第30章 世界①
世界①
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神々の世界ミクチュリア。
空間を司る大神カオス神が世界を生み出し、其処に海洋を司る大神ポントス神と天空を司る大神ウラノス神が海と空を生み出した…………
ミクチュリアの誕生と共に多くの神々が生まれた…………
その中でカオス神達を含む、特に大きな力を持つ14柱の神が14の浮遊大陸を創ると、其処に14の中層世界と14の下層世界が生まれた…………
浮遊大陸を生み出した神々は大神と呼ばれ、各浮遊大陸を治め、その下位に存在する中層世界を管理する様になった…………
と、言うのが、大神である応龍を含めた神々の認識だった。
しかし、魔導神クスレンとの戦いで捕虜にした天使、F 山田 エフ ヤマダの話しはそうではなかった。
彼女は“最初に創られた天使”の1人の転生者で、ミクチュリア創生前の世界からカオス神に仕えて居たという記憶を持っていた。
彼女の話しによれば、“世界”とは元々は中層世界の事だった。
オレ達の居た地球を含む“下層世界”は、完全なる異世界だと云う。
そして、カオス神達は中層世界で生まれ、天使達を生み出し、10人の天使が妊娠した事を確認すると中層世界とは別の空間にミクチュリアを創り中層世界を分割して、生まれて来た神達にミクチュリアから中層世界を管理させた。
ミクチュリアが出来て暫くすると、ミクチュリアの魔力溜りから神々が生まれて来る様になり、その中には、カオス神達に匹敵する程の神も生まれた。
そのカオス神達に匹敵する神の1柱が、浮遊大陸による中層世界の管理システムを発案して、そのシステムが採用され、カオス神達を含む“浮遊大陸を生み出せる程の力の有る14柱の神”を大神と呼ぶ様になり、大神達が浮遊大陸を治め中層世界を管理する事になったそうだ。
彼女の話しが真実であるなら大いに問題だ。
応龍が行っていた様に、新たな生命を生み出したり、ハリルドラが行っていた様に、世界の破壊と再生を繰り返したりと云う事が出来る程のシステムを誰かが作ったと云う事だ。
そして、このシステムを作ったカオス神達、浮遊大陸システムを作った大神、応龍達の様に後から生まれて来た神達に“嘘の歴史”を教えた神。
どの神にどんな思惑があって、今の応龍達の知る“常識”にすげ代わったのか知っておき、対策、若しくはシステムの破壊の必要が有るのだが…………
先ずは、エフの話しの裏付けを取る為に、エフの記憶に有った“最初の天使”と“最初にミクチュリアで管理をしていた10柱の神”を探したのだが、1人も見つからなかった…………
次にハリルドラとの戦いの時に見届けに来ていた2柱の大神、ルーイルダーとアラトゥームに話しを聞きに行ったのだが、2柱共、応龍と同じ認識だった…………
ミクチュリアの情報収集は非常に厄介で、賢王ケンタ フジイから手に入れた“スキル 万物の記憶”が真価を発揮出来ない。
何故なら、時間と云う概念が無いからだ。
なので、毎度毎度、巻き戻し映像で確認して行くしか無い。
早戻しは出来るので、数十年、数百年の話しならば頑張れば良いが、数十億年、数百億年もの時間をいちいち巻き戻し映像を確認して周るのは流石に労力が掛かり過ぎる。
そんな訳で、仕方なくカオス神に直接聞く事になった。
今回は話しを聞くのが目的なので、一応、応龍達にアポイントを取りに行って貰い、会う事にした。
まあ、神達は自由気ままでミクチュリアには時間が無いので、直接行っても良かったのだが、オレがハリルドラを殺している事がミクチュリアでも知れ渡っているからか、ルーイルダーとアラトゥームに会いに行った時も非常に警戒されたので、現時点では敵意が無い事を伝えて貰う為でもある。
応龍達がアポイントを取りに行っている間、オレは浮遊大陸ドゥアールの研究を行っていたチームに合流していた。
今迄は、ドゥアールからアールドゥアーデへの影響がどの程度有るのか、どう言った事が影響するのかを中心に研究を行っていたのだが、ミクチュリアが“中層世界を管理する為に創られた”ならば、そのシステムを成す“ナニカ”を探し、知っておく必要が有る。
必ずしもドゥアール内にその“ナニカ”が有るとは限らないが、現在の研究結果として、ドゥアールからアールドゥアーデへの影響は、完全な球形では無いものの、ドゥアールの中心部付近から地中、上空共に一定距離でしか起こらない事は分かっているので、諜報守護部の人員も使い隈なく“ナニカ”の捜索も行っている。
此の200年、諜報守護部の面々は諜報活動や警護任務だけで無く、探索や探検も何百箇所も行って来ているので、お手のものだ。
そんな中、ゴラジスから応龍達の帰還報告を受け、リビングで応龍達から報告を受ける事になったのだが…………
「お疲れ様、応龍。どうだった?」
「…………カオス神だが、居たには居た。
しかし、話し掛けても一切反応が無い。
生きてはいる様なのだが、殴っても回復しても反応を示さなかった」
「カオス神の所には、天使は居なかったのか?」
「はい。天使はおろか、カオス神以外、生物も居りません。
神殿内だけで無く、神殿へ向かう途中の浮遊大陸内にも居りませんでした」
応龍と一緒に行ったセバスが答えた。
セバスの索敵能力で生物が居なかったと言うなら、恐らく虫も居ないくらい何も居なかったのだろう。
「エフから聞いた“最初の10人の神”を探しに行った時と同じか…………
なら、ポントス神の所もウラノス神の所も浮遊大陸に大神しか居ないかもしれないな…………
魔導具なんかの監視は?」
「いえ、有りませんでした」
「…………オレが直接行ってみるか…………
最悪、回収して帰って調べる必要が有るかもな…………
分かった。カオス神の所に行ってみよう。
ポントス神とウラノス神の状況も確認しておいてくれ」
「畏まりました」
もしも、カオス神達に“何者か”が危害を加えて、今の状態にしていた場合、可能性が高いのは3柱の神だ。
ガイア神。
浮遊大陸での中層世界の管理を提唱した神。
アンラ・マユ神。
応龍達に“現在認識されている歴史”を教えた神。
最後に、“名前の不明な女神”だ。
この“名前の不明な女神”は、エフは会った事は有るらしい。
カオス神達がミクチュリアを創った時から居たそうだ。
しかし、14柱の大神と言われているのに、その女神だけ応龍達も名前を知らなかった。
因みに、他の13柱に関しては、会った事が無くとも名前くらいは知っていた。
“この女神だけ”が、大神で在る応龍ですらも知らなかったのだ。
もちろん、他の大神や、大神では無い神がカオス神に危害を加えている可能性も十分有るが、この3柱に関しては、非常に怪しい。単独犯では無い可能性やこの3柱がグルの可能性も有る。警戒が必要な3柱だ。
万が一、オレの動きを監視している場合に備えて、ドゥアールの警備を強化してから、カオス神の元に向かった…………
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今回の同行者は、ルナルーレ、キスラエラ、レイム、イーリストの4人の妻と、クロリュウ、アカリュウ、応龍、シュナイダーの4人のペット、配下はギルスーレとルクス、シェーラとメイド部隊から5人だ。
家族が増えた事で、オレが出掛ける際に全員一緒に行動するのも大変なので、最近はオレが指名する以外はクジで決めて同行者を選ぶ事が多い。
今回も基本は、カオス神の治療と話し合いなので、クジ引きだ。
カオス神の神殿は、巨大な山に掘られた洞窟で、中も只の洞窟だ。
岩肌がそのままの洞窟を進む。
所々に金属の扉が有る事から、元々カオス神が1人で引き篭もっていた訳では無さそうだ。
とは言え現在はセバスの報告通り、虫一匹居ない。
そんな中オレ達は他人の家をズカズカ進んで、突き当たった最奥。
なんだかダンジョンのボス部屋の様な雰囲気のオドロオドロしい大きな扉を開ける。
中に入ると奥に玉座っぽい椅子が有り、其処に2、3歳の子供が座って寝ていた…………
「…………アレがカオス神か?」
「うむ、そうだ」
「カオスって確か、混沌とかそんな感じの神様だったよなぁ〜…………
混沌と云えば小さな子供か?
まあ、良いか。
とりあえず、調べてみよう」
応龍達、前回訪問したメンバーが、もちろん行っているが、一応オレも自分で鑑定を行った。
ちゃんと生きているし、変な状態異常も無い。
爆睡して起きない様なスキルも持っていない…………
呼吸はしていないが、そもそも、魔力だけで生きているのだろう。
周囲にも変わった魔導具も無く、再度、他の部屋や壁の中なんかも調べたが、特に何も見つからなかった…………
「…………仕方ない、とりあえず持って帰ってから調べるか…………
……………………重い…………
なんだ?この重さは…………」
カオス神を持って帰ろうと、抱き上げようとしたが、尋常な重さでは無い。
一応、大神と対峙するから、レベルは1,000兆にして来ていたのだが、レベル1,000兆の力ステータスで持ち上がらないとは…………
先程、手足を触った時はレベル80兆の強度は有るモノの別段変わった感じはしなかった…………
手だけを持ってもやはり、小さな子供の様に軽い…………
足も同様だ…………
とりあえずレベル1000京まで上げて、カオス神を抱き上げ様としたが、其れでも動かない。
結局、1000極まで上げる羽目になってしまった…………
「…………持ち上げ様とした時だけ重いのか…………
ギルスーレ、ちょっとこの椅子を持ってみてくれ」
「はい…………頑丈ではありますが特別変わった所は有りません」
「そうか。じゃあ、このカオス神の重さは、持ち上げ様とした時にだけ効果が有ると云う事か…………
カオス神の特性なのか、若しくは…………
“リターン”で戻る前に、一旦、このままこの浮遊大陸から離れてみよう。
浮遊大陸自体が、カオス神を重くしている可能性がある」
「…………んん……。ええっと………。だれ?」
「目も覚めたのか。
オレはクルス。身体や記憶におかしな所はないか?」
カオス神を連れて、浮遊大陸の端まで来た所で、カオス神が見た目通りの重さになり、其れと同時に目を覚ました。
寝惚けてはいる様だが、普通に寝て起きただけの様な印象だ。
抱き抱えていたカオス神を降ろして、ティーテーブルを用意し、先ずは応龍から此処に来た経緯を説明して貰った。
「…………そっか…………。
先ずは助けて貰ったみたいでありがとう。
ちゃんと、意識もハッキリしてるから、キミ達の聞きたい事にも答えるよ」
「そうか。先ずは、おまえの意識を奪って重たくしたのは誰なんだ?」
「…………多分だけど、アンラ・マユ神だと思う。
彼女が来て、少ししてから記憶が無いから…………」
「具体的に何かの攻撃をされた記憶は?」
「ううん、無い。
彼女とは、口論にはなったけど、彼女が帰って行った後で記憶が不意に無くなってる。
その時、ボクは1人だった」
「何で口論になったんだ?」
「…………キミ達は、大神の1柱が秘匿されている事は知っているかい?」
「秘匿されていたとは知らなかったが、唯一、1柱だけ“名前の分からない女神”がいると云うのは知っている」
「うん、その女神は、名前も居場所もボク達が隠している。
アンラ・マユ神は、その女神の名前と居場所をボクから聞き出そうとしていた。でも、断った。
今迄も、色々と脅し文句を言っていたけど、まさか本当に何かして来るとは思って無かった…………」
「なるほどな。
アンラ・マユ神がその女神の情報を欲しがった理由は?」
「彼女は、『ミクチュリアを管理する者が、正しい情報を正しく伝えなければ示しがつかない』と、いつも言っていたが“嘘”だろう。
彼女は、“嘘の光輪の力”を持っているから。
此れは予想だけど、彼女は“秘匿された女神”の情報を何か持っていて、其れが自分にとって都合が悪いんだろうと思う」
「何でその女神は秘匿されているんだ?
其れと秘匿するなら、大神に含まなければ良いんじゃないのか?」
「秘匿の理由については教えられない。
そして、ボク達の中で、その女神を大神に含まないと云う考えを持つ事は出来ない」
カオス神の口振りから、“ボク達”と云うのは、カオス神、ウラノス神、ポントス神の3柱、若しくは“秘匿された女神”を含む4柱の事を示しているのだろう。
そして、“秘匿された女神”は、カオス神達3柱よりも“上位の神”の可能性が高い。
アンラ・マユ神が狙っている事を考えると、このミクチュリアの根幹を担う“ナニカ”をその女神が有しているのではないだろうか?
「…………そうか。なら、この件はもう良い。
ここからが本来聞きたかった話しなんだが、応龍達は、『カオス神達がミクチュリアを創り、大神が浮遊大陸を創り、浮遊大陸から中層世界が生まれた』と教えられていた。
応龍に限らず、他の大神を含む神達もだ。
しかし、ある転生者から、『中層世界が元々有り、カオス神達が中層世界を管理する為にミクチュリアを創った』と聞いた。
何方が正しいんだ?」
「…………中層世界と云うのは何なんだ?」
「……中層世界はこのミクチュリアの下位に有る14の世界の事だと聞いているが?」
「…………宇宙の事か?其れと、いつの間に14に増えたんだ?」
「…………何だか話しが噛み合わないな…………
なあ、カオス神、このミクチュリアが出来た経緯と理由を教えてくれ」
「…………そうだな…………
先程の女神の事は教えられないから、中途半端な内容になるが其れでも良ければ…………」
「ああ、教えられない所は教えられないと言ってくれれば良いから其れ以外で教えてくれ」
「其れなら…………」