第2章 ミミッサス大森林⑤
ミミッサス大森林⑤
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翌日、朝食を食べて宿屋の入り口でルナルーレを待つ。
ルナルーレからお弁当を受け取ると、一緒に村の入り口へ向かった。
ランドとグッサスと、合流して、3人に「最終調整では無く、本気でウルトラグレートベアーと戦うつもりで戦う様に」と言うと、3人共真剣な表情でしっかり頷いた。
3人を見送って、雑貨屋の中の不動産屋に行く。
「いらっしゃい、土魔法の賢者。とうとう家を買いに来たかい?」
「土魔法の賢者?」
「あんたの事だよ。レンジ クルスさんだろ?
村のヤツらみんな、そう呼んでるよ。
土魔法だけで何でもやって、とうとうAランクの魔獣すら1人で倒したって」
「そうなんですか?でも、その呼び方はもうすぐ返上ですね。
これから他の魔法も勉強するので」
「そうなのかい?そいつは残念だ。
んで、どんな物件がいいんだい?」
「この間、見せて貰った1番安い物件はまだありますか?」
「この間の取り壊さないといけない物件かい?
まだあるが、あんたならもっといい家が余裕で買えるだろ?」
「場所が良いんであそこがいいんです。敷地も広いですし。
それに取り壊さなくても自分で補修出来ますから」
「確かにあんたならそうか。下見はいるかい?中も見れるが?」
「いえ、外からは見ましたし、どれだけ壊れてても問題ないです」
「分かった。いつから住む?」
「今からでも大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。じゃあ、書類を準備するからちょっと待ってくれ」
無事、“Bランク条件”を使って購入し、契約書、間取り図、地図、鍵を受け取った。
家には向かわず、先に建材屋へ行って大量の板と大量の鉄柱、玄関扉1枚、裏口用の扉1枚、室内扉を8枚、風呂場用の曇りガラスの引き戸1つ、窓付きサッシを20組、貯水タンク、水洗トイレ、風呂用の給湯の魔導具を2つ、シャワー用の給湯の魔導具を2つ、手洗い用の給湯の魔導具2つ、鏡付きの洗面台1つ、配水管とジョイントを購入いて店の荷車を借りて、“荷車を持ち上げて”空を走って運ぶ。
これは昨日打った布石だ。
レベル3,000なら有り得ない重さの物を運んでも不思議じゃない。
何度か往復し全て庭に下ろす。
さあ、工作開始だ!!
鉄柱をごっそり持って中に入る。
完全に廃屋だ。とりあえず無視して地下へ。
地下室はガッチリした石作りだった。
広さは間取り図の通り、上のリビングと同じくらいだ。
取り敢えず、少し殴って壁を壊してみる。
厚さ30cmくらいの石壁だったので、“ストーン”で元に戻して、今ある壁はそのままに、上から壁を張り足すことにした。
持って来た鉄柱の長さは1mくらい、太さは直径10cmくらいだ。
それを5本使い、“ストーンキューブ”で中に鉄柱の入った空洞の薄い壁の様な箱をイメージしてしっかり硬くなる様魔力を込めて作る。
縦横1.2m、厚みが20cmくらいの壁が完成。
鉄柱を中に入れて強度を上げて、中を空洞にする事で断熱効果を期待して作った。
上手く行った様だったので魔力回復を行いながら大量に作り、床壁天井に“ストーン”でくっつけて貼り付けて行く。
見る間に地下室を一新、降りてきた階段もサイズ調整した“ストーンキューブの壁”で補強しながら地上部分に上がる。
レンガの壁に内側は板張りの建物だったがステータスにものを言わせて板は剥がして敷地の隅にレンガの壁は“グランドディフォメイション”で地下室の天井から伸びていた基礎部分に一旦吸収させて、基礎が縦横2倍くらいの広さになる様にする。
その際に汲み取りだったトイレは“グランドディフォメイション”で周りの土と混ぜて無くした。
次は浄化槽?だ。構造が全く分からないので、取り敢えず深い穴を掘ることにした。
“グランドディグ”で縦横5m、深さ1,000mくらいの穴を掘って地上から500mくらいは“ストーンウォール”で補強して行く。
勾配を作りながら、風呂、トイレ、洗面所、キッチン予定地に向かって“グランドディフォメイション”を使って溝を作って、“ストーンウォール”で排水路を作り“グランドディフォメイション”で埋める。
最後に浄化槽?に“ストーンキューブ”で分厚い蓋をして終了。お昼ご飯にする事にした。
ルナルーレのお弁当をゆっくり食べて再開だ。
まず、““ストーンキューブの壁”で基礎を補強して、“ストーンキューブの柱”を立てて“ロック”で固定して行く。
“ストーンキューブの柱”は鉄柱を4本まとめて中に入れた密閉の30cm四方の柱だ。
間取り予定の要所に柱を立て終わったら次は風呂、洗面所、トイレだ。
貯水タンクを裏手に設置して配水管を補強した基礎部分に埋め込んで各所に這わせて行く。
風呂は宿屋にあった4〜5人入れるくらいの浴槽と2人分くらいの洗い場を“ストーンウォール”と“ストーンキューブ”、“ストーン”を使って作って行き給湯の魔導具とシャワーの魔導具を設置して完成。
続いて脱衣場兼洗面所は3m四方くらいスペースを取り、壁を1枚設置して洗濯機の魔導具置き場を2つと洗面台置き場に配水管を準備、洗面台を置き給湯の魔導具を設置。
続いて水洗トイレを設置して1階の外壁、天井を“ストーンキューブの壁”で覆って行き、玄関、裏口、窓を設置して行く、窓は2つづつ使って二重窓にした。
中に入って1階の間取りだ。
玄関は中央左寄りで入ってすぐ左に風呂、洗面所、トイレと並び、正面に地下への階段、その奥に貯水タンク。あとはまだ空間だ。
風呂、洗面所、トイレ、貯水タンクと仕切って行く。
玄関から右側も壁を設置して入ってすぐは廊下になる様にした。
ゆくゆくは通るだけで汚れを落とす魔導具を作って設置する予定だ。
地下への階段の手前に2階への階段を作る。“ストーンキューブ”で2階まで届く箱を作り、“グランドディフォメイション”で階段状にして手すりも作る。
廊下、洗面所、トイレの床、壁、天井に“ストーン”で買ってきた板を固定して行く。
大きさが合わないところは、“ナイフで板を切った”ここでもステータスのゴリ押しだ。
玄関から右側の広いスペースはリビングダイニング、そしてキッチンスペースだ。
入って、横に15m、奥に10mくらいにした。
こちらも床、壁、天井に板を固定して行く。
階段から2階に上り部屋を作る。2階は簡単だ。
1階の天井の上に部屋を仕切って板を固定して終了。
部屋は12畳、8畳、8畳くらいのイメージで3部屋作った。
各所に扉を設置して、最後に1階と2階の屋根になる部分に“ストーン”で傾斜をつけて完成だ!!
見た目は無骨だが良い家が出来た。
なんという事でしょう、ボロボロの荒屋がたった1日で……と、頭の中でナレーションを流して宿屋に戻った。
宿屋に戻って来たがルナルーレ達はまだ来ていなかった。家の完成が早すぎた様だ。
レベル9,999は伊達ではない。
待つのも勿体ないので買い物に行く。
物干し台を4つと物干し竿を2本、2段ベットを2つと大きな本棚を2つ買って家に運ぶ。
物干し台は表と裏に置き。
2段ベットは2つ共2階の1部屋に、本棚は地下室に置いて、再度宿屋へ。
今度はルナルーレ達が待っていた。
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ルナルーレ達は3人共、自信に満ちた表情をしていた。
今日倒した“グレートベアー”をギルドで鑑定して貰うとレベル93、ほぼ“ウルトラグレートベアー”だったらしい。
メモ帳の内容もキチンと細かく書かれていて、成功した部分が大半で、もしも相手の動きがこうだったら等の予測と考察も出来ていた。
何より、3人共、無傷だった。
安全な立ち回りが出来ていると思う。
成功体験が本番で活かせる様に魔獣の動きが別パターンだった時のシュミレーションを幾つか行って終了した。
3人を連れて家に行った。3人は目を見開いて驚いていた。
毎日見ていたであろう荒屋が生まれ変わっていたからだ。
自分達が狩に行っている間に。
この家を選んだ最大の理由は3人の家の3軒隣だったからだ。
本当に毎日見ていたと思う。
それが突然綺麗になったら驚くだろうと思っていた。
チャッチャラ〜ン、ドッキリ大成功だ!!
3人を連れ立って中を案内する。
洗面所、風呂、トイレ、リビングと案内して、ルナルーレに「後でここに作るキッチンを相談しよう」と言って2階へ、1番手前の2段ベットが2つある部屋を見せて「もし、ランドたちが飲み潰れた時は使ってくれ」と言い、隣の何もない部屋で「女性は色々あるだろうから、この部屋はルナルーレが好きに使ってくれて良いよ」と言う、赤くなっているルナルーレを無視して奥の一回り大きな部屋を見せて「ここがオレの寝室予定だ」と案内を終了した。
オレの寝室を見たあと、ルナルーレがさらに赤くなっていたが気付かない振りをした。
ルナルーレと何も無いリビングの床に座ってキッチンの計画を立てる。
ランドとグッサスは「ここからはランド兄さん達は必要無いですから!!」とのルナルーレの言葉に追い返された。
帰りしなのランドの「まるで新婚だな……」と、いう言葉に真っ赤になったルナルーレの渾身の右ストレートが決まり、「今夜は帰って来るのか?」と言ったグッサスに左ストレートが決まった。
吹っ飛んだ2人は切り揉みしながら飛んで行き、空中でクルクルっと回転してスチャっと着地、そのまま帰って行った。殴られる事に慣れすぎだ。
ルナルーレが1枚の紙を広げて、
「出来る限りでいいのでこんな感じで……」
と、キッチンの図面を見せてくれた。
「こじんまりしてるけど、狭い方が色々近くて便利?もし、広い方がいいならスペースはいっぱいあるし、なんなら直ぐに拡げる事も出来るから、理想のキッチンにしてくれていいよ?」
「えぇっと、じゃあ、少しだけわがままな設計にしても良いですか?」
「ああ、少しじゃなくて、ルナルーレの夢のキッチンくらいわがまま設計にしていいよ。
調理用の魔導具も好きな様に盛り込んで欲しい。
ルナルーレのわがままはオレの美味しいご飯に繋がるから。
それにキッチンの予算はこれだけあるから」
そう言って笑い掛け、白金貨を出して見せる。
「そんなに使い切れませんよ」
満面の笑顔でそう言って、キッチンの設計図に書き足し始めた。
ルナルーレの設計図が出来上がってから、まだ店が開いている内に冷蔵庫とコンロ、換気扇、グリルと食洗機の魔導具とシンクを先に買いに行く事にした。
冷蔵庫以外は埋め込んでキッチンを作る為だ。
魔導具屋に行き、まず、冷蔵庫の魔導具を見る。
4人家族用くらいに見える冷蔵庫にしようとルナルーレが言ったので、「タダで貰えるならどれが良い?」と聞くと、業務用みたいな1番大きい冷蔵庫の1つを挿したので、「じゃあ、冷蔵庫はそれにしよう」と、笑顔でルナルーレの頭をそっと撫でる。
嬉しそうな、申し訳無さそうな顔をするので、「良い物を揃えよう、ちゃんと使いこなしてくれるだろ?」と言うと、力強く頷いた。
その後も遠慮しそうになるルナルーレを上手く誘導しながら、例によってステータスに物を言わせて運ぶ。
買い揃えると大分遅くなったので、宿屋でルナルーレの分を払い一緒に食べる。
ランド達は今日は外食予定になっていたらしい。
夕食後、紅茶セット等の簡単に運べる物と大きいリュックに入れてある物を持って家に戻りキッチンを作り始める。
ルナルーレの身長に合わせて、調理台の高さやシンク、コンロの位置、購入予定の食器棚のスペースを決めて行きながら作って行く。
完成したのはセレブの家の様な長い対面式キッチンだ。
ルナルーレのアイディアには無かったがキッチンの反対側は残っていた板を使ってカウンターにした。
キッチン内の棚の扉は明日選ぶ事にした。
キッチンの完成をハイタッチで喜びあった後、ルナルーレに水魔法で貯水タンクに水を入れて貰い、各給湯の魔導具やトイレをチェックして、排水の確認を行う。
思い付くままに作ったがレベル9,999の知力は伊達ではない!!完璧だった。
「せっかくなので、1番風呂はどうですか?」と、言われ洗面所に押し込まれる。
扉の向こうから「私は忘れ物を取りに行って来ます!!」と走って行く音がした。
もちろん手ぶらなので、洗面所から出て持って来た荷物からタオルと着替えを出して、再度洗面所へ。
ここにも棚がいるなと、思い魔法で作る。
今日の特訓の成果で、棚くらいなら一瞬だ。
シャワーで流してお湯が溜まるのを待つ。
今夜はまだ宿屋に泊まる予定だったので、シャンプー等は宿屋だ。
思ったよりも早いペースで溜まって来てそろそろ入ろうかと、いうところで、洗面所に人の気配を感じた。
曇りガラスの向こうで服を脱いでいる……様な気がする……
『コレはもしかして……』と思うとタオルを巻いたルナルーレが入ってきた。
『お背中お流しします』
「お背中お流しします」
『やっぱり!!』
「ああ、でも、今日は宿屋に泊まる予定だったから、シャンプーも石鹸も無いんだけど……」
「…………あ!!…………」
真っ赤になって「えぇっと……あのぉ〜……」と呟いているルナルーレに、
「あのさ、お湯が溜まるの待っててまだ入ってないんだ。良かったら一緒に入って同時に1番風呂にしないか?」
「は、はぃ……」
消え入りそうな声で返事をするルナルーレにあえて元気よく、
「じゃあ行くよ、ルナルーレも足を上げて、3、2、1、0!!」
と、足を入れて、そのまま浸かる。
ルナルーレもゆっくり浸かって横に座る。顔が赤い、“ドジっ子属性”は魅力だと思うが本人は恥ずかしいのだろう。……少し間を置いて話しだす。
「この家、気に入ってくれた?」
「!!はい!!キッチンもあんなに凄いキッチンにして貰って!!
リビングもこのお風呂もとっても広くって!!それに、その……私の……部屋まで……」
「そりゃぁ、女の子なんだから着替えだったり色んなお手入れだったり色々あるだろうと思ってさ」
「“女の子”……」
「ん?どうかした?」
「いえ、だからなんだな〜って思って……。
私、物心ついた頃には孤児院にいて、周りは男の子ばっかりで、そのまま冒険者になってそしたら冒険者も男の人ばっかりで、自分が女だって思う事もなくなってて……。
レンジ様、最初に会った時、私がどんな顔だったか覚えてますか?」
「初めて会った時?どんな顔……怒ってた?」
「はい、睨みつけてました。結構本気で殺気を込めて」
そう言って可愛いらしく笑う。
「ああ……確かに殺気こもってたかも?」
「ふふっ……。はい、本気で。
その後レンジ様が“ロック”の実演をしてくれて、“炎の爪”の倒し方を説明してくれて……。
でも、あんまりレンジ様がして下さった説明は覚えて無いんです。
『ああ…この人が兄さん達の仇をとってくらたんだ…』って感じただけで……。
私、ずっと見入ってしまってて。レンジ様が作って下さった石像を……。
思ったんです『さっき私はあんなに睨んでしまったのに、こんなに“可愛く”私の事を見てくれるなんて、何故なんだろうって』あの石像は本物の私よりずっと可愛いくて……。
生まれて初めて“女の子”として見られた気がして……。
みんなが出て行った後も動けなくて、そしたらお留守番をしてた職員さんに行かないのかって言われて走って行ったんです。
そしたら、空を駆け回るレンジ様がいて、ドキドキする気持ちが止まらなくなって……。
あの人の側にいたい!!ずっと一緒にいたい!!って……初恋なんです。
初めて好きになったんです……」
僅かに沈黙があった……。オレも覚悟を決めて答える。
「ルナルーレ、約束する!!オレは必ずキミを迎えに来る!!
だからその時はオレについて来て欲しい。妻として!!」
「!!はい!!」
笑顔で泣くルナルーレをそっと抱き締めた。
…………オレには全状態異常無効の腕輪がある。ルナルーレはのぼせた……
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今日は宿屋を引き払い、全ての荷物を家に運ぶ所から始まる。
昨夜はのぼせてしまったルナルーレを介抱し、3人の家にお姫様抱っこで運んだ。
勿論夢見るルナルーレの要望だ。
ちなみに、介抱している時に色々役得が有ったが割愛だ、ルナルーレは着痩せする方だったが割愛だ。
連れて帰るとランドとグッサスから、
「何だ、帰って来たのか…」「子供じゃ無いんだから別にいいんだぞ」
お姫様抱っこのルナルーレはお姫様抱っこのままアッパーを2連発。
吹っ飛んだ2人は天井を蹴って、スチャッと着地した、そんな2人に、
「まだ、ベットが無いからな」
と、答える。
真っ赤になったルナルーレからオレにアッパーは来なかった。
荷物を持って家に着くとルナルーレが2人分のお弁当を持って待っていた。
まずは建材屋で棚の扉を買い、そのまま家具屋へ食器棚はルナルーレの趣味で決めてもらい、テーブルセットとソファーセットは6人掛けの条件で2人で話し合って決めた。
ベットはキングサイズの物とシングルサイズのとてもファンシーな物を選んだ。
キングサイズは種類が少なく、ファンシーな方はルナルーレの一目惚れだったので直ぐに決まった。
ルナルーレが自分用のベットがある事に不満そうだったが、「ルナルーレが1人で昼寝する時にあった方がいいだろう」と言うとちゃんと“1人で昼寝じゃ無い方”を想像してくれて、赤くなっていたので大丈夫そうだ。
本当は万が一の怪我や病気の時用で準備しているがせっかく喜んでいるのでそれは言わない。
大きめのワードローブとタンスが一体になった物を3つ同じものを選んだ。
ルナルーレ用のドレッサーとガーデンテーブルセットもルナルーレの趣味で決めて貰う。
オレは地下室用の大きめの机と椅子を選ぶ。
大きい物が決まったので、一旦支払いをして、調味料や調理器具を置く棚と布団、毛布、絨毯選びをルナルーレに任せて、オレは“荷車ジャンプ”を行って大きい物を運んだのだが…………
ルナルーレの選んだ一際大きな布団はハート柄だった…………
それはもうハート柄だった…………
しかし、オレは何も言わなかった!!
ルナルーレの笑顔が“良い買い物が出来た”と物語っていたからだ!!
オレは何も言わなかった…………
次は魔導具屋だ。
空調の魔導具は空気清浄機能付きエアコンだ。
リビングとキッチンは計3台、2階の各部屋に1台づつ、廊下、洗面所、地下室にも買った。
洗濯機の魔導具も2つ買った。魔導具屋はもはや家電量販店だ。
炎の剣や魔力が上がる杖がオモチャコーナーに見えてくる……。
そう思いながら灯りの魔導具も空調の魔導具と同じだけ買って、また、“荷車ジャンプ”を敢行した。
一旦一緒に家に戻ってお弁当を先程買ったガーデンテーブルで食べ、続いて雑貨屋だ。
店構えからファンシーな店だ。
ルナルーレが気に入った食器や調理器具を片っ端から買った。
普通の雑貨もちゃんとあったのでオレは文房具類を買い揃えた。
生活用品店でタオルや洗剤、ティッシュやトイレットペーパー等の生活用品を買い、最後に調味料を買い揃えて家に戻る。
オレは家具と魔導具の設置。ルナルーレは食器類の購入品の片付け。
ルナルーレも流石Bランク冒険者だ。やるとなったら早い!!
直ぐに終わる。
まだ時間が早かったのでコーヒーを飲みながらルナルーレに他に必要なモノを相談した。
「……あとは食材ですけど、向こうの家にまだ色々あるので上手く使って行くのでお任せください。
それ以外の小物はその都度、思いついたらで良いと思います」
「そうか、ならお願いがあるんだけど、魔法屋に付き合ってくれないかな?
他の魔法を勉強していこうと思ってるんだ」
「レンジ様が他の魔法を?!はい!是非ご一緒させてください!!
直ぐ行きましょう!!」
オレが他の魔法を覚える事にテンションの上がったルナルーレが直ぐに立ち上がったが、
「コレを飲み終わってからで良いかな?あと、魔法屋もおすすめのお店ある?」
「あ!!はい、私がいつも使っているお店があるので、そちらに行きましょう」
恥ずかしそうに座り直して、とりあえずゆっくりティータイムをした。
魔法屋は今までの近代的雰囲気のお店と違い、完全にファンタジーなお店だった。
よく分からない、生き物の一部や宝石。沢山の本に壺。
魔導具屋や雑貨屋のせいで忘れかけていたファンタジー要素が戻って来た。
1番素晴らしいのは“ザ・魔法使い”な格好をしたヨボヨボのおばちゃんがカウンターの奥に置物の様にいる事だ!!
「いらっしゃい、久しぶりだね、ルナルーレ。とうとう結婚したのかい?」
「けっけっ……」
ニヤニヤのおばあちゃんの言葉に固まり掛けたルナルーレに、
「初めまして、レンジ クルスと言います。結婚はまだ、これからです」
と、追い討ちを掛ける。
「まだ……これから……」
ルナルーレは真っ赤になって俯いた。
今日もギャップ萌えが可愛い。
「そうかい、そうかい、これからかい。
いらっしゃい、土属性魔法の賢者どの。ちゃんと幸せにしてやっとくれよ」
「ええ、そのつもりです」
「こりゃぁ頼もしいねぇ〜、ルナルーレ、良い人見つけたじゃ無いか。ハッハッハ……」
「はい……」
オレの方を恥ずかしそうにチラチラ見る姿も可愛い。
「真っ赤になっちまってまぁ〜、あのお転婆が……今日はどうしたんだい?」
「さっきの土属性魔法の賢者を返上しようと思いまして」
「他の魔法を覚えるのかい?一つを極めるのも面白いと思うけどねぇ〜」
「“ストーン”で作った火打ち石で火を付けるのもナンセンスでしょう?」
「はっはっ……確かにそうだ。で、どの属性にするんだい?」
「出来れば全属性の魔導書とあとはルーン語と古代語の辞書と各魔法の効果が載ってる物が欲しいんですが」
「すまないが、全属性ってのは無理だ。
特異属性は殆どスキルでしか出て来ない。例外は複合魔法だけだ。
あと、特殊属性の時属性と呪属性は魔法ギルドの許可のある者にしか販売されてない。
属性魔法4種、高位属性魔法4種、空間属性、神聖属性、複合属性なら魔導書は全部あるしルーン語、古代語の辞書と魔法全集も完全版があるが全部なら500万エル以上するよ?」
「それくらいなら大丈夫です。全部お願いします。
ところで、魔法以外の本はどんな物がありますか?」
「魔導具その辺、薬学その辺、錬金術があっちの辺に本があるよ」
「少し見させて貰って良いですか?」
「ああ、構わないよ」
オレが本を探す中、ルナルーレは馴れ初めを聞かれて恥ずかしそうにしていた。
錬金術のスキルと効果の本と混ぜて出来る物質の本。
薬学の成分と効果の本を追加して、希少金属が何かないか聞いてみると、小指の爪程のオリハルコンとヒヒイロカネがあったのでそれも購入した。
最高の買い物が出来たかも知れない!!
おばあちゃんにお礼を言って魔法屋を後にした…………
家に帰って、ルナルーレにお風呂を勧めて、自分は本を片付けると地下室へ。
さっさと本を片付け、“スキル 創造”でオリハルコンとヒヒイロカネを作ってみる。
急いで1人になったのは早くコレを試したかったからだ。
“鑑定”の結果成功!!
万能物質オリハルコンと魔法特化のヒヒイロカネを無限に手に入れた!!
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ランドとグッサスが大量の酒と料理を買って来た。
引っ越し祝いパーティーだ。
あまりに多かったのでお金を払おうとすると、“ウルトラグレートベアー討伐祝い”で奢って欲しいと言われたので快く了承する。
「オレ達の出会いに!!」という、かなりカッコつけたオレの乾杯の音頭で始まり、3人からお祝いに掛け時計の魔導具を貰った。早速壁に掛けた。
料理のメインはオレが狩ったAランクの“スーパーウルトラグレートボアのステーキ”だった。
ランドとグッサスの気遣いが嬉しい。そして、美味かった。
だが、ルナルーレはムクれていた。
明日の夕食で最初の作りたて料理のメインに使いたかったそうだ。
しかし、オレのレベル9999の知力は優秀だ。
「こんな美味い肉なら、ルナルーレが料理してくれたらきっともっと美味しいだろうからリクエストしていいかな?」と、言うと「はい!!」と、元気になった。
そして、ランドとグッサスに「料理は愛情だ!!おまえのレンジさんへの愛情なら100倍美味い“スーパーウルトラグレートボアステーキ”が作れる!!」「そうだ!!おまえの愛情は誰にも負けない!!最高の“スーパーウルトラグレートボアステーキ”を作るんだ!!」と、言われても突っ込まず「まかせて!!私の愛は誰にも負けない!!」とルナルーレは力強くナイフを掲げていた……。
3人とも出来上がるのが早すぎる…………。
そんなこんなで深夜まで飲んで騒いで3人仲良く、ほぼ同じタイミングで潰れた。
ランドとグッサスを2階の2段ベットの下の段に1人づつ、ルナルーレをルナルーレの部屋のベットへ全員お姫様抱っこで運んで、オレも自分のベットに入った。
『本当にいいヤツらに出会えたなぁ〜〜……
ステータスには載って無いけど、“幸運値”も多分あるんじゃないかなぁ〜……
レベルで上がってる可能性あるよなぁ〜……
明日は前もってこっそりプレゼントを準備しとこう!!』
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翌朝、目を覚ます。
「知らない天井だ…………いや、自分で作ったから知ってるけど」
階段を降りて、リビングへ。すでにキッチンに居たルナルーレに声を掛ける。
「おはよう、早いね」
「おはようございます。直ぐに朝食出しますね」
「うん、ありがとう」
間もなく、朝食が並び、ルナルーレも席に着いて一緒に食べる
「ところで2人は?」
「あの様子ならお昼までは起きないと思います」
「?ルナルーレはバッチリ記憶ある方?」
「はい、あ!!レンジ様がベットまで運んで下さったんですよね。
ありがとうございます」
「いや、大丈夫だよ。じゃあ、今夜の“スーパーウルトラグレートボアのステーキ”楽しみにしてるね、“愛情たっぷり”なヤツ」
「うぅ〜…恥ずかしいです……」
「寝顔もとっても可愛いかったよ、よだれ垂れてたけど、そこも可愛いかった」
「!!!意地悪言わないでくださいぃ〜……」
「ごめんごめん、ところで何か他に買っとく必要がある物はあった?」
「はい!!あ!!いえ、その……。服をこちら用に買っておこうかとぉ〜……」
「ああ、そうか、持って来ちゃうと向こうの分が困るもんね、なら荷物運びを手伝おうか?」
「いえ!!いいえ!!大丈夫です!!1人で大丈夫です!!」
「そぉ?なら、今日は地下室に居るから必要なら呼んでよ」
「はい、ありがとうございます」
『何であんなに慌てたんだろう……』とは、思わない!!
下着も買うからに決まっている!!
『一体どんな下着を……』とも、思わない!!
ちゃんと付けてる状態で!!全種類!!見せて貰うつもりだからだ!!
と、言うわけで今日は夕食まで研究、実験の日だ!!
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朝食後、お弁当の完成を待って受け取ってから地下室に降りて来た。
まず、錬金術の本を2冊とも目を通して行く。
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スキル
錬金術
LV1 土を任意の形に形成、固定出来る
LV2 石を任意の形に形成、固定出来る
LV3 金属を任意の形に形成、固定出来る
LV4 鉱物の分離、錬成が出来る
LV5 物質に自身の魔法を込める事が出来る
LV6 物質に他者の魔法を込めさせる事が出来る
LV7 物質に自身のスキルを込める事が出来る
LV8 物質に他者のスキルを込める事が出来る
LV9 物質の分解、再構築が出来る
LV10 錬成陣無しで錬金術を使用出来る
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スキル錬金術、この内容に何かが引っ掛かった。
でも直ぐには閃かない。
もう一度、読み返す。
読んだ内容は全て覚えていた。
一旦、1階に上がりコーヒーを淹れて戻ってくる。
引っかかっているのはスキル効果だ。
コーヒーが無くなっても閃かない…………
だが、絶対に重要だと分かる。
お昼になったのでお弁当を食べる。
まだ閃かない…………
『はぁ〜……思い付かない……でも、絶対に必要だ!!
一旦忘れて、他の事に取り組むか?
いや、折角今日は時間がある。落ち着いて考えよう。
お弁当……錬金術みたいだよな〜……ルナルーレが作った料理をオレが食べてる。
錬金術で作った魔導具を他の人が使う…………コレじゃ無いな。
お弁当箱に料理を詰める……魔導具に魔法を詰める……うぅ〜ん……。
卵焼きに砂糖が溶けてる……魔導具に魔法が入って一体になってる……!!
そこじゃない!!卵焼きは食べ“モノ”だ!!でも、卵は生きている!!
けど、生きてたって“物質”だ!!人間だって“物質”だ!!“無機物”とは書いてない!!
それに、“魔法を込める”じゃない!!“スキルも込められる”じゃないか!!
“スキルを覚えるスキルをオレが覚える”コレで“装備する”必要が無くなるじゃ無いか?!
そして、念のため、常時発動スキルを使うか使わないかを選択出来る様にする!!
行ける気がする!!』
“スキル 創造”
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スキル習得の指輪
オリハルコンの指輪
使用した事のあるスキルを覚える事が出来る
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スキル使用可否の指輪
オリハルコンの指輪
使用スキル、不使用スキルを選択出来る
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出来た、実験だ!!
まず、錬金術LV1〜LV10までの指輪を付ける。
そしてスキル習得の指輪とスキル使用可否の指輪を付ける。
レベル毎に可否決定が出来るかと万が一失敗し2度と使用出来なくなっても良い様に錬金術LV1で試す為だ。
“スキル スキル使用可否”そう念じると頭の中に現在使えるスキルが浮かび上がる。
錬金術を選択するとレベル選択が浮かび上がりLV1を選択。
レベル選択のイメージのLV1が薄くなる。
庭に出て土に“スキル 錬金術”を使う何も起きない。
近くの小石に“スキル 錬金術”、小石を立方体に出来た。
再度、“スキル スキル使用可否”で錬金術LV1を選択、色が戻る。
土に“スキル 錬金術”、土を立方体に出来た。
スキル使用可否の指輪を外す。
自分に“鑑定”、スキルの中に“スキル使用可否”がある。
再度“スキル使用可否で“錬金術LV1”をON、OFF、出来た。
スキル習得と錬金術LV1、LV2の指輪を外して自分に“鑑定”スキルの中にスキル習得と錬金術LV1、LV2があるのを確認。
念のため外したスキル習得の指輪を“鑑定”して、鑑定の指輪LV6〜LV10を外して自分に“鑑定”。
全て上手くいった!!完璧だ!!
土属性魔法を庭で一通り使って、地下室に戻る。
外した指輪を無限収納袋小に入れて行き、銀貨を1枚出して1人で出来る錬金術を一通り行って指輪をしまう。
普段使わないレベルの鑑定と感知の指輪も全部付けて一度使ってしまう。
そこで思い出した。今日は別の目的があったことを……
今日の本来の目的は3人へのプレゼントを作ることだ。
その為の錬金術だった。
まず、“スキル 創造”で力、耐久、知力、俊敏、器用の各ステータスを2倍にする指輪を作りスキルを覚える。
続けてオリハルコンも大量に作る。
“スーパーウルトラグレートボア”の鞣し皮を作る。
次は“錬金術”で残っていた鉄柱の純度を限りなく上げる。
出来た鉄とオリハルコンを7:3に混ぜる。予想通り薄い銀色になった。
それを使って剣を3つ、盾1つ、杖1つ、ブレスレット2つを作る。
ブレスレットの1つは全状態異常無効にして自分のブレスレットと付け替える。
3本の剣に力2つと俊敏1つ、盾に耐久、杖に知力、ブレスレットに器用の各ステータス2倍を付与した。
最後に剣と盾と杖の持ち手に“スーパーウルトラグレートボア”の鞣し皮を巻いて固定。
完成だ!!お揃いの力と俊敏の剣はランド用。
1つだけ刃の厚い剣と盾はグッサス用。
杖とブレスレットはルナルーレ用だ。
ランドとグッサスの装備は今使っている物と形も大きさも同じにした。
装飾は自信が無かったのでシンプルに。
ただ、剣の刃元に2人の名前と明日の日付を入れた。
もし、明日失敗したり出会えなかった場合は書き直す所存だ。
ルナルーレの杖は全く違う物にした。
今の杖は“亀甲羅を背負った武術の達人の杖”の様な物を使っているが、今回作ったのは30cm程の“額の傷が疼くメガネの少年が使っている杖”の様な物にした。
ブレスレットはシンプルな金属の輪っかだ。
レベル9,999の知力を舐めてはいけない。
間違いなく彼女の手首にピッタリサイズの自信がある。
オレは良く見ている間違いない。
ルナルーレの杖とブレスレットにも同じく名前と日付が入っている。
ちなみにオレのブレスレットにも入れてある。
オレは討伐には参加しないが記念日の共有をしようと思ったからだ。
剣と杖に1つづつ魔力を込めて振ってみる。
なかなかいい出来だと思う。
“ストーンウォール”と“ストーン”で箱を作って、ガチャガチャしない様に“ストーン”で固定。
蓋をして机の死角に隠して、リビングでコーヒーを飲む。
新しい発見と満足の行くプレゼントの完成に思わず笑みが溢れた……
食事と風呂を済ませて作戦会議だ。
ちなみに、ルナルーレ作“愛情たっぷりスーパーウルトラグレートボアステーキ”は昨日のものの数倍美味かった。
ランドとグッサスは実はグデグデし過ぎてはいなかった。
ギルドでここ数日の“ウルトラグレートベアー”の討伐情報、目撃情報を集めていた。
たった数日でとても成長が伺える。
2人の情報から明日の狩りのポイントを幾つか決め、各所に合わせて罠の場所、攻める方向等を決めて行く。
それ以外の場所で発見した場合の立ち回りや他の魔獣への対処等を決めて行った。
最後に明日、オレは手出しも口出しもせず、“ウルトラグレートベアー”を討伐するまでは一言も喋らないと伝えて会議は終了。
ランドとグッサスは当たり前の様に2階に上がって行き。ルナルーレは若干不満そうに自分の部屋に入って行く。オレも自室で休んだ。




