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第29章 魔導神11

魔導神11





▪️▪️▪️▪️





バケモノの1体は、2対4枚の天使の翼と1対2枚の悪魔の翼を持ちツノの生えた直立の虎だった。

ギルスーレはそのバケモノを少し離れた位置で観察していた。

バケモノは、ゴーレムを無差別に破壊しながらも、徐々にシルバーウィングに向けて前進している様だった…………



ゴラジスもバケモノの1体を観察していた。

ゴラジスが観察しているバケモノは、能面のような無表情の鬼の上半身に下半身は、天使の翼が無秩序に大量に生えている。


此方は、ゴーレムに襲い掛かるでも無く、ゆっくりとシルバーウィングに向けて進んでいた………



ギルスーレとゴラジスが慎重に観察を続けているのは、バケモノの戦闘力が未知数で有る事もだが、バケモノの位置取りが原因だ。


前情報では、全く言う事を聞かないバケモノと云う事だったが、この2体は明らかにクスレンとシルバーウィングが直線上になる様に位置取っている。

もっと言うなら、クスレンとシルバーウィングの前に立つオレとの直接上を進んで来ている。


もしも、オレがクスレンの立場なら、ギルスーレかゴラジスが戦闘を開始した時点で、纏めて攻撃するだろう位置だ。


しかし、もう一点。

リンドレージェが対応中の“ミサイル”を使う可能も捨てがたい。


リンドレージェ部隊のシールド展開は完了しているが、“ミサイル”は未だに直進を続けている。

間もなくシールドと接触するだろう。



「ガリー、ギルスーレとゴラジスには動きに変化が無ければまだ動かない様に、リンドレージェには接触時に全員に向けてカウントダウンを伝える様に言ってくれ」



そして…………



「10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……


!!目標接触しましたが変化無し、尚も前進しようとしています」


リンドレージェの報告と同時に、予想通り、クスレンが攻撃をして来た。

“光属性魔法では無い”光の柱が、ゴーレムを巻き込みながら、此方に向かって来る!!


しかし、予想外な事に、光の柱を鬼のバケモノが下半身の翼をバタつかせて銀色の障壁を生み出し、クスレンに向かって跳ね返した。


クスレンの表情を見るにクスレンにとっても予想外だったのだろう。


クスレンはその光の柱を大きく避ける。

あの動きを見るからに、あの光の柱は、“近くも危険”と云う事だ。



「リンドレージェ、シールドを使って向きを反転させろ。

恐らくそいつは攻撃すれば爆発する。“オレならそう作る”。


攻撃せずに反転させて、爆発させようとする攻撃からも守りつつ移動惑星へ向かわせろ。

ギルスーレとゴラジスは標的を“壁に利用”しながら撃破だ」





戦局が一気に動き出した。


ギルスーレとゴラジスは、即バケモノとの戦闘に入り、2体をクスレンとミサイルの間へと吹き飛ばし、リンドレージェ部隊もシールドの調整を直ぐに始めた。


別の2体のバケモノ、竜の首の部分に天使が生えたモノには、シロネコが、竜の翼が大量に生えた龍人種族には、レイムとレームが攻撃を開始した。


残り2つの不確定要素、応龍に匹敵する程の巨大な龍には、ブランド、ギムルスタ、ルザンクス、ラム達が、真っ黒なキューブにはレンが攻撃を開始した。


クスレンが集めていたであろう原始種族達も戦場には残り6人、この6人にも攻撃が始まる。

クスレンのゴーレム作成は未だに続いているが、明らかに数が減って来ている。



「…………そろそろ、逃走が心配になって来るな。

シロクラゲから報告は?」


「現在、確認出来ているのは3ヶ所で、今のところ、魂の保管を行っている様な場所は無いそうです。

……いえ、発見報告入りました。


クリスタルに入った“人種族”を発見。

生前の“ルリシア”と同一の容姿だそうです」


「…………其処は、最大限の警戒をしつつ保留だ。

もう1ヶ所を探索させろ。恐らくダミーだ」


「!!はい、畏まりました」


ガリーに探索部隊への指示を伝えながら考える。

クスレンはアムトムトコピーを封印していた。

つまり、既に“ルリシアの魂”は回収出来ていると考えるべきだ。


なら、いつでも創れる肉体を後生大事にしておく必要は無い。

守るべきは“ルリシアの魂”の方だ。


もしも、オレだったら…………


「…………はぁ〜〜…………

本当に似たモノ兄弟だったのかもな…………


ガリー、捕虜からクスレンの私室の場所を聞き出させて、シロクラゲ達に伝えさせろ。

其れと、シロクラゲ達には“クスレンが死んだら封印が解けるナニカ”を探す様に伝えてくれ。


恐らく、“普通に見える位置に在る何でもないモノ”だ。

そこ迄大きくも無く、かと言ってポケットに入る程小さくも無い筈だ。


見つけ次第回収し撤収させろ」


「畏まりました」





▪️▪️▪️▪️





「…………“此れが正解”だろうな…………」


シロクラゲ達が回収して来たのは、花瓶、クリスタルの置物、本の3つ。

その中から、本を手に取った。


3つとも、“封印の様なスキル”が施されているが、オリジナル言語で読む事は出来ない。

しかし、“オレならこの本”にする。


“自分の命よりも大切なモノ”を隠すなら…………


“自分の命よりも大切なモノ”だ。

絶対に“ディファレントスペース”には入れない。

万が一、自分が死んだら“ディファレントスペース”に取り残されるからだ。


そして、日々、確認出来る様に、自分の私室の見える場所に置き、自分が持ち歩いても、確認の為に持っている姿を見られても違和感が無い、本棚に並べていればカモフラージュの必要も無くなる。

更に、いざと云う時には部下に持って来させる事も出来る。


此の本で間違い無いだろう。



「ガリー、シロクラゲ。


もしかしたら、クスレンが此処に突っ込んで来るかもしれないから、警戒しといてくれ」


そう言って、クスレンに向けて、“軽く殺気”を放った。





クスレンは、リンドレージェが反転させた“ミサイル”を攻撃しつつ、ゴーレムを生み出していたが、クスレンの攻撃は悉くゴラジスが鬼のバケモノを盾にして防いでいる。

敵戦力は、残りこの鬼のバケモノとミサイル、原始種族が2人とゴーレム達だけになっていた。


クスレンも恐らく、撤退のタイミングをずっと見計らっていただろうが、そうはさせない。





オレの殺気にクスレンが此方を意識した。


オレはニヤッと笑うと、クスレンにしっかりと見える様に“本”を向けると、“ディファレントルーム”に放り込んだ…………



一瞬だった。



クスレンが驚愕の表情を見せて、其れが憤怒へと変わり、オレへと大剣を振りかぶって突っ込んで来た。


途中に居たゴーレム達は、余りにも速いクスレンの移動の速度に吹き飛び、クスレンの大上段からの斬撃をオレが闘気の黒刃で受け止めた衝撃波が宇宙を揺さ振った。



「き、さ、まぁ〜〜〜〜〜!!」


怒り狂った形相で全力を込めているであろう大剣に更に力を加えようと次々とスキルを発動している。

しかし、まあ、オレにとってはたいした攻撃では無い。

オリジナル言語の為ステータスは不明だが、斬撃の重さで言えばクロリュウの方が上だ。



「甘かったなぁ、クスレン。

此れでお前はオレを殺せないぞ、どうする?」


「甘いのは貴様だ!!

私を此処まで近付けたのだからな!!」


そう言ったクスレンはオレの顔に向けて右手を伸ばす。

だが、遅過ぎる。

シロネコの猫パンチの方が遥かに速くしなやかだ。


オレはその右腕を左手の闘気の白刃で斬り飛ばした。



「頭を掴まないと“洗脳”出来ないなら、武器なんて持たずに両手で掴み掛かって来れば良いのに…………

まあ、その時は両腕を斬り飛ばしたけどな」


「ふん!!このてい……ど…………」


「何度腕を生えさせても無駄だ。

お前が腕を生えさせるよりもオレが斬る方が速い」


もちろん敵の言葉を素直に信じる筈も無く、クスレンは何度も何度も手を蘇らせ様としてはオレに斬られる。

下がって距離を取ってから蘇らせ様としても、オレに一瞬で接近されては斬られる。


腕斬り鬼ごっこは暫く続いたが、怒り狂っていたクスレンの表情は徐々に歪み、ガックリと項垂れた…………



「何故だ!!何故、ルリシアを!!」


「お前を逃がさない為の人質だ。

別に何かするつもりも無い。


お前を殺したら、解放する」


「!!私が死ねば、ルリシアは貴様の“ディファレントスペース”内を彷徨う事になってしまう!!」


「別に“ディファレントスペース”から魂だけを出すのは簡単だが、お前が大人しく全てを差し出して死ぬなら、返してやっても良い」


「…………私を殺す手段があるんじゃなかったのか?」


「ああ、ちゃんと在る。

お前の“スキル スキル封じ防止”を貫いて不老不死のおまえを殺す手段がな。


この提案は、単なる優しさだ。

死んだ後くらいは、最愛の人と一緒に居させてやろうと云う弟の優しさだ」


「……………………ふふっ…………

随分と嘘の上手い弟だ…………


だが、やはり本当に兄弟なのだろうな。

私では“おまえの敵足り得ない”と云う事なんだろう?」


「…………本当に残念だ。

向こうで兄弟として育っていたら、“良い兄貴”だったかもな…………」


「其れを言うなら、“此方で兄弟として生まれて来ていれば”だな。


…………降伏しよう。


だが、先にルリシアの魂の解放を確認させてくれ、その後は全ての条件を呑む…………」


「分かった」


オレが“ディファレントルーム”から、“本”をクスレンに返すと、クスレンは“本”を強く抱き締め、とても穏やかな表情で「ありがとう……」と、呟いた…………





▪️▪️▪️▪️





魔導神クスレンからは、研究資料もスキルも記憶も根刮ぎ頂戴した。


特に研究資料に関しては、オレが“命を創る”事を禁じている事で、確認出来ていなかった事が多く分かった。

やはり、予想通り、“スキル 創造”で生み出す生命は、“命の光輪の力”よりも遥かに自由度が高い代わりに、“失敗の可能性”も非常に高い事が分かった。



“命の光輪の力”で新たな生命を生み出す場合には、“形状をイメージ”して、“条件をイメージ”して、“命を吹き込む”事で生まれる。


たったこれだけだ。


なので、“新たな種族”として生まれて来る。



しかし、“スキル 創造”の場合には、この方法では“既存の生物”しか生み出す事が出来ない。


その代わり、“形状のイメージ”を臓器や機関、神経、細胞、遺伝子まで行い、その肉体に合った“条件”で、その肉体と条件に合った“魂”を創る事で、完全に一から十まで、創り上げた“個人”を生み出す事が出来るのだ。



但し、肉体に条件を合わせる事は出来ても、其れに合った“魂”を創り出す事は容易では無い様で、クスレンは新たな種族を創る事は断念したらしい。

今回戦ったバケモノ達の情報も含め、多くの失敗例を得る事も出来た。



その上で、“スキル 創造”の方が遥かに自由度が高いと確信した。


クスレンはとうとう気付かなかった様だが、逆転の発想だ。


“求めるモノ”に合った“条件の魂”を創り、“変身魔法”の永続版スキル、“スキル 変身2”を持たせた適当な肉体を与えれば、恐らくその“条件の魂”に合った肉体に自ずとなるだろう。

その後で、肉体が“求めるモノ”で無いならば、幾らでも変身すれば済む。


もちろん、思い付いただけで実行はしないが、念の為、知っておくに越した事は無い。

他にも色々と“スキル 創造”を試した記録や記憶が手に入り、とても有意義なモノだった。





そして、クスレン本人は…………



「いや〜〜、ルリシア。

私達が居た頃とは比べ物にならない程、この星は発展したなぁ〜〜」


「そうね、あなた。

レンジくん、ごめんなさいね、主人の我儘に付き合わさせてしまって…………」


「いえ、ルリシアさんが謝る事は無いですよ。

この“屁理屈兄貴”が悪いんです…………」


「何言ってるんだ、レンジ。おまえが自分から言った事だろ?


私はちゃんと、おまえとの約束を守って、『全て差し出して、死んだ』。


だから、今度はおまえが約束を守って、『死んだ後くらいは、最愛の人と一緒に居させてやろうと云う弟の優しさ』で、“死んだ後、生き返った”私が、“生き返った最愛”のルリシアと“一緒に暮らせる”場所を提供するべきだ。


そうだろう?」



…………と、云う事だ…………


コイツは、やはりオレの兄貴だった…………



ちゃんと、“死んだら生き返れる準備”をしていて、ちゃっかり、肉体は“貴人”を用意していたのだ…………


そして、自分が生き返る時には、“ルリシアさんも生き返る”様になっていた…………

だから、ルリシアさんの魂を先に解放させたのだ…………



「ああ、そうだな。ちゃんと、“死んだ後の魂くらいは”と、言わなかったオレが悪いんだろうよ。

だが、“一緒に居させる”で、弟に“家までたかる兄貴”はどうかと思うけどな」


「其処は、私にはもう“何のスキルも無い”のだから、“優しさ”に含んでくれ」


「スキルが全て無くなっても、レベル100億万なんだ。

自分で稼いでも良いんじゃないか?」


「そうよ、あなた。ちゃんと普通に働けば良いじゃない」


「ルリシア、私は理想を追い求める余り、キミを生き返らせるのをずっと我慢して来た。

しかし、レンジに理想を打ち砕かれ、中途半端な形になってしまったが、其れでもやっとキミに再会出来たんだ…………


だから、当分は働かずにレンジにたかりながら、キミとイチャイチャして過ごそうと思う!!」


「あなた、そんな大きな声で!!

私達はもう良い歳なんだから…………」


「何を言ってるんだ、ちゃんと出会った頃と同じ22歳の肉体なんだぞ!!

気持ちも若い頃と同じで良いじゃないか!!」


「おまえこそ、何を言ってるんだ!!


言っておくが、オレは自分の子供ですら成人してからは面倒を見ていない!!

住居は“やる”が、金は“貸してやる”だけだ!!


いいか?


1ヶ月以内に仕事が見つからなければ、オレの指定する場所で強制的に働かせる。

貸した金は1年以内に返さなければ強制的に取り立てる。


逃げる事は出来ないぞ。


惑星連合加盟惑星は全て、国境を経由しなくては別の惑星への“リターン”が出来ない様に防衛結界が張ってある。


そして、此処アルファの中でオレから逃げられる場所は無い」


「なに?!レンジ、其れでも私の弟か?!」


「なあ、兄貴。オレはおまえを殺すと言ったが、“1回だけ”とは、言わなかったよな?」


「!!」


「!!レ、レンジくん、主人も私も直ぐに仕事を見つけて働くわ。

“貸してくれたお金”も出来るだけ早く返すわ!!」


「ルリシアさん、馬鹿兄貴を“本当に”宜しくお願いしますね」


「ええ!!任せて!!ちゃんと真っ当な生活をさせるから!!」



念の為、目の届くサーラールの街に家を用意したが、恐らくルリシアさんの尻に敷かれるだろうから大丈夫だろう。

多分…………





こうして、数多の生命を奪い、非道な実験の数々を行い、集めた配下も悉く殺された“魔導神クスレン”は、“自分だけ生き返って”のうのうと生きていく事になった…………






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