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第12章 聖剣④

聖剣④





▪️▪️▪️▪️





ハルマール王城から我が家に戻って、直ぐに“ディファレントスペース”に入る。

頂戴して来た聖剣の間は、王城地下に戻る事無く、そのままの状態でちゃんとあった。


念の為、“超圧縮黒オリハルコン”で封印して、“ディファレントスペース”奥地に持って行った。


リンドレージェには、今後、定期的に聖剣の間が復活していないかの確認と、西の魔王への連絡を頼み、セバスから、現在の聖剣対策の進捗を聞いたが、第1部隊もシロネコ達も聖剣に類似する物の情報は得ていなかった。


第3部隊とビルスレイア組も現在はまだ、2,000年前の勇者の情報を集めている段階で、聖剣に選ばれる条件の解明を行っている様だ。


とりあえず、1週間後にリンドレージェから復活の兆候無しの報告が入り次第、情報収集は通常に戻し、覚醒した勇者を探す研究と魔導具との親和性を下げる研究も通常の研究の一環として継続はさせる様に指示した。


第2部隊は、ドルレア王国とハルマール王国への出店計画に注力して貰い、必要で有れば、ビルスレイア女王国からの人員補充も任せる事にした。



一通り指示を出して、オレは万が一の場合のこの星の脱出準備の続きに戻った…………







この星には月が3つある。

大きく見える方から1の月、2の月、3の月と呼ばれているが、本当に1番大きいのは3の月だ。


3の月は実際には月、つまり衛星では無かった。

非常に近い距離を並んで飛んでいる惑星だったのだ。


その3の月は殆どが岩の塊だが、僅かに100km四方の空間だけ、緑が生い茂り、高層ビルが立ち並ぶ場所がある。


オレがここ数日、作っている場所だ。


万が一、星が壊れる程の事が起こった場合の為の避難場所、そして、何万年か何十万年か先に人口過多になってしまった時や食料不足に陥ってしまった場合にも役に立つ様にこの際、人の住める星にしてしまう予定だ。



現在は森と街並みしか無いが、隣の更に広い区画では、海を作成している。


今日からは、妻達が作ってくれた間取り図に合わせて、建物内を仕切って行き、生活に必要な物品の製造ラインを作って、備蓄をして行く予定だ。


今回は急を要したので、聖樹の改良版の支柱で囲い、支柱内の魔力濃度を同じ位に保つようにしただけで、3の月の地中全体に巡る様にはしていない。


この3の月を本格的に人の住める星にするには、地中の魔力の循環と、自転周期を24時間にしたいところだが、それは後々やって行って、とりあえず移住が可能な環境を作ってからは野生動物溢れる星にして行く方向にシフトチェンジする。






移住可能な環境を100倍に広げ、とりあえずの海が出来、新型聖樹が魔力の膜と大気を作り始めた頃、リンドレージェから、1週間経過したが、聖剣の間の復活の兆しは無いとの報告を受けて、一旦、我が家に帰った。


久しぶりに、妻達やシロネコ達も交えて夕食を取った。


「主、一応、居場所の分かっていた者は全員と、移動し続けている者も数人の話しを聞けたが、殺された者達がどの様に殺されたか知っている者は殆どいなかった。

知っていた者も“原初のモノ”同士での争いで死んだ事を知っているだけだった」


「そうか、もし今後何か情報が得られたら教えてくれ。

とりあえず、聖剣対策は一旦、止めてくれて良い。


聖剣の使い手の発見方法と魔導具との親和性を下げる研究だけ、一部残して、後は通常に戻そう。

もし、休みがまともに取れていない者がいたら、休む様に言っておいてくれ」


リンドレージェに、そう言うと、


「畏まりました。その様に手配致します。

それと、お館様、西の魔王陛下より会談の依頼が来ておりますが、如何致しますか?」


「そうだな……。出店予定地の準備は?」


「現在、ドルレア王国とハルマール王国で合計21ヶ所の準備が出来ております」


「なら、明日はそこに店舗を準備して回って、明後日会う様にしといてくれ」


「畏まりました」


お義理兄さんも、聖剣の事をオレから直接聞きたいのだろう。






▪️▪️▪️▪️






昨日はクルス商店を21棟、ビシバシ建てて、今日は、ラムも連れてドルレア城に来ていた。


「やあ、お義理兄さん、久しぶり」


「……おまえ、そのスタンスでずっと行くつもりなのか?

まあいい、ラムも久しぶりだな」


「はい、陛下。お久しぶりで御座いますわ」


「ちょっと待ってろ、オイ!リュールを呼んで来い」



やって来た西の魔王の第1夫人、リュール ドルレア王妃は、ラムを少し若くした様な女性だった。

姉妹といえど、王妃の方が相当年上の筈だが、毎度の事ながら、見た目年齢はサッパリ分からない。


「お姉様、お久しぶりですわ」


「ええ、久しぶりね、ラム。陛下からお話しは聞いているわ。

とても素晴らしい方にお嫁に行った様ね。


初めまして、クルス会長。ラムの姉で、ドルレア王国第1王妃のリュール ドルレアです」


「初めまして、王妃殿下。

ラムの夫でクルス商会の会長をしています。レンジ クルスと申します」


「オイ!!なんで、オレがお義理兄さんで、リュールが王妃殿下なんだ!!」


「で、お義理兄さん。

今日は聖剣の事を聞きたいんじゃないのか?」


「無視か!!チッ、もういい……。


ああ、そうだ。

オレの方でも、聖剣のあった地下室自体が無くなってんのを確認した。

こないだ、言ってたみたいに、城を引っこ抜きやがったのか?」


「いいや、地下室だけを引っこ抜いて持って帰った。ちゃんと封印もしてある」


「…………どんなだ?」


西の魔王の質問に、オレは“ディファレントルーム”から、“黒刃”を取り出す。

一瞬で警戒大勢になる魔王の護衛を無視して、“黒刃”を掌の上に置いて、魔王に差し出す。


「これと同じ材質で、固めてある」


受け取ろうとした西の魔王は驚愕の表情を浮かべて立ち上がり、両手で持ち上げようとするが、ピクリとも動かない。


「…………どうなってんだ?」


「どうもなってないよ。単に重たいだけだ。

軽くするスキルを使えば持てるだろ?」


スキルを使ったらしい、西の魔王は何とか両手で持ち上げた。


「重いなんてもんじゃねぇな……100分の1でこの重さかよ…………」


「これで、地下室丸ごと包んで、魔力で固めてある。

何処に隠したかは教えないけどな」


「ああ、それはいい。盗まれる様なヘマはしねぇだろうからな。

にしても、こんな重てぇ剣、一体何に使うんだ?」


「別に重い剣を作りたかったんじゃないよ。

壊れない様に硬くしたら重くなっただけだ」


「…………おまえ、双剣使いだって聞いてたが、それを使うのか?」


「ああ、剣を使う時はな」


「チッ、そうかよ…………」


「元気出せ、お義理兄さん!!」


「うるせぇ…………」


西の魔王が凹んでしまった…………

と、リュール王妃から話しを振られた。良妻の様だ。


「ところで、クルスさん。

陛下からお聞きしたんですけど、陛下と賭けをした際に、副賞でお父様の土下座を賭けられたとか…………」


「ええ、そうですね」


「もし宜しければ、私とも勝負して頂けませんか?お父様の土下座を賭けて」


良妻だから、魔王のフォローをしたんじゃ無かった…………

単にブランドに土下座させたくて、言い出すタイミングを待っていた様だ…………


「其方は何を賭けられるんですか?」


「宝物庫から1品、好きな物をお持ち下さい」


「オイ!!リュール、何を勝手に…………」


「陛下、ご安心ください。クルスさんは金銭的に高価な物は選ばれません。

間違いなく、珍しい物か用途の分からない物を選ばれます。


そう言った物は、我が国では、どちらにしろ宝の持ち腐れなのですから、負けたとしても全く問題有りません」


「…………だってよ…………」


「残念ながら、全く言い返せないな…………。

では、勝負の方法は?」


「女性の年齢当てで勝負致しましょう!!」



女性の年齢当て勝負。


ルールは公平になる様に、この城のメイドから、ラムが1人選び、オレとリュールは目隠しをして、手だけを触って年齢を言い合い、より近かった方の勝ちだ。


正直言って、オレは鑑定無しでは、見ても全く分からない。

手を触っても分かる自信が全く無い。


只の勘でより近い年齢を言い当てる他無いのだが…………


リュールは自分から指定して来たのだ。

何かしら対策等があるに違いない。



オレの右手の上に、女性のモノと思われる手が置かれる。

左手で挟んで、触ってみたが、やっぱり全然分からない…………



「では、私から、1,031歳」


リュールが先に答えたので、1,000歳位なのか?と思って、


「1,200歳」


と、答える。正解は…………


「1,031歳です」


「…………知ってたんですか?」


と、目隠しを外しながらオレが聞くと、同じく目隠しを外したリュールはニッコリと笑ったのみ。

代わりに、西の魔王が答える。


「リュールはな、勘が鋭でぇんだよ。スキルも魔導具も何もねぇ。

只単に、異常に勘が鋭でぇんだ」


「…………勘で?」


「ええ。私、子供の頃から、適当に言った事が外れた事はありません」


え?何言ってんの?言葉がおかしくない?と、思わずにはいられないが、仕方がない。

負けは負けだ。


それに、ブランドが土下座したってオレは何ともない。


「ラム、今日のブランドの予定は知っているか?」


「いいえ、ですが訓練場でしょう」


「…………だろうな、リンドレージェ。呼んでくれ」


「畏まりました。少々、お待ち下さい」


「…………なあ、クルス。

おまえが呼び付けたら、あのオッサンは来んのか?」


「ああ、連絡が付けばな。

それにも、何か愚痴でもあるのか?」


「…………あのオッサンは、オレ達の結婚式にも来なかった…………

断られたんじゃねぇ、忘れてたんだ…………」


「安心しろ、それは今でも変わらない」


「…………そうか…………」


「陛下、良くお考え下さい。

来ない方が良かったに決まっているではないですか」


「そうですわ、魔王陛下。

私の結婚式にも来ないモノと思っておりましたが、主人が『大魔王様よりも自分の方が遥かに強い』と言ったのを確かめる為だけに来たのですから。


そのせいで、せっかくの結婚披露宴も新婚初日も邪魔をされましたわ。

まあ、それはそれで、主人の勇姿が見られて、今となっては良い思い出ですが」


「……惚気かよ!!」




そんなこんなしていると、ブランドがやって来た。


「クルス様、可及的速やかに来る様にとのご命令だった様ですが、如何されましたでしょうか?」


「ブランド、こちらの、お2人が誰方か分かるか?」


「はい!!

娘のリュールとその夫のルザンクスです!!」


「違う!!

こちらの、お2人は、クルス商会の大切なお客様である、ドルレア王国の、ルザンクス ドルレア国王陛下と、リュール ドルレア王妃殿下だ!!


そして、お前が、結婚式をすっぽかし、新婚ホヤホヤのラブラブ新居を破壊し、大魔王の形見の槍をへし折り、娘を引き篭もりにしたにも関わらず、一切の謝罪をしなかった事で大きな商談が破談になりそうになっている大口のお客様だ!!


ブランド!!

もしも、今回の商談がお前の所為で破談になった場合、お前が同額の収益を出す迄、お前への福利厚生を止める!!


つまり、従業員寮の使用も、訓練場の使用も、合同訓練への参加も全て止めると言う事だ!!」


「な!!そ、そんな!!」


「それがイヤなら、ルザンクス陛下とリュール殿下にキチンと謝罪をして、今後、クルス商会とドルレア王国との間に一切の蟠りの無い様にしろ!!」


「はい!!

ルザンクス、リュール、すまなかった!!」


「ブランドぉ〜〜!!

お前は一体何を学んで来たんだぁ〜〜!!

謝罪というのは、こうするんだ!!」


と言うと、オレはブランドの足元へ、西の魔王とリュール王妃の方を向いて、ジャンピング土下座で着地する。


ドゴンッ!!と、床が壊れる程…………床が壊れる土下座をして、


「ルザンクス ドルレア陛下、並びに、リュール ドルレア殿下!!

これまでの礼儀を逸した行いの数々、大変申し訳御座いませんでした!!!!」


オレの行動を見て、一瞬固まったブランドだったが、ハッとして、ドゴンッと床を叩き割る土下座をしながら、


「ルザンクス ドルレア陛下、並びに、リュール ドルレア殿下!!

これまでの礼儀を逸した行いの数々、大変申し訳御座いませんでした!!!!」


と、言った…………


土下座のまま、ピクリとも動かないオレとブランドに、何とか自分の世界から帰って来たっぽい、西の魔王が、


「あ、ああ。まあ、分かった……謝罪を受け取ろう……い、いいよな、リュール」


「え!?え、ええ。私も謝罪をお受け致します…………」


と、頼りなく答える。


オレは立ち上がって、ブランドの肩を抱いて立たせると、


「いいか、これからは、ちゃんと、悪い事をしたら謝らないとダメだぞ!!」


と、言うと、ブランドはオレにも頭を下げて、 


「はい!!申し訳ありません!!

ワシの所為でクルス様に頭を下げさせる様な事になってしまい…………」


そう言う、ブランドの肩を叩いて、


「ブランド、部下の失敗を一緒に謝ってやるのも上司の務めだ。今回の事はいい。

だが、二度と同じ失敗をするんじゃないぞ!!」


「はい!!有難うございます!!」


涙を流すブランドに退出を促す…………


ブランドが部屋から出て行くと、オレは何事も無かったかの様に、ソファーにドカッと座る。


ラムが横に座ったオレの腕に抱きついて来て、


「さすが、あなたですわ!!

大魔王様のお話しすら、まともに聞かなかったと言われる、お父様をあそこまで、意のままに操るなんて!!」


…………自分の父親への発言としては、どうかと思うが…………

まあ、ラムが惚れ直してくれた様で何よりだ。


世のお父さん達には申し訳ないが…………



「おまえ、本当に無茶苦茶だなぁ〜…………」


「ええ、あれがお父様だ何て、まだ信じられないわ…………」


まだ、半分放心状態の西の魔王に、折角なので、国営の魚の養殖場の建設予定をさせて、しっかりと、結界柱の購入を契約させて帰ったのだった…………




こうして、一応、最悪の魔剣“聖剣”の問題は解決した。







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