第2章 ミミッサス大森林④
ミミッサス大森林④
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翌朝、上機嫌でお弁当を持って来たルナルーレと共に村から出る。
ルナルーレは火、水、土、風、闇、雷、空間属性が使えた。
最も得意なのが火属性で次が風属性だったのでこの2属性を一通り見せて貰う。
火属性で直接体内を焼けないか考えたがいまいちだったので、今回はまず風属性の“エアバレット”をメインに考えた。
“エアバレット”は空気の球を撃ち出す魔法だ。
メリットは見えにくい事。通常は魔力で固めて硬くして相手ぶつける。
これをあえて少ない魔力にして数を連発させ続けるように使わせてみた。
最初は上手くイメージ出来ず何度か練習して、魔力が続くまで連続出来そうなくらいになったのであとは魔力を温存させる。
魔法を撃つタイミングは魔獣が息を吸い込む瞬間だ。
吠えようと息を吸い込む時、吠え終わった後の息を吸い込む時、大きな動きをした直後の息を吸い込む時等に鼻と口を目掛けて大量に連打して強制過呼吸にする作戦だ。
もしも、相手の咳き込む力の方が“エアバレット”よりも強くて吐き出されたら口の中に向けて魔法を打ちまくる。
口の中に魔法を撃ち込んだらどの魔法が1番効果的だったか教えて欲しいと話しているとランド達が来たのでそこで別れた。
宿屋に戻り、二度寝する。早起きだったからでは無く、明日に備えてだ。
明日はもっと早く起きる予定だからだ。
昼過ぎに起きてルナルーレのお弁当を食べて、そっと狩りに行く。
“ウルトラグレートボア”2匹を見つけたので、早々に生き埋めて、持って帰る。
まだ十分明るい中、ギルドに行く。
「お!!クルスくん今日は早いな、昨日はご馳走になった!!」
と、いつものビーンズウッドさんが声を掛けて来た。
それを聞きつけたジャックさん達解体班が次々とお礼を言い、ソワソワした感じでチラチラとこっちを見て来る。
周りの冒険者からもお礼の声が続き、それに応えていると
「じゃあ、昨日の報酬だ」
と、ビーンズウッドさんから皮袋を受け取る。
「ありがとうございます」
解体班からホッと溜め息が漏れた……
「で、今日の分なんですけど……」
解体班が崩れ落ちる。
「今日は2匹だけですから」
オレの笑顔に解体班が涙していた……
やけくそ気味のジャックさんに「明日は頑張ってくる積もりなので、期待してて下さい」と手を振って宿屋に帰った。ジャックさんの恨めしそうな視線はよく見えなかったから、勘違いだろう。
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第二回相談会を開始。
まずは、今日の結果報告を受ける。
“エアバレット作戦”は無事に成功したそうだ。
かなり大きなグレートベアーに遭遇したらしいがしっかり撹乱させる事が出来、“エアバレット連発”で気を失わすことが出来て、今までよりも格段に速く倒せたらしい。
罠に落とす方はグレートベアーに出会えず、ビッグボアに使ったそうだ。
次は、メモ帳のチェックだ。
避けて切ったとか、盾で弾いた、“ファイアアロー”で牽制したなどなどだったので修正を掛けていく。
どんな攻撃が来て、どちらにどう避けて、どこをどういう風に切ったのか、そして、なぜそうしたのか。
どんな攻撃をどういう風にどこに向けて弾いたのか、そして、なぜ、そうしたのか。
どういうイメージで、どう魔力を込めて、どういう狙いで、どこに“ファイアアロー”を放ったのか、そして、なぜ“ファイアアロー”だったのか、なぜ、そうしたのか。
を、ゆっくり思い出させながら追記させて行く。
内容が細かくなって来たので1つ1つの動きに反省点を考えさせて、より良い動きは無かったか話し合って行った。
明日も“グレートベアー”で模擬“ウルトラグレートベアー”戦闘を行う事で第二回相談会は終了した。
ルナルーレの入れてくれた紅茶で一息つき、ルナルーレに明日は朝食よりも早く出るから、お弁当は要らないと伝えると、
「!!もしかして、また、危ない事をしようとされてるんですか!?」
「いや、大丈夫。危なかったら逃げるつもりだから!!」
「逃げないといけないかも知れない事をしようとされてるんですね?」
『う!!鋭い』
「もしも、万が一、何かの間違いで危なかったらだから、心配しないで」
笑顔で答えたが、ルナルーレは若干ジト目だ。
「…………はぁ〜〜……分かりました。何をするつもりなのかは教えてくれないんですよね?」
「教えたら面白くないでしょ?」
「!!……面白くなくても、本当は教えて欲しいんですけどね……。
分かりました。お弁当は今から作って受付に渡しておきます」
「いや、ごめん。
日が登る前に、出ようと思ってるから女将さんに窓から出掛ける許可を取ってるんだ」
「なら、今から急いで作って来ます!!」
そう言ってルナルーレはランドとグッサスを置いて飛び出して行った…………
「すいません、レンジさん。落ち着いた妹だと思ってたんですが…………」
「大丈夫、ルナルーレの気持ちは本当に嬉しいから」
「ところで、ホントに何しようとしてるんです?」
「ナイショさ、明日の夕方、楽しみにしといてよ」
そう言ってニヤっと笑うと、ランドとグッサスは顔を見合わせて溜息を吐いた……
1時間ほどでルナルーレはお弁当を持って来てくれて、ランド達と共に帰って行った。
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ルナルーレ達が帰ってから2〜3時間ほど寝て、宿屋の窓からそのまま、“高速ストーンジャンプ走法”で村の外へ。
今日の実験のメインの1つを早速行う。
名付けて“ストーンアローロケット”!!
小舟を立てらせて持ち手と足場を付けた様な“ストーンアロー”を作って、乗り込み、斜め45度に放つ!!
“ストーンアロー”はグングン空へと登って行き、やがて放物線を描いて落ちて行く。
地面に激しく衝突して、船底で少し滑り大きな木にぶつかって砕け散った……
『50kmくらい来たかな〜……。
スピードは、まあまあだけど、風の抵抗がハンパないのと着地は問題だな。
形を変えて、着地の前に“ストーンバレット”で上に飛ばしてみるか』
十数回の試行錯誤の結果、カヌーの中に潜り込む様な形状で35度くらいに放つ、着地前に斜め後ろに飛ばす感覚で船体を“ストーンバレット”でブレーキを掛ける。
これで80kmくらい飛べて魔力消費の効率も良さそうだと満足した。
『ラットック村から1,000kmくらいは来たな。よしよし、周りの魔獣も強そうだ!!
お弁当を食べたら、1番都合の良さそうな魔獣を狩って帰ろう』
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いつもの様に村の手前から球を押して帰ると村の入り口にビーンズウッドさんとジャックさん、解体班さん達と沢山のギャラリーがいた。ルナルーレ達もいる。
「皆さんお揃いで……」
「報告があったんで来たんだ。今までで1番デカいって。
一体、今日のは何匹入ってんだ、クルスくん?」
頭を掻きながら溜息を吐くビーンズウッドさんとエプロンの裾を噛みながら涙目のジャックさんと解体班ズ。
チラッと周りを見てニヤ〜〜っと笑う。
「安心してください。1匹だけですから」
そう言って“グランドディフォメイション”。
アパート2棟分くらいの猪が出てきた。
みんなが唖然として、誰も声を出さない……
「いや〜…落とし穴掘るのも、逃げようとするのを埋め続けるのも大変でした」
「大変だったって……これも落とし穴なのか?
“スーパーウルトラグレートボア”だぞ?
Aランクだぞ?いや、そもそも一体どこで?」
放心状態で呟くビーンズウッドさんに笑顔で答える。
「ちゃんとAランクでしたか!!よかった!!
倒し方は落とし穴ですよ、凄く深く掘りました。居たのは、森のずっと奥です。
多分1,000kmくらい先です。
行き方を聞かれると思うんで、実演しますね」
そう言って“ストーンアローロケット”で飛んで行き、“ストーンアローロケット”で帰って来た。
「こやって、朝凄く早くから“ストーンアロー”で飛んで行きました」
「「「それは“ストーンアロー”じゃない!!」」」
ビーンズウッドさんやジャックさんだけで無くギャラリーさん達からもツッコミを頂いた。
「ジャック、一応“鑑定”してくれ」
「………間違い無く“スーパーウルトラグレートボア”だ。レベルも8,000だ…………」
「「「レベル8,000!!」」」
「やっぱりレベルも高かったんですね。
オレもレベル3,000になってましたし!!」
「「「レベル3,000!!」」」
なんだか、今日のギャラリーさん達はツッコミ属性だ。
ちょっと申し訳無さそうな感じでビーンズウッドさんがオレを見る。
「クルスくん、悪いんだが報酬の査定はちょっと待って貰えないか?
この巨体だし、昨日までのクルスくんの持ち込みもまだ全部は処理が出来てないんだ。
あと、こちらの都合で申し訳ないんだが魔獣の持ち込みも少し止めて貰えないだろうか。
このままじゃあジャック達が死んじまう…………」
「この魔獣がAランクならオレの冒険者ランクはBランクになりますか?」
「ああ、そっちは今日手続きしよう」
「なら報酬も狩りの停止も問題ないですよ。
家を買ったら1週間くらいは魔法の勉強とかをしようと思ってたんで。
ところで、いつも急いで運び込むのは血の臭いで魔獣が寄ってこないようにする為ですか?」
「ああ、そうだが?」
「なら、オレが土属性魔法で囲みましょうか?」
「その手があったか!!是非頼む!!」
「「「お願いします!!!」」」
ジャックさんと解体班ズ達の一斉の土下座に苦笑しつつ。
“ストーンキューブ”を使う。
猪を覆う大きさで中は空洞、床面は少し斜めに作る。
“グランドディフォメイション”で出入り口を開けて、“ストーン”で出入り口に柱を左右に2本。“ストーンウォール”で扉を作って“ストーン”で蝶番代わりの輪っかで柱に回す。
扉に“ストーン”で持ち手を作って完成だ。
「出来ました。血が端っこに溜まる様に床は少し斜めに作ってます」
「は、早いな……一瞬で出来てしまうとは…………」
「クルスくん……」
「何ですかジャックさん?」
「ありがとう、とても、とっても助かる……でも、なんでもっと早く作ってくれなかったんだ……」
「それは、すいません。
ジャックさん達解体班のみなさんのリアクションが面白かったので」
と、爽やかな笑顔で応えたのだった…………
「じゃあ、ステータスプレートと昨日の報酬だ」
「ありがとうございます」
ギルドでビーンズウッドさんからステータスプレートと報酬を受け取る。
「それにしても、たった数日でここまで来るとはな…………」
「ここまで?」
「ランクとレベルだよ、おそらく、普通にランクアップした中じゃあ世界最速だ。
そんでレベルは冒険者じゃあSランクのトップクラスだよ」
「おお〜〜……それは凄いですね」
「おまえの事だ、おまえの!!」
ビーンズウッドさんの突っ込みを背に宿屋に戻った。
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食事をとって風呂に入り、部屋に戻る。
部屋にはルナルーレ達が待っていた。でも、慌てない。
こんなこともあろうかと、昨日から風呂に着替えを持って行っていたのだ。
「ごめん、待たせたか?」
「いえ、今来たところです」
「村の入り口でギルドに向かうの見てたんで、問題ないです」
と、ランドとグッサス。ルナルーレはほっぺたを膨らませてそっぽを向いている。
“私、怒ってますのポーズ”だ。美人のルナルーレがやると、とてもかわいい。
ギャップ萌えだ。
「それにしても、もうBランクになって、さらにAランク魔獣の単独討伐なんて信じられないですよ」
「ああ、初対面で絡んで行ったランドを殴ってやりたいよな」
「グッサス!!お前もだろ!!」
「はは、でも、そのおかげで出会えたんだし、いいじゃないか。
オレも3人に出会えて凄く良かったと思ってるし。
ところで、ルナルーレさんはお怒り中ですかね?
怒った顔もとってもかわいいけど、なんで怒ってるか教えて貰えないかな?」
「か、かわわ、、、!!危ないのは万が一だから、心配しないでって言いました!!」
「うん」
「昨日、ナイショにしてたのはAランクの魔獣と戦おうと思ってたんですね」
「そうじゃないよ、“Aランクの魔獣”と戦おうとしたんじゃ無くて、“Aランクのボア”を狩ろうとしたんだ。
ボアなら落とし穴で倒せば危なくないから」
「でも、他のAランクの魔獣も周りにいっぱい居たはずです。
なんで、わざわざ危険な奥地まで…………」
「早くBランクになりたかったんだ。
早くBランクになって、早く家を買いたかったんだよ。
勿論、オレの目的もあるけど、早く家を買って、ルナルーレの出来立ての料理が食べたかったんだよ。
お弁当はもちろんとっても美味しいけど、出来るだけ早く、ルナルーレの作りたての料理をルナルーレと一緒に食べたかったんだ」
オレがそう言うと、ルナルーレは真っ赤になって俯いて黙ってしまった。
「レンジさん、兄貴の前で……」
ランドとグッサスがジト目を向けて来る。
『あの目は“兄貴の前で惚気るか?”では無く、“兄貴の前で妹に嘘を付くか?”って顔だ!!
“他のAランクの魔獣”に出会ってても狩ってただろう事と“ルナルーレの料理が食べたい”が今の思い付きだと完全にバレている!!』
オレは、「言うなよ!!」という思いを込めて、ニッコリ2人に笑いかけた。
黙って頷く2人に満足し、
「ところでルナルーレ、明後日は休みだよね。
家の家具なんかを買いに行きたいんだけど、付き合ってくれないかな?
出来るだけ、ルナルーレが気に入ってくれる家にしたいから一緒に考えて欲しいんだ」
「はい!!喜んでご一緒します!!」
元気よく応えたルナルーレの機嫌は完全に直っていた。
今日の相談会はすんなり進んだ。メモ帳も昨日の改善点が活かされていた。
攻略法も上手く機能していた。落とし穴も実践出来て上手く行っていた。
なので、戦闘内容の話は早々に終わり、今後の予定を話し合う流れになった。
明日はオレは家を買いに行き、3人は出来るだけ強い“グレートベアー”を見つけて最終確認をして、出来るだけ早く戻って来る。
戻り次第、相談会を行う。
相談会が終わったらルナルーレを連れて家に行き、キッチンの改築をする。
明後日は本格的な引っ越しを行って夜は引っ越しパーティーをする。
ランドとグッサスも荷運びを申し出てくれたがルナルーレの一睨みで一瞬で辞退した。
ランドとグッサスには引っ越しパーティー用の酒と料理をお願いした。
料理はルナルーレが自分で作ると言ったが、しっかり買い物をして住みやすい家にしようと言うと赤くなって頷いた。
引っ越しの翌日は3人のローテーションを変更し休みにした。
夕方まではゆっくりして、早めの夕食後“ウルトラグレートベアー討伐作戦会議”をする。
早めに休んで本番に備える。
4日後、早朝から“ウルトラグレートベアー討伐”に向かう。オレも付いて行く。
無事に討伐出来たら相談会をキッチリしてから祝勝会だ。
5日後、前日の反省を踏まえて“グレートベアー”で実践。
6日後、もう一度オレも付いて行って“ウルトラグレートベアー討伐”
の予定にした。状況に応じて5日後と6日後は変更の可能性がある。
で、決定した。




