が響く。
「どうするかね?
ワシらを皆殺しにして、無かった事にするかね?
残念じゃが、ここの映像は各商業ギルドに流れておる。
直ぐに対応する為にな。
ワシらを殺せば、おぬしは無法者の鬼畜商会長として、世界中から批判され続ける事じゃろぅのぉ」
オレは、ローニンソンジジイをキッと睨むが何も言わない。
「では続いて、シレイブン会長、提案を」
「私は魔力電池を使った魔導具に対して、70%の課税を提案する」
オレが机を掴みミシミシいわせているのをニヤニヤ見ながら、当然可決。
次の提案は人を攻撃出来ない武器の販売の禁止、此方も可決。
項垂れたオレに対して、とうとう全員が声を出して笑い出した…………
と、ここで、ダルグニヤンから、報告が入った。
「お館様、全て、完了致しました」
その声に笑っていたジジイどもが何事かと此方を見る。
オレは項垂れていた顔を上げて満面の笑顔で、
「よし、じゃあ、茶番は終わりだ。
ジジイども、勝手に好きな法律を決めると良い。
グラール帝国とトルナ王国、オオサカ国、ナナツ国。
たった4ヶ国でしか使えない法律をな」
「なんじゃと!!どういう意味じゃ!!」
ローニンソンジジイが立ち上がって叫ぶ。
それを合図にしたかの様に大きな音を立てて扉が開いた。
「ご報告します。
世界各国から、商業ギルドの国外退去命令が出ています!!
それに続いて、各地のギルド職員から大量の辞表が提出されています!!」
「な、なんじゃと〜〜!!
クルス!!貴様の仕業か!!」
「ああ、そうだ。
ビルスレイア女王国、ギルナーレ王国、ドルレア王国、ハルマール王国、ロロルー王国、リリルー王国、ルールナ都市国家連合、キルス王国だったロンドベレクロ王国、エルフの里、ダークエルフの里。
以上の国々は、商業ギルドを排斥して、オレが新たに立ち上げた“産業ギルド”に商業の管理運営を依頼した。
今後、その国々では一切の商業ギルドからの干渉を受ける事は無い。
さっきの下らない法律も今迄のお前らの為の法律も全て無効だ」
「!!何故じゃ!!
何故、世界中が貴様の支配を受け入れる!!」
「それは、お前らと違ってオレが立ち上げただけで、オレが支配する訳じゃ無いからだ。
まず、税率をギルドランクに関わらず商品の項目毎に一律にした。
そして、ギルドランクは貸付金額の上限設定の為だけの物にした。
更に、新法案の提案はSランク商会だけだが、決定権は各国からの代表が行う事にした。
最後に、ギルド内での全ての商談及び会議は常にクルス商会の“真偽の魔導具”の使用を義務付けた。
お前らのやっていた汚い商売と、不透明で利己的な運営を根こそぎ否定した健全なギルドにしたから、受け入れられたんだ」
「そんなモノ、貴様に一体何の特になる!!
なんの為にそんな事をするんじゃ!!」
「真面目に頑張ったヤツがちゃんと評価される世界になれば新たな技術や発展がある。
その方が世界は面白い。
お前らは、それが分からんから三流悪党なんだよ。
おっと、もう1つ理由が有った。
お前らの顔を2度と見なくて済む。
じゃあな、もうオレに関わるなよ?命のやり取りの方がオレは得意だぞ」
そう言って、“リターン”でさっさと帰ったのだった…………
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「相変わらず、おまえの演技は上手過ぎてムカつくな」
“リターン”で、戻った“産業ギルド”本部の大会議室で最初に声を掛けて来たのは、お馴染みのお義理兄さん、ドルレア王国 ルザンクス ドルレア国王だ。
「は、は、確かに迫真の演技で御座いましたな」
と、褒めてくれたのは、ギルナーレ王国のギムルスタ陛下だ。
他にも、オレの“産業ギルド立ち上げ”に賛同してくれた各国の国王や代表達がこの大会議室に集まっていた。
今回の評議会を乗り切るだけなら、各Sランク商会の会長共を“教育”しても良かったが、それでは、毎年、新しい商会長になるだけだ。
それに、グラール帝国の為に無駄な税金を払い続けるのも勿体無い。
そこで、オレが資金を投じて新たなギルドを作る事にしたのだ。
ビルスレイア女王国、ギルナーレ王国、ドルレア王国、ハルマール王国、エルフの里、ダークエルフの里迄は、即協力してくれるだろうと思っていた。もちろん、即OKだった。
ロンドベレクロ王国に関しては交渉次第だと思っていたが、すんなりOKが出た。
そのまま、クルス商会優遇政策も決定してしまった。
予想通り、新王家による繁栄の一助としたかった様だ。
ルールナ都市国家連合は、ムチャリンダとカドゥルーの後押しで充分な資料を見せて承諾を得た。
新ギルドの内容もだが、商業ギルドの問題点やグラール帝国への金の流れの資料が効いた様だ。
問題は、ロロルー王国とリリルー王国だった。
クリシュナの口利きで内容は理解して貰えたが、この2ヶ国の最大輸出国はグラール帝国だ。
如何にグラール帝国から最も搾取されている国とはいえ、最大の輸出先を失う事は経済の破綻も同然だ。
しかし、両国王も、このままでは自国がジリ貧である事は分かっているし、クルス商会で働く多くのドワーフ達も直接見て、話して貰い前向きには考えてくれた。
それでも、簡単に答えを出せる事では無い。
なので、今回の茶番劇を行った。
サーラールの街の商業ギルドの魔導具を借りて来て、商業ギルドが如何に腐っているかを実際に見て貰ったのだ。
結果は、ロロルー王国もリリルー王国も賛同してくれて、今回の運びになった。
下準備として、ロロルー王国とリリルー王国の決定と同時に各国で“商業ギルドの脱退と産業ギルドへの参加”の表明を出して貰い、同時に商業ギルド職員達に辞表を出させて、産業ギルドに就職、引っ越しを行って貰う用意をさせておいた。
2、3ヶ月は産業ギルドはオレのポケットマネーで運営する事になるが、まあ、問題無い。
産業ギルドは商業ギルドよりも良い給料を支払う予定だが、オレのポケットマネーは潤沢だし、オレはポケットから幾らでもマネーを出せるからだ。
因みに、今月だけは各国への納税は免除して貰う事になっている。
来月からは支払う予定だ。
各国の代表達と共に、セバスから各国の現在の進捗状況の報告を聞く。
特に問題なのはロンドベレクロ王国とルールナ都市国家連合は現在真夜中だ。
しかし、ウチの優秀な配下達は徹夜で発表を待たせて、ギルド職員達に辞表を出させた様だ。
そして、商業ギルドに有る商会や店の資料は、国が自国の情報だと主張して接収し、産業ギルドに持ち込んで来ている。
情報以外は必要無いので、各ギルドの備品類は順次クルス商会から設置されて来ている。
ある程度聞いたところで、元レイライザ ロンドベレクロ侯爵。
現レイライザ ロンドベレクロ国王がオレに聞いて来た。
「クルス会長、少し聞くのが怖いのですが、今回の産業ギルドの立ち上げに一体幾ら掛かっているのですか?」
「セバス、幾らなんだ?」
「大凡、1,200兆エルで御座います」
「「「1,200兆エル!!」」」
「しかし、ながら、その内の800兆エルはクルス商会の魔導具の料金です。
それと、土地、建物代金に関しては今後ギルドの運営資金から返金して頂く形になっておりますので、ご心配には及びません」
「だ、そうです。レイライザ陛下」
「しかし、1,200兆エルもの超大金を一体何処から…………」
「?一旦は、オレのポケットマネーから出すとご説明したはずでは?」
「いや、お聞きしました。
お聞きしましたが、世界のどの国の国庫にもそこまでの超大金は御座いません」
他の王様達も仕切りに頷いている。
「じゃあ、オレは国よりも金持ちみたいですね」
「『みたいですね』っじゃねぇ!!
お前、3年かそこらで、どうやったらそんだけの金持ちになんだよ!!」
お義理兄さんから、いつものツッコミを頂戴した。
「て、言われてもなぁ〜……。セバス、その辺はどうなんだ?」
「はい、最も大きな収入は魔獣の納品収入です。
現在、全世界のSランク、Aランクの魔獣の納品の内90%以上は我々が行なっております。
我々は月給制ですので、収入は全てお館様の個人収入です。
次いで多いのは、クルス商会への納品収入です。
此方も利益分は全てお館様の個人収入です。
そして、クルス商会の会長収入です。
此方は利益の5%がお館様の収入となっております。
後は、魔法ギルドからの利権収入です。
現在、お館様名義での魔法理論は5,000件を超えておりますので、其方からも毎月の収入が御座います。
以上が主だった収入源です」
「…………お前、もう、世界征服しちまえよ…………」
お義理兄さんが拗ねてしまう。すると、
「おお!!ルザンクス陛下もそう思われるか!!」
と、ギムルスタ陛下が同志を見つけた様に声を上げた。
向こうの方では、「「神よ……」」と、ムチャリンダとカドゥルーがオレに祈っていた……
「ギムルスタ陛下、何度も言いましたが、世界征服なんて絶対にしません!!
何度も言いましたが、オレは知らないヤツらの面倒まで見たくありません!!
話しを戻します!!セバス、続き!!」
魔王達や“原初のモノ”達のやり取りを初めて見る面々は非常に戸惑っていた…………。
無理も無い。
平静を装って居たが、オレ自身もそんなにポケットマネーが膨大だとは知らなかった…………。




