第4章 クルス商会③
クルス商会③
▪️▪️▪️▪️
5月10日
クルス商会 サーラール本店 オープンだ。
10時まであと僅か、準備は万端だ。
今日はスケジュールを調整して、オープンから3時間は黒火一族を全員召集している。
ラム達と魔法ギルドのギルドマスター達“教育を受けた”者達も既に来ている。
店の前は長蛇の列が続き、“彼ら”が近付いて来てるのもオレの“感知”で確認済みだ。
そして10時
幹部6人とラム達、魔法ギルドの面々を引き連れて表へ向かう。
自動ドアから出て、外に準備していた壇上に上がる。
「皆さん、今日は大勢お集まり頂き、ありがとうございます。
本日より、クルス商会 サーラール本店をオープン致します。
それを記念して、事前登録及び本日、会員登録をして下さった方に記念品のプレゼントを……」
と、ここで領主の登場だ。
「貴様がクルスか!!」
先頭に領主、一歩下がって左右にドルスンダと長男。
その後ろには500人程の騎士がついて来ていた。
領主は筋骨隆々の巨漢で身長は3mくらいある。
フレンドリーマトンチョップス髭のムサイ顔で、傲慢が服を着て歩いている様で、オデコにも傲慢と書いてある。
いや、オデコは幻視だった。
長男は領主を一回り小さくして、顔はほぼ同じ、ドルスンダは丸々太ったハゲ悪徳商人だ。
「これはこれは、領主様。本日はどの様な御用向きで?
領主様をご招待した記憶はございませんが?」
「!!貴様ぁ〜……!!随分と調子に乗っている様だなぁ〜……!!」
「滅相もございません。オレはちゃんと実力に見合った行動しかしておりませんよ?」
「!!減らず口をぉ〜…!!
オイ!!ラム!ラル!リム!貴様らはそこで何をしている!!」
「私はクルス様のご命令で、映えあるクルス商会のオープン記念セレモニーに参加する様に言われましてここにおります。現領主、あなたと違って」
「!!現領主だとぉ〜…!!それが夫に対する口の聞き方か!!」
「仕方がありませんわ。クルス様はとても素敵な素晴らしい方ですもの。
あなた如きとは違いますわ。
あなたの粗末なモノと違ってとてもご立派ですし、あなたの粗末なモノと違って……」
「ええ、幼い頃に見た、あなたの粗末なモノとは比べ物になりません」
「!!!!!!!!!」
…………思っていたのと大分違う挑発だが、リムの追い討ちに領主が怒りで言葉を失う。
良し!!気を取り直して、オレがトドメは刺そう。
「オイ、粗末な領主!!オレの女になに勝手に話し掛けてるんだ?」
「!!!!殺す!!!!」
そう言うと領主は右手を上げて、上空に巨大な炎の玉を生み出した。
「どうする?避ければ後ろの連中は皆殺しになるぞ?」
キーーーーーンッ…………
オレの納刀の音が響く…………
その後、ボトボトボトッと、いう音と共に領主の両手、両足、胴体、首が地面に落ち領主だったモノが真っ赤に染まった…………
「ギルドマスター、今、オレは魔法で攻撃されそうになったから斬った。
相手はたまたま、この街の領主だった。そうだな?」
「はい。クルス様は攻撃されそうになり、正々堂々と正面から反撃されて返り討ちにされました。
魔法の発動を魔法ギルドマスターとして、はっきりと確認しました。
クルス様には一切落ち度は無かったと私の名を持って証明致します」
「ラル、オレの店は先日放火された。
その放火犯に命令したヤツをオレは斬る権利があるよな?」
「ええ、もちろんです。放火は命の危険がありますから、正当な報復です」
そして、再度納刀の音だけが響く。
ドルスンダだったモノが地面に落ちる音がして、ドサッと長男の尻餅の音がした。
全員が静まり返って見つめる中、オレが台から飛び降りて、スタスタと長男に向かって歩く。
無言が続く中、長男の尻餅をついたまま、後ずさる音と、騎士達の僅かに後ずさる音だけがする。
長男の前で立ち止まり、
「おまえはまだ、オレに何もしていない。まだ、怖がる必要はない。だから逃げるな」
そう言って、にっこりと笑いかける。
冷や汗をダラダラ流しながら後ずさっていた長男がピタッと止まる。
「オレはラルがこの街の次の領主に相応しいと思うんだが、おまえもそう思うよな?」
オレが、そう言うと、長男はコクコクと必死に頷く。
「喋れないのか?」
「!!!!しゃ、しゃ、しゃべれます!!ラルが次の領主に相応しいです!!」
「おまえもそう思っていたのか。
それは良かった、手間が省ける。なら、継承権を放棄するよな?」
「はい!!します!!私は継承権を放棄します!!」
「もちろん、そうだよな。おまえもラルが領主に相応しいと思ってるもんな?
ところで、次男とは仲が良いのか?
次男に継承権があるままだと、おまえが応援する、ラルが領主になれないよな?」
「!!すぐ、すぐに継承権の放棄をさせます!!」
「本当に大丈夫か?次男を殺してでも放棄させるくらいの気持ちはあるのか?」
「はい!!必ず、放棄させます!!殺してでも放棄させます!!」
「分かった。聞いていたな騎士ども。コイツが約束を守るのに1時間もかからないだろう。
今日中にラルが領主館に入れる様に完璧に準備させろ。
オレは商人だ。記憶力は良いし、目も良い。
全員の顔はちゃんと覚えてやってるから、手抜きのない仕事をしろよ?」
騎士達が、兜をガシャガシャいわせながら、コクコク頷く。
「…………おまえらも喋れないのか?」
「「「!!!今日中に完璧に準備します!!!」」」
「わかればいい。あと、これは片付けて帰れよ。
そうそう、今日は全ての門に我が商会の優秀な従業員がいるから、街から出る時は気をつけろよ?」
「「「!!はい!クルス様!!」」」
そう言って、長男と騎士達は元領主を片付ける者と領主館に向かう者と、即行動を開始した。
▪️▪️▪️▪️
何事も無かったかの様に壇上に上がるオレを並ぶ客達が恐怖の視線で見つめる。
「皆さん、お騒がせして、申し訳ありません」
そう言ってオレは深く頭下げる。
しっかりと、時間を掛けて下げていた顔を上げると若干、雰囲気が柔らかくなっていたので、
「お騒がせした、お詫びに、本日は全品半額に致します!!
ごゆっくりとお買い物を楽しんで下さい!!
クルス商会 サーラール本店!!オープンします!!」
オレがそう言うと、従業員達が店内に客を招き入れ始める。
オレはセバスにラム達を任せて、入り口に行き、並んでいた客の1人1人に笑顔で「いらっしゃいませ、ようこそ」と、声をかけ続けていった。
▪️▪️▪️▪️
昼過ぎには朝から並んでいた客達は居なくなったが、噂を聞いた人達がどんどん続き、まだまだ長蛇の列だったがシエラールルとローラス店長に後を任せて、会長室に引っ込んでラム達を呼んでもらう。
しばらくして3人がやって来た。3人とも満面の笑顔だ。外だからか、3人で向かい側に座る。
「お待たせ、オレの店は気に入ってくれたか?」
「ええ!!それはもう!!
ですが、その前に、私達を前領主の呪縛から救って頂き、ありがとうございます」
そう言って、再度立ち上がって頭を下げる。
「お礼は受け取るが頭を下げる必要はない。
オレはラムとリムが欲しかったから、ダメな夫とダメな親父から奪った。
未来の息子のラルにちょっとこの街をプレゼントした。それだけさ」
オレがそう言って笑いかけると、「あなた!!」「お父様!!」と、いつもの定位置に着いた。
ラルが、
「本当にありがとうございます、父上。
父上のお名前に恥じぬよう、これから、精一杯努めさせて頂きます!!」
と、真面目に言って来たので、
「頑張らないといけないだろうが、無理はするなよ。
困ったことがあれば相談に乗る。
ラムとの結婚はもう少し先だが父親だと思って、今後も頼ってくれていい」
「はい、心強いです。ありがとうございます、父上」
「ところで、あなた、剣だけは、一緒に見たくて見ていないの。
ご一緒して頂けないかしら?」
「ああ、もちろん良いとも。ほかにも気になる物があったら一緒に見よう。
じゃあ先ずは腹ごしらえだ」
そう言って、店舗へと降りた。
店舗内はまだまだ大盛況だったが、最も繁盛していたのは急遽追加した肉屋だ。
値段設定は通常だが、今日は半額になった。
そして、“スーパーウルトラグレートボア”や“スーパーウルトラグレートベアー”の肉はこの辺りでは珍しく、本来は超高級品だ。
しかし、ウチでは最もポピュラーな肉で加工品も多種用意している。
少し待っていると、ガリーが串カツと串焼きを持って来て、そのまま、今まで着いていたシェーラと交代する。
ガリーから串カツと串焼きを受け取って、ラム達にも勧める。
3人とも生粋のお嬢様、御坊ちゃまだろうが関係なく、テーブルが埋まっていたので立ち食いだ。
オレは気にせずモグモグ食べたが、3人は串肉の立ち食いなのに、なんだか品があった。
食べ終わったら、武器屋へ。
武器屋は他に比べて客が少なく、3組程の冒険者がいただけだった。
クルス商会の武器屋は、全ての商品がガラスケースに入っており、価格と共に、細かな材質と魔法効果、魔力電池での持続時間等、商品説明が付いている。
商品を直接手に取って見たい時は、店員に声を掛けて出して貰うシステムだ。
店の主任からガラスケースの鍵を受け取って、3人には先ずお勧めの指輪やブレスレットを案内して行く。
状態異常防止や結界など、数点3人が気に入った物を選ばせると、ラムがガラスケースの中の刀に目を付けた。
「あなた、この剣はあなたが使われていた剣と同じ物ですの?」
「ああ、これは“ヒヒイロカネ製”だけど、オレの刀と同型だよ」
そう言って、ガラスケースから出して、抜いて見せる。
刀を見つめる3人と、遠目から興味津々でこっちを見ている他の客達。
「変わった剣ですわね。この形がカタナなんですの?」
「ああ、オオサカ国にはあるかもしれないけど、珍しいだろうな」
「父上、恥ずかしながら、父上が元領主を斬られたのだろうとは思いますが、全く見えませんでした。
宜しければ、簡単にで構いませんので、ご教授頂けないでしょうか?」
ラルがそう言うと、ラム、リムもギャラリーな客もコクコクしていた。
「ラル、さっき言ったばかりだぞ、遠慮はしなくていい。
でも、あの元領主じゃあ技を出す必要も無かったから、こやって飛んで行って……」
刀を鞘に収めて腰に持っていって、一足跳びにジャンプする様なポーズをとる
「で、こう斬って」
そして、抜刀しながら左から横に薙いで、そのまま、刃を返して上へ、また返して左へ、もう一度返して下へ
「戻って来た」
そう言って、後ろにジャンプする様なポーズをとって、真っ直ぐ立って、峰を鯉口に走らせて、
キーンッと、良い音を鳴らせて鞘に収める。
「と、こんな感じだ」
「「「おおぉ〜〜……」」」
と、ラルを含め、ギャラリーや従業員まで感嘆の声を上げる。
「素敵!!」「カッコいい!!」とラムリム母娘は定位置へ。
「そうそう、技は使って無いけど、魔法は使ったよ。
オレが少し速く動くと周りの人に迷惑だからオリジナルの風属性魔法で風圧が起きない様にした」
「あの時のスピードは、お父様にとっては少しなんですか?」
「あの程度なら、ウチのシロネコなら軽く避けてるよ。
ガリーでも初撃を防いで下がるくらいは出来たよな?」
「はい、おそらくは。お館様の訓練のおかげですが」
「!シロネコ?」
「!お父様の訓練?」
「!父上の訓練?」
「シロネコはオレの従魔の神獣だよ。訓練は前に1度な。
あれがいい刺激になったのなら、店が落ち着いたら、またやろうか、ガリー」
「!!ありがとうございます!!みんな喜びます!!」
「「私も参加させて下さい!!」」
「自分も参加させて頂きたい!!」
「ああ、良いよ。時間が合えばな」
「「「必ず合わせます」」」
「分かったよ、じゃあ続きを見ようか。ラムは双剣だよな?」
「はい、でも、あなたと同じ、刀は無理でしょうか?」
「無理ではないけど、刀だと、今使ってる“双剣術”は使えないモノが多くなると思うぞ?」
「それでしたら、問題ありませんわ。
やっとまともに剣が握れる様になるんですもの。一から学ぶのも楽しみですわ」
「なら、刀にしようか。刀も2刀にするかい?」
「あなたはどちらが良いと思われます?」
「そうだな、どっちもやるのが良いかな。
刀はさっきやって見せたけど、片刃だから鞘を滑らせて抜くと、スピードが出る。
これは1刀でないと出来ない。
1対1の場合はスピード重視の方が有利だ。
逆に多数を相手にするなら、手数重視の2刀の方がいい。
どっちも出来る方が色々便利がいいだろう?」
「でしたら、両方とも学びますわ!!」
「分かった、じゃあ次はリムはどんな武器を使うんだ?」
「私の1番得意なのは槍です。剣も学んだんですが、槍の方がしっくりくるので」
「分かった、じゃあラルは?」
「自分はハルバードです。自分も姉上と同じく剣よりもあっていました」
「分かった。ちなみに3人とも魔法は?」
「残念ながら、私の血が濃いのか3人とも魔法は全くですわ」
「そうか、じゃあどんな魔法が自分の戦闘スタイルに合うと思う?」
3人が考え始める。一緒になって、ギャラリー冒険者の戦士系のヤツらも考えていた。
最初に思いついたのはラルだった。
「……父上、自分はハルバードをより広範囲に使える様に“風属性魔法”か、防御時に相手を痺れさせる“雷属性魔法”が相性がいいのではないかと思うのですが」
「ああ、どちらも良い考えだと思う。だが、広範囲なら雷でも出来るから雷にしよう」
ラルが決まると続いてリムが聞いて来た。
「お父様、私も迷っていまして。刃を伸ばす“水属性魔法”か、柄を伸ばす“土属性魔法”か……」
「そうだな、槍は間合いを取るのが難しい武器だから必然的に横に避けようとする。
その時、刃が横に伸びたらとても厄介だ。と、言うわけで水属性魔法がいいんじゃないか?」
「!!はい、お父様の言われる通りだと思います。水属性魔法にします」
最後のラムは決まっている様だった。
「あなた、私は風、火、雷の3つにしますわ」
「なるほど、1刀用に風属性魔法、2刀用に火属性魔法と雷属性魔法か」
「ええ、先程、“ディメンションルームバッグ”を購入しましたので、3本でも問題ありませんわ」
「そうか、じゃあそうしよう」
そう言って、3人にオリハルコンとヒヒイロカネの合金の輝く赤い刀、槍、ハルバードを出して持たせてみる。
「3人とも持った感じはどうだ?形とか長さの希望があれば言ってくれ」
3人とも無言で持った感じを確かめている。
「あなた、これは普通のヒヒイロカネとは、違いますわよね?」
「ああ、それはウチで1番高い商品の1つで、ヒヒイロカネとオリハルコンの合金製だ。
前言った様に、アダマンタイトの剣も斬れるぞ」
「「「!!!」」」
「「「ええ〜〜!!」」」
3人が無言で驚いて、ギャラリーが大声を出した。
「…………申し訳ありません、あなた……とても……とっても残念ですが、流石に購入出来る程のお金が……」
ラムが残念で泣きそうな顔をして、リムとラルも残念そうにしている。
「何を言ってるんだ。愛する家族の安全の為なんだから、オレが買ってやるに決まってるだろ?
それより、3人とも持った感じはどうだ?」
「「「良いんですか!!」」」
「もちろん良いさ。3人とも大切に使ってくれよ?」
「「「はい!!」」」
「で、それでいいか?他のも持ってみるか?」
「「「これが良いです!!」」」
「じゃあ、それにしよう」
そう言って、ラム用の柄巻の色の違うもう2振りの刀を出して、ラムに渡すと、武器以外の3人が気に入っていた装備を集めてレジに行く。
会計金額に3人が驚き、ギャラリー冒険者が大騒ぎする中、白金貨をジャラジャラ出して購入し、3人にプレゼントした。