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第5章 進出③

進出③




▪️▪️▪️▪️




18時少し前、優等生の勇者一行は全員既に来ていた。計9人だ。

全員がこの世界に来た時の制服姿に武器を持っただけの格好だった。


最後に入って来たオレに注目が集まる中、オレの後をゾロゾロついて来る使用人達に少し引いていた。


大物感を出す為と、給仕で会話を遮らない為にダルグニヤン、ガリーの執事2人に、シエラールルとキスラエラに10人のメイドを連れて来た。


ガリーが店の人間と少し話して、給仕はメイド達が行う事とけっして会話を聞かない様に良い含めていた。

もちろん、このレストランは黒火一族の諜報拠点なので、ただの演出で最初から決まっていたやり取りだ。


オレは席について自己紹介をする。


「オレはクルス商会の会長をしている、クルスだ。

今日は雷十ノ助さんとキヨさんに頼まれて、君達にこの世界の事を少し教えに来た」


オレがそう言うと、店の周りで、バタバタと人が倒れた様な音がする。


「と、この様に盗み聞きの心配もない。キミ達の持っている“盗聴用の魔導具”以外は。

先に言っておくが、オレは頼まれて来ただけで、別にキミ達に教えたい訳じゃない。

魔導具を出すか、帰るか決めてくれ」


顔を見合わせながらも、全員が魔導具を机の上に出す。


「ダルグニヤン、シエラールル」


と、オレが声を掛けると、2人が男女別に服の中に手を突っ込んで盗聴用の魔導具を次々と外して行く。


最初は「え!なに?」とか「いきなり何すんだ!」とか聞こえていたが、何個も出てくる盗聴の魔導具達に、言葉を失っていた。


最後に全てを袋に詰めて、ダルグニヤンが“ディファレントルーム”に仕舞う。


「じゃあ、話しをしようっと、その前にキミ達はもう注文は済んでるのか?」


「いいえ」とか「まだです」とか言って首を振る。


「オレの分は注文してあるだろうから、キミ達も食べるなら先に注文を済ませてくれ。

各自自腹だから、遠慮なく好きなものを頼んでくれ」


オレがそう言うと、女勇者組の1人が、


「ええ〜!!社長さんと食事なのに自腹なんですかぁ〜?!」


と、叫び、周りがウンウンと、頷いている。


「メシを奢るくらい問題は無いが、奢ってやる理由もない」

とオレが言うと、女勇者が、


「…………私にも?」


と言って、自分のスカートを指差して、仲間達の方をチラッと見た。

『コイツ、“あの時”やっぱり気付いてた!!で、オレが誰だか覚えている!!』


「…………分かった。キミのパーティーの分はオレが出そう」

と、オレが言うと、今度は男勇者が、


「オレ達は?オレ達はダメなの?オレ達全員、金持たされてないんだけど!!」


「…………全員?いつも?」


全員がコクコク頷く。

じゃあ王国は“逃亡防止の為”に常に無一文状態にしてるって事か。


「…………あのさ、この店、ぱっと見、ちょっと高そうじゃなかった?

無一文で入って、ウェルカムドリンク飲んでたの?」


「…………雷十ノ助さんの手紙に信用出来る、優しい人だって書いてたから……」


と、男勇者くんが呟く。

優しい社長が必ずしも奢ってくれるとは限らないだろう…………


「…………はぁ〜…分かった、全員奢ってやる好きなだけ頼め。

但し、酒は話が終わってからにしろよ」


「「「やったーー!!」」」


「話しの後なら呑んでも良いの?好きなだけ?」

女勇者組の子が、手を挙げて聞いてくる。


「ああ、好きなだけ呑んだら良い」


「ありがとうございます!!私はクルスさんの話しは全て信じます!!」


「…………まだ、何も言って無いけどな…………」


そして、食事をしながら、軽い感じで、雷十ノ助さん達にしたのと同じ話しをした。


時折、オーバーリアクションで驚いていたが、半信半疑ながらも全員が一旦は受け入れた様だった。


「…………と、言う訳だ。で、これからキミ達はどうする?」


「…………直ぐに答えを出さないといけませんか?」


と、女勇者が代表してか、聞いて来た。


「いや、別にキミ達の好きにすればいい。

最初に言ったが、オレは雷十ノ助さん達に頼まれて来ただけだ」


「だったら、みんなで相談して決めさせてください。…………呑み終わった後で……」


『おまえもか!!』と、心のツッコミを入れて、オレは勇者パーティー達を残して退散した。

この子達にとっては久々の自由だったのかもしれない。




勇者達は結局、国王を問い詰める事にした様だ。

その後がどうなるかは、もうオレの知る所では無い。






▪️▪️▪️▪️





同じ頃、ハルマール王国 謁見の間


「父上!!お呼びですか?」


大きな声で、王太子が扉を開けながら入って来る。

其れに対して、国王が少し嫌そうな表情で話し始めた。


「おまえ、最近、“クルス商会の魔導具”を大量に買ったらしいな?」


「ええ、あそこの武器は凄まじですよ。どれをとっても全て超一級品です。

この剣などは、なんと“オリハルコンとアダマンタイトの合金製”ですよ」


そう言って、腰に下げているお気に入りの長剣を満面の笑みで示す。


「オリハルコンとアダマンタイトの合金だと?!本物なのか?」


「ええ。鑑定もしましたが、何より実際に斬ってみて本物だと確信しました。

アダマンタイトの盾が斬れたのです」


「「「アダマンタイトを斬った〜〜〜?!」」」


周りに控えていた貴族達も一斉に大声を上げる。


「はい、ですが驚く所はそこでは有りません。

父上、本来ならこれ程の剣、国宝になってもおかしく有りません」


「うむ、たしかに」


「しかし、クルス商会には、コレと同じ材質の多種多様な武器があり、更に、私がこの剣を買った1週間後には、同じ剣が店頭に有ったのです」


「なんだとぉ〜〜!!そんな武器が幾らでも手に入ると言うのか!!」


「「「!!!!」」」


「はい、コレは戦争を一変させます。

“クルス商会”の装備を多く持つ国が必ず勝利します」


「〜〜〜……!!忌々しい!!

あの死の商人め!!どうしてくれようか!!」


「!!恐れながら、陛下!!クルス商会に手を出されるのはお控え下さい!!」


「!!宰相!貴様日寄ったか!!」


「はい、申し訳ありません。

しかし、今日のあの“殺気”を目にしては、諜報部隊の報告を信じざるお得ません」


「諜報部隊の報告だと?」


「はい、現在すでに、魔王支配下の3国では、“クルス商会に手を出してはいけない!!”と、言うのは常識になりつつある様なのです」


「3国全てでか?」


「はい、曰く、南では、クルスが領主の妻を気に入って寝取り、それに腹を立てた領主が店のオープンセレモニーに乗り込んで来た所、領主を含め連れて来ていた数百人の騎士を一瞬で斬り刻み、その後、何事も無いかの様に営業を開始したとか。


更に、東では、女王が従業員に怪我を負わせた事に怒り、女王城を一瞬で瓦礫の山にし、その後、Sランクを超える超大型の魔獣を都の上空に召喚して1昼夜、女王を脅し続け、今では、東の国には“クルス商会”以外の魔導具屋は存在しないとか。


正直、尾ヒレはヒレのものと思っておりましたが、事実である可能性は十分にございます」


「なんだと!!あの魔女が膝を着いたと言うのか?

万の軍の守る街をたった一晩で焼き尽くしたと言う、あの大魔王の妻をか?」


「はい、少なくとも、ほんの1月余りの間に、ビルスレイア女王国の魔導具屋が“クルス商会”のみになったのは事実でございます」



「!!トルーツルイセ騎士団長!!どれだけの人数ならヤツを殺せる!!」


「申し訳ありません、分かりません、陛下。

あの場でヤツは全く本気では有りませんでした。


通常、私が殺気を放ったとして、気の弱い者なら意識を失います。

しかし、ヤツは全員を等しく“あの状態”にしました。

1人1人に合わせて完全にコントロールしてあれ程なのです。


もしも、魔王キスラエラ ビルスレイアをも、殺さずに屈させたのならば、我が国の全軍を持ってしても勝てるかどうか分かりません」


「…………暗殺しか無いか……」


「陛下、たびたび申し訳ありません」


「!!なんだ、宰相!!まだ有るのか!!」


「暗殺の件に関しまして、ご報告が……」


「なんなのだ!!さっさと申せ!!」


「はい、ヤツの住居となっている、商会本部は“暗黒竜の鱗”で出来ており、何をやっても傷一つ付かないとか……更に、ヤツの周りには、本日もおりましたが、常に執事かメイドが控え、護衛をしており奇襲を受けた事すら無いとか……」


「ならば、毒は?魔導具は?何か無いのか!!」


そう叫んだ国王の後ろに、突然黒い影が現れた。


「お館様には、毒も魔導具も効きませんよ」


と、黒い影。セバスが声を発した。


「!!!!!!」


突然現れた、クルスが連れて来た執事と瓜二つの人物に、国王が玉座から飛び退き、尻餅を着いて後ずさる。


「お館様は寛大なお方です。

話し合ったり、計画を立てるだけであれば罪に咎める事は無いでしょう。

しかし!!」


セバスが普段全く見せることの無い、激しい怒りの表情になる。


「「「…………!!!!」」」

その場の全員が声にならない悲鳴をあげる。


「我等配下は、お館様を害そうと考えるモノを許さん!!」


そう言ったセバスは一瞬にして、玉座の後ろから、入り口に移った。

するとセバスの左右に2人づつ、計4人のメイドが同じく怒りの表情で立っていた。


セバスを含めた5人が並ぶと、ポトポトポトッと、何かが落ちる音がして、


「「「ぎゃぁ〜〜!!」」」

「「「手がぁ〜〜!!指がぁ〜〜!!」」」


と、国王を含む100人を超える貴族達が喚き散らした!!

全員が先程の一瞬で左手の親指を失い大量の血を流していた。


「ハルマール国王、これは警告だ。次は貴様らの首で同じ事をする」


それだけ言うと、セバスとメイド達は消えていた………




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