第30章 世界⑥
世界⑥
▪️▪️▪️▪️
1人で行動するのは何時振りだろう。
この世界に来る迄は、1人で居る事が普通だった。
“兄の代わり”だったオレは家でも1人だった。
この世界に来た時もいつもの1人旅の途中だった。
幾ら立場が出来たからとはいえ、そんなオレが1人で行動する事を“随分と久しぶり”に感じるとは…………
宇宙魔獣狩りは、オレが1人で行く事にした。
戦力だけの問題であれば、ウチの上位陣なら宇宙魔獣にレベルが大きく劣っていても十分に渡り合えるだろうが、今回は誰も連れて来なかった。
各中層世界は、既に完全に独立しているので、宇宙魔獣が封印されている世界で何が起きても他の世界に影響は無い。
つまり、他の生物の居ないこの封印宇宙なら、“オレが多少暴れても大丈夫”と云う事だ。
オレの“ディファレントスペース”の中や、スキルや魔法の中には、創るだけ創って、死蔵しているモノが多くある。創ったのは良いが、“やり過ぎてしまった”モノ達だ。
今回は、せっかくなので、其れらを使ってみる為にオレ1人で来たのだ。
まあ、宇宙魔獣よりも、オレが創った“危険物”の方がよっぽど危険なので、誰も連れて来なかった訳だ。
5体の宇宙魔獣の位置は把握している。
この封印宇宙の探索用に創った“千の目4”で今も監視している。
この“千の目4”も今回の宇宙魔獣の対応が終わったら死蔵される予定だ。
此れも他の生物が居ない事を前提に創った、“危険物”だ。
広い宇宙で、たった数匹の生物を探すのは非常に大変だ。
幾ら星を喰う程デカいと言っても、宇宙はその比ではないくらい広い。
なので、この“千の目4”は、オレが創った新物質、“魔力鉱”で出来ている。
この魔力鉱は、込めた魔力で何処までも強度が増す、ノンリミッタ鉱物だ。
其れで居て、重さは常に鉄と同じと云う非常に優秀な物理法則完全無視の鉱物なのだ。
まあ、剣と魔法の世界で、原子の密度などを気にしてはいけない。
そんな魔力鉱で創った“千の目4”には、しこたま魔力を練り込んで、秒速30光年、光の10億倍のスピードで移動可能にしている。
そんな超高速物質が通過したら近隣の星が吹き飛んでしまうので、通常の空間では使用出来ないのだ。
そして、エシュアの占いで、出会いの有る方角に飛んで貰った訳だ。
其れでも、5体の発見に1週間掛かったが…………
5体だと分かったのは1体目から得た情報だが、一応、増えて居ないかその後もエシュアに占って貰ったが、どの方角も完全に0%だったので、5体のみだと断定したのだ。
オレは先ず最初に発見した宇宙魔獣の元に向かった…………
デカい…………
“千の目4”で見てはいたが、やはり目の前に居ると、とんでもないデカさだ…………
“千の目4”で端から端迄見て大体5,000万kmくらい有る。
まあ、惑星どころか太陽すら丸齧りなのだ、当然、有り得ないくらいのデカさだろう。
全体を見た結果、ネコっぽい形状なのは分かっているが、人間のオレには、フォルムどころか、角度を感じない壁が有るだけだ。
宇宙空間でも会話は出来るが此の大きさだと聞こえるかどうか分からなかったので、先ずは“念話”で話し掛けてみる事にした。
「おお〜〜い、“魔神 ネメア”聞こえるかぁ〜〜」
「…………誰だ?吾輩に話し掛けるモノは…………」
オレの念話に対して、目の前の超巨大ネコ“魔神 ネメア”が驚きと訝しみを込めて返事をして来た。
ちゃんと会話が出来て何よりだ。
「オレは、クルスだ。
人間だから、おまえには小さ過ぎて見えないかもしれないが、おまえの眉間の前辺りに居る」
「…………人間だと?まだ生きて居るモノが居たとは驚きだ。
其れにまさか、吾輩が居ると分かっていて近付いて来ようとは。
何の用だ?」
「ああ、オレは此処とは別の宇宙に住んでるんだが、おまえ達5人の“魔神”が攻めて来ない様に、念の為に狩りに来たんだ」
「…………人間が我らを狩りに来た?
意味が良く分からんが…………」
「意味はそのままだ。
オレの方がかなり小さいが、ちゃんと狩れるから大丈夫だ」
「…………何が大丈夫なのか益々分からんが、狩りに来たのに何故話し掛けて来る?」
「おまえ達が何を思って日々を過ごしているのか気になったからだ。
はっきり言って、暇だろ?
一応は、この宇宙を元に戻す為に、何かやってるヤツも居るが、おまえは何もして無いだろ?」
「…………まあ、暇ではあるな。
だが、何もして居ない訳では無い。
吾輩は、他のモノ達に遅れを取らぬ様に、じっと力を溜めているのだ」
「この宇宙から出られる様になったら他のヤツらよりも早く強くなって、他のヤツらを喰う為か?」
「…………そうだ。我らの力は拮抗している。
先に抜け出し、1匹でも先に仕留めたモノが、最後の勝者となるだろうからな」
「なあ、もうたった5人しか居ないのに其れでも、喰い合うのか?」
「…………そうだ。最後の1匹になる迄な…………」
「最後の1人になったら、その後はどうするんだ?」
「…………新たに生まれて来たモノを喰らう」
「なるほどな。自分以外は全て食料だと云う訳か…………」
「…………そうだ。もちろん、おまえもな」
「其れは無理だな。おまえは喰われる側だ」
「…………くっくっく………わぁ〜はっはは…………
星に生きる小さきモノに喰われると言われたのは初めてだ!!」
流石にデカいだけは有る。
空気が無いのに、笑い声だけで空間が振動している。
カオス神達では、今の笑い声で吹き飛んで命に関わるかも知れない。
宇宙空間でノビノビ育ったとはいえ、ちょっと育ち過ぎだ。
「そんなに笑う事ないだろう。
人間はおまえ達魔獣みたいに、強くなったり長く生きたりしても大きくはならないんだから、小さい事が弱い事にはならないんだから」
「…………確かに一理有るな。
そこまで言うなら、おまえを喰う価値があるかもしれん。
もしかしたら、吾輩の強さが上がるかもしれんからな」
「そうだな、もしも、おまえがオレを喰えたら、きっと凄まじく強くなれるだろう。
まあ、さっきも言ったが無理だけどな。
じゃあ、始めようか。準備は良いか?」
「…………準備も何も、吾輩には見えんから、吸い込むしかないが、もう吸い込んでも良いのだな?」
「ああ、好きにして良いぞ」
「…………では吸い込むぞ。さらばだ」
またも宇宙に衝撃が走る。
魔神ネメアは、“吸い込む”と言ったが、まるでブラックホールだ。
真っ暗な宇宙空間が引き込まれている様にすら見える。
このサイズの生物がこうやって吸い込んで回れば、そりゃあ宇宙に何も残らないだろう。
寧ろ、体内細菌の様に、体内で生活する文明とかが有るかもしれないレベルだ。
知恵の実の効果を得ている事から、ちゃんと、消化吸収されているとは思うが…………
とりあえず、いきなり顔面から攻撃しては即死の可能性も有るので、オレは距離をとって“ディファレントルーム”から、“魔力鉱で創った白刃と黒刃”を取り出す。
“やり過ぎシリーズ”の最初は、コイツからだ。
白刃の刃だけを100万km迄伸ばす。
遥か彼方に伸びた白刃を一気に振り抜いて、魔神ネメアの右前足を斬り飛ばす!!
ズズッズズッズズ…………
やっぱり此れは封印だ…………
この白刃と黒刃には遊び半分、実験半分で1無量大数の魔力を込めて創った。
魔力鉱は強度を高めるだけなので、出来上がった白刃黒刃も非常に丈夫な刀になるだけなのだが、余りにも込められた魔力が高過ぎて、白刃が斬り裂いた後の空間が裂けてしまっている…………
恐らく、高濃度過ぎる魔力の塊が通過した為だろう。
やった事はないが、オレが本気で移動したら同じ現象が起きそうだ。
「ぐっぎゃああああ!!なんだ?!何が起きた?!」
流石、宇宙魔獣だ。
突然のダメージに苦痛と驚愕の声を咄嗟に出した様だが、ちゃんと宇宙空間に響くスキルを使って叫んでいる。
生まれた時から宇宙で暮らしているのは伊達では無いと云う事だろう。
「安心しろ、オレが斬っただけだ」
「なにぃ〜!!
おまえは先程のクルスか?!生きていたのか?!
其れに吾輩の足を斬ったと言うのか?!」
「だから、オレの方が強いって言ったろ?
まあ、細過ぎて見えないかもしれないが、この剣で斬ったんだよ」
オレはもう一度、魔神ネメアの前に行って、伸ばした白刃を見せる。
「…………目には見えんんが、とんでもない魔力の線が有るのは分かる…………
なるほど、その剣が有るから吾輩を狩ると言っていたのだな?!」
「いいや、此れはもう使わない。
次は別のモノを使うから楽しみにしておいてくれ」
そう言って、今度は左前足の前に行く。
次の“やり過ぎシリーズ”は、封印は確実だが、通常空間での使用実験が目的だ。
白刃黒刃よりも更に危険な、“超俊敏アップ腕輪”だ。
この腕輪は装備すると、なんと秒速30光年の速度が出せる上に、消費魔力もたったの1秒1万程度なので、限界突破すら出来て居ない者でも使えると云う夢のアイテムなのだ!!
但し、光の10億倍のスピードは余りにも速いので、使用者の身体が消し飛んでしまうと云うちょっとしたデメリットも有る。
更に、使用者の身体は消し飛んで無くなるが、腕輪は残って飛んで行くので、幾ら小さな腕輪と言えど、他の星に触れようモノならその星も消し飛ぶ。
もしも、知らずに使ってしまったらとても危険な代物だ。
創った理由は、“千の目4”のコントロールをする上で、オレ自身が、秒速30光年ピッタリを体験しておく為と魔力消費の軽減の実験の為に創っただけで、普段使い用では無い。
とりあえず、腕輪を付けて自分の周りに闘気を纏って、左足に向けて出発!!
一瞬で、ネメアは遥か後方になってしまった。
分かっていた事だが、やはり、使い道は無さそうだ…………
“リターン”で、ネメアの前に戻ると、ネメアの方から“念話”が飛んで来た。
「…………クルス!!おい、クルス!!聴こえているか?!
今度は一体何をしたのだ!!」
「ああ、今度は凄く速く動いて、おまえの足を貫通したんだ」
「…………なにぃ、吾輩の肉体を貫通する程のスピードで動いて、貴様の肉体は無事だと云うのか?!」
「もちろん、何とも無い。
ちゃんと闘気も纏っていたから汚れても居ないしな」
「…………貴様、本当に人間なのか?!
小さ過ぎて見えないが、先程の吾輩を貫いた闘気は、我らを遥かに超えるモノだったぞ?!」
「そりゃぁ、あの位の闘気を纏わないと危ないかもしれないからな。
何度も言ってるが、オレの方が強くて、オレはおまえを狩りに来たんだよ」
「…………ぐぬぬぅ〜…………
小さきモノが相手では吾輩では不利な用だ。此処は引かせてもらう」
そう言うと、ネメアは“リターン”で逃げようととするが、勿論逃がさない。
直ぐに、斬り飛ばしていた右前足を回収して、ネメアに掴まる。
ネメアはちゃんとオレを連れて、“リターン”を使った…………