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第15章 合同結婚式②

合同結婚式②





▪️▪️▪️▪️




11月13日


明日のパーティーの準備をしながら、ふと思い出す。


『2年前の元の世界の11月13日にこの世界にやって来て、この世界の11月13日にオレが“スキル 創造”を持っている事を知った…………


時間延長100倍も結構使ったから、実際にはかなり長い時間この世界にいるが、まだ、たった2年しか経っていないんだなぁ〜…………


色んな事があり過ぎて、凄まじく濃い時間だったが…………

やっぱり、“この指輪”のせいなのかなぁ〜…………』



そんな事を考えながら、“スキル 創造”で、筆、墨、硯、色紙を作って、墨を擦る……


『そうだよなぁ〜……たった2年だよなぁ〜…………


たった2年で、世界的な大企業の会長になって…………

たった2年で、妻4人に恋人3人に愛人?37人のハーレム野郎になっちゃったんだよなぁ〜…………


来年には、妻7人になるし、今回、レベルアップを頑張らせたから、愛人?もきっと増えるだろうしなぁ〜…………

この間、ラムが言ってたけど、オレやっぱり働き過ぎかなぁ〜…………

寂しい思いをさせて無いかなぁ〜…………』


と、考えながら、筆を取って色紙に名前を書く…………


『色々あるのも、やっぱり“この指輪”のせいかなぁ〜…………

これを外したら、もっと、みんなとの時間をとってあげられるかなぁ〜…………


でも、これのおかげで、色々と問題が解決したり、ギリギリで間に合ったりもしてるだろうしなぁ〜…………

外すに外せないんだよなぁ〜…………』


書き上がった色紙を乾かしながら、そんな事を考えていた…………


そして、また、“この指輪”のせいかと思う連絡が入ったのだった…………






▪️▪️▪️▪️





「今日も無一文なのか?」


昼食時、貸切のレストランに入って、目の前の少年少女に掛けた第一声は、それだった。

9人の少年少女達は、今日は水だけで待っていた。


オレと一緒にこの世界に呼び出された、男勇者君と女勇者ちゃんのパーティーだ。


「はい…………」


代表してか、男勇者君が返事をした。

未だに金を持たせて貰えていない様だ。


「シェーラ、悪いが、人数分、適当に注文しといてくれ」


「はい、畏まりました」


「「「ありがとうございます!!」」」


現金な勇者一行は、さっき迄の暗い雰囲気を一変して、キラッキラの瞳でお礼を言って来た。

もしかして、奢ってもらう為に呼び出されたのか?と、思いたくなるほどの美しい瞳をしている…………

特に、前回会った時に酒に食い付いていた娘と、女勇者ちゃんの瞳の輝きは半端ない。



「で、雷十ノ助さんからの、相談とお願いってのは何なんだ?」


「あ!!はい、それが、クルスさんから話しを聞いて、クルス商会の面接に行った人達が、殆ど不採用らしくて、何とかならないかって言うのが1つ目です」


答えたのは、またも男勇者君。

他のメンバーは、料理が来るのをまだか、まだかと待っている様だ…………


「…………なあ、確かリョウタ君だったよな?」


「はい!!」


「君、1人居れば、他の子達は帰って貰っても良いんじゃないか?」


「「「えええ!!!」」」


「お前ら、メシと酒が目当てで来ただけだろ?」


「「「ギクゥッ!!!」」」


なんだ、この昭和テイストなリアクションは…………


「…………なあ、もしかして、休戦協定が結ばれてから、待遇が悪くなったのか?」


「…………はい」


「そうか、それについては後から聞こう。

メシは好きなだけ食え。酒はまだ呑むなよ。

で、殆ど不採用だって話しか、ギルスーレ、面接情報を取り寄せてくれ」


「はい、畏まりました」


「クルスさん!!まだって事は…………」


「話しが終わったら呑んでも良い。

但し、ちゃんと、雷十ノ助さんに報告出来る程度にしとけよ」


「「「はい!!!」」」


なんて、返事の良い連中なんだ……潰れる迄、呑みそうな気がしてならない…………




送られて来た、審査内容を見て、オレは大きく溜め息を吐いた…………


「なんで、不採用ばかりなのか、分かった。

元の世界の人間は嘘吐きが多過ぎる、以上だ」


「え?どういう事ですか?」


「ウチの審査は、人間性だけで、採用と不採用を決める。

能力は働き始めてから身に付けて貰えば良いと考えているからだ。


だから、審査の時に前以て、“真偽の魔導具”を使う事と、プライベートな質問もする事を伝えている。


この“真偽の魔導具”で虚偽の回答をして殆どの者が不採用になっている。


申し訳無いが、雷十ノ助さんには、そのままを伝えてくれ。

嘘発見機を前にして、それでも嘘をつく様な人間を雇う事は出来ない。


ウチの従業員は魔族やドワーフが多くてな、全員、仲間意識が高い。


そして、魔族やドワーフはまず嘘を吐かない。

オブラートに包む様な言い方も基本しない、人種族と違ってな」


「採用されたのが、子供ばっかりだったのって、そういう理由ですか…………」


「残念ながら、大人は汚いな」


「分かりました。その事はそのまま伝えます」


「ああ、それと、条件は非常に悪くなるが、魔族の国にオレの作った難民の街が幾つか有る。

何処も農業か漁業を中心にした街だ。

そこであれば、住む家と当面の食事は有る。


但し、仕事は基本肉体労働で、住んでいるのは殆ど獣人種族で、魔族の国は犯罪者にとても、厳しいから、犯罪を犯したら簡単に殺されるが、それでも良ければ融通をすると伝えてくれ」


「!!街も作ってるんですか?」


「ああ、オレの恋人の1人が治めていた領地が内乱に巻き込まれる可能性があったから、領民を移民させたんだ。

流石に30万人だったから、3カ国に新しく6ヶ所街を作って、そこに住んで貰う事にしたんだよ」


「元領主が彼女?!」「30万人?!」「街を6ヶ所?!」「恋人の1人?!」


夢中で喰っているのだと思っていたが、一応は聞いていた様で、様々な驚きを披露してくれた。


「そんな訳だから、数百人くらいなら、どうにでもなる。

但し、さっきも言った条件だけどな」


「…………クルスさん、なんか、とんでもないですね…………」


全員が超頷いている。


「クルスさん!!恋人は、何人いるんですか?!」


今まで、1度も話し掛けて来た事の無い、男勇者君のパーティーの少年が聞いて来た。


「…………君は、シロウ君だったな。ハーレム願望か?」


「はい!!」


なんて、正直なんだ…………。


今いる2つの勇者パーティーは、女勇者ちゃんの女子4人パーティーと男勇者君の女子2人、男子3人だ。

圧倒的に男子の願望に不利な環境で、ここまで、ハッキリと答えるとは…………


「シロウ君、正直な君に夢の有る話しをしてあげよう。


この世界は何処の国も、一夫多妻、一妻多夫が自由だ。


オレは、今、4人の妻と3人の恋人と、それ以外に37人いる。

君だって恋人100人も夢じゃないぞ!!」


「4人の妻と恋人3人?!」「それ以外って何?!」「44人も?!」「ガチハーレムじゃん!!」「……絶倫……」


なんか、女勇者ちゃんが、ボソッとリアルな発言をしていたが、まあ良い。

話しがそれ過ぎなので、元に戻そう。


「じゃあ、シロウ君の夢が叶う可能性が有る事が分かったところで、リョウタ君、本題に戻してくれないか?」


「あ!!ああ、そうでした。


実は、休戦の話しが出始めた頃から、オレ達、ほぼ、監禁状態なんです。

部屋も普通の士官用の部屋にされて、王都に出る許可も出なくなったんです」


「なるほど、それで城までオレの方から迎えを出して欲しいって事だったんだな?」


「はい、それでも、雷十ノ助さんとキヨさんが残る条件で、出てきました。

それで、脱走を計画してるんですけど、クルスさんに協力して貰えないかと思って」


「監禁状態なのは、君たち9人と、雷十ノ助さんとキヨさんの計11人だけなのか?」


「はい、他の人は、寧ろ出て行って欲しいみたいです」


「なるほどな、聖剣が無くなったから、人質は必要無いが、戦力は残したい。

そんなところか…………」


「どういう事ですか?!」


「聖剣は、親しい仲間を殺せば殺す程、強くなれる呪われた魔剣だったんだ。


だから、“聖剣の勇者”が覚醒したら、殺させる為に特に君たちと仲が良かった者は優遇して、城に残させていたんだろうな。


でも、聖剣はクルス商会誘致の対価として、オレが貰って封印した。

だから、戦闘力の有る君たち以外は必要無くなった訳だ」


「そんな!!じゃあ、オレ達に友達まで殺させようとしてたって事ですか?

戦争の道具にしようとしてただけじゃ無くて!!」


「まあ、そう言う事だな。

でも、聖剣は封印したし、戦争も辞めさせたから、もう、問題無いだろ?」


「休戦もクルスさんが?」


「ああ、でも、君たちの為じゃ無いから気にしなくて良い。


オレの妻の1人は、戦災孤児でな、戦争を嫌ってたから、辞めさせただけだ。

オレも戦争は好きじゃないしな」


「……奥さんの為に、何百年も続いてた戦争を止めちゃうなんて、素敵!!」


「……うん、とってもロマンチック…………」


「いや!!て、言うか普通不可能だろ!!」


「まあ、その話しはいい。

脱走の手伝いは、対価次第で受けても構わないが、其れよりも普通に自由にして貰えば良いんじゃないか?」


「えっと……どう言う意味ですか?」


「国王が、君たちを自由にするって言えば済む話しだろ?


ギルスーレ。宰相に、オレがこの後、行くから、国王を呼んどく様に言っといてくれ。

それと、雷十ノ助さんとキヨさんにも同席して貰うように」


「はい、畏まりました」


「「「ええ〜!!」」」


「さっさと食って行くぞ。

店は1日貸切にしといてやるから、酒は後で自分達で呑みに戻って来い」





▪️▪️▪️▪️





「…………クルス会長、本日はどの様なご用件で御座いましょう?」


今日も準備されていたソファーにオレが座ると、今日もチラ見を繰り返す国王に代わって宰相から話しが振られた。

勇者君達は、オレへの待遇に目を白黒させている。


「ああ、オレが今日、勇者達と会っていたのは把握してるよな?

そこで、彼らが脱走を計画していて手伝って欲しいと頼まれた」


「「「!!!!」」」


「クルスさん、それは……」


と、叫び掛けた勇者君をシェーラが手で制す。


「でだ、オレは対価次第で手伝っても良いと考えている。

もちろん、一切の証拠は残さないから、お前らが言い掛かりを付けて来ても、全て突っぱねるつもりだ」


『『『それは、言い掛かりじゃ無い!!』』』


「だが、『勇者達に逃げられた』と、いうのもハルマール王国的には、外聞が良く無いだろう。


それよりは、『長年の戦争に終止符を打った、勇者達が旅立って行った』の方が良いんじゃないかと思って提案に来たんだ」


「クルス会長、クルス会長にはもはや説明は不要だとは思いますが、勇者様達の戦力は、我が国の要で御座います。

休戦協定が結ばれたとはいえ、手放しで送り出すわけには…………」


「はっきり言うが、雷十ノ助さん達を含めて、勇者達全員の戦力があったところで、焼石に水だ。

ここに居る11人全員よりも、ウチのメイド1人の方が強い。


……そうだな、アキナ、ちょっとこっちに来て、ステータスプレートの数字だけが見える様にして宰相に見せてやってくれ」


「はい、お館様」


「な!!…………クルス会長、皆さんがこのレベルのお力をお持ちだという事ですか?」


「いや、全員では無いが、ウチはメイドでも、そのくらいは有る。

お前達が良く知っているセバスなんかは、アキナが100人いても無理なレベルだ」


そう言って、左手の親指を立てて見せた。


「「「!!!!」」」


勇者パーティーは不思議顔だが、国王や貴族達は、真っ青な顔をしている。


「宰相さん、そのメイドさんは、そんなに強いのか?」


勇者君は、自分達全員よりもアキナ1人の方が強いと言われたのが、引っ掛かる様だ。


「はい、クルス会長の仰られた事は事実だと思われます。

私は軍部について、全てを知っている訳ではありませんが、クルス会長が本日お連れの6名の従者の方だけで、我が国の全兵力でも勝てる可能性は、非常に低いでしょう」


「「「!!!!」」」


「宰相殿、それは幾ら何でも言い過ぎではありませぬか?」


「そうです、たった6人と全兵力などと!!」


「皆様、では、Sランクの魔獣が出た場合、我が国の兵力だけで対処が可能でしょうか?


1匹の巨大な魔獣で有れば、全軍をもって、あらゆる手段を用いて対処は出来るかもしれませんが、その魔獣が6体に分離する魔獣だった場合。おそらく、全滅でしょう。


そう言う事です」


「つまり、たった6人でSランク魔獣に匹敵するレベルだという事か?」


「そんな、只のメイドがSランク冒険者パーティーを超えているというのか?」


「宰相、それは違うな。4人はメイドだが、この2人はウチの最高幹部だ。

Sランクの魔獣と比べるなら、執事1人で十分だ」


「「「!!!!」」」


「これで分かったろ?

用はハルマール王国の戦力では、勇者達が居ても居なくても、どちらにせよ、意味が無い。

なら、一から軍事力を上げるか、侵略を受けた時に、ウチの商会を頼る方が現実的じゃ無いか?」


「クルス会長!!それは、軍事的なご協力を頂けると、言う事で御座いますか?」


「ハルマール王国が、“不当な侵略”を受けたならな。

もちろん、対価は要求するけどな」


「陛下、ご決断を!!」


「…………勇者達を救国の英雄として讃え、軍務を解く様にせよ…………」


最も恐れていた敵、つまりオレが味方になる可能性が効いたのだろう。

ここで、話しが拗れるよりは、オレの言質を取ったまま終わりたいところだと思われる。


まあ、国王は、オレに早く帰って欲しいだけかもしれないが…………


「では、その様に…………」


宰相の返事を皮切りに、「やったー!!」「自由だぁー!!」等々、勇者達は大声で喜んでいた…………






▪️▪️▪️▪️





結局、自分で来たので、勇者君に頼んだ伝言は、直接、雷十ノ助さん達に伝えた。


不採用の理由にキヨさんが悲しそうにしたり、魔族の国の街に住む事に雷十ノ助さんが難しい顔をしたりしていたが、オレにとっては、此処の人達は只の、一緒に来ただけの人達だ。


何もかも、助けてあげる義理は無い。



「オレが支援出来るのはここまでです。


厳しい様ですが、オレ自身も自分の力で、命を掛けて、ここまで来ました。

現実を受け入れず、他人に甘え、自ら行動しない者に手を差し伸べ続ける程、オレは暇ではありません」


「ありがとう、クルスくん。


魔族の国で獣人種族との共生となると、拒む者も居るかもしれないが、わしらが先導して、そこに行かせて貰おうと思う。


本来であれば、住む場所と食事が有るだけで有り難い事だと、みんなには、理解して貰おう」


「分かりました。

では、クルス商会のハルマール支店にお越し下さい。

其方から移動出来る様にしておきます。


それと、彼らと会ったレストランを今日1日貸切にしてあるので、皆さんで、遠慮なく食事をして頂いて構いませんから、話し合いも其方を使って下さい」


「クルスくん、ありがとう。

お世話になりっぱなしで、ごめんなさい」


「キヨさん、オレはこの世界に来た時、お2人に助けられました。

なので、少しでも、ご恩返しをしようと思っての事です。


ですが、すいません。

オレにはもう、この世界に守るモノが沢山出来てしまったので」


「謝る事はないわ。それは、とても素晴らしい事ですもの。

私達こそ、みんなを助けたいなんて、傲慢な事を言ってごめんなさい」


「それこそ、謝らないで下さい。

オレは、お2人のその優しさに助けられたんですから。

では、皆さんの事はお願いします」


そう言って、オレが、士官用の部屋になってしまった、雷十ノ助さん達の部屋を出ようとすると、男勇者君が、呼び止めて来た。


「クルスさん、すいません!!

あの、さっき、謁見の間で話してた事は本当なんですか?」


「謁見の間で?……強さの事か?」


「はい!!オレ達じゃあ、全員でもメイドさん1人にすら、勝てないっていうのは本当なんですか?

それに執事さんは、たった1人でSランクの魔獣に勝てるっていうのも本当ですか?」


「ああ、事実だ。

だが、ウチの執事は全員が最高幹部で、メイドは護衛もするから、戦闘能力が高い者しかいないんだ。

戦闘部隊や研究部隊には、まだ、君たちと同じくらいの者も大勢いるけどな」


「…………それって、戦闘部隊の新人や、戦わない研究者の人達ですら、オレ達と同じくらいには、強いって事ですよね…………

魔族ってそんなにも強いんですか?」


「…………なるほど、オレの配下には、魔族が多いって言ったから、魔族だから、強いと思った訳か…………


リョウタ君、強さに種族が関係無いとは言わないが、君は重要な事を忘れている」


「重要な事?…………すいません、分かりません…………」


「…………クルスさんは、もっと強い?」


女勇者ちゃんが、正解した。


「そう、オレは、もっと強い。で、もちろんオレは、“人種族”だ」


「「「!!!!」」」


「…………なんで、驚いてんだ?

一緒に向こうから来たんだから、当然だろ?」


「い、いえ、驚いたのは、もっと強いって事です。


だって、執事さんは、Sランクの魔獣に匹敵するくらい強いんですよね。

それよりも、もっと強いって…………」


「この世界の基準で言うなら、オレはSSSランクだな。

レベル500万超えたら、みんなそうだからな」


「「「レベル500万以上!!!!」」」


「まあ、人間、努力次第で、そのくらいは可能だって事だ。

だから、種族の問題じゃ無い。


オレ程じゃないが、オレの妻の1人も人種族だ。


で、その妻には2人のお兄さんがいるんだが、3人共、2年前にオレが出会った頃は、レベル200くらいだった。


でも、今は、レベル1万は軽く超えている。

ようは、やり方と環境次第だって事だ」


勇者君達は、なんだが唖然としている。

雷十ノ助さん達も驚いていた。1人を除いて…………


「…………クルスさん、確認させて欲しい」


「言っておくが、オレのステータスを見ても意味ないぞ?」


「…………戦ってみたい」


「?オレとか?」


頷く、女勇者ちゃん…………。

どうしても、戦いたいと言われると、『脳筋なのか?』と、思ってしまうが、きっと、勇者としてのプライドからだろう……きっとそうに違いない。


だが、しかし!!


「悪いがオレにメリットが無い。

忘れてるかもしれないが、オレは商人なんだ。

無意味な事はしない」


「…………あの時……」


「それについての対価は支払った。

あの時の君達の飲食代は、ウチの従業員の3ヶ月分の給料だ。文句は受け付けない」


「…………身体で払う?」


「オレは女性に困ってない」


「レン!!何言ってんの?!」「断った!!ガチハーレムは、レンちゃんすら断れるのか!!」と、ちょっと外野が騒いでいるが、女勇者ちゃんは、対価に真剣に悩んでいる。


「クルスさん、オレからもお願い出来ませんか?」


と、男勇者君まで、参戦して来たが、


「リョウタ君、言っておくが、オレが君たちに協力したのは、雷十ノ助さんとキヨさんに頼まれたからだ。


今日も雷十ノ助さん達からでは無くて、君たちからの頼みだったら断っていたか、対価を要求していた。


雷十ノ助さん達の方を見てもダメだ。

君たちの小さなプライドを満たす為、程度の事で、2人は動いてくれたりはしない」


優しい2人が、代わりに頼む前に先手を打っておく。

雷十ノ助さんもキヨさんも苦笑いだ。

多分、代わりに頼んであげようとしていたのだろう。


「…………なら、私が負けたら、クルスさんに忠誠を誓うとか?」


「…………なるほど、そうだな…………」



『これは、アリかもしれない。オレの配下にも、勇者の称号持ちはいない。

今まで出会ったこの世界の人の中にも勇者の称号がある者は居なかった。


勇者の称号は“異世界転移者”にしか、現れないのか?

聖剣が資格さえあれば、誰でも使える事が分かった以上、勇者の称号にはどんな意味があるのか?


色々と調べるのに丁度いいかもしれない』


「分かった、その条件で相手をしてあげよう。

だが、負けたら仲間達はどうするんだ?」


「…………それは……パーティー解散?」


「「「ええ〜〜!!」」」


「…………もう、魔王討伐も、戦争もないし……」


「まあ、確かにそうだけど、私はてっきり、このパーティーのまま、冒険者になると思ってたんだけど…………」

「「私も!!」」


「…………ごめんなさい……」


「!!それって、解散決定?!クルスさん!!

私も戦って負けたら、クルスさんに忠誠誓うとか、ダメですか?」

「「私も!!」」


女勇者ちゃんのパーティー全員が、負けたら配下になると、言い出した…………


「…………あのなぁ〜……。

彼女は、大丈夫だと思ったから良いって言ったけど、君たちは、“人が殺せる”のか?」


「「「え!!」」」


「魔王に挑もうと思ったなら、命を賭ける覚悟はあったんだろうが、命令に従って“人を殺す”のは、また、別の覚悟がいる。

君たちにそれがある様には見えないけど?」


「…………レンにも人殺しをさせるって事ですか?」


「必要な場合はな。

冒険者なら、盗賊退治を断れば、人を殺す事は余り無いかもしれないが、ウチは盗賊に狙われる側だ。


盗賊はもちろん“人間”だ。人殺しもする。


敵対勢力との争いも、命のやり取りは当然あるしな。

ああ、レンちゃんは大丈夫そうだとは思ったけど、今なら断ってもいいぞ?」


「…………私は大丈夫……」


「「「…………」」」


「悩んだなら……」


「いえ、どちらにせよ、この世界で生きて行くなら、いつかはしなければいけない覚悟ですよね!!

なら、私も今、その覚悟を決めます!!」


もう2人も強く頷いた。男勇者君達は、黙ったままだ。


まあ、命を奪う事に忌避感がある事自体は悪い事じゃ無い。

彼らには彼らのペースがあるだろう。


「分かった。最後にもう1つ。

オレの配下は、店の従業員と違って、抜ける事は出来ない。

裏切り者には、死んで貰う。それでも良いなら、勝負を受けてあげよう」


「…………大丈夫……」

他の3人も顔を見合わせて頷く。


「なら、場所を移そうか。4人共、ここを出る準備をして来てくれ。

もしも、君たちが勝ったら、そのまま、好きな所に送ってあげよう」


「「「はい!!」」」


そうして、4人が出て行った。


まだ、悩んでいる男勇者君が、


「クルスさん、見学だけでもさせて貰えませんか?」

と、聞いて来た。答えはノーだ。


「悪いが、彼女達はウチの訓練場で戦って貰うから、部外者を連れて行く事は出来ない」


「……レンちゃん達には、絶対負けない。

必ず配下になるから見られても良いと、言う事ですか…………」


「そういう事だな。でも、負ける可能性を考えて無い訳じゃないぞ。

念の為、場所が知られても被害が少ない所にするつもりだ」


「だったら。やっぱりオレも…………」


「リョウタ君、君個人なら、同じ条件でも良いが、他の子達は、それを望んで無いんじゃないか?」


「…………そうですね。

レンちゃん達と違って、オレのパーティーは、オレが誘って組んだパーティーなんです。

クルスさんの言う通り、みんなは望んで無いと思うんで、オレが裏切る訳にはいかないですね」



そうこうしている内に、女勇者ちゃん達が戻って来たので、雷十ノ助さん達にお暇を告げて、ハルマール城を後にした。





▪️▪️▪️▪️





女勇者ちゃん達の荷物は、生活用品だけ、装備は一切無しだった。

全て、国からの貸与品だった様だ。


まずは、クルス商会ハルマール支店で、彼女達の装備を用意した。


好きな物を選ばせた後、オレが白金貨をジャラジャラ出して、支払っていると、「買ってくれるんですか?!」「社長さんでもお金払うんですか?」とか、色々言われた。


「オレは金持ちだから問題無い!!負けて配下になれば、それは支給するし、勝てたら戦利品にあげよう」と、言うと、4人共、飛び跳ねて喜んでいた。


武器を貰って喜ぶとか、脳筋疑惑が再浮上する…………




対戦場所は、ハルマール支店から、本部経由で、我が家の訓練場に行った。


我が家の訓練場は初期のままなので、観戦スペースは無いが、なんだかギャラリーが集まっている…………


オレが呼んだのは、人事の事を考えて、シエラールルだけだが、妻達や恋人達、ペット達は全員集合で、休みであろう私服の者達で賑わっている。


さすがに、仕事を放り出して来ている者はいないようだが…………


「…………なんか、すっごくいっぱい人がいますね…………」


女勇者ちゃん以外の3人が、この状況に戦々恐々としている。


「安心していい。もしも、オレに勝ったり、オレを殺したりしても、オレが勝負を受けた以上、ウチの連中は、君たちに危害を加えたりしない。むしろ、褒め称えてくれるぞ」


「ええ〜〜!!クルスさんを殺しちゃってもですか?!」


「ああ、まあ、無理だろうけどな。

で、どうする?1人づつやるか、4対1でやるか、どっちでも好きにして良いぞ?」


「…………なら、1対1で……」


「え?!それって、私達も1対1?」


女勇者ちゃんのパーティーは、4人。勇者、賢者、聖騎士、神官だ。


神官の子は、ケイコ ナツメ。

完全に回復補助がメインの様で、武器も杖だ。

1人で戦うには向かない。


聖騎士の子は、ショウコ タダ。

此方は、ハルバードに大盾、フルプレートだ。

タンクの役割なんだろう。此方も1対1の戦闘には向いていない様だ。


賢者の子は、アヤ サイトウ。

勇者ちゃんの呑んだくれ友達の様で、いつも酒を気にしている子だ。


この子は、賢者なのに、何故か、初めて会った時から、2本の剣を腰に下げている。

今日の買い物でも杖は買っていない、戦う賢者様の様だ。

この子は、1対1でも別に良いかもしれない。


ついでに、勇者の子は、レン ヒガシサンジョウ。

この子は、今日の購入品も剣1本のみ。

防具も補助アイテムも一切無しだった。


「なら、最初はレンちゃん1人で、掛かって来て、他の3人は、全員が立ち上がれたら掛かって来ると良い」


そう言って、オレは、“ディファレントルーム”から黒刃を取り出す。


「じゃあ、始めるぞ!!」


そう言って、4人が構えたのを見てから、“殺気コントロール”で、腰砕け失禁状態にした。



「ほぅ〜…………」


オレが、“スキル 殺気コントロール”を使う様になって、初めて、耐えられた。

太腿の内側から、滴っているので、失禁はしてしまった様だが、女勇者ちゃんは、それでも立って居た。


他の3人は、座り込んで、ガクブル漏らしてしまっているが、女勇者ちゃんは、まだ、此方を睨んでいる。



オレが、殺気を解くと、女勇者ちゃんは、躊躇なく突っ込んで来た。


右下からの切り上げをゆっくりと避けて、回し蹴りで、床に叩き付ける。

倒れ込んだまま、オレの足首を斬りつけようと剣を振り付けて来たので、その腕を踏み付けて折る。


そこへ、賢者ちゃんが、斬り掛かって来た。

友達が心配だったのか、思ったよりも早い回復だ。


左右から振り下ろされる剣を横に避けると、急激に角度を変えて、ニ剣での横凪に変わる。


それも、一歩下がって避けると、今度は突きに、また横に避けると横凪に変わってきたので、腹を蹴って、聖騎士ちゃんに向かって蹴り飛ばす。


聖騎士ちゃんが慌ててキャッチ、神官ちゃんが回復をする。

勇者ちゃんは一旦、距離を取って、右腕を自分で回復している。


少なくとも、まだ向かって来る気概はある様だ。



左右から迫って来る、勇者ちゃんと賢者ちゃん。

オレを挟む様に横凪で斬り付けて来るのを飛び上がって避ける。


もちろん、誘いなのは分かっている。

賢者ちゃんの剣は垂直の斬り上げに、勇者ちゃんはジャンプしながら一回転して、もう一度横凪に。


オレは、もう一段ジャンプする。

賢者ちゃんも勇者ちゃんも、もう一段ジャンプして来る。


そこを、黒刃を抜いて、2人の両腕を肩から斬り落として、空中を蹴って、聖騎士ちゃんの方に向かう。


聖騎士ちゃんは慌てて、神官ちゃんを守る様に盾を構えるが、オレが向かったのは、最初から、盾を構えた上だ。

盾を踏み台にして、飛び越えながら、聖騎士ちゃんと神官ちゃんの両腕も斬り落とした。


「きゃ〜!!」「痛い!!」「腕が!!」悲鳴を上げて、痛みに蹲る勇者パーティー。

しかし、女勇者ちゃんだけは、腕が無いまま、オレに向かって来た。


即座に回復して上げるつもりだったが、女勇者ちゃんがどういう行動に出るか気になったので、回復は保留する。



迫って来た、女勇者ちゃんはオレに跳び膝蹴りをして来る。

オレが避けると、着地と同時に、切り返して来て、倒れ込む様な回し蹴り、そのまま、後ろ回し蹴り。

それもオレが下がって避けると、一旦下がって、聖騎士ちゃんと神官ちゃんを守る様に立った。


良い判断、良い動きだ。

“殺気コントロール”に耐えた事といい、“欲しくなった”…………



オレは“神聖属性魔法”で、全員の腕を元に戻して、体力や血も回復してやる。


一瞬で治った事に、全員が驚いていたが、賢者ちゃんは、直ぐに、自分の剣を拾って、勇者ちゃんの剣を持つと、オレに向かって来た。


女勇者ちゃんは、賢者ちゃんと、オレの位置を確認しながら、回り込もうとしている。

聖騎士ちゃんもゆっくりと、オレとの距離を縮めている。


オレは黒刃を鞘に納めて、ゆっくりと、聖騎士ちゃんの方に歩いて行く。


賢者ちゃんは、方向転換して、勇者ちゃんに剣を投げて、また角度を変えてオレに向かって来る。


女勇者ちゃんも剣を受け取ると、オレに向かって走り出した。


オレが間合いに入ると聖騎士ちゃんがハルバードを振り下ろして来るが、オレは人差し指と中指で白刃取りをして、聖騎士ちゃんを、後ろから迫る賢者ちゃんに投げた。


「「ええ〜〜!!」」


賢者ちゃんと聖騎士ちゃんの驚きの声を聞きながら、女勇者ちゃんの横凪も人差し指と中指で白刃取って、神官ちゃんに投げる。


「ええ〜〜!!」


神官ちゃんは驚いていたが女勇者ちゃんは冷静に反転して、“風属性魔法”で作った壁を蹴って、オレの下段を狙って来る。


しゃがんでもう一度、指白刃取りで、神官ちゃんに投げ付ける。


「また〜〜!!」


驚く神官ちゃんに、今度はぶつかって、ゴロゴロ転げて行った。


後ろから、賢者ちゃんと聖騎士ちゃんがタイミングを合わせて振り抜いて来たので、後ろ向きのまま2人の間を通り抜けながら2人の襟を掴んで、女勇者ちゃんと神官ちゃんに向かって放り投げる。


「また来た〜〜!!」


ちゃんとぶつかって、4人になってゴロゴロ転げて行った。





その後も、3人時間差で来たり、同時に来たりしたが人間ボウリングをした。

毎回ぶつけられる、後衛の神官ちゃんは涙目だった。


12回目以降は、向かって来るのは女勇者ちゃんだけになり、他の3人はキャッチ役になった。


25回目の後、諦めた様で全員で魔法攻撃をして来たので、一気に距離を詰めて女勇者ちゃんの足首を掴み“パンツ丸出しジャイアントスイング”で、3人を吹き飛ばした後、神官ちゃんに投げつけた。


女勇者ちゃんは、やっぱりピンクが好きなんだなぁ〜……と、思っていると、とうとう神官ちゃんが泣き出した。

それで、やっと我に返ったのか、女勇者ちゃんが降参したのだった…………





▪️▪️▪️▪️





聖騎士ちゃんが神官ちゃんを宥めて、賢者ちゃんが「勝てるとか、勝てないとかのレベルじゃなかったねぇ〜。完全に遊ばれてたもんねぇ〜」と、ボヤいていた。


女勇者ちゃんだけは真剣な顔で悩んでいる。


『やっぱり、見込みが有るな。色恋には、なんだか疎そうだが…………』


「なあ、レン。

負けたらオレの配下になる話しだったが、君、オレの女にならないか?」


「…………うん、分かった」


「ええ〜〜!!レンに彼氏ぃ〜〜!!」「奥さんや、彼女の前で口説いた!!」「レン、落ち着いて!!クルスさんは奥さんも愛人さんもいっぱいいるんだよ!!」

本人は、簡単にOKしたが、友人達が止めに掛かる。


まあ、恋愛に疎そうな娘だ。

心配されているんだろうとしばらく様子を見ていると、ギャラリーから彼女が現れた…………


「主様、ここは、私が……」

そう言って、愛の伝道師シロリュウが、4人を休憩室に連れて行く…………



オレはその間に4人がオレと同じくハルマール王国に召喚された勇者パーティーだという事と、今回の経緯なんかを妻達に説明した。




しばらくして、シロリュウはいつもの定位置のオレの肩の上に戻って来た。

続いて、レンを先頭に4人が出て来る。


「…………クルスさん、私はクルスさんのお嫁さんになります」

「「「私達も、第1メイド部隊に志願します!!」」」


『3人を説き伏せて、レンを口説いて来ると思っていたオレは、まだまだ、シロリュウを甘く見ていた…………

まさか、4人共落として来るとは…………

オレって、舎弟にナンパさせるチンピラみたいだなぁ〜…………』




4人をシエラールルと、妻達に任せて、オレは明日のセバスとシャンシェの子供の出産祝いパーティーの準備の確認に向かったのだった…………





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