第8章 新婚旅行①
新婚旅行①
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聖樹暦20,019年1月1日、夜明け前
オレは、下着姿の4人の妻を並べ、テキパキと着付けとメイクを施していた。
毎年恒例になる予定の振袖だ!!
キスラエラとの3日間を過ごした後、オレは呉服屋だった。
妻達に最高の振袖を準備する傍ら、直轄の部下全員の振袖と羽織袴を準備した。
4人を引き連れて外に出ると、全員が和服姿で勢揃いしており、西に向かって膝を付いて祈る。
オレ達も日の出を背にして祈った。
日が登り切ると、全員がオレの方に向き直り、
「「「新年、おめでとうございます!!」」」
と、声を揃えた。
「おめでとう、今年もよろしくな」
「「「はい!!」」」
と、例によって非常に短い新年の挨拶をして、それぞれ別れていった。
キスラエラは女王として、新年の挨拶に向かい、ラムとリムもラルと共にサーラール領主館での挨拶に向かった。
オレとルナルーレは、従業員寮と孤児院を周って、お年玉を配って周る。
ちなみに、この世界にはお年玉は無かったが、何処の街でも新年3日間はお祭りだ。
折角なので楽しんで貰いたい。
その後は、キスラエラとラムリムの様子を見て周った。
夕方、クルス商会本部屋上。
オレと4人の妻、ラル、ランド、グッサス、幹部達は全員揃って此処にいる。
これから、新年イベント、“飛空船の創造”を行う。
本部の周りは大勢のギャラリーが訪れている。
名目としては、クルス商会の超大型新商品のお披露目会となっている。
これは、作ったのでは無く、持って来たと勘違いして貰う為だ。
オレは集中して、“スキル 創造”を行う…………
本部の上空にどんどんと巨大な物体が現れる…………
オレの右手の人差し指に、新たな指輪も生まれる。
完成と同時に、指輪から、飛空船の魔導頭脳に、サーラールの街の上空を、ゆっくりと一周する様に命じると、飛空船はゆっくりと動き出した。
眼下は街中大騒ぎになった…………
飛空船は、2対4枚の翼の付いた超巨大な船だ。
船体だけで、全長2,000m、全幅500m。
4枚の翼は各500mで先端には、垂直離着陸機のプロペラの代わりに、重力魔法エンジンが取り付けられている。
船体には大きく“クルス商会 会長専用機”とデカデカと書かれている。
白銀に輝く巨大な機体が、戻って来て、本部上空に止まった。
その後、前もって準備させておいた、街の外の離着陸場に着陸させて、ライトアップした。
この飛空船は、明日からクルス商会にカタログが置かれる。
見た目は同じだが、中身は普通に豪華客船で、オレの専用機の様に、工場や訓練場、研究施設などは無い。
価格は驚異の、70兆エル!!日本円なら700兆円だ。
ウチの従業員の約2億年分の給料だ。
ハッキリ言って、売る気がまるで無い商品なのだ。
おそらく、もっと小型で安価な物を希望されるだろうから、小型化は特注の為、商品価格は変わらないと突っぱねる予定だ。
ちなみに、オレの専用機には名前がある。
“シルバーウィング”だ。
今回の安直なネーミングは珍しく意味がある。
白銀の巨体に大きな翼、まさに“シルバーウイング”だが、オレの専用機に限り、翼無しの船モードと、立方体の箱の中に収まるキューブモードへの変形と、白銀以外に赤と黒のカラーリング変更が出来る様になっている。
何かあった時に変形すれば別の物だと思われるだろう。
真っ黒い箱を見て、“シルバーウイング”と、思い浮かべる者はいないだろうという考えだ。
見た目は船だが、船底付近にも乗込み口がある。
基本は地上に着陸するのだから当然だ。
妻や幹部達を引き連れて、船内へ。
まずは、船橋へ向かう。
船橋は半円状で、中央に球状の魔導頭脳がおり、後方は我が家のリビングと同じソファーセット、ソファーサイズの船長席。
前方はいざと言う時の手動操作用の魔導具。
雰囲気を出す為に、各魔導具毎に座席を設けている。
「やあ、シルバーウイング。
オレがレンジ クルスだ。これからよろしくな」
「はい、マスター、よろしくお願いします」
「「「!!喋った!!」」」
「ここにいるメンバーは、全員おまえへの指揮命令権を持つ事になる。
第1位がオレ、第2位がこの4人の妻、第3位がオレの家族と、配下の幹部達だ」
「畏まりました。
皆様方、私はシルバーウイングと申します。以後お見知り置きを」
「じゃあ、みんな、こっちに来て、名前と魔力情報の登録をしてくれ」
そう、声を掛けて、妻達から順に、名前を名乗って、魔力情報の登録を行った。
「じゃあ、セバス、悪いがこのまま、黒火一族と、直轄部隊の情報登録と、全員に自分の部屋の確認をさせて、問題が有れば纏めて置いてくれ」
「はい、畏まりました」
「みんなも自分の部屋を確認して、着替えや日用品なんかをここ用に準備しといてくれ、新年の祭が終わったら、新婚旅行に出発するから」
オレがそう言うと、今日のお供のリンドレージェを残して、おのおのワクワク顔で自室の場所を確認して向かって行った。
オレは船長席に座って、
「じゃあ、シルバーウイング、各部の確認をして行きたい」
と、各箇所の状況や稼働に問題が無いかを確認して行った。
結果は全て設計通り。
今回の“大規模詳細 創造”は成功した。
その日の夕食は、シルバーウイング内の大宴会場で、完成パーティー兼、新年パーティーを行った。
全員、問題が無いかを確認する意味で、今夜はここに泊まる。
シロネコ達も龍脈以外の場所に慣れて貰う為、今日からはここで生活して貰う事になっている。
翌朝、セバスから、全員の部屋も設計通りだった事を聞き、その後は妻達4人を連れて、サーラールの街の新年のお祭りを楽しみ、その翌日は各々で必要な物の買い物となった。
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1月4日、さあ、新婚旅行に出発だ!!
先ずは、サーラールの街から西に向かい、森の中の古代遺跡にあるらしいダンジョンを目指す。
ここは、古代遺跡の下に広がる前人未到のダンジョン…………では無い。
人数は多く無いが、すでに最下層まで攻略され、奉納されていた“宝剣”も回収済みだそうだ。
ならば何故、このダンジョンに行くのか?理由は練習だ。
今後、新婚旅行中にダンジョンを見つけたら、とりあえず攻略してみる事にしている。
パーティーは、オレと4人の妻、それと通常ローテーションのいつもの幹部のお供だ。
この中で、ダンジョン経験があるのは、ラムとキスラエラ、セバス、シエラールル、リンドレージェだけだ。
オレはもちろん、他の初ダンジョン組もそもそも、オレが作ったゴーレム以外には実際の魔物に会った事もない。
なので、先ずは知られていて、尚且つそこそこの難易度のダンジョンに来たのだ。
そこそことは言え、Aランク冒険者パーティーでも攻略どころか簡単には生きて帰れないらしいが…………
ダンジョンのある遺跡の上空に停止飛行するシルバーウイングから飛び降りる。
オレに続いて、全員が飛び降りて来る。
オレはいつものスラックスにベスト姿だが、他の面々はキチンと鎧やローブに武器も装備している。
妻達と共に今日のお供はダルグニヤンとアンジェだ。
遺跡の建物は崩れ去った物だけで、円形の広場の様な場所に折れた柱がぐるっと立っている場所に、地下への階段だけがある。
『あんな剥き出しの階段で、長年の雨で水没してたりしないのか?』と、思ったがとりあえず入ってみる。
ダルグニヤンが
「先頭は私が」
と、言ったので、
「いや、先ずは魔物がどんな物か確認して行きたいから、最初はオレ1人でやる。
みんなも、距離をとって待機しといてくれ。警戒は怠らない様にな」
そう言って、初のダンジョンアタックに挑んだ。
ダンジョンの材質や構造なんかを確認しながら、降って行き3層目でとうとう、魔物が登場した。
所謂、リビングアーマーとスケルトンナイトだ。2匹づつの計4匹。
「じゃあ、とりあえずは直ぐには殺さないから、警戒はしといてくれ」
そう言って、“白刃”を抜いて、4匹まとめて、両足の膝から下を斬り飛ばす。
ガシャガシャいって、崩れ落ちた魔物だったが、直ぐに腕で這ってくるので、両腕も斬り飛ばす。
すると、ゴロゴロ転がって来た。
流石にこれは予想外だった。
動けなくなるか、手足の修復をすると思っていたからだ。
この後、一体どうするのか気になったので、そのままにすると、ゴロゴロとオレにぶつかって来た。
「………………」
もちろん、痛くも痒くも無い…………
オレだからでは無く転がって来てぶつかられても、普通なんとも無い…………
一体づつ、風属性魔法で空中に静止させて、もう一体づつの頭を持って、さっき斬り飛ばした、腕と足に近づけるとゆっくりとくっ付いて行き、再度斬り掛かって来たので、今度は手足を根元から斬り落とす。
もう一度近付ける。
さっきと同じスピードでくっついて行き、もう一度斬って、今度はこの2匹とは別のリビングアーマーとスケルトンナイトの手足に近づける。
肩と腰に、肘から先と膝から先がくっ付く、腕が振れずにバタバタ動いている。
もう一度斬って、リビングアーマーをスケルトンナイトの手足に、スケルトンナイトをリビングアーマーの手足に近づけるが、何も起きない。
この2匹も風属性魔法で空中に停止させて、もう2匹の所に一緒に行く。
2匹のリビングアーマーの胸部を斬り開いて、魔核を抜くと、ガックリして、魔力を放たなくなった。
もう一度入れると、また魔力を放ち始める。
また抜いて、入れ替えると、入れ替えても復活した。
今度はスケルトンナイトで同じ事をしたが結果は同じ、入れ直しても、入れ替えても復活した。
リビングアーマーとスケルトンナイトで入れ替えたが、こちらは復活しない。
4匹とも復活させて、先ずリビングアーマーの1匹の魔核を半分に斬る。身体が崩れ出したので、直ぐに魔核を継なぐが、崩壊は止まらない。
錬金術でくっ付けるが、それでもそのまま崩れ去った。
今度は、もう1匹のリビングアーマーの魔核を1割程砕く。
2割、3割と進めて、4割目を砕いた所で崩れて行った。
次は、スケルトンナイトの魔核を抜いて、もう1匹のスケルトンの魔核に錬金術でくっ付ける。
すると、スケルトンナイトは1.5倍くらいに大きくなって、手足も生え、胸の傷も治った。
もう一度、斬り開いて、魔核を取り出すと、もう1匹にその魔核を入れる。
こちらも大きくなって、傷が治った。
錬金術で魔核を半分にしてみると、身体が崩壊し始め、半分になった魔核をもう1匹に入れてみると、こちらも崩壊し始めた。
魔核を“ディファレントスペース”に放り込んで、妻達の元に戻ると、キスラエラ以外が驚いて固まっていた。
唯一真剣な表情のキスラエラが、
「流石、ご主人様です。魔物にあの様な生態があったとは…………」
その言葉に、全員が ハッとして、オレ達の会話に耳を傾ける。
「ああ、同種属の魔物は、身体の一部や魔核を共有可能、異種属では不可。
他の魔物の魔核を取り込むと強化、回復するみたいだな」
「はい、以前、大量の魔物を大規模魔法で纏めて攻撃した際に、より強力な魔物になったと聞いた事があります。
おそらく、今の現象の様に、偶然、魔核が圧縮されて結合したのでしょう」
「だろうな。
複数の魔物相手の場合は、大規模な風、土、樹、重力属性の魔法は避けた方が良さそうだ」
「はい、それと魔核の4割の消失で崩壊、崩壊開始後は復活出来ないと言うのも実際に確認出来ました」
「キスラエラはその事は知ってたんだな」
「はい、こちらも聞いただけですが。私自身は試した事がありませんでしたので」
その後は、オレを除く6人パーティーで攻略を進めて行く。
オレはダンジョンの構造なんかを調べながら、後ろを着いて行き、戦闘後に少しアドバイスをする程度だ。
50層でお昼にして、その後も進んで行く。
80層まで行くと、6人ではしんどくなっていたので、補助のみを行っていく様にした。
90層で、ルナルーレ、ラム、リムでは難しくなったので、オレも参加する。
基本は、前衛でのタンク替わりに攻撃を引き付ける役だ。
そして、99層。
そこは、一本の橋のみで、逃げ場の無い場所だった。
左右は底の見えない程の崖だ。
この下は最終の100層の筈だ。
ふと、頭を過ったのは、『もしかして、この崖の下に真のダンジョンとかあるパターンか?』と、言う物だ。
もちろん、確かめに降りる。
『…………あった……この横穴は明らかに怪しいし、深さ的に100層よりも下っぽい……』
一旦、戻って、100層まで行ったらダンジョンボスがいる筈なので、それを倒したら横穴に行ってみる事になった。
100層のダンジョンボスはデカいアダマンタイトのリビングアーマーだった。
「う〜…ん、レベル50万越えか。キスラエラ以外には、ちょっと厳しそうだな…………
よし!!コイツには一切攻撃させないから、全員、全力で攻撃だけに専念してくれ」
「「「はい!!」」」
全員の良いお返事を聞いて、オレが歩いて近づき始めると、全員着いて来た。
あと100mくらいになって、アダマンタイトアーマーが突進して来て、巨大な剣を振り下ろして来たので、回し蹴りで右腕ごと破壊して、額を手で押さえて突進を止める。
ラムとリムが動きの止まった所を前に出ていた右足目掛けて攻撃する。
ルナルーレとキスラエラは息を合わせて、盾を持つ左腕の肘を上下から限界まで薄くした風属性魔法“ウィンドスライサー”の連発で攻撃する。
ダルグニヤンとアンジュが、ラムリムと時間差で右足を攻撃。
アダマンタイトアーマーが右足を持ち上げようとしたので、踏み付けて止める。
足が上げられず、砕けた右腕でラム達を殴ろうとしたので、右肩を殴って砕き飛ばす。
左腕も2人の魔法で切断されると、同時に右の足首も砕けた。
こんなもんかな、と、最後は胸部に“クルス流体術1”“破”で、魔核ごと全身を砕いた。
「思ったより、強い魔物が出るダンジョンだったな」
と、オレが言うと、ラムとリムが、
「ええ、あなたがいらっしゃらなかったら、私達ではまだ無理でしたわ」
「はい、お父様が止めてくれなかったら、最初の攻撃も避けられませんでした…………」
「まあ、2人ともこれからさ、アンジュもな」
「はい、精進致します!!」
「ダルグニヤンはそろそろ装備を強化した方が良さそうだな。
今のも剣がオリハルコンなら削りながら立ち回れそうだったな」
「はい、おそらくですが、お館様の仰る通りかと…………」
「よし、明日からは移動しながら、黒火一族の個人毎に装備の調整をしよう」
「ありがとうございます」
「ルナルーレとキスラエラは綺麗に連携出来てたな、欲を言えば同時に出し続けるんじゃ無くて、攻撃する位置に合わせて、同時に着弾する様にすればもっといい」
「はい!!レンジ様!!キスラエラさんに追いつける様に頑張ります!!」
「私もより微調整が出来るよう、努力致します」
「よし、少し休憩したら、さっき見つけた横穴に行ってみよう。
もしかしたら、今のよりも強いのが出て来るかもしれないから、オレが先頭で、殿はキスラエラとダルグニヤンで行く」
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横穴の先は確かに、真のダンジョンだった。
ダンジョンボスよりも強い魔物もポツポツ居たし、最奥には、レベル100万を超える、リカーヅ公爵並みのボスも居た。
しかし、攻略済みだった…………
明らかに、魔導具と大型の武器があったであろう台座には何も無く、周囲を調べても何も無かった…………
シルバーウイングに戻って、夕食を食べながら、今日のダンジョンでの話しをすると、交代で来たセバスが拍手をして、出て行こうとしていたダルグニヤンは、メイド達に胴上げされていた。
「新装備がそんなに嬉しいのか?」
と、オレが小さく呟くと、妻達も含め、全員が、クワッとこっちを見て、
「「「はい!!」」」
と、声を揃えた。
「はぁ〜〜……前以て言っとくけど、今回の装備の変更は、最低でもレベル1万以上が条件だ。
その中で、装備の変更の意味がある者に限ってだからな」
そう言うと、半分以上のメイドはガックリとしていた。
条件を予想していたであろう、ラムリムは、少し残念そうに、ルナルーレはガックリしていた。
妻達の中で唯一の限界突破者のキスラエラは、期待と不安の表情をしている。
「キスラエラも欲しいのか?」
「…………はい…………」
「分かった、なら最後にな。他の3人もそれまでに達成出来たらな。
今日だけでも結構上がったろ?ここにも、ちゃんと訓練場はあるから」
4人の妻達は手を叩き合って喜んでいた。