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第10章 ドワーフの国④

ドワーフの国④





▪️▪️▪️▪️





海底ダンジョンの最深部施設の解錠を始めてから5日後、やっっっっと成功した。

成功したのはキスラエラだ。


オレは直ぐ様、コピーして、自分でも成功を確認してから、それはもう、キスラエラを褒めて褒めまくった。


理由はもちろん、この作業に飽き飽きしていたからだ!!




キスラエラと、今日のお供のセバスとゴラジスを連れて中に入る…………


自動で明かりが付き、先ずは廊下だった。

気密性が高いのだろう、浸水した様子は無かった。


1番手前の部屋の扉を開ける。

そこは、客室の様な待合室の様な部屋だった。


6人掛けのソファーセットと給湯設備があり、奥に続く扉。

奥の部屋はただ椅子があるだけの使用人用の部屋の様だった。


浸水していなかったとはいえ、最低でも2万年以上経っているのに、ソファーや食器、給湯の魔導具も使えそうな程で、部屋の空気も淀んでいない。


1階は、ほぼ同じ部屋が20部屋あるだけだった。


上下に向かう階段と、エレベーターの魔導具が有り、エレベーターの魔導具も動きそうだったが、先ずは階段で地下に向かう事にした。


この施設の動力源がどうしても気になったからだ。


地下1階は倉庫だった。さまざまな生活用品があり、多くはないが、食料もあった。

どれも使えそうな状態だ。


そして、地下2階…………

問題の動力源がそこにあった…………




それは、1匹の黒い龍だった。

トグロを巻いた状態で拘束されて、液体の中に居た。


腹部には金属製の管が刺さっている。



鑑定した結果、



----------


名前 マグマ変換機

年齢 22,315

種族 合成獣龍型

称号 永久機関


レベル 51万


体力 10億/10億

魔力 72億2,000万/100億


力    4,200万

耐久   8,100万

知力   1,700万

魔法耐久 1,700万

俊敏   700万

器用   1,200万


スキル

熱変換吸収、魔力放出、超魔力回復



----------





彼は動力源として生み出された存在だった…………


拘束具には、“思考停止”と、“肉体成長停止”の効果があった。

腹部の管はおそらくマグマが体内に入って行っているのだろう。




全ての生物が滅んだとされている、聖樹暦以前の魔導暦。

自分達の為の生物すら生み出していたのか…………


そう思って気付く、“オレにも可能”だと、“スキル 創造”であれば、“同じ事”が出来てしまう。

“創造”のレベル10は“魂も作り出せる”のだから…………



オレの今の能力は、“新たな世界”すら生み出せる。

オレは心の何処かで自分が最強であると、唯一無二の存在であると思っていたかもしれない……



しかし、存在する可能性があるのだ。

オレと同じ“スキル 創造”を持つ者が。



もしも、魔導暦に居たとすれば、先ず間違い無く“不老不死”を手に入れているだろう。


オレと同じ考えに至って、不老だけで止めている可能性もあるが、それでも、魔導暦と共に滅んだりするだろうか?


この龍が“スキル 創造”で生み出されたとは限らないが、少なくとも、エネルギー源にする為の生物を生み出す術を持っていた者達が滅ぶだろうか?


…………別の星、もしくは別の世界に行った可能性も十分にある。


そして、その中に、オレよりも遥かに長い時間、“スキル 創造”を使い続けた者がいる可能性も十分にある。


もしもの時への備えはしておくべきだ。

オレの“大切なモノ”を絶対に奪わせない為に!!





「ご主人様、大丈夫ですか?」

ついつい、険しい表情をしてしまっていたのだろう。

キスラエラが心配そうに覗き込んで来る。



「ああ、すまない。

もしもの時にちゃんとキスラエラ達を守れる様にしないとなって、考えていたんだ」

そう言って、キスラエラを抱き締める。


キスラエラはそれはもう真っ赤になったが、


「お館様、もしもの時とは?」

と、言う今日のお供のセバスの質問に、ハッとしてオレを見る。


「この龍、どう思う?」


「おそらく、溶岩を喰らう魔獣と火属性に耐性のある龍を掛け合わせた存在なのでは無いかと思われますが…………」


「そうだな、だが、こんなに魔力を生み出すのに都合の良い生物が簡単に出来上がると思うか?

不要なスキルが一切無く、魔力を生み出す事にのみ特化した生物が」


「確かに!!51万ものレベルに対して、一切攻撃に向いたスキルがありません!!」


「何度も何度も、交配やスキルの調整を繰り返し続ければ、可能かも知れないが、ここまで都合の良い生物になると思うか?」


「確かに、気の遠くなる様な時間を費やすか、偶然の産物である可能性が高いと思われます」


「いいや、もう1つ方法がある」


「と、申されますと?」


「オレなら作れる」


「「「!!!!」」」


「オレなら同じ生物を生み出す事が出来る。

つまり、オレと同じ能力を持った者が存在する可能性がある」


「…………お館様と同じ能力でございますか…………」


「ああ、もしも、この生物がオレと同じ能力で生み出されたなら…………」


「お館様よりも遥かに長く、その力を使い続ける者がいると…………」


「そう言う事だ」


「しかし!!魔導暦と共に全ての生物は滅んだのでは?」

ずっと黙って聞いていた、ゴラジスが聞いてくる。


オレよりも強いヤツの存在が気に入らないのかもしれない。


「前に、ラムが言っていた事があるが、オレに何かがあった時はこの世界は無くなっていると。

おそらく、本当にこの世界が滅んでもオレは死なない。


なら、もしも、オレと同じ能力を持つ者が居れば、他の生物が滅んでもソイツは無事だろう。


これはあくまで想像だが、例えば、何かの事故で、この星の生物の大半が死んだとして、ソイツが聖樹を植えて、自分は別の星か、別の世界に行ったという事も考えられる。


聖樹を植えた神がいるはずなのに、何処の誰かも分からないのは、聖樹を植えた後に何処かに行ったからかもしれない」


「つまり、お館様は、神が魔導暦に存在した人物で、いつかこの世界に戻って来た場合に敵対する可能性があるとお考えなのですね」


「まあ、あくまで可能性だが、対策は考えておくに越した事は無いからな。

この生物を作ったヤツと神が同一人物なら、絶対仲良くはなれない。

明らかにオレよりも性格悪そうだからな」


「ご主人様、ご主人様よりも性格の良い人物など存在しません!!」

「はい、キスラエラ様の仰る通りです」

「はい!!その通りです!!」


「…………おまえらそれは偏見が過ぎるぞ…………」






▪️▪️▪️▪️







とりあえず、この龍は放置して、上の階を調べる事にした。


一旦、“リターン”でシルバーウィングに戻って昼食を取り、第1部隊と第3部隊のメンバーを連れて探索を再開だ。





大きな収穫があった。

情報端末が生きていたのだ。


そして、オレの想像がほぼ事実だと分かってしまった…………






ブラウン管テレビにゲーム機を繋いだ様な情報端末で調べて行くと…………


魔導暦は5,000年程の歴史しかなかった。

それ以前は無暦と呼んでいたようだ。


魔導暦の始まりは“魔導神”が生まれた年となっていた。



“魔導神”、それは“無から全てを生み出す存在”だ、そうだ。

まさにオレの“スキル 創造”だ。


その魔導神は、数々の魔導具を発展させ、また、新たな魔導具を無限に生み出したらしい。


魔導神の登場から世界のあり方が変わった。

生活はより豊かに、便利になり、魔獣に怯える事も無くなった。



しかし、それは魔導神のいる国だけだった。


それ以外の国は何としても魔導神を手に入れようと、魔導神の国に戦争を仕掛け続けた。


争いを好まなかった魔導神は、世界各国にも魔導具が行き渡る様に必死に作り続けたが、人の欲望は止まらない。


それでも、戦争が続き、ある日、魔導神の妻が戦争の被害に遭い亡くなってしまった…………



魔導神は嘆き悲しみ、そして、怒り狂った。


今まで、一切の武器すら作らなかった魔導神が超常的な兵器の数々で世界中を滅ぼして周った。

1年と掛からず、世界は魔導神のいる国だけになった…………


それからの魔導神は、より死ににくい人間を生み出す事に力を入れる様になった…………


魔力の非常に高い人間、獣の特徴を持つ人間、魚の特徴を持つ人間、虫の特徴を持つ人間、寿命の無い人間などを次々と生み出して行ったが、僅かな期間で、今度は同じ特徴を持つ人間同士が集団を作り、魔導神を奪い合い始めた。



魔導神は争いを好まなかった者だけを集めて、この地下都市に篭り、魔導具作りを得意とする人間を作って、自身は誰とも会わなくなった…………





それから、数百年が経ち、姿を現した魔導神は、自分と共にこの世界を旅立つか、記憶を捨ててこの都市を出て行くかの選択を迫ったという。




それ以降の事は分からなかったが、魔導神が記憶と文明を奪って、この世界から旅立ったのだろう。





人種族以外の人間は、魔導神が作ったモノだった。


この事を知って、ショックを受けたのは、クリシュナだけだった。

他の者は「ふぅ〜〜ん」「へぇ〜〜」くらいのモノだ。

だからどうと言う事は無いらしい。


クリシュナには、今夜オレの部屋に来る様に言った。




別の情報端末から、魔導神の情報も発見した。


名前は“クスレン”。

オレの名前を縮めた様で嫌な名前だ。


そして、画像もあった。

黒髪、黒目で、何処と無く、オレを老けさせた様な40前後の見た目の人物だった。


嫌な事を思い出した…………




そして、もう1つ魔導神が“スキル 創造”を持っている可能性を上げる発見もあった。


魔導具の設計資料があったのだ。

その半数以上が、材質、形状、機能のみの内容で、製作工程が一切無いと言うモノだった。


製作工程のあるモノは、魔導具作りを得意とする人間が、無いモノは、魔導神が“スキル 創造”で作ったと考えるのが妥当だろう。




今回の発見は、製作工程のある魔導具の設計資料の一部のみを開示して、魔導暦の歴史を含めて、外部への情報を遮断する事にした。


特に歴史は、ハルマール王国とグラール帝国の人種族至上主義国に、増長されると鬱陶しい。


地下2階を残して、椅子一脚に至るまで、全て回収して、今日は終了した。


ちなみに、この施設は役所的なモノだった様で、他の未攻略施設も何の施設なのかは知る事が出来た。





その夜、ノックと共にクリシュナが1人で入って来た。


オレは、今回手に入れた物の振り分け作業を止めて、クリシュナにコーヒーを頼む。

2人分のコーヒーを淹れて、向かいに座ろうとするクリシュナを手招きして、横に座らせる。



「……人種族以外を魔導神が作ったという事に大分ショックを受けたみたいだな」


「!!はい…………」


「自分が作り物で、人間じゃ無いって感じたってところか?」


「はい…………私は親の顔も、本当に両親が存在するかも知りませんし…………」


「…………親って、必要か?」


「!!レンジさんは、ご両親が?」


「いいや、多分向こうで生きてると思うよ。

中学出てから、会ってないけどな」


「……その、理由って、聞いても良いですか?」


「別に特別な理由は無いよ。

両親が嫌いだっただけだ。

両親のオレを見る目が、オレの向こうの別のヤツを見てる様な目が嫌いだっただけだよ」


「向こうの別のヤツ?」


「ああ。オレには兄貴がいてさ。小さい頃に死んだんだ。

だから、両親は、オレをその兄貴の代わりみたいにしか、見て無かった様にずっと感じてたんだ」


「…………そうだったんですね…………」


「クリシュナは、向こうでは、家族と仲良かったのか?」


「……普通です。特別仲が良い訳でも、悪い訳でもなかったと思います」


「そうか……なあ、話しは変わるけど、眷属のエルフってどうやって生まれて来るんだ?」


「私の眷属達は、私の寝室とか、リビングとか私が良く居る場所に、金色の繭の様なモノが出来て、そこから生まれて来ます」


「赤ん坊なのか?それとも、最初から大人なのか?」


「大体は子供です。赤ん坊では無くて、5、6歳位の。

中には、最初から大人の子もいます。


でも、赤ん坊で生まれてきた子は今まで居ません」


「みんな、クリシュナの事を、お母さんとか、ママって呼ぶのか?」


「…………いいえ、誰一人、呼んでくれません…………。

何度言っても、ハイエルフ様って呼びます…………」


ちょっと、不貞腐れた顔が可愛いかったので、耳元に小声で、

「じゃあ、オレとの子供が出来たら、やっと呼んで貰えるな」


と、言うと、ガバッとこっちを向いて、真っ赤になって、口をパクパクさせた。


「違うのか?」


「…………違わないです…………」



「まあ、何が言いたいかと言うと、この世界では、あんまり生まれとか血の繋がりとかを気にして無いって事さ。


例えば、ラルなんかはラムの事を尊敬して、母親として、大切に思ってる。

だから、オレも息子として接してるが、ラムにはもう2人、息子がいるらしい。


でも、その息子達はもう自由に生きてるらしいから、オレも会った事は無いし、ラムから頼まれない限り、父子として接するつもりもない。


セバス、シエラールル、ダルグニヤンの関係は知ってるか?」


「3人とも黒火一族だと…………」


「まあ、そうだな。

そう言う感じに見えるだろうし、見た目的に、セバスとダルグニヤンが血縁なのは分かるだろ?」


「はい、そっくりだから」


「ああ、実は、セバスとダルグニヤンは親子だ」


「…………はい」


「で、シエラールルとダルグニヤンも親子で、セバスとシエラールルは双子だ」


「…………え?」


「そうなるよな?オレも最初はそうだった。


セバスとシエラールルが全く似て無いのを差し引いても、元の世界の常識で、ついつい、双子で結婚とか、全く親子を感じない接し方とか、違和感を感じた。


でも、今は違う。


この世界の人間は、自分が何者で、相手がどういう関係かを重視している。


だから、親子である以上に上司であり、同族であり、同僚だから、あんな感じなんだとオレも普通に思う様になった。


だから、クリシュナの今日感じた、不安の様なモノは、クリシュナ自身が自分が何者なのかを自覚出来れば、なんの問題も無いと思うぞ?」


「……私が何者なのか…………」


「1つだけ、答えをやろうか?」

ゆっくり頷いて、真剣な表情でこちらを見るクリシュナに、ニヤッと笑って、


「おまえはオレの女だ!!」

そう言うと、ベットへ連れ去った…………









1週間掛けて、未踏破施設を全て調べた。


幸い、最初に使えた人物の、魔力パターン、虹彩パターン、指紋パターンで入れなかった施設は2つだけで、この2ヶ所はキスラエラと分担して、解錠した。


壁、床、柱まで思う存分、回収して周り、自爆機能のあった外壁だけ残して伽藍堂になるまで回収した。


最後に残った“動力源の龍”は計8匹いたが、数万年に及ぶ思考停止の影響か、元々意思が無かったのか、拘束具を外しても、オレの“殺気コントロール”で脅しても無反応だったので、素材と経験値になって貰った。


念の為、もう1度浸水させて、入り口も元に戻し、冒険者ギルドに報告して、海底ダンジョン探索を終了した。




今回の大量の物品は、研究用と販売用に分けて、販売用は、来る5月10日に、サーラールの街のシルバーウィング発着場で、クルス商会誕生祭、大オークション大会を開催して、出品する事にした。







誕生祭の会議を数回行って、内容を決めて行く。


先ず、誕生祭の日は一般従業員は全員休み、店舗も店休日にした。


祭りの運営は、オレの配下だけで行って、仮設オークション会場と屋台を組んで、従業員達には祭りを楽しんで貰おうという事になった。



全体とオークションの運営は、ローテーションを組んで持ち回りで行い、各屋台は10人1組で運営して、配下達には売上競争を楽しんで貰おうと言う事になった。


優勝賞品は、例によって、“オレへのお願い権”だ。

但し、今回は10人で1つのお願いにした。


誕生祭の告知は、全店舗で行う事になった。


正直、おそらく誰も来ないであろう、ハルマール王国に告知するかは迷ったが、諜報員に購入依頼をする貴族くらいはいるかもしれないので、一応告知はした。



屋台出店の伝達も同時に行った結果、40店舗もエントリーがあった。


妻達もメイド部隊とチームを組んで、別々の店舗を出店するらしい。

クリシュナだけは今回は、ミケネコと祭りを見て周る側になるそうだ。


新婚旅行は、一旦休憩にして、それぞれ、祭りの準備を行って行く事にした…………





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