第10章 ドワーフの国③
ドワーフの国③
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1週間後、サーラールでの建設、ドワーフ達の引っ越し、各種手続きや人事異動を終え、工場の稼働を確認してから、新婚旅行の再開だ。
シルバーウィングはその間に移動を済ませて、今日からはロロルー王国の観光だ。
ミケネコもちゃんと普通の移動は問題無く行える様になり、オレとクリシュナの間を自分で歩いている。
ミケネコはずっとキョロキョロしながら、ワクワクビクビクしながら付いて来ている。
今日はオレとクリシュナ、ミケネコとシロネコ、セバスとシエラールルの6人だけだ。
レベル1億2,000万のミケネコには、どんな攻撃も効かないだろうが、普通に歩いたり、段差を跳び上がるのがやっとのミケネコが攫われる可能性は無くもない。
まあ、非常にゆっくりなミケネコの猫パンチを喰らったら、Sランク冒険者でも1撃死だろうが…………
そんな訳で、今日の主役のミケネコの為に人数少なめで来た。
店の中には、ミケネコ、シロネコ共に抱き上げて入ったが、そこでもずっと興味津々だった。
昼食も普段あまり食べない、屋台の串焼きを食べたり、肉屋や魚屋などでミケネコが気になる食材を買ってみたりして周った。
最後に魔法屋に行った。
“三毛猫と言えば本!!”と、思ったからも少しあるが、ミケネコ用に魔導書を買おうと思ったからだ。
動く事が完璧になったら、基本、ミケネコよりも強いのはオレくらいになってしまう。
そうなったら、新たな成長要素が必要だろう。
ミケネコの身体はそもそもが、オレの作った魔導具だ。
魔法だろうがスキルだろうが、オレが付け加えれば、幾らでも強化出来るが、自分で成長する楽しみを味わって貰おうと思ったからだ。
そう説明すると、「頑張って勉強します!!」と、良いお返事が返って来た。
売っていた魔導書は、属性魔法4種、高位属性魔法4種、空間属性、神聖属性、複合属性の11冊。
オレが初めて買った時と同じだ。
全部買って、「これはミケネコ用だから、傷んでも良い。しっかり読み込んで、使いこなせる様になれよ。但し、魔法を使う時は、ちゃんと手加減するのを忘れるなよ」と、言ってクリシュナに預ける。
ミケネコは魔導書を読むのも非常に楽しみな様だった。
その日の夕食は、ミケネコの選んだ食材での料理の数々だった。
変わった物もあったと思うが、ちゃんと美味しく料理してくれた様だ。
翌日は、妻達もみんなで見て周った。
オレの目を引いたのは、魔導具や武器、装飾品等の装飾のデザインがリリルー王国とロロルー王国で大きく違った事だ。
リリルー王国が模様が多かったのに対して、ロロルー王国は生き物のデザインが多い。
実在するのか、空想上なのか分からないが、何処かで見た妖怪の様なデザインもある。
“目玉から身体が生えていたり”、“手足の付いた板蒟蒻”とかだ。
存在には興味はあるが、装飾のデザインとしてどうなんだ?と、思う…………
クルス商会の商品に変なデザインが現れない事を願いたい。
リリルーでやった、面白いモノ探し大会で、色々見つかった古道具屋を何軒か見ていると、“あの箱”を見つけた。
何が起こるかわからない箱。もちろん、購入して封印だ。
今日のお供のギルスーレに今後、第1部隊の諜報活動で発見したら、購入する様に指示を出させた。
この日は1日街を見て周り、次の日はロロルー王国王都の北部大半を占める、古代遺跡の観光に行った。
この古代遺跡は、聖樹暦よりも前のモノで、魔導暦かそれ以前のモノらしい。
観光地としているくらいなので、もちろん調査は終わっている。
それでも、どんなモノなのか、もしかしたら新しい発見があるかもしれない、と期待して向かった。
エルフの里のガッカリ体験から、シルバーウィングから、街を見ない様にしているが、今回は見ても良かったと思う。
中世っぽい、異世界感のちゃんとあるこの世界で、完全な異質だった。
一言で言うならSFだ。
金属で出来たビル状の建物に、半透明なチューブ状の道が中空で繋がり、ドーム状の建物なども見える。
残念ながら、中にあったであろう物は全て回収済みの様だが、オレは色々と見て周りながら、ちょっとづつバレない様に建物の小さなカケラをコッソリ回収した。
まる1日掛けて、全ての建物を見て周り、十分堪能して帰った。
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ここは、ロロルー王国の海岸沿いの街、ズンヴァズの街。
ロロルー王国の貿易の最大拠点で、王都ロロルーよりも少し小さい位の大きな街だ。
この街は、今回の新婚旅行の最西端の予定地だ。
ここを訪れた目的は、ダンジョンだ。
ここのダンジョンは“海底ダンジョン”と呼ばれる、天然?の未踏破ダンジョンだ。
天然?と、言うのは、このダンジョンには、魔獣は居ても、魔物はいない。
海底に沈んだ“階層型の都市の遺跡”に魔獣が住み着いていると言う、本来のダンジョンの仕組みとは少し違うからだ。
50階層もの都市が続く広大なダンジョンだが、既に最下層が50階層である事は分かっている。
なら何故、未踏破なのかと言うと、40層以降にある幾つもの施設内の調査が出来ていないからだ。
海中という、厄介な環境の上、その施設達は、無理矢理入ろうとすると自爆するらしい。
なので、海中での行動を維持し続ける為に、大量の魔力回復手段が必要な事、解析の為の専門人員が必要で、その人員も守らなければならない事で、メリットよりもデメリットが強い為に未踏破のままになっているらしい。
この海底ダンジョン攻略に当たって、ズンヴァズの街の冒険者ギルドで、移動届けを出して、ダンジョンの攻略申請と、念の為、現在、公式に攻略中の冒険者が居ないかを確認する。
不人気ダンジョンだけあって、ここ100年以内に正式に攻略に向かった者はいないそうだ。
問題無い事も確認出来たので、Sランク冒険者として、オレ達の攻略中にダンジョン近辺への立ち入りを禁止する様にして貰う。
万が一巻き込まれて死亡しても一切責任を持たない事を強く主張した。
オレ達がダークエルフの里のダンジョン踏破パーティーだと言う事は既に伝わっている様で二つ返事で了承してくれた。
そのまま、街を軽く見て周り、シルバーウィングに戻った。
翌日、海底ダンジョンの攻略に向かう。
今回の参加者は、妻達とクリシュナ、シロネコ達にミケネコも含め全員と、ラル、ランド、グッサスも呼んでいる。
最高幹部もシルバーウィングの情報室に詰めているセバスとシエラールルを除く全員参加。
第1部隊と、メイド部隊も手の空いている者は出来るだけ呼んだ。
第2部隊と、第3部隊に関しては、休みで参加したい者は参加しても良いと伝えてある。
ここまで、大人数でダンジョンに挑むのは、ダンジョンの難易度が高いからでも、ダンジョンが広大で人数が必要だからでも無い。
今日のオレの出立ちは、いつもとは一味違う!!
いつもの白いワイシャツに黒のベスト、黒のスラックスに加え、ショルダーバックを下げている!!
そう!!いつも、いつでも手ぶらなオレがバックを持っているのだ!!
気合いを入れて、いざダンジョンへ!!
海底ダンジョンは、ズンヴァズの港から見える小島にある。
シルバーウィングでそこまで移動して、全員で上陸。
海底ダンジョンの入り口は、言うなら巨大な地下鉄入り口だった。
先日、王都ロロルーの遺跡で見た金属製の四角い入り口から幅50m程の階段が続いている。
オレはまず、全員を入り口近辺に集め、入り口を上にL字に伸ばして煙突状にして、海水が侵入してこない様に加工した。
「じゃあ、行って来るから、水位に合わせて降りて来てくれ」
そう言って、“風属性魔法”で自身を覆って、中に入って行く。
ちなみにオレは“スキル 環境適性”で、海中でも問題無いが、それだと服が濡れるからだ。
1階層にたどり着くと、下げていたショルダーバックを“風属性魔法”の外に口を開けて出し、魔力を込める。
バックは“海水だけ”をどんどん吸い込んで行く。
このショルダーバックは“ディファレントスペースバック”だ。
そして、“周囲の液体のみを吸引する”効果を足している。
オレの考えた海底ダンジョン攻略法は、海水を全部抜いて、ゆっくり攻略しよう作戦だ。
このダンジョンは、“階層型の都市の遺跡”。言うなれば“巨大な建物”だ。
建築に置いて、オレの右に出る者はいない!!多分いない!!
水を抜いて、浸水しない様にこの“巨大な建物”を補強してやれば、後はただの遺跡だ。
水を吸い込ませながら、下への階段を探す。
広いと言っても街だ。下に降りる階段も普通の通りに普通にあったので、10段程降りて、水が抜けるのを待つ。
この都市の1層は、1km四方の高さが100mくらいなので1億トンくらいの容量だ。
建物の分を差し引いても大量の海水だが、“吸引力の変わらないただ1つのショルダーバック”は、ものの数分で吸い尽くした。
オレも瞬時に1層の外壁を補強する。
そして、ここからが大人数で来た理由だ。
あっという間に水が無くなったらどうなるか?
もちろん、そこら中で、魚や魔獣がピチピチする。レベルもへったくれも無い。
ピチピチするだけの魔獣など、唯の経験値で食材だ。
大人数で来たのは、魔獣達が窒息死する前にトドメを刺して経験値にし、新鮮なまま、食材にする為だ。
第1部隊とメイド部隊が仕事で、第2部隊と第3部隊が遊びなのは、これが理由だ。
食材集めが仕事かどうかの問題だ。
建物の中の小魚まで回収して、それでも15分程で終わったので、偶数層と奇数層に班分けをして、オレも2層づつ水抜きをして行った。
途中で、シルバーウィングに食材を片付けに行ったりしながら、その日1日で、“海底ダンジョンの水全部抜いてみた”は終了して、ダンジョンの探索は明日から行う事にした。
その日の夕食時、
「せっかく、新鮮な魚介類が沢山手に入ったんだから、何か面白いイベントとかないかなぁ〜…………」
と、呟くと、
「それでは、料理選手権にされてはどうですか?」
と、ルナルーレが言った。
「どんなルールを考えてるんだい?」
「まず、どんな料理を作るか、参加者が1品づつ決めて、参加しない人がその料理の組み合わせで、献立を組んで行きます。
毎食毎に、レンジ様に、その中で1番美味しかったものを言って頂いて、選ばれた人が2回戦目に進出です。
食事が偏らない様に、足りないメニューは、参加しない人が追加して、もしも、その料理が選ばれた場合は、その時の参加者は全員脱落にします。
最終的に、4人になったら、決勝戦の対決にして、審査員を決めて置いて多数決で優勝を決めるのはどうでしょう?」
「なかなか、面白そうだ。
で、今回も賞品がいるんだよな?」
「「「もちろんです!!」」」
妻達だけで無く、メイド達まで口を揃える。
「うぅ〜〜ん……。何が良いかなぁ〜〜……?」
「お父様の1日独占権が良いと思います!!」
前回の面白いモノ探しで、言い出しっぺなのに負けてしまったリムが即言った。
妻達も仕切りに頷いているが…………
「それだと、料理自慢の男にメリット無いだろう…………」
「お館様、それでしたら狩り大会の時の様に願いを叶えるというものにされては如何ですか?」
と、狩り大会優勝のシエラールルが言う。
「……また何か秘策があるのか?」
「いいえ、男女平等にと考えただけです。
それと、戦闘に特化していない者にもチャンスがあるかと思いますので」
「そうだな、確かに戦闘寄りのイベントが多いし、よし!!そうしよう!!」
と、海底ダンジョン攻略に並行して、急遽、料理選手権の開催が決定した。
但し、人数が多過ぎても、なかなか決着が付かないので、参加資格は“スキル 料理LV10”である事を条件にした。
翌日は、昨日のメンバーから入れ替えて、妻達と第3部隊が中心だ。
現在、攻略出来ていない施設は、一旦後回しにして、手分けして通常の建物の探索をする。
隠し部屋や民家の戸棚なども調べ尽くして行く。
魔導具や貴重品に限らず、生活用品の様な物も片っ端から回収した。
1日では終わらず、次の日も回収を行い、大量の物品を集めた。
用途の分からない物も多くあったので、今後の研究材料だ。
そして、未攻略施設に挑んだ…………
未攻略施設はオレとキスラエラ以外は自由参加にした。ぶっちゃけ暇だからだ。
施設に入るには、魔力認証、虹彩認証、指紋認証をクリアする必要がある。
これをクリアするには、魔力の波長変更が出来て、変身魔法のコントロールが出来なければならない。
完璧に出来るのが、オレとキスラエラだけだった。
無数に存在する、各認証を延々と只々繰り返し続け、正解が出る迄行う。
非常に、非常ぉ〜〜に地味な作業だ。
オレとキスラエラは最初に最下層の最も大きな施設から行う事にした。
ここに入れる人物なら、他の施設にも入る権限がある可能性が高いからだ。
僅かな変更を繰り返すだけで、退屈な作業の繰り返しなので、並んだ入り口で2人一緒に行いながら、先日発見した、呪文の文節の文字化と呪文の魔法陣化について談議しながら行った………




