第16章 東大陸④
東大陸④
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セリンとの3日間を過ごした翌朝、仕事の前の朝食後みんなにホネリュウを紹介しておく。
「…………そんな訳で、新しいペットのホネリュウだ」
「よろしく頼む」
すると、クリシュナは少し考えた後、
「ねぇ、あなた、ヴリトラじゃない?」
と、聞いて来た。
クリシュナ曰く、空間を抉り取るブレスは嘗て居た“原初のモノ”の1人、天空竜 天を覆う者 ヴリトラが使っていたブレスだと言う。
ホネリュウから以前住んで居た場所や骨だけになる前の姿などを聞いた結果、ホネリュウは元ヴリトラだと結論付けた。
住んで居たのはオレ達が八咫烏を狩った場所、その場所はヴリトラが元々居た龍脈だった。
そして、ホネリュウが意思を持った頃には周囲に白銀の鱗が散らばっていたらしい。
これもヴリトラの鱗の色と一致した。
因みにヴリトラを殺したのはクリシュナを泣かせた例の“原初のモノ”の人種族らしい。
ホネリュウの出生の秘密が明かされたところでシエラールルから質問が来た。
「ところで、お館様。
ホネリュウ様にはこの近辺の守護をして頂くのですか?」
「いいや、シロネコ達と同じ様に連れて周るつもりだけど?」
「しかし、ホネリュウ様は此処の龍脈から離れるのは難しいのでは?」
「え?」
「ホネリュウ様は魔物ですよね?
ナラシンハ様達の様に食事を取る事は出来ませんから、キングA様達の様に龍脈かダンジョン近辺から離れられたら消耗し続けられるのでは?」
「!!そうか!!ホネリュウが、小さくなって喜んでたから、つい、シロネコ達と同じ感覚だった!!
骨じゃあメシ食えないよな!!」
「はい。なので魔獣か人を狩らなければ空間魔力の低いところでの生活は困難かと…………」
「…………ホネリュウ、おまえ小さくなった時に何で喜んでたんだ?」
「オレは気付いた時にはあの大きさだったから小さい自分が新鮮だった」
「…………なるほど……
シロネコ達とは、喜んだ理由が違っていたとは…………
確かに魔物のキングAは小さくなっても別に喜んだりしなかったなぁ〜…………
食事問題が解決してる訳じゃないからか…………」
「クルスさん。
だったらボクみたいに食べられる様にしてあげたらいいんじゃないですか?
空中にベロが浮かんでたら変かもしれないけど…………。
でも、ホネリュウさんも食事が出来たら嬉しいと思うし」
体を得た事で五感を持てた喜びを知るミケネコから良い意見が出た。
ミケネコは今日も良い子だ。
「そうだな。ホネリュウも食事を取れる様に考えよう!!
ついでにキングA達も食事が出来る様にしてやろう!!」
こうして余裕があった筈の3日間はご飯の食べ方を考える事になった。
そう、ご飯の食べ方を考えるのは簡単では無かったのだ…………
朝食の後、報告を一通り聞いて特に変わった事も無かった為、グラール帝国の小屋を引き渡して尋問を任せ、オレは工房に向かった。
感覚については以前ミケネコの時に作った“スキル 味覚”と“スキル 消化吸収”で問題無いが、ホネやヨロイの一体どこにどう付けるか、そして、どうやって咀嚼させるかが問題だ。
ホネやヨロイの中に口だけ有るのは見た目が気持ち悪い。
かと言ってミケネコの様に全く新しい身体を与えるのでは彼らのアイデンティティが感じられない。
半日悩んでまずは妻達に何か良いアイデアが無いか聞く事にした。
こういう発想とか思い付きはオレの知力ステータスの高さも“スキル 森羅万象”も役に立たない。
シロネコ達や配下達も交えて色々考えたが、その日は良い意見は出なかった…………
翌日は、サーラールの街へ行って本部のデザイン室の面々や工場、自由工房でも意見を聞いたが良いものは出て来なかった…………
そして、3日目……
やっと、天才に出会う事が出来た…………
ウチの妻達は比較的育ちの良い者が多い、食事風景も基本優雅な感じだ。
なので発想を変える為、オレはミミッサス村の牧場に来ていた。
家畜達ならムシャムシャ、モシャモシャ食事をしているだろうから何かヒントが無いかと思ったのだ。
暫く眺めていたが結局何も思いつか付かず、ミミッサス村を眺めながら我が家に戻っていると、今までの合同訓練で唯一オレに攻撃を当てた天才少年のルクスを見つけた。
こういう発想が必要な事は子供に聞くに限る!!
そう思ってルクスに声を掛けて、状況を説明した。
やはり、彼は天才少年だった!!
「…………で、悩んでるんだが何か良い方法は思い付かないか?」
「その……お館様はどんなスキルでも魔導具を作れますよね?」
「どんなスキルでもって事は無いけど、理屈の分かっててイメージ出来るモノなら大体な」
「だったらお館様の言っていた“スキル 味覚”と“スキル 消化吸収”の効果も含んだ新しい“スキル 透明な口”とかにしたら良いんじゃ無いですか?
それなら魔導具を付ける場所はどこでも良いからスキルを使う場所を口の中に自分ですれば良いだけですし。
あ!!あと、“透明な口”には入って来た物も透明にする効果もつけておけば口に入れて食べた物が見えなくなるのも、透明な口に入って見えなくなるのも違和感が無くなるんじゃ無いですか?」
「ルクス!!やっぱりキミは天才だ!!
他のスキル効果を含んだ新しいスキルを作る、その発想は無かった!!
それなら出来そうだ、ありがとう!!」
ルクスにお礼を言って急いで我が家に戻ると、ホネリュウ用に食事の準備を頼んでホネリュウを連れて工房へ。
ルクスのネーミングをそのまま採用して“スキル 透明な口”をイメージする。
効果は、任意の場所に、任意の大きさの透明な口を生み出す事が出来る。
透明な口とは外部から取り入れたモノを溢れ出さす事なく透明にして咀嚼出来、味覚を感じ、消化をして自らに吸収する事が出来ると云うモノだ。
イメージが固まったらホネリュウの首輪に付与して、スキルの説明をホネリュウに行った。
「どうだ?使えそうか?」
「…………ふむ……ああ、使えそうだ」
「なら、取り敢えず食ってみろ」
オレがそう言うとメイドがホネリュウに食事を出して、シロネコ達の様に手首にフォークとナイフを付けてあげる。
フォークに刺したステーキをホネの口に入れるとステーキは消えたが多分今は噛んでいるのだろう。
「!!こ、これが食事!!
なんだ、この幸福感と力が漲ってくる感覚は!!」
「どうだ?美味いか?」
「ああ、これは凄い!!食事がこれ程のモノとは!!
ボス、オレは命を賭けて絶対の忠誠を誓う!!」
「喜んで貰えて良かった。そのまま、そこで食べててくれ。
ついでにおまえの鎧も作るから」
鎧についてはもうコンセプトは出来ている。
通常の鎧にしたのではホネリュウでは留め具が自分で止められないか時間が掛かってしまう。
竜の前足は指が3本だし、指先が爪なので細かい作業には向かない。
なので見た目はフルプレートアーマーだが内容は帽子にネックウォーマー、タンクトップ、アームウォーマー、タイツのなんちゃってフルプレートアーマーだ。
普通なら布に金属を付けるとズレ落ちるだろうが、布はコンティネントホエールの皮1万枚圧縮なので回りに付ける黒オリハルコンよりもむしろ頑丈だし、魔力を通すと密着する効果を付けている。
後はもちろん使用者の任意の大きさに変更可能だ。
基本は小さい時サイズなので鎧を着てから大きくならなければならない。
鎧自体は黒地に紫の装飾でアーム部分は手甲剣にした。
“某鉄の合金の錬金術師”が良く使うアレだ。
はっきり言って特に意味は無い。
デザインをイメージしていてカッコ良さそうだったからだ。
ホネリュウがこの手甲剣を使うかは分からない。
ホネリュウが食べ終わるのを待って実際に装備させてみる。
思った以上にカッコ良かった。
そのまま少し動いてみさせたり大きくなってみさせたりして問題無かったので「もう、脱いで良いぞ」と、言ったが本人も気に入った様でずっと着ていた。
夕食時にも着ていた…………
しかし、これが良くなかった。
ちゃんと脱がせておくべきだったのだ…………
夕食を食べているとクロリュウが、
「ボス!!自分も装備が欲しいっス!!
新入りだけなのは、ずりぃっス!!」
と、言って来た。
「おまえには立派な鱗があるじゃないか。
ホネリュウは、ほら、魔核が丸見えだったからさ」
「でも!!自分も強くなりたいんっス!!」
「まあ、そんなに欲しいなら作ってやっても良いけど、どうしたんだ急に?」
と、聞くとシロネコが教えてくれた。
「主よ、シェーシャは先日、聖樹に負けたのが悔しい様なのだ」
「ミケネコに?
そりゃあ、まだ、おまえ達でも無理だろ?攻撃しても効かないだろ?」
「うむ、そうなのだが、シェーシャだけ肉弾戦で負けたものでホネリュウの鎧を見て装備が有ればと考えたのだろう」
「ミケネコは、もう、そんなに動けるのか?」
「いや、シェーシャがカウンターをもらったのだ」
「…………それは鎧でどうにかなる話しじゃ無い気がするが……まあいい。
クロリュウ。だったら、“ディファレントルーム”が使える様になったら作ってやるよ。
持ち運びが出来ないと困るからな」
「ホントっスか?!分かったっス!!
直ぐにマスターするっス!!」
クロリュウがやる気を出していると不意にシロリュウがオレの肩に乗って来て、
「主様、私も“ディファレントルーム”が使える様になったら装備を作って頂けますか?」
と、プレゼントをねだる彼女の様に聞いて来た。
「シロリュウも欲しいのか?」
「はい。主様からの頂き物は私の宝物なので…………」
そう言って、首輪を撫でる…………。
なんとも、甘え上手な彼女だ。
「分かった。
シロネコ達も欲しかったら“ディファレントルーム”が使える様になったら作ってやるから」
と、言った直後に思った…………
クジラやクラゲに一体何を装備させようかと…………
夕食の後にはキングA達にも“スキル 透明な口”を付与してやった。
キングA達の忠誠心も爆上がりだった。
特に、元々人間だったキングAの感動は一入だった様だ。
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自室に戻って暫くするとレンがやって来た。
もちろん、定番となっているウェディングドレス姿だ。
「もしかして、待たせちゃってたか?」
「…………ううん、今来たとこ」
「…………一緒に住んでて、部屋に入って来たのにそのセリフは間違いだろ……誰に習ったんだ?」
「…………アヤ達に色々教えて貰って…………」
「…………呑みながらか?」
「…………うん……」
「まあ、いいか。レンは彼氏がいた事も無いって言ってたもんな」
「…………うん、人を好きになったのはレンジさんが初めてだから……」
そう、レンはオレが初彼氏でそのまま結婚した。
それも付き合って一月半程で、その間も基本的にウチに慣れるのと訓練ばかりでカップルっぽい時間は殆ど無い。
レンに彼氏が居た事が無かったのは単に本人にその気が無かったからだ。
レンは“某汎用性の高い人間型の決戦兵器のいっぱいいるヒロイン”の様な雰囲気で見た目もそんな感じだ。
見た目だけなら向こうの世界では校内1の美少女だと言われていてもおかしくないが、友人達の証言によると告白されても「…………イヤ」の一言で断り続けていたらしい。
なので、まだ、オレとの接し方も手探り状態だ。
それはそれで悪くないのだが…………
「そうか、ありがとう。
そう言えば合同訓練の時に何か感じたみたいだったけど、どこかレンが惚れるポイントがあったのか?」
「…………あの時のレンジさん、とてもカッコよくて……
部下の人達もみんな必死だったけど本気で楽しそうで、こんなに大勢の人を幸せに出来る人がホントにいるんだなぁって思って…………
シロリュウさんが言ってた『レンジさんの側にいる事が世界で一番の幸福だ』って意味が分かって…………
…………そしたら、これが人を好きになるって事なんだって分かったから…………」
『シロリュウの口説きは本気で宗教勧誘だなぁ〜……。
まあ、結果オーライだ。
レンもちゃんとオレを見てオレとの結婚を受け入れてくれた様だし良しとしよう』
「そっか……じゃあ、レンの期待に応える為にもこれからもウチの連中を幸せにしてやんないとな。
もちろん、レンの事もな」
「…………レンジさんは?
レンジさんは、どうして私だったの?」
「先に言っとくとハルマール城でレン達の挑戦を受けた時は別に女性として考えていた訳じゃないぞ?
普通に配下として受け入れて、勇者がどんな意味のある称号なのかの研究に協力して欲しかっただけだ」
「…………うん…………」
「でも、最初に殺気を放った時にレンは耐えただろ?」
「…………耐え切れたとは言えない…………」
「はは、そうやって悔しがってるところも可愛いよ。
そう言うところに惚れたのさ。
因みにオレの殺気はスキルで調整してるんだが、このスキルを使う様になって立ったまま耐えたのはレンが初めてだった。
だから、興味が湧いたんだ。
で、その後はレンを試す様な事をした。
腕を斬っただろ?
あの時は、ホントはすぐに回復してあげるつもりだったんだ。
腕を斬られる位の攻撃をされても向かって来れるか試すためにな。
でも、レンは斬られたままですら向かって来た。
その後も、ただオレに攻撃するんじゃなくて仲間を庇っていた。
レンはちゃんと模擬戦でも殺し合いと同じ様に考えれてるって思った。
オレはそう云う何事にも真剣に向き合う女性が好きなんだ。
だから、あの時のレンがとても輝いて見えた。
キミが欲しいと思ったんだ」
「…………恥ずかしぃ…………」
「今では、そんな恥ずかしがる姿も可愛いよ」
そう言って、レンをベットに攫ったのだった…………
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レンと2人で出掛けるのは初めてだ。
他の妻達の様に2人っきりでと言う意味では無く。
みんなと一緒に出掛けた事はあってもと言う意味だ。
そんな初デートは、予想通り狩りだった…………
そうじゃないかと思っていた…………
因みに、3日間のメニューはセレンと同じ。
唯一の違いは料理は外食と言う所だ。
朝食無しで訓練をして、昼食はサーラールの街で食べて、食べたらコシュツマーヤ山脈で黒竜狩りだ。
念の為、理由も聞いてみた。
セレンと同じだった……
因みにレンはセレンから聞いたそうだ……
オレの“スキル クルス流剣術1”は刀仕様なので新たに“スキル クルス流剣術2”を作り訓練を行った。
セレンやセリンと比べれば格段に実践経験は有ったが魔獣相手のチーム戦が基本だった為、今日の狩りに向けて先ずは魔獣相手の個人戦から教えて行った。
訓練の後は初デート、黒竜狩りだ。
いつものようにちょこちょこ黒竜を止めながら、内容は真面目なボディータッチ多め指導をして行く。
勇者だからか、本人の才能か、身体の使い方も位置取りや判断も非常に呑み込みが早い。
まだ、ステータス的に魔法での補助が必要だが1匹目でレベルさえ上がれば1人でも黒竜を狩れるくらいになった。
なので2匹目以降は自分で狩らせて後からアドバイスをする方式に変えて、どんどん狩って行った。
夕食はエルフの里で取った。
レンは聖樹本体を見た事が無いので僅かでも観光を兼ねてだ。
聖樹を目にしたレンは「…………おっきい……」と呟いて息を呑んでいた。
レストランに向かって街を歩く中、色々な物語で出てくる都市伝説の様な“ムキムキのオネェ”を目にして「…………アレもエルフ?……」と、聞いて来たのでエルフ種族の性事情も教えておいた。
レンは意外とすんなり受け入れていた。
クリシュナの事を知っているからだろう。
翌日の訓練では昨日、レンの狩りを見ながら考えていた“クルス流 剣術2”を伝授して行った。
時々、レンは「!!この技は!!」みたいな事を言っていたがそこはもちろんパクリ技だ。
昼食は王都ビルスレイアで取って、黒竜ばかりでは偏るのでセレン同様に各地で色々と狩って周った。
どれもAランク以上の魔獣だ。
レンも無事にレベル1万を突破した。
夕食はレンからの希望で王都ドルレアで取った。
自分が戦争に参加していたかもしれないドルレア王国を見ておきたかった様だ。
3日目はやっぱりゆっくり過ごす予定だったが、折角レベル1万を超えたので専用装備を作る事にした。
大型魔獣対策でレンの剣は“光属性魔法 シャインスライサー”の変形で光の刃が出せる仕様にした。
理由はもちろん勇者っぽいからだ。
残念ながらレンはまだ無段階での調節や使用が完璧に出来る程では無いので、2m、5m、10mの段階制だ。
ちゃんと本人の魔力だけで無く魔力電池の使用も可能な方式だ。
鎧はリムとお揃い色違いのミニプリーツスカートに白い鎧のドレスアーマーで、スカートの色はロイヤルブルーだ。もちろん、新仕様の攻撃を受けたら見た目が壊れて行くパターンだ。
新装備をとても喜んで光の刃をぶん回して遊んだ後はレンの手作りランチだった。
味は普通だが頑張ってくれた気持ちは嬉しい。
そして、夕食にはオレの手作り料理と“秘密兵器”を投入した。
「!!レンジさん、そのトックリはもしかして…………」
「ふ、ふ、ふ……レンの想像通り、レンの為に取っておいた“秘密兵器”、熱燗だ!!」
「!!やっぱり!!」
「日本酒もイケるんだろ?」
レンは、強く強く頷き、
「…………1番好き……」
と、言った。
オレの知力ステータスは伊達では無い。
今の一言で大きな問題点に気付いた!!
この世界の成人は種族によって様々だが、飲酒に関しては特に年齢制限と言ったモノは無い。
それに、レンは人種族なので成人は15歳。
ちゃんと大人なので問題ないが、元の世界では「お酒は20歳になってから!!」だ。
ハルマール王国を含め、今のところこの世界でオレですら日本酒には出会っていない。
なのに、レンは「1番好き」だと言った…………
レンは元の世界では良いとこのお嬢さんで、お嬢様学校の生徒だったはずだが…………
深く考えるのは辞めておこう…………
オレの作った和食もどきと一緒にレンが完全に酔い潰れてしまう迄、飲み明かしたのだった…………




