第15章 合同結婚式①
合同結婚式①
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キルス王国での騒動を終えた後、シルバーウィングは進路を東に取った。
そのまま、海に出て、東中央大陸から2,000km、東大陸から3,000km程の位置にある無人島にやって来ていた。
この島には、何の目的も無い。
今後の東大陸へ向けての行動の為の準備をする時間留まろうというだけだ。
先ずは、アスモデウス領の人々の避難だ。
アスモデウス家の面々に総出で、王家没落と魔族国3ヵ国への移民を住民に説明して回らせて、アスモデウス家の屋敷に作った講堂から各国に転移させて行った。
70万人の人口の内、30万人が移民を希望して、3ヵ国が各10万人づつ受け入れる事になった。
3人の魔王と話しあって、魚の養殖と漁業を中心とした街と農業を中心とした街を1つづつ3ヵ国に作り、そこに住んで貰う事にした。
流石に10万人を今ある街に振り分けるとなると、人口過多になる可能性が高いからだ。
街自体は、オレが“土属性魔法”で、外周の壁と、主要な施設、5万人分の家屋を一気に作って、3日で6つの街が出来上がった。
この6つの街にも、もちろんクルス商店を出店して、本店と同じく、肉の販売も有る店舗を準備した。
その他の食料品や衣類、生活用品に関しても販売や店舗の運営は、アスモデウス領民に任せて、仕入れ先として、クルス商会を当面利用出来る様にしておいた。
あとの街の運営やギルドの斡旋なんかは各国に任せた。
30万人の移動と手続きはやはり大変だった様で、1ヵ月掛かってしまったが、何とかアスモデウス領が戦火に巻き込まれる前には移住は完了した。
移住のフォローと共に配下達には、聖剣の探索と行方不明の残り3枚の金属板の捜索をさせながら、全員のレベルアップを行わせた。
聖剣の金属板の効果があったとはいえ、ベリアルは“原初のモノ”を凌いでいたからだ。
元の強さは分からないが、アレの半分でも“原初のモノ”と同レベルだ。
今の配下達では、逃げ切れるかどうかも危うい。
なので、今回の喧嘩祭は趣向を変えて、6人編成チームでベリアルレベルに合わせたオレとの模擬戦にし、それに合わせて、全員に指導を行った。
全員の勤務時間に訓練時間を設けさせて、第1クルス島村に訓練場を10ヶ所作り、ゴーレム部屋の改装も行った。
ゴーレムには、兼ねてより考えていた種類の追加と武器のバリエーションの追加を行い、ゴーレム部屋にも時間延長の10倍と100倍を行えるようにした。
レベルの段階も追加して、1,000万以上を100万毎に最大で1億まで設けた。
各自、放っておいても勝手に訓練をするのだが、オレが課題を与えている為、プライベートタイムを全て訓練に当て兼ねないので、勤務に組み込み、オレもこまめに様子を見ておいた。
特にキルス王国での任務でシロネコ達の手を借りた最高幹部の面々は、熱心に訓練をしていた。
汗を流す、セバスやシエラールルは久しぶりに見たかもしれない。
オレ自身は何をしていたかというと、1つは“歌”対策だ。
第3部隊でも研究をしているが、オレも参加して、幾つかの対抗策と解除手段の目処を立てていた。
もう1つは、東大陸でのエネルギー問題の解決だ。
先ずは実験で、東大陸の魔力吸収海域に魔力電池や自身の魔力を込めて使う魔導具等を持って行ってみた。
海域に入ると、オレ自身も魔力を吸われる感覚が有り、太陽光に含まれる魔力も吸収されていた。
魔力電池も電池の放電の様に徐々に魔力が消費されており、自身の魔力を使う魔導具も通常使用よりも魔力の消費が大きい。
これでは、長期滞在は危険なので、対策を考える事にしたのだ。
コンセプトは2つ、1つは魔力の吸収を防ぐ、若しくは逆に吸い上げる事だ。
これが出来れば、現在の魔力電池を使った魔導具で問題無い。
但し、必ず魔導具の使用者が必要だ。出来れば自動化したい。
もう1つは、全く別のエネルギー源を使うかだ。
候補として考えたのは、熱、水素、太陽光の電気化だ。
しかし、オレにはこれらの知識が全く無い。
“スキル 創造”を駆使して、色々と試してみたが、やはり、知識の無いモノは、まともに機能しない。
“スキル 森羅万象”も明確で無いモノには応えてくれない。
魔力吸収を防ぐ結界と、魔力吸収を使える魔導具で対応するしかないかと考えて、どの様に自動化するかを悩んでいた時だった。
キスラエラが1つの解決策を導いてくれた。
「ご主人様、こう言った方法はどうでしょうか?
先ず、魔力吸収を防ぐ結界と、魔力吸収を逆にこちらが行う魔導具を作ります」
と、ここまではオレも考えていた事だ。
「それをシルバーウィングに取り付けて、吸い上げた魔力で魔力電池を充電しては如何でしょうか?
ご主人様は汎用性を求められている様ですが、調査が進めば、東大陸の魔力吸収を行なっているモノは、停止させるか破壊する可能性が高いのでは?
で、あるなら、拠点の維持に問題が無ければ一時的な対応で良いのではないでしょうか?」
なるほど、確かにその通りだ。
“魔力を吸収する大陸”にイメージが持って行かれていた。
普通に魔力を吸収する魔導具やスキルを持った者がいれば、それを使用不能にしてから対処するのはセオリーだ。
“大陸の特性”ではなく、“大陸サイズの魔導具の機能”として捉えるべきだった。
そうと決まれば作るのはあっという間だ。
シルバーウィングの結界装置に魔力吸収阻止の効果を加え、魔力吸収用の魔導具を追加。
デザインは船の見た目を損なわない様に、錨にした。
そして、魔導頭脳に機能を追加して完了だ。
別のエネルギー源に関しては、今後暇な時にボチボチ研究する事にした。
その後は、“魔力吸収阻止と魔力吸収を行う腕輪”の魔導具を作成して、量産。
探索に向かう者に配布した。
色々とやっている内に10月も終わり、11月に入って、東大陸の探索に向けて計画を立てている時にふと、気付いた。
セバスの今の恋人シャンシェが働いていたのだ。
シャンシェを呼び止めて、そろそろ子供が産まれるのではないかと聞いたところ、普通にそろそろ産まれると思うと言われた。
急遽、手の空いている最高幹部を集める。
招集の理由は、「この世界の“産休”はどうなっているのか?」を聞く為だ。
結果は、産気づく迄働いて、産後2、3日で職場に復帰するのが普通らしい。
出産による消耗も、“神聖属性魔法”で、即回復。
産まれて来た赤ん坊に、問題が無いか、2、3日は様子見をして、問題が無ければ、職場に連れて来て、時折、授乳やオムツ交換をしながら働くそうだ…………
ステータスやスキル、魔法の恩恵は凄まじい。
実にパワフルな回答だった…………
産休については、もう、そのままで良い気がしたので、代わりに赤ちゃんスペースと授乳スペースを母親経験者達に意見を貰って、店舗にも全て設置して周った。
そして、東大陸の探索は、セバス達の子供が産まれて、パーティーをやった後に開始する事にした。
もちろん、この世界では子供が産まれて来る事は非常にめでたい事だからもあるが、万が一、東大陸で強敵と出会ってしまって、セバスが死亡フラグを回収してしまっては不味いからだ。
子供が産まれる直前と、プロポーズの直前は絶対に任務に就かせてはいけない!!
現状、先ずは探索を行うだけで、セバスは基本指示を出す側だ、現場に行く訳ではない。
しかし、油断は禁物だ!!
もしも、探索中に、強敵が現れて緊急警報が入り、もしも、そのタイミングで丁度、オレが通信を受けられない所にいて、もしも、セバスが自分で対処に向かってしまった場合、セバスの命は非常に危険だ。
なので、オレは最も安全な対策、“何もしない!!”を選択したのだ。
ちなみに、出産予定日は11月10日前後だそうだ。
医学的に調べている訳では無い。
この世界では妊娠期間は10月10日では無く、ほぼ、きっかり300日だそうだ。
これは、“ヒト”に限らず、動物や魔獣も同じらしい。
そして、妊娠に関しては検査も必要無い。
ステータスに、“称号 妊婦”と表示されるからだ。
なので、毎日ステータスをチェックさえしていれば、妊娠はほぼ正確に分かり、出産予定日も計算出来るらしい。
1週間程の余裕が出来たので、クルス商会の今後の出店予定地に店舗を建てたり、妻達や恋人達と個別に時間を取ったりしながら、のんびりと過ごしたのだった…………
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「お館様、無事産まれました」
セバスが、いつもの澄まし声で、ラム、リム、クリシュナとお茶をしていた所に声を掛けて来た。
セバスは平静を取り繕っている様だが、オレは見逃さない!!
いつも完璧な立ち姿のセバスの足が1cmほどズレている!!
「セバス!!何してるんだ!!
おまえはもう今日は休みで良いから、シャンシェのところに居てやれ!!
直ぐに行け!!」
「!!はい!!」
セバスは頭を下げると、一瞬で消えた。
多分、医務室に“リターン”で戻ったのだろう。
オレ達も飲みかけのお茶をグビッと飲んで、医務室に歩いて行った。
初めて、産まれたばかりの赤ん坊を抱いた…………
これが命……とても小さくて、でも、とても強い何かを感じた…………
おっかなびっくり、初めての赤ちゃん抱っこを経験した後、
「セバス、おまえも明後日迄は休む様に。
で、3日後は、この子の誕生を祝ってパーティーをするから。
名前はもう決めてるんだが、その時に発表しようと思う」
「お館様、シャンシェはともかく、私は…………」
「セバス、オレの配下の筆頭はおまえだ。
おまえ自身が、部下達が子供が産まれた直後に休みやすい様に良い前例を作る事も大事な役目だぞ」
「……お心遣い、感謝致します」
「じゃあ、来客も多いだろうが、3日間、仕事を忘れて、家族水入らずで過ごす様に」
「はい、畏まりました」
「お館様、有難う御座います」
ラム達を連れて、部屋から出ると、ラムが腕を絡めて来て、
「あなた。もちろん、あなたも子供が産まれたら仕事を休んで一緒に過ごして下さるのよね?」
と、有無を言わさぬ笑顔を向けて来た…………
「……ああ、もちろん、ちゃんと休むよ。ラムと子供の側にいるさ」
「ふふっ、冗談ですわ。
あなたの配下の方達は優秀ですけど、どうしてもあなたでないといけない事がある事も、それがいつ有るか分からない事も理解しておりますわ。
でも、出来るだけ、一緒にいて下さいましね」
「ありがとう、ラム。出来るだけ一緒にいる様にする。
もちろん、何事も無ければ、ちゃんと休んで一緒にいるよ」
リムとクリシュナは少し羨ましそうにした後、直ぐに気合いの入った表情になった。
『次は自分が!!』と、思っているんだろうなぁ〜……と、思った…………




