第7章 結婚式②
結婚式②
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ルナルーレ達がやって来た翌日、昨日描いていたチャペルのデザインも含めて、結婚式の段取りを決めて行く。
ウェディングドレスに関しては、オレのお楽しみなので、相談の結果、サーラールの街で仕立てて貰う事になった。
ドレスが被らない様に4人で相談すると、ルナルーレが言い出したので、妻達の距離が昨日1日で縮まった様で嬉しい。
次の日は、ラムとリムの所に行って、結婚式の計画を立てる。
ラルから、各地への正式な招待に1週間、来て貰うのに2週間は見て欲しいとの伝言を受けており、なら、3週間後にしようと決めてから、どんな式にするかを決めて行った。
ドレスに関しては既にルナルーレから聞いていた様で、4人で一緒に決めに行くそうだ。
全然タイプの違う4人だが仲良くなっている様で良かった。
大奥とか後宮とか、一夫多妻のドロドロな感じじゃなくて本当に良かった…………
まあ、この4人だ。恐らく喧嘩になるなら、“拳で語り合う”に違いない…………
次の日は、一応、キスラエラのところに行って、ルナルーレへの特訓の合間にちゃっちゃと決めてさっさと帰った。
ルナルーレは「え?それだけ?」と、声に出ていたが、キスラエラ本人は、とても嬉しそうだったので問題ない。
帰ってからは、ラットック支店の状況の報告を受けてから、組織改変の計画を立てて行く。
ある程度は元々決めていたので、近況を照らし合わせて行くのがメインだ。
明日は各店の店長と、店長に昇進するメンバーを本部に招集する様に指示する。
次の日、本部にて昇進発表と組織改変の内容を伝えて行く。
まず、社長に本店店長のローラス。
そして、初期メンバーの残りの6人を商品部、営業部、経理部の3部門に本部長として、各2人づつ。
各店の店長も移動を行い、次に出店予定の王都ギルナーレを含む、各国の王都に配属の店長までを本部役員に任命する。
ぶっちゃけ、このメンバーは全員、黒火一族かビルスレイア女王国から引き抜きしたオレの直轄部隊だ。
但し、本部役員以外は殆ど、採用組だ。
今後は現在決定している、王都ギルナーレとラットック村の出店以降は、本部役員会議で決めて、計画も立てて行く。人員の採用も任せる事にした。
オレの仕事は本部役員会議で決定した内容を確認する事と、新商品の製造ラインと店舗を作る事だけにした。
オレから特に確認が入らない限り、営業状況も月に1回確認するだけにした。
そのまま、各店長に、主任への昇進者を伝えていき、昇進パーティーとなった。
パーティーの中で全員に声を掛けて行く。
特に採用組には、困った事があれば遠慮なくオレに直接言って来ていいと、1人1人に伝えて行った。
次の日からは、飛空船の設計を行う。
今回の飛空船の制作には、オレ自身にも目標がある。
目標は2つ。1つは飛空船を運用する為の優秀な“魔導頭脳”を作る事。
もう1つは、その魔導頭脳を含む複雑な構造を“1度の創造”だけで作る事だ。
その為、より難易度を上げるのに、各個人の希望を取り入れる事にした。
今回は、各部屋の様々な魔導具や家具まで1度で作る予定だ。
全てを思い浮かべて、見落としがない様に、整合性がキチンと出来る様に設計図は時間を掛けてしっかりと組んで行った。
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12月6日
新たに作ったチャペルの中、バージンロードの先に立ってオレは“その時”を待っている。
オレの斜め後ろ。教壇の向こうには、神父に代わり、3m位になった、シロネコがいる。
並んだ椅子の最前列にはクロリュウ、シロリュウ、クロクジラ、ラム、リム、ラル、キスラエラが並び、その後ろには黒火一族と直轄部隊が出向組も合わせて、全員居る。
ガチャッと音がして、扉が開く。
純白のプリンセスラインドレスの大きく広がった長い裾を引いて、今まで見た中で最も美しいルナルーレが入って来た。
左右からランドとグッサスが並んで、バージンロードをゆっくりと進んでくる……
最前列まで来ると、ランドとグッサスは最前列の席に着き、ルナルーレがゆっくりと近付いてきて…………
段差で、転けそうになる!!
みんな、思わず「「「あ!!」」」となったが、オレのステータスは非常に高い!!
前に倒れそうになる、ルナルーレをクルッと回して、お姫様抱っこでキャッチ、そのまま教壇の真正面に行く。
恥ずかしそうに、真っ赤になったルナルーレに笑顔で答え、シロネコに目で合図する。
「……我が主、レンジ クルス。その者、ルナルーレを妻とし、生涯愛する事を誓うか?」
「ああ!!誓う!!」
「ルナルーレ。我が主、レンジ クルスを夫とし、生涯愛する事を誓うか?」
「はい!!誓います!!」
「では、誓いの口付けを」
目を瞑るルナルーレにそっとキスをする。
「ここに誓いは交わされた。我が主の奥方、ルナルーレ クルスの誕生を宣言する!!」
シロネコの宣言にチャペルの中は大歓声に包まれ、ルナルーレはオレの胸で泣いていた。
お姫様抱っこのまま、パーティー会場へ。
いつもは恥ずかしがるルナルーレも今日ばかりは降ろしてくれとは言わなかった。
パーティーは、まあ大宴会だった。堅苦しいより、よっぽどいい。
ランドとグッサスは、ちょっと酒が入っただけで大泣きだ。
そして、宴会と言えば、セバスとダルグニヤンの裸踊りだ。
泣いていたはずのランドとグッサスも踊っている、全裸で。
新婦の親族としてそれで良いのか?
大泣きのままの方が良かったのでは無いか?
そう思うのは、オレだけなのか?
ルナルーレも手を叩いて盛り上げていた…………
その夜、2人っきりになって、“結婚指輪”を送った。
これは、今後結婚する全員が同じデザインにした。
唯一の違いは、内側に刻んである名前だけだ。
ちゃんと、“ルナルーレ クルス”にしてある。
もちろん、ただの指輪では無い。
白オリハルコンを10倍圧縮してあり、“不老永寿”、“状態異常無効”、“病気無効”、“ステータス異常無効”、“緊急避難”、“緊急警報”、の効果がある。
“緊急避難”は、一撃で死亡する可能性がある攻撃を受けた瞬間、もしくは、体力が1割を切った段階で発動し、指輪が球状になって包み込む。
“緊急警報”は、“緊急避難”が発動するか、オレに助けを求めた場合にオレに位置と、ステータス情報が来る。
ルナルーレの指にはめて、結婚指輪だと言って、性能の説明をすると、嬉しそうに、
「結婚の証まで……」
と、言ったので、聞いてみたところ、プロポーズで、お揃いのアクセサリーを送る事はあっても、結婚でアクセサリーを送る習慣は無い様だ。
通りで、結婚式の流れに指輪交換が無いわけだ。
「なら、ラムリムとキスラエラにも、プロポーズのお揃いの腕輪を送っても良いかな?」
と、聞くと、
「絶対に送ってあげて下さい!!」
と、強く言われた。
なので、結婚式の前に必ず送る事を約束して、今着けている2人の腕輪は強化しておいた。
その後は、もちろん“初夜”だ。それはもう“初夜”なのだ。
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次の日から、3日間はルナルーレと2人きりで過ごす。
仕事も護衛も食事の準備も無しだ。
これは、4人とも同じルールにした。
ラムとリムに関しては順番に3日づつになったので、12月12日、結婚式を挙げたら、3日ラムと過ごして、3日働いて、3日リムと過ごして、2日働いて、12月24日にキスラエラと結婚式をして、3日過ごす。
この、2人きりで過ごす事に対して、セバスが、
「では、お邪魔にならぬ様に、陰ながら護衛致します」
と、言って来たので、
「オレに気付かれずに、出来るならやってもいいぞ?」
と、言うと、シェーラが、
「もしも、お気付きになられた場合は……」
「聞きたいのか?」
「「!!!いえ!!護衛は控えさせて頂きます!!」」
と、快く受け入れられた。
朝、目が覚めて、腕の中で眠る、ルナルーレの頭をそっと撫でる。
『よく考えたら、オレの人生で初めて出来た、奥さんなんだよなぁ〜……
そして、来週には2人増えるなんて、オレの人生どうかしてるよなぁ〜…
さらに増えるしなぁ〜…まぁ、ハーレム系主人公は、もっとゴリゴリだし、大丈夫!!』
と、自分に言い聞かせていると、ルナルーレが目を覚ます。
「おはようございます……」
「おはよう、今日はどうする?」
「宜しければ、レンジ様のお店を見てみたいのですが?」
「分かった、なら、ラットック村の新店と、サーラールの本店とどっちがいい?」
「それでしたら、サーラール本店の方に行きたいです。
そのまま、街を見て周っても宜しいでしょうか?」
「ああ、じゃあ今日はサーラールでデートにしよう!!」
「はい!!」
支度をして、本部経由でサーラールの街へ、
『そういえば、この街でモーニング食べるの初めてだなぁ〜』と、思いながら、朝食をとって、サーラール本店へ、多くのお客さん達に声を掛けられながら、店内をゆっくり見て周る。
もちろん、欲しそうにした物は片っ端から買ってあげる。
遠慮するルナルーレに、「1年分のプレゼントだから、遠慮しなくていいよ」と言って、ドンドン買ってあげた。
街でも、洋服やアクセサリー等、片っ端から買ってあげた。
もう一度、遠慮するルナルーレに、「この街の景気が良くなったら、ラルの役に立つからいいんだ!!」と、ドンドン買ってあげた。
昼食は途中にレストランで取ったが、夕食はどうするのか聞くと、
「実は、明日はラットック村のお家で2人っきりで過ごしたくて、今夜の夕食の分からは、既に準備してあるんです」
と、言われたので、ルナルーレの“リターン”で、なんだか懐かしい、ラットック村の家に“帰った”。
さすが、ルナルーレで、ちゃんと、タオルやオレの着替えも準備してあり、まずは一緒に風呂に入った。
「懐かしい……ここは、この世界のオレが始まった場所…………」
「?どう言う事ですか?」
オレの呟きにルナルーレが聞き返して来た。
「……声に出ちゃってたか。
ここでオレはキミを好きになった。
それまで、この世界に来てから作業みたいに計画を進めるだけだったのに、キミと、一緒にいたいと思った。
そこから、この世界で“オレは生きてるんだ”って思える様になったんだよ…………」
「……ありがとうございます、レンジ様……この世界に来て下さって…………」
そのまま、ゆっくり時間が過ぎて、風呂から出た時に、
「ルナルーレ、結婚指輪、ちゃんと効果あるだろ?」
と、言う。ハテナ顔のルナルーレに、
「“状態異常無効”だから、今日はのぼせてない!!」
と、言うと真っ赤になって、ほっぺたを膨らませた。
今日もルナルーレのギャップ萌えは可愛い。
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その後の2日は、ラットック村でゆっくり過ごした。
オレに気付いて、驚く人もいたが、何食わぬ顔で挨拶して、一切説明しなかった。
ルナルーレとの3日間が終わり、仕事をする前に、ちゃんと約束を守って腕輪を作り、3人に渡す。
ラムですら、涙を流して喜んでいたので、早く渡してあげれば良かったと思ったが、ルナルーレに何も言わずに同じ物を渡す訳には行かなかったから仕方ない。
そう、仕方がなかったのだ。
お詫びに、結婚式の後にもプレゼントがあるからと、教えておいた。
その後は仕事だ。
商会の人事異動後の状況や各地の諜報の内容を聞いて行く。
商会の方は、特に問題はなかったが、ハルマール王国とドルレア王国の戦争に関して、商会の商品を戦場に持って行く者が増えている様だ。
今後、規約違反で購入出来ない者が出て来るだろうとの事だった。
とりあえずは、そのままにして、大きく動きがあったら即報告する様に伝える。
続いては、ずっと続けている、飛空船の図面の作成だ。
徐々に各部屋の希望が上がって来ているので、細かい部分まで描き込み、調整して行く。
最初は、非常にシンプルな要望ばかりが上がって来たので、全員に再度、もっと自分の趣味に走った複雑で個性的な物に描き直しさせた。
翌日も図面を描いて、さあ、ラムリムとの大結婚式だ!!
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大改装をした、元孤児院の教会内の控室にウエディングドレス姿のラムとリムが入って来た。
ラムはシンプルだが、胸元の大きく開いたマーメイドラインのドレス。
リムは後ろの大きなリボンが特徴的な、Aラインのドレスだ。
「2人とも、いつにも増して綺麗だ」
オレがそう言うと、嬉しそうにニッコリ微笑む。
「じゃあ、行こう」
2人と腕を組んで、教会の聖堂に向かう。
聖堂内はびっしり貴族っぽい人達で埋まっていた。
バージンロードを3人でゆっくりと進み、教壇に立つシスターの前へ。
「レンジ クルス、その者、ラムを妻とし、生涯愛する事を誓うか?」
「ああ!!誓う!!」
「ラム、その者、レンジ クルスを夫とし、生涯愛する事を誓うか?」
「はい、誓います!!」
「レンジ クルス、その者、リム ルザスンを妻とし、生涯愛する事を誓うか?」
「ああ!!誓う!!」
「リム ルザスン、その者、レンジ クルスを夫とし、生涯愛する事を誓うか?」
「はい、誓います!!」
「では、誓いの口付けを」
オレは目を瞑る2人の腰を抱き寄せて、順番にゆっくりキスをした。
「ここに誓いは交わされた。ラム クルス、リム クルスの誕生を宣言する」
宣言と共に大きな拍手が巻き起こった。
その後は、街頭パレードだ。
“某夢の国のネズミ”の気分で、ソファーに座って、ラムリムをいつもの定位置に配置して、街の人達に手を振る。
今乗っているのは、クルス商会の自動車の特別仕様だ。
6人乗りのワインレッドのゴツイ、オフロードカーの上に櫓を組んで上にソファーを置いて、四方に結界柱を設置した物だ。
ちなみに、今後はこの櫓はオプションパーツとして販売する。
街は大盛況で祝福の言葉のシャワーだった。
オレってこの街で人気があるんだなぁ〜……とか、勘違いはしない!!
ラルの計らいで、今日1日、商業ギルド、魔法ギルド共に免税。
さらに、住人には1人につき、金貨1枚配ってくれた。
それはもう、お祭り騒ぎにもなる。
そりゃあ、今日の主役のオレ達はみんなから、感謝、祝福されるに決まっている。
大通りをゆっくりと進み、領主館へ。
少し休憩、ラムリムはお色直しだ。
ラムは薄いピンク、リムは薄い水色のドレスを身につけていた。
ラムの色っぽさに、少し可愛いらしいドレスはギャップが逆に良い。
リムは清楚さをさらに強調されていてとても良い。
「2人とも、そのドレスもとても良く似合ってる。とっても可愛いよ」
と、言うと、両腕に抱きついて来て、
「ありがとうございますわ、あなた!!」
「ありがとうございます、お父様!!」
と、声を揃えて言った。
この後は、若干面倒だが、貴族相手のパーティーだ。
3人で腕を組んで、会場に入ると、大きな拍手で迎えられ、主賓席へ。
「本日は、オレ達の為にお集まり頂き、ありがとうございます」
そう言って、頭を下げる。
それだけ、言ったら、後はラルに丸投げだ!!
ラルがキチンと貴族っぽい、丁寧で回りくどい紹介と挨拶をしてくれた。
そこからが、大変だ…………
オレもこの国では、既に結構有名で、ラムはもちろん有名だ。
ご挨拶ラッシュが止まらない。
しかし、問題は最後の1人だった…………
てっきり、偉い順に来ていると、思っていたが、最後の大トリも偉い人だった。
「お前が、クルス商会のクルスか」
今までと違い、『祝いの席なのにかなり上からくるな』と思っていると、
「お父様!!」
「お祖父様!!」
と、左右から声が上がった。
なるほど、この人がラムの父 ブランド リカーヅ公爵か、ラルを威厳増し増しにした様な厳つさだ。
「お初にお目にかかります。公爵閣下。
この度、ご令嬢とご令孫を娶らせて頂きました。
レンジ クルスと申します」
「2人の事はいい。2人とも子供では無いのだ。
顔を見れば望んでの結婚である事は分かる。
しかし、ワシはお前にどうしても聞かねばならぬ事がある!!
ラルから聞いた、お前は大魔王様よりも自分の方が強いと言ったそうだな!!」
「いいえ、公爵閣下、それは違います。
オレは、オレの方が遥かに強いと言ったのです」
リカーヅ公爵が怒りを露わにして、会場も殺気だってザワつき始める。
「うぅ〜…ん、困ったな、折角のお祝いだから、楽しくやりたかったんだが…………」
「申し訳ありません、父上。
母上との馴れ初めを聞かれましてつい……」
「いいよ、ラル。嘘を言ったわけじゃ無い。
大丈夫、証人を呼ぶから」
「証人だと?」
訝しむ、公爵を他所に、オレはシロネコ達を召喚する。
「お呼びか、主」
「ああ、この方々が、オレが大魔王よりも強いと信じてくれないから、証言してくれ。
今日は結婚式だから、穏便にやりたいんだ」
そう言って、ラムとリムを抱き寄せる。
ラムとリムは安心したのか、抱き寄せた以上にくっ付いてきて、ラルもホッとため息を吐いた。
周りの面々は、イラつきながらも状況を見ている。
「承った。我は白銀の獅子 チャンディスィンハ 神獣 ナラシンハだ」
シロネコが名乗ると、続いて、クロリュウと、シロリュウも名乗る。
「俺様は暗黒竜のシェーシャ」
「私は聖龍 アナンタ、こっちは、コンティネントホエール ケートーです」
クロクジラは今日も安定のプカプカなので、シロリュウが代わりに紹介。
クロリュウも久々の“俺様モード”で自己紹介だ。
「我らの名を持って、我が主が、アヤツよりも強い事を証言しよう」
全員がシロネコ達の名乗りに固まった。
やっぱりシロネコ達はビックリ要員として、優秀だ。
リカーヅ公爵が、動揺しながら、声を掛ける……
「……ナラシンハ様なのですか?」
「ん?見た事があるな。
おお、アヤツが最初に連れて来た“子”の1人か」
それを聞いて、リカーヅ公爵が跪く。それに続いて、貴族達も跪いた。
「!!はい、聖樹の元でお会いした事が御座います!!」
「ああ、あん時のガキの1人っスか。確かに見た事あるっスね」
「ええ、言われてみれば、そうですね」
「なんだ?知り合いか?」
「ええ、我らがまだ“知恵の実”を得て1,000年程の頃、アヤツがやっと自分にも眷属が生まれたと、連れて来ました。その頃はまだ、“原初のモノ”の半数は聖樹の元におりました。そこで、1度」
「そうか、これで信じて頂けましたか、公爵閣下?」
「…………しかし……」
「アヤツの眷属よ、もし、アヤツが生きておったとして、我とシェーシャを同時に相手をして、生き残れると思うか?」
「いえ、さすがにそれは難しいかも知れません…………」
「我が主は、我らを同時に相手をし、尚且つ、我らを回復しながら戦い続けても、傷1つ付ける事が出来ん。
その様なお方だ。
我とシェーシャが主に仕える事になった時も1秒と掛からず敗れた。アヤツでも敵わぬが道理」
「そんな!!まさか!!」
「お父様、本当ですわ。
私もその訓練に参加させて頂きました。
私達を含めた125人の彼の配下とナラシンハ様、シェーシャ様を同時に相手をされて、私達全員を回復しながら、無傷でしたわ。
ちなみに、私達親子3人はその中で最弱。
彼の配下の中で、私達が唯一勝てたのは5歳の少年だけでしたわ」
「!!!!」
「お祖父様、本当です」
「公爵閣下、事実です」
「……信じて頂けましたか?」
「はい、信じます。無礼な発言の数々、お許しください」
「問題ありません。公爵閣下のご心情もおありでしょう」
「寛大なお言葉、感謝致します!!」
と、なったので、ラルに仕切り直させて、パーティーの続きとなった。
せっかく来たので、シロネコ達もそのまま参加させたが、また負け自慢を大勢に聞かせていた…………
酒の回った貴族連中から、“娘上げます攻撃”を散々受けた。
結婚披露宴で?と、思ったが、ラムリムの様子から普通の事の様だ。
全員に「お見合いはしません」と、何十回も言った…………
やっと終わって、ラムリムを掻っ攫って、さっさと我が家に帰る。
自室で一息吐くと、ノックと共にラムが入って来た。
わざわざ着替えたのだろう、ウエディングドレスを着ていた。
「今日はお疲れ様でした」
「ああ、大丈夫。これもラムを手に入れる為の必要な儀式さ」
「ありがとうございます……」
いつもの艶っぽさが、純白のドレスに映える。
しばらく見つめ合って、
「ラム、左手を…………」
そっと、手を上げるラムの薬指に“結婚指輪”をはめる。
「……結婚って、こんなに嬉しいものだったんですのね……」
そう言って、涙を流しながら目を瞑るラムに、そっと口付けた…………
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ちゃんと、初夜った、翌朝。
ほぼ同時に起きて、
「おはよう、今日はどうしたい?」
と、聞くと
「あなた……誠に申し訳ないのですが…………」
そして、オレはサーラール領主館の裏手の訓練場にいた。
オレの前には、“お義父さん”となったリカーヅ公爵。
巨大な斧を構えて、こちらを睨んでいる。
周りは昨日のパーティーにいた貴族がズラリ。
もう、お察しだろう。
魔族によくある“強いヤツと闘いたい病”だ…………
もしも、これがラムと結婚する前の「お義父さん!!娘さんを下さい!!」「お義父さんだと!!ワシに勝ってから言え!!」とかだったら、オレも少しは盛り上がれたが、ラムに連れて来られてから、「クルス様、本日はありがとうございます!!」と、頭を下げられる所からだと、全く盛り上がらない…………
まあ、やるけどね。
愛する妻が、「私がどれほど素敵な方に嫁ぐのか知って貰うのが、最後の親孝行だと言われまして…………」と、お願いして来たからね。
「クルス様、クルス様は素手でもお強いそうですが、変わった剣をお使いになるとか。
是非、拝見したいのですが」
「分かりました。これでいいですか?」
そう言って、愛刀を腰に2本挿して、両手に抜く。
「いつでも、どうぞ」
「では!!」
掛け声と共にリカーヅ公爵は真っ直ぐ突っ込んで来た。
『早いな。こりゃあ、セバス達でも無理だな。
レベルも100万超えてるし、同じ元大魔王の将軍でも、キスラエラより圧倒的に強い。
斧も黒オリハルコンみたいだし。
どうしよっかな…………。
まあ、斬っても治せばいいか!!』
と、考えて、振り下ろされる斧を、左の刀の背で外に受け流して、右の刀で、踏み込んで来た左足の太ももを下から斬り飛ばす。
そのまま、円を描く様に振り下ろした後の両腕を斬り、回し蹴りで吹っ飛ばす。
驚く公爵に向かって、落ちて行く公爵の手足を蹴って、“神聖属性魔法”でくっ付けて回復する。
公爵が地面に着いた時には、綺麗に治っていた。
座り込む公爵に向かって、落ちていた斧を公爵に放り投げて、人差し指を立て、クイックイをする。
斧を拾って、公爵は獰猛な笑顔で、もう一度迫って来る。
「烈震斬!!」
と、叫んで大上段から振り下ろして来る。
オレは右の刀を地面に刺して、中指と人差し指で白羽取りをして、そのまま公爵ごと後ろにポイっと投げる。
空中で大勢を整えて着地と同時に再度突っ込んで来る公爵に、オレは振り向かず刺していた刀を抜く。
公爵が左から横凪に振り抜く。
「烈波斬!!」
オレはジャンプして宙返りしながら、公爵の腕を両肩から斬り飛ばし、後方に着地と同時に足を払う。
体勢を崩した所を1回転して、回し蹴りで再度吹っ飛ばす。
刀を鞘に収めて、落ちている公爵の両腕を掴んでまた、公爵に投げつけて、“神聖属性魔法”でくっ付けて、公爵が着地、地面を転げて行く。
オレが腕を組んで待っていると、公爵が地に額をつけて、
「ありがとうございました!!」
と、言ったので、ラムの方に行こうとすると、
「クルス様!!ワシを弟子にして下さい!!」
と、リカーヅ公爵…………
「妻の父親が弟子とか、絶対イヤです」
「ラム!!今すぐ、クルス様と別れろ!!」
と、公爵が言った瞬間、オレはリカーヅ公爵の顔面を鷲掴みにして、殺気が漏れる……
「オレからラムを奪おうとするなら殺すぞ…………」
公爵は、冷や汗をダラダラと流し、膝がガクガク震えている。
「申し訳ありません……失言でした……お許しください…………」
手を離してニッコリ笑って、
「分かって頂ければ良いんですよ、お義父さん」
と、言った。
走って来たラムが、飛び付いて来たので、ちゃんとキャッチして、そのままクルッと回ってお姫様抱っこにする。
「あなた、今日も素敵でしたわ!!」
「ラムにそう言って貰えるなら来た甲斐があったよ。
それでは、公爵閣下、みなさん、これで失礼します」
そう言って、まだガクブルの公爵とギャラリー達を残して、サーラールの街へちょっと早いランチに向かった…………
昼食を取りながらラムと先程の話しをする。
「ラムはさっきのどこまで見えてた?」
「申し訳ありません、殆ど残像の様にしか、見えませんでしたわ。
あなたは、もちろんお父様の動きも…………」
「そうか。まあ、リカーヅ公爵も結構強かったからな。
多分、黒火一族も全員無理だろうから。
大魔王はシロネコ達くらい強かったんだろうけど、南の魔王は公爵よりも強いのか?」
「おそらくですが、お父様よりも強いと思いますわ。
お父様が自分よりも弱い者に仕えるとは思えませんもの」
「たしかにな。
なら、ウチのメンバーも、もうちょっと強くなんないと、なんかあったら心配だな。
しょうがないから、アレを作ろうかなぁ〜……」
「アレとは、なんなんですの?」
「訓練用のゴーレムだよ。
ただ、強くするだけなら、オレの魔導具で簡単に出来るけど、ウチの連中はそれじゃあ納得しないからさ。
ラムもだろ?」
「はい、申し訳ありません、めんどくさい女で…………」
「なに言ってるんだ、そこはちゃんとラムの魅力だよ。
自分を高めようとするラムを、オレが否定する訳無いじゃないか」
「あなた…………」
さっきのオレとリカーヅ公爵との戦闘に興奮していたのと、今の良い雰囲気とが相まって、この後は“我が家”に帰って、昼間っから、ずうぅ〜〜〜………っとイチャついて過ごした。
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翌日は、2人っきりで狩りに行きたいと、言われた。
相手は黒竜が希望だそうだ。
狩りならいつでも良いのでは?と、思ったが、2人っきりに意味があるそうだ。
ラムが楽しそうなので良しとしよう。
ちょくちょく、黒竜を止めては、手取り足取り指導してあげる。
もちろん、ボディタッチは多めだが、内容はちゃんと真面目だ。
キチンと、細かい位置どりや攻撃の角度まで指導する。
まだ、火力不足でトドメは、オレの魔法で補助したが、Aランク程度の黒竜を削って行くだけなら自力で出来る様にはなった。
ラム自身も成長を感じられた様だ。
3日目、オレが剣を作る所が見てみたいと言われた。
「なら、今までで、最高傑作を作ってみようか」と、なって、オレの“ディファレントスペース”に行く。
“ディファレントスペース”の奥の方、何も無い真っ白い床が続く所まで行く。
“スキル 創造”で、1万km四方の白オリハルコンを作り、それを10cm四方まで圧縮して、“超圧縮白オリハルコン”と名付ける。
黒オリハルコンでも同じ事をして、“超圧縮黒オリハルコン”と名付ける。
続いて、聖龍の鱗1万枚を圧縮、直径1mm長さ1mの糸状にして、“超圧縮聖龍の鱗糸”と名付け、暗黒竜の鱗でも“超圧縮暗黒竜の鱗糸”を作り、コンティネントホエールの皮1万枚を圧縮して縦横10cm厚さ1mmの“超圧縮コンティネントホエールの皮”を作る。
刀身から鍔、柄まで“超圧縮白オリハルコン”で、柄巻は“超圧縮聖龍の鱗糸”、鞘も“超圧縮白オリハルコン”、剣帯を“超圧縮コンティネントホエールの皮”でそれぞれ細かい部分までを想像して、“創造”する。
純白の鞘に収まった、一振りの純白の刀が出来上がる。
続いて、“超圧縮黒オリハルコン”、“超圧縮暗黒竜の鱗糸”、“超圧縮コンティネントホエールの皮”で、漆黒の一振りを創造する。
二振りの刀を両腰に下げて、抜く。
そのまま、ラムの所に行き、今出来た刀を見せる。
「こんな感じだよ」
と、言うと、
「…………凄いですわ……。
お作りになっていた時の集中力も出来上がるまでの手際も…………」
「ありがとう、ラムの前だから、張り切っちゃったんだよ。
お陰で、本当に今までで1番良い出来だと思う。売り物にはならないけどね」
「そうですわね。
ここまで凄いと、お金で買えるモノではありませんわ」
「いや、ちょっと違う。
単純に重いんだよ。持ってみるかい?」
そう言って、鞘に収めて、床に置く。
手で示すと、ラムがしゃがんで、持ち上げようとして、ビックリした顔でこちらを見る。
「な、重いだろ?ここまで重いとシロネコ達でも運ぶのがやっとだと思うよ」
「…………でも、あなたにとっては1番良い出来なんですわよね?」
「ああ、ちょっと振って見せようか」
そう言って、もう一度腰に下げて抜く。
ラムから少し離れて振り返り、ニッコリ笑うと、表情を消して、ゆっくり剣舞を舞う…………
徐々に、徐々にスピードを上げる…………
シロネコを斬った時くらいまでスピードを上げてから、ピタッと止めて、ゆっくりと納刀。
最後にキーンッという音が2人だけの静かな空間に響く…………
一筋涙を流し、こちらを見続けるラムに、ニッと笑って、
「惚れ直したか?」
と言うと、1つ頷き、駆け寄って来て飛び付いてキスをして来た。
そのまま、しばらく抱き合って、今作った二振りに“白刃”と“黒刃”と名付けて“ディファレントルーム”に仕舞う。
我が家に戻ると、昼食はラムが手作りしてくれるらしい。ラムの手料理は初めてだ。
よく考えたら、ラムとの3日間は食事の回数が非常に少なかった。
「もしかして、この為か?」と、聞くと、「空腹に勝る調味料はありませんわ」と、返って来た。
ラムの手料理は普通に美味しかった。
この日の為に、実は練習してくれていたそうだ。
昼食の後はゆっくり過ごす事になって、レベルが1万を超えたら、ラム用の装備を作ってあげる事になった。
夕食はオレが作って、一口食べたラムが驚愕の表情をする。
「空腹に勝る調味料は愛情だよ」と、言って“料理スキル レベル10”の事を教えてあげる。
ラムは料理の修行もすると張り切っていた。