第14章 進化する魔獣⑥
進化する魔獣⑥
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第4王子の別邸方面
「キスラエラ様、どうなさいますか?」
実験用の魔獣達を確認しながら、進んでいると、シェーラから連絡が入った。
折角、身動きが出来ない様に捉えられているのだ、無駄にする必要は無い。
「次の部屋に突入後、私が、広範囲に“気絶の魔法”を使います。
迅速に拘束する様に」
「「「はっ」」」
シエラールルが、2、3人通れるくらいの穴を扉に開けた。
穴を抜けて、内部を確認、前方の悍ましい魔獣も無視して、部屋全体に向かって、“気絶の魔法”を放つ!!
この魔法は、従来の気絶させる“呪属性魔法”とは違う。
ご主人様と一緒に開発した、“気絶の魔法”だ。
本来の“呪属性魔法”は、頭に強い衝撃を与えて意識を奪うモノだが、これは、意識を強く持ったり、衝撃に耐えたりする事が出来る。
しかし、ご主人様と開発した“気絶の魔法”は、脳の血液を強制的に体に送り出すと言うモノだ。
ご主人様は本当に天才だ。
私だって、貧血の仕組みくらいは知っている。
でも、それを利用して、たったこれだけの事で、従来の“気絶させる魔法”よりも遥かに高性能の魔法を生み出してしまった。
どんなに、強靭な精神だろうと肉体だろうと、脳の血管迄、鍛えている者はまずいないだろう。
更に、この魔法は、“神聖属性魔法”の応用だというのも凄い!!
“呪属性魔法”には、数々の対抗魔法や魔導具が存在するが、“神聖属性魔法”を敢えて防ごうという準備をしている者は殆ど居ない。
全ての魔法を防ぐモノはあるので、必ず効くとは限らないが、全ての魔法を防ぐと回復すら出来ないので、余り多くの者が利用する様な事は無い。
案の定、施設内の者は、全員拘束出来た様だ。
奥に居た大量の奴隷も気絶してしまった様だが其方も回収予定だったので手間が省ける。
「キスラエラ様、こちらの建物内の回収は終了しました。
残るはアレだけだと思われます」
シエラールルの報告を受けて、奥の悍ましい魔獣に目を向ける…………
元が竜なのか、龍なのか…………
竜にしては、長い髭があり、細過ぎて長過ぎる。
龍にしては太過ぎて、背中に翼が有る。
私のレベルでは“鑑定”も出来ないくらいの、強さの様で何方かは分からないが、それよりも背鰭部分に並ぶ、“ヒト”の上半身が、悍ましさを際立てていた。
“人種族”“魔族”“獣人種族”“ドワーフ種族”……多種多様な上半身が、男も女も有る。
私の魔法の効果では無く、元々眠らされていたのだろう。
魔獣の顔の目は瞑られて、大人しくしている。
しかし、背鰭の全ての上半身は、目を見開いて絶望の表情をしていた。
「動かないなら好都合です。直ぐに処理しましょう。
ネーレウス様、お願い致します」
「うぅ〜む。
寝込みを襲うのは、余り好きでは無いんじゃがのぉ〜〜……」
「ネーレウス様、ご主人様からは、速やかな殲滅を行う様にご命令頂いております。
ご主人様のご命令は…………」
「絶対じゃ!!分かっておるわい。まぁ、楽にしてやろう。
怨むのは、ちゃんとキルス王家にするんじゃぞ!!」
ネーレウス様の“雷属性魔法”が、刃の様に、悍ましい魔獣を斬り裂いて、一瞬の内にバラバラにした。
「ネーレウス様、有難う御座います。
直ぐに回収を行って撤収する」
「「「はっ」」」
悍ましい魔獣の悍ましい死体を見ながら、もしも、私がご主人様に出逢う前に聖剣を手に入れていたら、同じ事をしただろうか?そんな事を考えていた…………
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第2王子の別邸方面
リンドレージェさんがテキパキと指示を出す中、私は今回のターゲットの魔獣を前に、固まってしまっていた…………
“鑑定”結果は火竜。
でも、火竜の面影は、尻尾だけで、完全に巨人と呼ぶべき魔獣だった。
但し、“ヒトに近しい”だけで、“ヒト”ともかけ離れている。
頭部は無く、胸の部分に2つの“ヒトの顔”の様なモノが浮かび上がっていて、腕も足も4本づつ有る。
異常な見た目だ。
でも、私が固まってしまったのは、その姿が異常だったからだけじゃない。
4本の足の3ヶ所の股間に“アレ”があったからだ!!
私は女の子だけど、“今の私”には分かる!!
“アレ”は弱点だ!!
おかしい!!
強くなる為に、他の生き物の長所を取り込み続けた筈だ!!
竜のままなら、鱗に守られていた筈だ!!
なのに、何故、弱点を丸出しにして、更に3ヶ所に増やしてしまっているのか?
「クリシュナよ、見過ぎではないか?別に、おまえにも同じモノが……。
いや、なんでもない!!敵の観察は重要だと我も思う!!」
私のデリケートな問題に、ナラシンハが、デリカシーの無い事を言いそうだったので、睨み付けた!!
「しかし、主が我等2人を寄越す訳だな。
黒火の者達や他の者も成長しているが、我等“原初のモノ”以外にここまでのモノが居ようとは…………」
「ええ、そうね。
ちょっと前の私じゃあ負けてたかも…………」
そう、股間の弱点は気になるけど、レベルは確かに異常だ。レベル900万…………
冒険者ギルドの決めた魔獣のランクは、レベル500万を超えたら一律でSSSランク。
でも、この2万年で、“原初のモノ”以外で、ここに至ったのは、ほんの数匹の魔獣だけ。
それも1万年以上生きていた者達だ。
完全な例外は、2,000年前の勇者とレンジさんくらいのものだ。
この魔獣は300歳ちょっと、多分、アカリュウと同時期に実験をされ始めたんだと思う。
「でも、シェーラさんが教えてくれたから、戦う必要はなさそうね」
「うむ……我は、戦っても良いのだが…………」
「その時は、ナラシンハが下半身、私が上半身を担当するからね!!」
「いや、我は1対1で戦いたいと…………」
「この施設を壊さずに出来るんだったら、別に良いけど、壊しちゃったら、リンドレージェさんからレンジさんに報告が入っちゃうわよ?」
「むむ!!それは…………。
やはり、被害を少なくする為に協力するしか無いようだ…………」
「じゃあ、下半身お願いね。
なんだか、アイツ動きそうな予感がするから…………」
私は聖樹を肩に乗せて、レンジさんに新しく作って貰った鎌を取り出す。
ナラシンハも檻の隙間に合わせて3m位になった。
「クリシュナ様、危険度最高ランクの魔獣に動きがありましたか?」
リンドレージェさんが、私達の様子に気付いて聞いてくる。
「いいえ、なんだか動き出しそうな気がするの。只のカンだけど」
「!!全員、作業を一時中止!!臨戦態勢に入れ!!」
「…………やっぱり、カンが当たりそう」
「その様だな。
おそらく、研究者の自殺以外にも何か目覚める条件があったのだろう」
「イ゛ヤ゛タ゛〜〜〜!!イ゛ヤ゛タ゛〜〜〜!!」「イ゛ヤ゛タ゛!! イ゛ヤ゛タ゛!! イ゛ヤ゛タ゛!! イ゛ヤ゛タ゛!! イ゛ヤ゛タ゛!! イ゛ヤ゛タ゛!!」
胸に有る2つの顔が叫び出すと、アダマンタイトの鎖の拘束なんて、一瞬で引き千切られた!!
そして、巨人は大きな4本の腕を振り上げて……ガバっと!!
3ヶ所の股間と、尻尾の裏側を隠した!!
「やっぱり弱点なんじゃん!!」
「その様だな……。
では、クリシュナよ、我は作戦通り下半身の足を攻撃する。
おまえは上半身である、“手”もちゃんと攻撃するのだぞ!!」
そう言って、ナラシンハは走り出した!!
私も走り出して、ナラシンハの攻撃が巨人の足に入る瞬間に、“スペースジャンプ”で、顔の前に跳ぶ。
レンジさんの作ってくれた鎌は、大型の魔獣も相手取れる様に、魔力を込めると巨大化出来る。
最大の30mサイズにして、まずは目を潰しに行く!!
真下から攻撃の気配を感じて、“スペースジャンプ”で首の上に逃げると、前を隠していた手がアッパーをしていた!!
伸び切った腕に斬りかかろうとすると、途轍も無い速さで、また、前を隠した…………
…………どうしたらいいか…………
反撃を防ぐなら、まず腕を潰すべきだ…………
でも!!でも!!私の鎌のサイズで、斬り落とそうと思ったら、指か手首しかない!!
でも!!見てしまったんだ!!
戦闘の興奮からなのか、ナラシンハに攻撃されたからなのか、理由は知りたくないけど、“アレ”が大きくなって、そそり立っていたのを!!
手首を斬ったら、“アレ”も一緒に斬ってしまう!!
この鎌は、レンジさんが初めて私の為だけに作ってくれた物だ。
レンジさんはもっと強くなったらもっと強い武器を作ってくれると言ったけど、最初に作ってくれたこの鎌は、ずっと大切に取って置くつもりなんだ!!
なのに、“アレ”を斬ってしまったら、取って置くどころか、直ぐに交換して欲しくなってしまう!!
そして、もう1つ、恐ろしい想像が頭を過ぎる…………
もしも、もしも、“ああなった”のが、ナラシンハの攻撃を受けたからだったら…………
私が“アレ”を攻撃した“痛み”で、“白いベトベトしたアレ”が出て来たら、全身に被ってしまうかもしれない!!
そんな事になったら、お嫁に行けない!!
折角、私は来年結婚の約束をして貰ったのに!!
20,019歳未婚の私には、絶対に!!絶対に耐えられない!!
「…………仕方がない。主には、クリシュナが謝るのだぞ」
私の葛藤に気付いてくれたのか、ナラシンハが巨人程の大きさになって、高速で巨人を斬り刻み始めた!!
私は“リターン”で、檻の外に戻って、みんなに戦闘の余波が行かない様に結界を張った……
巨人の居た檻や、周囲の壁はボコボコになっちゃったけど、ナラシンハは、無傷で巨人を倒してくれた。
もしも、ナラシンハが少しでも怪我をしていたら、私はきっとレンジさんに凄く怒られたと思う。
「ごめんなさい、ナラシンハ。
やっぱり、私には“アレ”はちょっと無理だった…………」
「まあ、被害が出ていないから良いだろう。
だが、主には、伝えておく。
しっかりと主に免疫を付けて貰うのだな」
「!!!!!!!!」
「私の方からもお館様にご報告しておきます。
クリシュナ様に慣れて頂ける様に、ご指導の上申も一緒に」
「!!!!!!!!」




