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第16章 東大陸②

東大陸②





▪️▪️▪️▪️






「おはよう」


「おはよう御座います、主様」


「…………ちゃんと寝れなかったのか?」


「…………はい……なんだかワクワクし過ぎてしまって余り眠れなかったのです」


「そうか、ワクワクし過ぎてなら仕方ないな」


そう言って、“神聖属性魔法”で疲れと眠気を回復してやる。


「ありがとうございます!!」


「元気になって良かった。じゃあ、今日はどうする?」


「はい、今日も明日も、午前中は、2人っきりで訓練をして頂いて、午後からは、2人っきりで狩りに行きたいです」


「…………えぇっと、それで良いのか?」


「はい!!お願いします!!」



『…………おかしい…………

ほんとにセレンだよな?セリンじゃないよな?


なんで、夢見る少女の様な妄想女子だったのに、こんな武闘派な新婚生活を求めているんだ?

出会った時は、レベル30の戦闘など一度もした事の無いお嬢様だったのに…………』



「なあ、セレン、誰かに何か言われたのか?」


「誰かと言うか、奥さんの皆さんに聞いたのです。


主様は最強ですし、配下の人達も皆さん途轍も無く強いのに、何故、奥さん達も必死になって鍛えられているのかと。


そうしたら、皆さんは主様が何処に出掛ける時でもついて行ける様に鍛えられているそうでした。


『確かに、主様は何処に付いて行っても守ってくれるだろうけど、守って貰う事を前提に連れて行って貰うのは唯の我儘になってしまうから』と仰っていました。


なので、私も皆さんと同じ様に自分の身は自分で守れる様になって、主様に何時でも同行出来る様になりたいのです!!」



『知らなかった……みんながそんな風に考えていたとは…………。

オレは、みんなから愛されているなぁ〜…………

ゴメン、脳筋だと思ってて…………』



「それと…………」


「ん?それと?」


「ステータスが高くなると、主様の夜のレベルが違うからだと…………」


「ゔ、!!」



オレは“スキル 並列思考”を常に使って、相手のステータスに合わせて“スキル 手加減”を常時使って接している。


それは、手を握る時も、キスをする時も、もちろん、“そういう時”もだ。

『本音はそっちなんじゃない?』と、思ってしまったオレは悪くないと思う…………



「…………まあ、セレンが訓練と狩りで良いならそうしよう」


「はい!!お願いします!!」






セレンの武器は大鎌になっていた。


全く戦闘訓練をした事の無かったセレンは、先ずは体術から始めて、身体の使い方から学ばせた。

訓練内容は黒火一族の幼児用のメニューだ。



セレンは訓練場の時間100倍を活用して、1ヶ月で一応は様になり、その後は武器選びを行いながら、レベルアップをしていた。


色々試した様だが、大鎌が合っていたらしい…………



天使の姿で大鎌を使うとかイロモノキャラ感が半端ないが、唯一の救いは名前がアスモデウスからクルスになった事だろう。




そんな訳で、セレンと特訓だ。


先日、オレも覚えた“スキル 鎌術”とクリシュナと作った“クルス流 鎌術1”を披露しつつ、身体の使い方や重心の位置などの細かいところをいつものボディータッチ多めの密着指導をして行った。




昼食はセレアが持って来てくれた。


お嬢様なセレンは料理を作った事もなかった様で、前以てセレアに頼んでいたらしい。

ちなみに他の妻達と違って最終日迄の食事を既に頼んでいるらしい。


今はまだ自身のレベルアップを頑張りたいそうだ。

料理もレベルが他の妻達に追い付いたら勉強するから、その時は食べて欲しいと言われた。

1つづつ着実にして行こうとする姿勢はセレンの美点だ。





さて、午後からは狩りだ。

ラムとリムから聞いたのだろう。

何故か2人っきりの狩りイコール黒竜狩りが定番になっている気がする。


まあ、黒竜は幼竜でもAランク、レベル5,000以上だ。

レベルアップには丁度いい。


最初に出会ったのはレベル70万程の黒竜だったので、先ずはお手本で“クルス流 鎌術1”で、関節の裏や翼の皮膜、目等を削って行き、ヒット&アウェイを繰り返して致命傷を与えられる首や胸、口内に何度も何度も攻撃して、最終的に心臓を貫いて止めを刺した。


セレンも今の戦い方で、削りながら自分で倒す様に言ってオレがどういう風に攻撃して行ったか説明する。



次に出会ったのはレベル2万程のまだ小さめな黒竜だったので実践開始だ。


例によってオレの魔法で補助をしながら、時々黒竜を止めては踏み込み位置や、振り抜いた後の離脱の動き等、手取り足取り教えながら黒竜狩りを行った。




やはり実践は効果的な様で、今日だけでもセレンの動きはとても良くなりレベルも一気に上がった。



セレアの作ってくれた夕食を食べながらセレンに提案する。


「なあ、セレン。明日は訓練無しで一日中狩りにしないか?

そしたら、セレンもレベル1万を超えられると思うんだ。


明日中に超えられたら、明後日は2人でゆっくりする予定なんだろ?

その時に、セレンにも専用装備を作ってやるからさ」


「!!是非、それで、お願いします!!」


「!!セイレーヌス様、もう、そんなところ迄、レベルが上がられているのですか?!」


「ええ、今日一日だけで、レベルが5,000くらい上がったから。

主様のご指導と魔法の補助をして貰って私も黒竜を狩れたのよ」


「!!黒竜を!!」


「!!あ、あの、主様。

明日と明後日なんですが、やっぱり絶対に2人っきりでないといけませんか?」


「ん?ああ、セレアも一緒にって事か?」


「はい、ドバスチャンは私にとっては母も同然なんです。

出来れば早くメイド部隊に移籍出来る様になって貰いたくて…………」


「セレンがそれで良いなら構わないぞ。

そもそも、この3日間はセレンの為の時間なんだ。


オレには基本24時間護衛が付いてるから、完全な2人っきりの時間はなかなか取れないからな」


「それでしたら、是非、ドバスチャンも一緒にお願いします!!」


「!!セイレーヌス様ぁ〜〜……」


セレンの優しさにセレアが泣き出してしまう…………



この世界は寿命が長い分、比較的親子の繋がりは薄い。


しかし、其れは成人してからだ。

寿命の長さとは逆に出生率の低さから、子供がなかなか出来ない分、子供はとても大切に育てられている場合が多い。



セレンは未だ成人したばかりだ。

今まで愛情を込めて育ててくれたセレアを本当に大切にしているのだろう。




冗談で「なんなら、夜も一緒でもいいぞ?」と、言ったら本当に一緒に来た。


セレアは遠慮したらしいが、セレンの「幸せを一緒に分かち合いたい」と言う言葉に負けたらしい。

内容はさておき、セレンのセレアに対する親子愛は本物だと思った。





翌日、ぶっ通しで狩りを続けた成果で、2人ともレベル1万を余裕で超えた。


黒竜ばかり狩り続けるのも可哀想だし、経験が偏るので、白龍やアルティメットボア、アルティメットベアー、サンダーレオなんかもオレの“リターン”で移動して狩りまくった。




夕食を3人で食べながら、専用装備の形状や付与スキル、付与属性なんかの話しで盛り上がり、そのまま3人で風呂に入って、そのまま3人でベットに入ったのだった…………




3日目、朝から前日話し合った内容で専用装備を作って、実際に使ってみる。


そのまま訓練を少しして昼食を食べ、その後はゆっくりして過ごした。


セレアは3日目の夕食も作るつもりだった様だが、セレンとは訓練漬けの3日間だったので、最後は夫婦っぽくセレンと2人で夕食を作った。


オレ達がイチャつきながら料理をしていたので気を使ったのだろう。



セレアがそっと出て行こうとしたので、「折角なんだから、娘の初めての料理を食べていくと良い」と、呼び止めた。


セレアも「私もドバスチャンに食べて貰いたい」と、言ったら、セレアは料理が出来るまで泣き続け、料理を食べてからも泣き出した。



セレンもオレと一緒に作ったとはいえ、初めての自分の料理をとても嬉しそうに食べていた…………






▪️▪️▪️▪️





自分で仕向けた事とはいえ、このタイミングでオレに降り掛かって来るとは…………



セレンとの3日間を終えて仕事日に入り、報告を聞いた。

最初の報告で、みんなへの装備の作成がずれ込む事は確定の様なものだった…………





ハルマール王国で“人種族至上主義の排斥デモ”が起こったのだ。


これはオレが仕向けた事だ。

ハルマール王国の各支店に未婚の美男美女の魔族を揃えて、必要以上に客を勘違いさせる様な接客をさせた。



その結果、今回のデモが勃発した訳だが、ここまでであれば別に抗議活動が大きくなっても放っておいて“人種族至上主義”が無くなるのを待つか、さらに焚き付けるだけだったのだが、この件に関して宰相から相談が入ってしまった。


まあ、可能性としては、クルス商会の治外法権の撤廃を頼まれるか、魔族の国との橋渡しを頼まれるかのどちらかだろうと思い会談を受ける事にしたのだが…………






「クルス会長、本日はお時間を頂き有り難う御座います」


クルス商会ハルマール支店の会長室に宰相と新軍務大臣、経済大臣が入って来た。


「まあ、座ってくれ。

で、デモについての相談と聞いているが?」


「はい、現在“人種族至上主義”に反対するデモが起きているのはお聞き及びかと思うのですが、実は、その…………」


珍しく、宰相が言い淀む様な言い方をする。


「デモの中心人物についてはご存知でしょうか?」


「いいや、聞いていない」


「左様で御座いますか…………。

実はデモの中心人物は王女殿下と私共の娘達なのです…………」


「…………は?」


「その…………。

ルースレン第1王女と私共3人の娘達が中心となってデモを行っているのです。

その…………。

4人共が此処、ハルマール支店の支店長殿との交際を希望しておりまして…………」


「…………で?」


「…………どうしたら良いでしょうか…………」


「そこから?!」



『………何という事だ…………

起こりうる可能性を考えていた自分がバカらしい…………


確かに国の主義に対する抗議デモを行っているのが国の中枢の娘というのは問題だろうが、そんなものほぼ家族の問題じゃないか…………』



「そんな事、辞めさせるか、聞き入れるかどっちかじゃないのか?」


「もちろん、辞めさせ様と説得したのですが聞き入れて貰えず、かと言って王女殿下や娘達の為に法を変える訳にもいかず…………」



『国王もコイツらも家に帰れば、唯の父親かぁ〜……。

古今東西、父親と娘が口論になったら、父親が勝てる訳ないか……。

こういうトコだけ、異世界感を感じないなぁ〜…………』



「はぁ〜〜…………

で、デモの規模と主張と活動内容は?」


「はい!!

規模はまだ50人程ですが殆どが貴族の子女でして、万が一、民衆にも広がる様であれば一気に拡大する可能性が御座います。


主張は人種族至上主義の撤廃で、他種族の自由と人権の獲得を訴えております。


活動内容は署名と王城前での演説と座り込み、後は家族と口をきかないと言うものです」



『なんだろう……最後の家族と口をきかないデモ活動って…………

それに王侯貴族が署名活動なんかして、民間人が近づく訳ないじゃないか…………』



「つまり、まだ、特に大きな被害が出ている訳でも大規模な活動になっている訳でもないんだな?

なら、デモの中枢人物はさっきの4人だけか?他に権力の強い者はいないのか?」


「王女殿下と私共の娘の他であれば、公爵令嬢と侯爵令嬢がお2人づつおります」


「なら、今から直ぐにソイツらと親達もここへ呼べ、もちろん国王もだ。


来るのを拒んだ娘達には『今後一切の交渉を受け付けない』と言え、親達には『来なければ娘達がどうなっても知らん』と言って全員呼んで来い。


それと、オレに会うんだ。

下着の替え位は持って来させろよ。


2時間以内に全員集めろ、遅れて来た者には交渉の間中ずっと殺気を向ける。以上だ。

直ぐに行け!!」


「「「!!はい!!」」」






1時間後、クルス商会ハルマール支店の会議室にちゃんと全員が集まった。

1番来るのを拒みそうだった国王は30分でやって来て、ずっとキョドッている。


コの字型に並んだ机に真ん中はオレ1人、向かって右列に娘達が並び、左列に国王達が並んで座っている。



「全員揃った様だから、さっさと始めるぞ。


じゃあ、王女達、お前達は各自、希望する相手と交際が出来ればそれで良いのか、それとも、たとえ、交際が出来る様になっても、人種族至上主義が無くなる迄、抗議デモを続けるつもりなのか、どっちなんだ?」


「もちろん、人種族至上主義が無くなる迄、活動を続けます。

私達と同じ様に悲しい恋をする人が今後居なくなる為に!!」


オレをこの世界に呼んだ張本人、爆乳のルースレン王女がそう言って、他の面々も強く頷いている。



「ふぅ〜〜ん……本当か?

オレには、お前らがそこまでの根性が有る様には見えないけどなぁ〜…………」


「!!あなたに、私達の何が分かるのです!!」


「だってそうだろ?

おまえら家で家族と口をきいてないんだよな?何でだ?」


「それはもちろん、抗議の意思を示す為です!!」


「全員そうなのか?」


全員が頷いている…………


「はぁ〜〜……。

お前らは本気じゃ無いか、バカばっかりなのか、どっちかだ」


「!!どういう意味です!!」


「そのままの意味に決まってるだろうが。

本気で人種族至上主義を撤廃させたいなら、何故、親や家族を必死に説得しない!!


お前らの親達は、この国でも最上位にいる奴らだぞ?


そいつらが味方になるなら法改正の可能性が格段に高くなるだろうが、何故それを子供みたいに口をきかないなんて無意味な事をやっているんだ!!」


「「「!!!!」」」


「で、ですが、私達のお父様達はみんな『ダメだ!!』の一点張りで、真面に話しを聞いてもくれないのです!!」


「それでも、有効なカードなら根気良く説得するんだよ!!


それから、お前らの購入履歴を確認した。

お前ら8人とも装備品の購入が殆ど無いのも、お前らの本気度が感じられない!!」


「それは、私達は剣を握った事も有りませんもの」


宰相の娘の言葉に他の7人も強く頷いている。

本当にダメダメだ。


「あのな、装備品というのは武器の事を言ってるんじゃない。防具の方だ。


お前らは自分の親や家族から暗殺されると全く思っていない。

つまり、命の危機になる程の行動を取るつもりが無いという事だ。


本当に国の法律を変えさせる程の行動を取るつもりなら、命の1つや2つは狙われて当然の筈だ!!」


「「「!!!!」」」


「私達のやっていた事は、所詮は児戯だったという事ですね…………」


驚きと共に項垂れる娘達。

王女の呟きに全員の気持ちが現れていた。



「まあ、そういう事だ。

だが、オレは君達の気持ちまで遊びだったと言っている訳じゃない。


君達の想い人への気持ちは本気だったんじゃないのか?」


「!!はい、その通りです!!

彼の方への想いは本気です!!」


「…………全員、命を賭ける程、本気なのか?」


「「「!!!はい!!」」」


力強く答えたルースレン王女に続いて、他の7人も力の篭った目で答える。

其れに対して、苦虫を噛み潰した様な表情の国王達父親側だが、今は取り敢えず無視だ。



「なら、最も法改正の可能性が高い方法を教えてやろう…………」


「!!それは、いったい…………」


「王女、君の王位継承権は、第3位だったな。

先ず、兄2人を暗殺しろ。


大丈夫だ。

ここまでであれば、唯の継承権争いだ。

多少の証拠なら残っても良い。

だから、毒殺でも罠に嵌めても構わない。


他の同志達も、爵位の継承権を1位になる様に兄弟達を暗殺させろ。


そこまで、準備が出来たら国王や当主達を殺せ。


これは別に暗殺である必要は無い。

クーデターは勝った者が正義だ。

全力で殺せばいい。



戦力が必要なら、炎の勇者パーティーが冒険者をしているから雇えば良い。


彼らはこの国が無理矢理召喚した事も、騙して戦争の道具にした事も、聖剣で友人を殺させ様と考えていた事も、非常に恨んでいる。


だから、この国の中枢が総入れ替えになるなら快く協力してくれるだろう。


後は分かるな?

君達がこの国を健全な国にして行けば良い。


安心しろ。

クルス商会は“他国からの不当な侵略”には戦力を投入するが、国内のクーデターに関しては一切関与しない。

君達の邪魔をする事は一切ない」


「!!さすがは、彼の方が仕えるクルス会長です!!


分かりました!!

必ずや、この国を差別の無い健全な国にしてみせます!!」


「ああ、大袈裟な主義主張なんて必要無い。

全員が自らの想い人への愛を勝ち取る為に頑張れば良い!!」


「「「はい!!」」」


「ク、ク、クルス会長ぉ〜〜!!」


「ああ、宰相、親達への話しはこれからだ。

まあ、落ち着け」



宰相が思わず大声を上げて、他の親達は頭を抱えている…………



「お前らも、頭を抱えてないで、取り敢えず話しを聞け。

国王もコッチの世界に帰って来い。


でだ、今の話しで分かった様に、このままでは国家を揺るがす程のお家騒動とクーデターが起こってしまう訳だ。


言っておくが、オレが仕向けたんじゃないぞ?


オレは彼女達に最も確率の高い最後の手段を今教えただけで、放って置いたらいつかはこうなっていたんだ。

何と言っても王位継承権の高い第1王女が参加してるんだからな」


「むむぅ〜……確かに、仰る通りです…………」


宰相がなんだか不貞腐れて返事をする。

宰相は、娘を溺愛の可能性が高い。



「じゃあ、お前達の取る行動は2つに1つだ。


クーデターを企てた娘達を国家叛逆罪で処分するか、人種族至上主義を撤廃するかだ。


彼女達を処分するなら止めはしない。

これは、この国の問題だ。


だが、人種族至上主義を撤廃するなら、1つ良い言い訳をやろう」


「良い言い訳で、御座いますか?」


不機嫌を全く隠せて居ない宰相は訝しんだ表情で聞いて来る。

しかし、宰相は未だマシだ。

国王は既に考える事を放棄した様な表情のまま固まっている。



「ああ、民衆にはこう言えば良い。


『長く戦争の続いたドルレア王国との今後の友好を示す為に、グラール帝国支配下の時代から続いた“人種族至上主義”という悪しき法律を撤廃する』と、


貴族達には、こう言えば良い。


『ドルレア王国と休戦条約が結ばれた以上、最も危険視すべきはグラール帝国だ。

折角結ばれた休戦条約を活用して、戦闘力の高い魔族を戦力に取り込んで行くべきではないか?


それに、万が一、グラール帝国から攻め込まれた際にクルス商会に戦力の提供を依頼しても、魔族に国内の自由が無いからと僅かな人種族の兵力しか出して貰えないかもしれない』とな。


先日、ウチのメイドのレベルを知って勇者君も勘違いしていたが、貴族の中にも魔族だから強いと勘違いしてる連中もいるんじゃないか?


ちょうどいい言い訳だと思うが?」


しっかりと悩んだ表情をした宰相が静かに口を開く。


「…………陛下、どうでしょう。

私はクルス会長のご意見はご尤もかと思うのですが…………」


「…………しかし、それではルースレンちゃんが嫁に行ってしまうかもしれんし…………」


一応話しは聞いていた様で、国王が泣きそうな子供の様な声で呟いた…………



『ああ〜〜、やっぱりな…………。


あのビビりの国王が宰相にオレへ相談に行く事を許可して、自分自身も呼んだら速攻で来たから、そうじゃないかと思っていた…………


国王は第1王女を溺愛しているに違いないと思った。

だから、クーデター案を提案して、娘の命を天秤に掛けさせた訳だが、それでも渋るとは…………』



「国王、オレはさっき2つに1つと言ったが、もう1つ有るだろう」


「…………もう1つ?…………」


「……クルス会長それは…………」


宰相は察した様だ。

だが、他の連中は全く気付けて居ない。


とは云え畳み掛けるなら今だ!!



「簡単な答えだ。

クーデターを成功させてやればいい。


そうすれば、可愛い娘が嫁に行く姿を見ずに全員死ねる。

全て丸く収まるじゃないか」


「!!いや!!それは!!」


「なら、娘達が嫁に行かない様にさっさと殺すか?」


「!!それはもっとイカン!!」


「ところで国王、お前は王女の想い人の此処の支店長の顔は知っているか?」


「いや、その様な憎っくき男の顔など知らん」


「支店長は、かなりイケメンだ。

男のオレが見てもイケメンだ。なあ、王女?」


「!!はい!!それはもう!!」


「ぐぬぬ…………」


「国王、もしも。もしもだ。

王女と支店長が上手くいって、孫娘が産まれたとしよう。


王女も美人だし、支店長もイケメンだ。

それはもう、目に入れても痛くない程の可愛い孫娘が産まれるんじゃないか?」


「!!なに?!」


「更に魔族の成人は遅くて、成長も比較的遅い。

きっと可愛い時間も長いと思うぞ?」


「!!うむ、確かに…………」


「国王、王女の顔を見てみろ。

結婚して子供が産まれた自分の姿を想像して、あんなに幸せそうにしている。


そして、横を見てみろ。

宰相達も、既に孫娘を見たそうな顔をしているだろう?

お前もそんな顔をしている。

本当はもう結論は出ているのだろう?」


「うむ……そうだな……。

そなたの案で、人種族至上主義は撤廃しよう…………」


「お父様!!」


「「「陛下!!」」」


「良し、これで全て解決だな?

なら、今日の相談料だが、こないだ聖剣を貰った時に通った宝物庫に気になるモノが2、3あったからそれを貰う。

以上だ。

お前ら、もう帰っていいぞ」


「!!クルス会長、彼処には幾つもの国宝が!!」


「そうか。

なら金を要求しても良いがオレが3時間でどれだけの魔導具を製作出来るか知っているのか?」


「!!それは……申し訳ありません。存じ上げません。

一応、お聞きしても宜しいでしょうか?」


「3時間あれば店の全商品を5店舗分は作れる。

もちろん展示をしていないオリハルコン合金の属性違いの武器も含めて全てだ」







そんな訳で、ハルマール王国の人種族至上主義も撤廃される事になった。

相談料に貰ったのは、もちろん、宝物庫のモノだ。


正直、別に金は必要無いから、今後、簡単に相談に来れない様に吹っ掛けただけだ。




貰ったモノは3つ。

2つは、以前から集めていた“何が起こるか分からない箱”だ。

実は此れは聖剣を貰った時に今度、何かの交渉が有れば対価で要求しようと前々から思っていた。


オレがこれを貰えば、今後のオレとの交渉用にハルマール王国が探すのではないかと考えての事だ。


最後の1つは、今日、宝物庫内を歩いて発見したモノだ。



“メテオストーン”、まあ、隕石だ。

かなり大きくて、1番長い所は2mくらいはある。


これは、分解して魔力電池に使っている“ルナストーン”の様に此の星には無い鉱物が発見出来ないかと考えて貰う事にした。


一緒について来た宰相は、オレが選んだモノが比較的安価なモノだった事に安堵していた。







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