第30章 世界⑦
世界⑦
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ネメアの“リターン”は10回程、繰り返された。
用心深いのかな?と、思ったが違った様だ…………
「!!ネメア、突然何の用だ!!
とうとう、オレを喰らいに来たのか?!」
「クルス!!どうせ、吾輩に付いて来ているのだろう?
どうする?吾輩と違い、このダルダネルスは周囲全てに攻撃出来る。
おまえの武器が如何に優れていようと、おまえ自身は耐えられまい!!」
と、どうやら、オレの姿が見えない事から、周囲全てに攻撃出来る、この“魔神 ダルダネルス”のところ迄連れて来るのが目的だったらしい。
先程の連続“リターン”は、ダルダネルスの居そうな場所へ移動していたのだろう。
「ネメア!!何を言っている!!
やるのか?やらないのか?どっちだ!!」
「やあ、ダルダネルス。オレはクルス。
他の宇宙からおまえ達5人の魔神を狩りに来た人間だ。
おまえ達はデカ過ぎて、人間のオレが見えないだろうけど、オレは今、ネメアの頭の上辺りに居る。
ネメアはどうも、オレが見えなくて攻撃出来ないから、おまえに助けて貰いたいみたいだ」
「…………何?!人間だと?
ネメア、この念話は本当なのか?」
「…………吾輩は別に助けを求めてなどいない!!
おまえを利用して、このクルスを喰らってやろうとしているだけだ!!」
「まあ、そう強がるなネメア。
おまえが逃げる選択をしたから、見せられなかったが、次の魔導具を使えば、おまえにも見える筈だったんだ。
ちょうど良いから、2人とも、仲良く掛かって来たら良い」
さて、次の“やり過ぎシリーズ”だが、超巨大機動兵器だ!!
今回の宇宙魔獣達は、オレの予想を遥かに上回る大きさだったが、オレは一応、星も喰ってしまう程の宇宙魔獣が現れた場合に備えて、其れ対策の超巨大機動兵器を準備はしていたのだ。
オレの予想では、宇宙魔獣はデカくても太陽の倍位だろうと考えて居たので、太陽よりも少し小さめの全長100万kmの超大型で創ったのだが、残念ながら宇宙魔獣は、全長5,000万kmと更に大型だったので、超巨大機動兵器ですら、指先程しか無い…………
この超巨大機動兵器は、見た目も中身もオレの専用機動兵器と基本一緒だ。
但し、宇宙魔獣が何十億匹もの大群でやって来た時の為に、幾つかの広範囲攻撃装備が用意してある。
“やり過ぎシリーズ”は、この“広範囲攻撃装備”の方だ。
「どうだ、ネメア。見える位になっただろう?
ダルダネルスも見えてるよな?」
「ううむ。小さい事に変わりは無いが、一応見える様になった。
此れで、吾輩も攻撃出来ると云うモノだ!!」
「おい、ネメア。おまえ、そのクルスを喰ってオレ達を出し抜こうとしてやがるのか?
そうはさせねぇぞ!!その獲物はオレが頂く!!」
獰猛な宇宙魔獣が、オレを喰おうと叫んでいる…………
因みに、ネメアはネコっぽい魔獣だが、ダルダネルスは羊っぽいモコモコの魔獣だ。
光が無いから分かりにくいが、一応、何方も金色の魔獣だ。
今回の5柱の魔神は全員が金色をしている。
2人共、ヤル気マンマンな様なので、オレも張り切って実証テストを再開しよう!!
最初は、右腕の手甲に付けて有る、5種類の魔法から使って行こう。
中のオレの動きに合わせて機動兵器が右拳を突き出すと、その前に紅く輝く魔法陣が展開される。
機動兵器の大きさ的には普通だが、実際には惑星アルファの直径よりもデカい魔法陣だ。
此れは、キスラエラとずっと研究を続けている魔法の呪文化とオリジナル言語を使った呪文の簡略化、呪文の魔法陣化の最大威力版だ。
ビッシリと文字の書かれた惑星サイズの魔法陣なのだ。
もちろん、魔法陣だからといって、魔法を使うのに拳を突き出す必要も、巨大な魔法陣を見える様に出現させる必要も全くもって無いのだが、どうせ使う可能性が殆ど無いのだから、カッコイイ演出にしてみただけだ。
「“オリジナル火属性魔法 サウザンドマース”!!」
機動兵器の周囲に魔法陣の半分位の大きさの“紅い球”が現れる。
名前の通り、ちゃんとピッタリ1,000個だ。
言うまでも無いが、もちろん、魔法名を叫ぶ必要性は全く無い。ただの気分だ。
千個の球は、オレの意思に従って、ネメアとダルダネルスへと向かって行く。
本当なら、惑星サイズの魔獣に向けて放つ予定で創った魔法だが、ネメアとダルダネルスはデカ過ぎて、ちょっとショボく見えてしまうが、まあ、威力はお蔵入りする位は有る。
一つ目の球が迫って、ネメアは警戒して距離を取ったが、ダルダネルスは避け様ともしなかった。
その結果…………
「ぐっぎゃぁぁぁぁぁ、オレの足がぁぁぁぁぁぁ!!」
ダルダネルスに触れた紅い球が弾け飛んで、ダルダネルスの足も弾け飛んだ。
「なんなんだぁ!!このちっこい球は!!
あんな、ちっこいのが当たっただけで、何でオレの足が吹っ飛ぶんだよ!!」
この“オリジナル火属性魔法 サウザンドマース”は、火属性魔法なので、火星と云う名前にしているが、唯の“自由自在に動かせる爆烈魔法”だ。
シロリュウのお気に入りの“龍顕現魔法シリーズ”と同じく、この魔法も自由自在に動かせる為に、とてつも無く長い呪文で出来ている。
其れを短縮化しても、もちろん、とてつも無く長い。
なので、其れが1,000個も有るなら、短縮化して魔法陣化しても、惑星サイズの魔法陣になってしまうのだ。
更に、魔法陣が大きくなって仕舞う理由は、“紅い球の大きさ”に有る。
この、魔法は、1,000個の球を出す魔法では無く、1,000個の“火星と同じ大きさの球”を出す魔法なのだ!!
超巨大機動兵器で、超巨大な魔法陣から出て来た魔法だからデカいのでは無く、生身の身体のオレが使っても“火星と同じ大きさの球”が1,000個出て来る魔法なのだ。
大きさを指定している所為で、魔力を抑えても威力が下がるだけで炸裂範囲は同じなので、とてもではないが周囲に星のある場所では使えない魔法なのだ。
そんな理由から、使えない魔法ではあったのだが、威力は折り紙付だ。
この魔法は予定では、惑星サイズの魔獣が億単位で固まって来たときに吹き飛ばす用の魔法で、1匹の強さはレベル1,000兆くらいで考えていたから、レベル1,000兆の魔獣が1つの球で1万匹は吹き飛ばせる予定で創っている。
レベル9,200兆のダルダネルスと云えども、直撃すれば大ダメージだろう。
「ダルダネルス。其れでも一応威力は抑えてるんだ。
喰らえばダメージは有るだろうが、ちゃんと迎撃すれば良いだろ?」
「五月蝿ぇ!!言われなくても分かってらぁ!!
“光輝け、全部ぶっ壊せ!!”」
ダルダネルスが“キメ台詞”を言うと、黄金の羊毛が輝き出した。
此れがネメアの言っていた全方位攻撃なのだろう。
恐らく、熱光線だと思われる攻撃が、オレの“サウザンドマース”を全て包んで爆発して行く、連鎖爆発して結構広範囲が吹き飛んで行くが幸い何も無いこの宇宙では、被害は全く無い………
いや、ネメアだけは、向こうで熱がっている様だ…………
のたうち回っている…………
見たところ、大したダメージは無い様なので、単に熱いのが苦手なんだろう…………
「!!おい、クルスとか言ったな。おまえ、もしかして、生きてんのか?」
オレの機動兵器が結界を張っているのが見えたんだろう。
ダルダネルスが驚いて聞いて来た。
「そりゃあ、生きてるさ。
もしかして、今のが最大の攻撃なのか?」
「!!そんな訳ねぇだろ!!
こんな、ちっこいの相手に本気出す訳ねぇだろ!!」
「そうか…………」
ガキィィィーーン!!
オレがダルダネルスと話していたのが好機に見えたのか、光速を超えるネメアのネコパンチが飛んで来たが、
「ネメア、どうせ不意打ちするなら、せめてオレが結界を解いてからにしろよ」
「グッヌヌヌヌヌ…………そんなに小さいのに、何故、動きもせん!!」
「ああ、なるほどな。
結界が張ってあるまま、吹っ飛ばせると思ったんだな?
おまえ達は、生まれた時から宇宙空間に居るから意識した事は無いかもしれないが、“スキル 環境適応LV10”の“宇宙空間で任意の方向に移動可能”は、俊敏ステータスに依存していて、本人以外の意思で動かそうとするなら、其れ以上の俊敏ステータスで影響を与えないと動かせないんだよ。
だから、宇宙空間での戦闘だと、殴られたら吹っ飛ぶ事はあっても、爆発で吹き飛んで行く事は無いだろ?
生き物同士だと。
だが、例外が有る…………」
オレが右手を上に翳す、機動兵器も同じく右手を上に翳す…………
「“オリジナル重力魔法 アトラリプルプルート”」
そして、無意味に紫色に輝く魔法陣を出現させて、無意味に魔法名を叫ぶ!!
魔法陣の大きさに比べて、大分小さな紫色の球が現れる。
小さいと言っても、此方も名前の通り冥王星サイズだ。
「此れが、その例外。重力魔法だ」
そう言って、“アトラリプルプルート”をネメアに投げつけた。
ネメアの巨体に小さな黒い点が当たり吸い込まれて行く。
「…………何をした?…………!!うおおおお…………」
オレの魔法が当たったのに何も起こらない事にネメアが不思議そうな雰囲気になったと同時に、“オレが指差した方向にネメアが落ちて行く”。
「な?!おい……ぐわぁぁぁぁ!!」
そのまま、ダルダネルスにぶつかる。
ドッゴーン!!!!
宇宙空間なので音は無いが、銀河系が吹っ飛びそうな勢いの衝撃が空間を震わせた。
「…………と、こんな風に“重力魔法”なら対象を吹っ飛ばせる訳だ」
「テメェ、ネメア!!何しやがる!!」
「黙れ!!ダルダネルス!!貴様が吾輩を避けんか!!」
オレの説明も虚しく、ネメアとダルダネルスはやいのやいのやいの言い合っている…………
“アトラリプルプルート”、この魔法は、対象の重力に一切影響を与えず、周囲にのみ力場を発生させて動かす魔法だ。
力場の中では、動かされる事での慣性や圧力も一切、感じない。
なのでネメアは、全く何も感じないのに目の前の景色が動いている事に驚いたのだろう。
因みにこの魔法はお蔵入りでは無い、使う可能性が僅かに有る魔法だ。
そもそもの作った理由は、万が一、大規模な攻撃をしなければならなくなった時に星に被害が出ないように動かす為の魔法だからだ。
まあ、星を動かすくらいなら自分が動いた方が早いので、使う可能性は非常に低いが…………
さて、気を取り直して!!
「おお〜〜い、2人とも、喧嘩して無いで次行くぞぉ〜〜!!
“オリジナル土属性魔法 アラィトイヤーサターン”!!」
次の魔法ももちろん名前の通り土星サイズだ。
黄色の魔法陣から現れたのは、土星同様に輪っかのついた岩の塊。
そして、輪っかが回転を始め、一気に超巨大な壁になる。
円形の壁の直径は1光年、9兆5,000億kmだ。
お蔵入りの理由は言わずもがなだ。
その壁がギャーギャー言い合っていたネメアとダルダネルスに向かって行き…………
「ぐわぁぁぁぁ…………」
「うがぁぁぁぁ…………」
2人を仲良く吹っ飛ばした。
其れでも止まらない壁は、そのまま突き進み続ける。
宇宙を揺るがす程の2人の絶叫を聞きながら、オレも超巨大壁の後を着いて行った…………
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「はぁ……はぁ……はぁ…………」
「はぁ……はぁ……くそ…………」
「ネメア、ダルダネルス、なんだったんだ今の壁は?」
目的地に到着した為、“アラィトイヤーサターン”の壁を放り投げたオレの前には、ネメア、ダルダネルスに続く3人目の魔神、超巨大牛のエアレヌが突然の状況に戸惑っている。
しかし、秒速30億km、光の一万倍のスピードで、7時間もずっと押され続けたネメアとダルダネルスは疲労困憊で其れどころでは無い様だ。
「やあ、エアレヌ。オレはクルス。
クタクタになってる2人の代わりにオレが説明しよう。
今の壁はオレの魔法で、その壁で其処の2人を押しながらここまで来たんだ。
因みにオレは別の宇宙からおまえら5人の魔神を狩りに来た人間だ」
「人間?其れにしては大きいな…………」
「ああ、コレはオレが作った機動兵器だ。
中身のオレだと小さ過ぎて見えないと、ネメアから苦情が来たんでな。
で、来た早々悪いんだが、後2つ魔法を使わないといけないから、攻撃するからな。
じゃあ、行くぞ。
“オリジナル土属性魔法 ソリッドメテオジュピター”!!」
機動兵器の翳した右手の先に現れた魔法陣から、木星サイズの縞模様の弾が凄まじい速さで乱射される。
“アラィトイヤーサターン”が、超巨大な壁での物理魔法攻撃だったのに対して、この“ソリッドメテオジュピター”は、超大量の物理魔法攻撃だ。
何方の魔法も仮想敵は、何十億匹もの宇宙魔獣だ。
なので、“アラィトイヤーサターン”は1光年もの大きさだし、この“ソリッドメテオジュピター”は、秒速1億個の弾丸が1兆個射出される。
マシンガンも驚きの高性能魔法だ。
まあ、此れもお蔵入りなのだが…………
理由は簡単だ。
例え秒速1億個でも、1兆個も撃とうと思ったら3時間近く掛かる。
そして、撃ち終わった後には辺り一面木星だらけだ。
3体の超巨大魔獣にとっては、木星サイズなど豆粒の様なモノだが、数が数だ。
そして、1個1個は、手加減していても結構痛い様で、宇宙魔獣達は、まるで、ゲリラ豪雨から逃げ惑うサラリーマンの様にあっちに行ったりこっちに行ったりしながら、ワタワタとしているのだった…………
2時間47分に及ぶ木星豆撒きが終わった頃には、3体の超巨大宇宙魔獣達は、もう、ぐったりしていたが、残念ながら、右腕の魔法はもう1つ有るので、此処で辞める訳にはいかない!!
なので…………
「“オリジナル水属性魔法 リヴァイアサントゥネプチューン”…………」
オレの機動兵器が上に向けて右手を掲げると、今迄で最も大きな魔法陣が生まれる。
直径2億kmの超巨大魔法陣だ。
そして、その魔法陣から現れたのは、太さ直径1.8億km、長さ45億kmのネメア達超巨大宇宙魔獣すら丸呑みにしそうな水で出来た龍だ!!
この魔法は、今迄の惑星シリーズと違い惑星サイズでは無い。
太陽から海王星迄の長さの水の龍を生み出す魔法だ。
龍顕現シリーズの最高傑作…………いや、最高失敗作だ!!
龍顕現シリーズとの違いは大きさだけで無く、見た目も違う。
リヴァイアサンと名付けたので、リヴァイアサンっぽくツノでは無く、棘の有る鰭が有り、長い髭も棘の有る触手っぽいイメージだ。
そして、手足も竜の翼の様な鰭だ。
リヴァイアサンは頭上をウネウネと畝った後、足元にやって来て、オレの機動兵器を頭上に乗せる。
既にクタクタっぽい、ネメア達は、自分よりも超巨大な存在が現れた事に揃ってあんぐりしている。
「ネメア、ダルダネルス、エアレヌ。
おまえ達は、“スキル 環境適応LV10”だから溺れる事は無いだろうから、暫く、水泳でも楽しんでくれ」
「……はあ……はあ…………水泳?なんだ其れ……………うわああああ!!!!
「ちょ、ちょっと、待て……………ぐわああああ!!!!」
「な、何なんだあああああ!!!!」
はっきり言って、リヴァイアサンもネメア達もデカ過ぎて、どうなっているのか見えないが、恐らく超巨大な蛇が、ネコとヒツジとウシを次々と丸呑みにしている様な絵面だろう。
リヴァイアサンは3人の魔神を飲み込んで、そのまま、進み続けるのだった…………
…………“リヴァイアサントゥネプチューン”を使ったのは失敗だった…………
ネメア、ダルダネルス、エアレヌを飲み込んだリヴァイアサンはそのまま、4人目の宇宙魔獣、超巨大タコ、クラーケも飲み込んで、突き進み続けた。
そして、5人目の宇宙魔獣、超巨大ウマのカルキに向かって行ったのだが、リヴァイアサンを目にしたカルキは何と逃げ出したのだ!!
そこからは完全に鬼ごっこだ。
但し、ワープと云う反則技有りの鬼ごっこだ。
何百億年もこの封印宇宙で生きて来たカルキは、幾らでも色々な場所へ“リターン”出来る。
対してオレは、今日来たばかりで、今迄通ったルート以外は動いて追いかけなければいけない。
もちろん、オレが自分で動けば直ぐに追い付けるし、捕まえられる。
しかし、此処でリヴァイアサンから降りたら何だか負けた気がする。
なので、リヴァイアサンの最高時速の秒速30億kmのまま、追い回し続けた。
結果、三日三晩…………、まあ、宇宙に夜は無いのだが、70時間余り掛けて、やっとカルキもリヴァイアサンで飲み込んだのだった…………