第30章 世界⑧
世界⑧
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やっと5体の宇宙魔獣を全員捕まえ、全員リヴァイアサンで洗濯する中、オレは機動兵器の操縦席から隣の部屋へと移った。
この機動兵器は数億の宇宙魔獣がやって来た時用なので、長期戦を想定して居住性もちゃんと考慮してある。
まあ、太陽レベルの大きさの機動兵器なので、空間は幾らでも余っているから当然だ。
先ずはコーヒーを淹れて一息付き、久しぶりに自分で調理をしてゆっくり食事を摂ってから軽く仮眠だ。
一週間くらい不眠不休絶飲食でも特に問題は無いのだが、カルキとの追い駆けっこには飽き飽きしていたので気持ちのリフレッシュが必要なのだ。
しっかりと軽い仮眠を取ったので、気を取り直して宇宙最強の魔神達との死闘を再開する事にした。
リヴァイアサンが、ペッペッペッっと宇宙魔獣達を吐き出す。
その際にちゃんと追跡用の魔導具を取り付けるのも忘れない。
また、逃げ回られては敵わない。
出てきた宇宙魔獣達は超巨大な身体を全身ビショ濡れにしていたが、外は宇宙空間だ。
瞬時に凍りついていたが、大きさは別として見た目通りの動物っぽく仲良くブルブルっと全身を震わせて氷を振り落としていた。
「オイ、クルス!!
いい加減にしろよ、おまえ!!
気持ち悪りぃ中でグルグルグルグル回しやがって!!」
ギャんギャんと喚くネメア。
どうやら、リヴァイアサン洗濯機はお気に召さなかった様だ。
…………いや、そもそも宇宙で生まれたネメア達は液体に浸かると云う経験事態が無かったのだろう。
数百億年生きてきて、初体験だった訳だ。
「まあ、そう言うなよ、ネメア。
初めて洗われて変な感じがしたかもしれないが、サッパリしただろ?」
「んな、訳あるか!!
毛は身体にくっつきやがるし、コイツらにはガンガンぶつかりやがるし、最悪だったわ!!」
尚もギャんギャん喚くネメアは一旦置いておいて、眉間に皺を寄せて状況を見ているウマ、カルキに話し掛ける。
「なあ、カルキ。
今の状況を打開する策を考えてるみたいだが、そんなモノは無いぞ。
普通はこう云う時、『オレを倒す以外には無い』って言うんだろうが、おまえ達じゃあオレに勝てる策が存在しないからな」
「……我らが、協力しあう事があり得無いからと云う事か」
「いいや、違う。
おまえ達が協力しあっても、どれ程の連携をしても勝てる見込みが無いって事だ。
因みに、おまえが考えてる、他のヤツらがオレと戦って弱ったところを喰って強くなるって策も勝てる見込みが無い。
もちろん、偶然運良く他の4人がいい感じに弱っておまえが4人共喰ったとしてもって意味だ。
ところでカルキ、おまえは"呪いの光輪の力"で人間達に宇宙の分割を戻させ様としてたみたいたが、なんでもっと強い生き物にしなかったんだ?」
……疑問だった。
アンラ・マユ神から聞いた状況的に、ミクチュリアが出来る前の世界であればこの封印宇宙にも普通に神も居た筈だ。
事実、目の前のカルキを含む5人は全員が魔獣から神へと至った魔神だ。
ならば、普通に考えて人間に呪いを掛けるよりも神や強力な宇宙魔獣に呪いを掛けて、宇宙の分割を戻させる方が遥かに成功の確率は高いのではないだろうか?
もちろん、生まれ変わった後の生物が何であるかによってレベルや強さは大きく下がるだろうが、それでも記憶を持って転生するなら強くて長く生きている者を選んだ方が遥かに良い筈だ。
記憶が有るなら知識や経験も継承するからだ。
カルキは一瞬、正直に答えるか悩んだ様だったが、直ぐに鼻を鳴らした。
「ふん、そんなモノ人間には喰らう価値が無いからに決まっているだろうが。
我が力を上げる可能性の無い者達だからこそ、有効活用したまでだ」
「…………そうか、可哀想に…………」
正直に答えたっぽいカルキの言葉に、思わず落胆して呟きが溢れてしまった……
「なにが、可哀想だ。
弱者、いや、何の力も無いゴミが我の役に立てるのだ、寧ろ喜ばしい事だろうが」
「?ああ、違う違う。
可哀想だと言ったのは、カルキ、おまえの事だ。
折角おまえには此の封印宇宙を解放する手段が有って、何百億年も時間も有ったのに、活用する頭が無かった事が可哀想だと言ったんだ。
おまえ達宇宙魔獣は喰った相手の力を自分の力に出来る様だが、おまえは喰わずに殺した相手に“呪いの光輪の力”で、『此の封印宇宙の封印を解く為の行動をしなければ魂が砕け散る呪い』を掛けたって事なんだろう?
しかし、どうせ“呪いの光輪の力”を使うなら、全ての者に『封印宇宙の封印を解く為の行動をしなければ魂が砕け散る呪い』を掛けてから喰って仕舞えば良かったんだ。
そうすれば、もっと早くこの宇宙の封印は解けていて、オレが来ておまえが殺される事も無かっただろうにと、思って、可哀想だと言ったんだよ」
「…………なんだと?
いや、そんな方法では呪いが発動しない……筈……」
「そんな訳無いだろう。
呪いなんてモノは本来なら生きている者に掛けるのが普通だ。
其れに死んでから発動する呪いだったとしても、おまえに喰われた時点で死ぬんだから、当然呪いは発動するだろう。
此の程度の事にすら思い当たらないなんて、本当に馬鹿なんだな、可哀想に…………」
「黙れ!!可哀想、可哀想言うな!!
我が誰にどんな呪いを掛けようが我の勝手だろうが!!」
「……そうだな。おまえの言う通りおまえの勝手だ。
其れに、ただ憐れみを掛けるだけじゃあ何も生まれない…………
やっぱり、有意義な実験を行う方が建設的だ!!
と、云う訳で次の攻撃だ。
次のやり過ぎシリーズは…………」
「好きにさせるモノか!!
“呪いの力”よ、『あいつに攻撃出来ない呪い』を掛けろ!!」
オレのアドバイスを即実践したのか、カルキが生きているオレへと“呪いの光輪の力”を発動する。
勿論、オレには何も起こらない。
カルキに“呪いの光輪の力”の説明をしたのは当てずっぽうでは無く、既に“呪いの光輪の力”は研究済みだからだ。
当然、対策も済んでいる。
と、言ってもいつもの“状態異常効果無効のスキル”だが。
超巨大機動兵器の右腕の5種類の魔法は使ったので、今度は左腕の3つの武器を試そう。
オレが左腕を突き出すと、機動兵器も左腕を突き出す。
機動兵器が左腕を付き出すと手甲部が展開して、中から二門の砲塔が現れる。
やっぱり宇宙戦闘と言えば、此の凄い粒子のビーム砲は欠かせないだろう。
此の砲塔は、先ず“光属性魔法”で、砲口に光の粒が集まって来て、徐々に中に溜まって行く。
因みに此れは只の演出なので光る以外の効果は無い。
そして、砲口から光が溢れるくらいに溜まったら"複合魔法 エレクトリックウェアビーム”を放つと云う魔導具だ。
此の砲塔のやり過ぎポイントは単純に砲口の大きさの問題だ。
せっかく超巨大機動兵器に取り付けるのに、小さな砲塔ではカッコ悪い。
なので、手甲に合った大きさにしたところ、砲口がアルファが転がり込む程大きくなり、そこから溢れる程のサイズの"エレクトリックウェアビーム”は惑星を軽く呑み込んで行く程のビームになってしまったのだ。
「……エネルギー充填、120%!!
……撃て~~!!」
と、一人遊びをしながら”エレクトリックウェアビーム”をぶっぱなす。
オレからの攻撃を最大限に警戒しているネメアは、光の粒子が集まっている段階でこっそりカルキの陰に隠れているが、まだ、洗濯されただけのカルキは無防備に突っ立っている。
まあ、宇宙空間には地面が無いので、突っ立っていると云うのは正しく無いが、まあ、ボーっとしていた。
とは云え、其れも仕方が無いと言えるだろう。
カルキからしたら、此の砲塔に充填された光は米粒くらいのモノだ。
オレが何かしようが、気に留める程の事を感じていないのだろう。
そして、撃ち出された”エレクトリックウェアビーム”は、『ズキュゥゥゥ……ン!!』と音のしそうな雰囲気で、紫電を纏って宇宙を斬り裂き、カルキの馬胴体を貫通した。
「ぐわああああああ……………………!!」
「痛ってぇぇぇぇ!!」
……どうやら、後ろのネメアの身体も貫通した様だ。
しかし!!
此の砲塔はニ門有るのだ!!
『ズキュゥゥゥ……ン!!』『ズキュゥゥゥ……ン!!』『ズキュゥゥゥ……ン!!』『ズキュゥゥゥ……ン!!』…………と音のしそうな雰囲気のビームが交互に連発される。
光の粒子を集める演出は最初だけだ。
「ぎゃああああああ……………………!!」
「痛ってぇな!!クソ!!」
「ぐううううううう……………………!!」
「痛ってぇんだよ!!チクショウ!!」
カルキとネメアの痛がる声が広い宇宙に響き渡る。
まあ、米粒くらいの太さとは云え、何回も貫通されたら当然凄く痛いだろう。
とりあえず、連射機能も確認出来た事だし、次に行ってみよう。
砲塔を手甲に収納してから、オレは突き出した左手の掌を開く。
当然、機動兵器も掌を開く。
左手の掌に仕込まれている魔導具は、“ブラックホールキューブ”。
其の名の通り、四角いブラックホールを生み出す魔導具だ。
やっぱり、此れも宇宙戦闘の定番だろう。
しかし、説明する迄も無く、被害甚大確定魔導具なので勿論やる過ぎ武器だ。
因みに四角い形状にしたのは球状以外のブラックホールが作れるかの実験だ。
突き出した機動兵器の左手の先に漆黒のキューブが現れ徐々に大きくなって行く。
漆黒のキューブが機動兵器と同じ位になったところで、放たれた。
漆黒のキューブが向かった先は暇そうにしていた超巨大タコ、クラーケだ。
クラーケは先程のネメアやカルキの痛がり方を見ていたからか、オレからの非常に小さな攻撃である漆黒のキューブを無視せず、迎撃しようとウネウネ動く足を叩き付けた。
そして、叩き付けた瞬間にクルッと足を巻き込むとパクッと口に放り込んだ。
…………キューブ状ブラックホールはクラーケに食べられた様だ…………
流石は宇宙魔獣、まさかブラックホールを食べてしまうとは…………
まあ、此の5人の宇宙魔獣は、太陽だってペロリっと食べてしまうのだ。
ブラックホールは所詮は、超高密度超重力場だ。
其れが太陽サイズ程度ならエサでしか無かったのだろう。
やっぱり魔力の籠って居ない自然現象では宇宙で生活する様なビックリ生物には効果が無いと云う事が分かっただけでも良しとしよう。
“ブラックホールキューブ”は本当に使い道の無い魔導具になってしまったが、こう云う事は実験では良くある事だ。
とは云え、左手の掌の武装は変更だな。
強力過ぎて使えない武器はロマンが有るが、敵には効かず味方には被害甚大な武器は唯の災害でしか無い。
良し、では気を取り直して最後の左腕武装はロボットの定番中の定番、“ロケットパンチ”だ!!
オレが右手で伸ばした左腕の二の腕を持つと機動兵器も左腕を持つ。
そして、二の腕をクルッと回す様な動きをすると左腕がどんどんと大きくなって行く。
オレがまた何かしようとしている事に気付いたクラーケが足を伸ばして振り下ろして来る。
オレは其の攻撃を大きく下がって避けるが、其処を狙ったかの様に牛の宇宙魔獣エアネルが光の様なスピードで突っ込んで来た。
オレはエアネルの突進も横に逸れて回避する。
と、今度はカルキの前蹴りとネメアの猫パンチが迫る。
2人の攻撃をオレはまた大きく下がって避ける。
その間も機動兵器の左腕はどんどんと大きくなっていて、今や太陽くらい大きい機動兵器の100倍くらい大きくなっている。
ロケットパンチのやり過ぎポイントも此の大きさだ。
こんな大質量が現れては重力で星の配置が変わってしまう。
其れにもう1つ使えないポイントもある。
先程から宇宙魔獣達の攻撃を受けている様に、大きくなる迄に時間が掛かる事だ。
此のロケットパンチを大きくしているのは、今は亡きクリシュナの元恋人、“原初のモノ”の1人のインドラくんの“身体の一部分だけ大きくするスキル”を使っているのだが、此のスキルは徐々に大きくなって行くのだ。
古今東西、此方が必殺技を使おうとした時に演出が終わる迄待ってくれるのは、悪の秘密組織の怪人だけだ。
一般的な戦闘でこの徐々に大きくなって攻撃する魔導具はハッキリ言って使えない。
しかし、こうやってだんだんと大きくなって必殺の一撃を叩き込む演出がロボットでの戦闘の美学だ。
オレは其の美学を蔑ろにしてはいけないと思う訳だ。
「……これでも、くらええええ!!」
と、叫ぶオレ。
そして、放たれるロケットパンチ。
向かった先は、再度突っ込んで来ているエアネルだ。
大きくなった拳は今や宇宙魔獣の足先くらいは有るので、絵面的には牛の顔面を人間が殴った様な感じだ。
ドオオオオオオオ…………ン…………
エアネルとロケットパンチの衝突は、音のしない宇宙空間に凄まじい衝撃と云う大音響を響かせた。
ズウウウウウウウ…………ン…………
勝者はオレのロケットパンチだった。
エアネルはオレの拳に倒れ伏した…………
まあ、実際には気を失ったっぽく、力無くなっただけで、宇宙空間なのでそのままプカプカしているだけで、エアネルの倒れ込む姿も重々しい音もオレのイメージ映像だ。
ガキイイイイイイン!!!!
機動兵器が天へと掲げた左の二の腕に、戻って来た巨大ロケットパンチがドッキングする。
突き上げた超巨大な拳が、死闘の末に一体目の宇宙魔獣、超巨大牛エアネルに勝利した事を物語っていた…………