第29章 魔導神⑦
魔導神⑦
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クリシュナの前には、分厚い筋肉の壁が立ちはだかっていた…………
「あらん?あなた、ハイエルフじゃない。
其れにわたしと同じでどっちもイケちゃう子ね?」
クリシュナの頭上から掛かった声は、非常に野太いが女性口調だ。
そして、筋肉の壁は、ちょこんと付いた頭に長い耳をしていた…………
更に、筋肉の壁は途轍も無く危険な格好をしていた。
フリフリの超ミニに、今にも溢れ出そうなTバックだ。
もちろん、溢れそうなのは“前”の方だ。
上半身は、ハート型のニップルシールのみ…………
色々な物語で出て来る、“最強、無敵、不死身”の代名詞の様な超危険生物の究極体とも言える存在が其処にいた…………
何が究極なのか。
この超危険生物は、一般的には“オネエ”で有る場合が基本だ。
しかし、この筋肉の壁は、クリシュナと同じくハイエルフ。
そして、クリシュナと同じで“どっちもイケる”と言うのは、“本当にどっちも有る”事を意味する。
もはや、完全無欠と言っても過言ではない…………
だが、しかし!!
クリシュナは、この超危険生物相手でも怯んだりはしない!!
何故なら、この様な存在は、エルフの里には結構居るからだ!!
多少、格好は奇抜だが、クリシュナにとっては許容範囲に違いない!!
「お生憎様、確かに身体はそうだけど、私は一生女の子として生きるって決めてるから」
さすが、クリシュナだ!!
この様な超危険生物を前にしても、一切の動揺が無い!!
「あら、残念ねぇ〜〜。
せっかく、どちらの快楽も得られる身体なのに、男だの女だのに、拘るなんて勿体無いわねぇ〜〜。
其れに、そんな拘りを捨てられないなら、わたしの作る新たな世界では生きて行けないわよ?」
「あなたの作る新たな世界?
魔導神が言ってたっていう1種族だけの世界って事?」
「そうよ。間違いなく、クスレン様は最高の種族としてハイエルフを選ばれるわ。
そうしたら、この世界は種族の違いも男も女も無い、完全なる世界になるのよ」
「…………ねえ、何で種族の違いが無くて男も女も無いのが完全な世界なの?」
「あら、何を言うかと思えばそんな事も分からないの?
種族の違いは種族同士の戦争を生むわ。
そして、わたし達の様なか弱い女の子は、戦争の犠牲者…………
更にわたし達みたいに男でもあるなら、最前線で戦わさせられた挙句、夜には慰み者にされる最も辛い立場よ。
でも、ハイエルフだけの世界には争いも無いし、女の子だけが辛い思いをする事も無い。
だって、男も女も無いんだから!!
みんなが苦しみも快楽も共感出来る素晴らしい世界なの!!」
「…………今の話しって、あなたの想像よね?
だって、あなたは慰み者にされた事は無いでしょ?」
「…………あるかもしれないわよ?」
「絶対無いでしょ!!
完全に目が泳いでるじゃない!!」
「!!実際には無くても、夢の中では何度も辛い思いをして来たわ!!」
「其れは、辛い思いじゃなくて、あなたの願望でしょ!!」
「!!何ですって!!
わたしがあんな辛くて苦しくて恥ずかしい夢を望んでいるって言うの!!」
「望んでるじゃない!!
今、思い出しただけで、もう“はみ出す寸前”じゃない!!」
「は!!なんて事!!
わたしの“リトルボーイ”がこんな事に!!」
「どこが“リトル”な“ボーイ”なのよ!!
完全に凶悪極まりないじゃない!!」
「あらあら、真っ赤になっちゃって。
わたしの“リトルボーイ”の本気はこんなモノじゃないわよ?」
「どうでも良いわよ、そんな事!!
それより、要はあなたが唯の妄想で他の種族を滅ぼそうとしてる極悪人って事で良いわよね?」
「一体何を聞いてたのよ。
わたしは完全なる世界を目指すエンジェルよ」
「…………もう良いわ…………。殺っちゃうから…………」
クリシュナは完全に無防備の筋肉の壁に大鎌を振り下ろす!!
クリシュナの大鎌は、分厚い大胸筋に触れた瞬間…………
あっさり、真っ二つにぶった斬って、一撃で息の根を止めていた…………
クリシュナは普通にそのまま細切れにぶった斬って行った…………
オレはクリシュナの攻撃が筋肉の壁に阻まれる姿を想像していたが、現実問題、クリシュナとあの筋肉とではステータスが違い過ぎて、圧倒してしまうのは当然の結果だった…………
あの見た目で、無敵で不死身だと思ってしまったのはオレの先入観だ…………
人間、殺せば死ぬモノだ…………
ミケネコは後足で立ち上がり、前足で、ネコパンチシャドーボクシングをしていた。
ただ無意味に拳を繰り出しているのでは無い。
ミケネコのネコパンチジャブの拳圧は、遥か彼方のゴーレムを粉砕していた。
ゴーレム達もまさか、遥か遠方からネコサイズのネコの拳の拳圧だけで自分が破壊されようとは思ってもみなかっただろう…………
寡黙なミケネコのシャドーボクシングは、続いていた…………
「ネーレウス様、御手数をお掛けします」
「なに、構わぬよ。状況的に今回は、ご主人様が対処されるじゃろう。
そうなれば、戦闘が始まった瞬間に終了じゃ。
万が一の自爆に備えて、出来るだけ早く調べた方が良いじゃろうからな」
シロクラゲは、諜報守護部のメンバーと共に、移動惑星の調査を行う様だ。
シロクラゲの言う様に、万が一、クスレン死亡と同時に自爆されたら、せっかくの情報源が失われてしまう可能性も有る。
その為、最速で調査が行える様に、セバスがシロクラゲに調査隊との同行を頼んだのだろう。
シロクラゲには、知識だけでなく、大量の触手がある。
今回の移動惑星の様に、巨大な未確認建造物の調査には最適だ。
移動惑星全体へと触手を伸ばして行き、出入り口の調査から始める様だった…………
セレンとセリンは、お互いにコンビネーションを確かめる様な戦闘を行っていた。
2人は先日出産したばかりだ。
産休中の感覚を実践で確認しているのだろう。
因みに子供はセレアが面倒を見ていると思われる。
毎度の事だが、セレアはセレンに子供が産まれると、自分の孫の様に可愛がっている。
オレとしては少し悲しいが、セレアは自分の子供よりもセレンの子供を可愛いがるのだ…………
育てなければならない我が子よりも、可愛いがるだけで良い孫の方が可愛がられると言う事だろう…………
訓練がてらゴーレムを斬り進んでいた2人の前に、ボスキャラが現れた。天使だ。
其れも…………
「あなた達はもしかして、私達の末裔なのかしら?」
「…………どうでしょう?
ですが、その可能性もあるかもしれませんね」
セレンとセリンの前に現れた天使は2人…………
3対6枚の翼に大きな天輪。
其れ以外は、顔も背格好もスタイルもセレンとセリンに瓜二つな天使だった……
セレンとセリンの見た目は全く区別がつかない。
しかし、双子や兄弟、親子の様に極近い血縁と云う訳ではない。
2人は曾祖父が同じで祖父が兄弟と云う、そこそこ離れた血縁だ。
だが、本当にそっくりなのだ。
そして、目の前の2人の天使も本当にそっくりだった。
「あなた達も双子なの?」
「いいえ、私達は離れた血縁ですね」
「なら、本当に私達の末裔かもしれないわね。
クスレン様に出会う迄は眷属も大勢生み出したし、その末裔はきっと更に大勢居るだろうから。
其れにしても、本当にそっくりね。
目の前で生まれた眷属でも此処まで似ている子は居なかったわ」
「そうね、ドゥリア。
私もドゥリア以外で此処までそっくりな子は初めてみるわ」
「ええ、トゥリア。
でも残念ね。この子達、翼も2枚しか無い上に天輪すら持っていないわ」
「そうね、ドゥリア。
こんなにもそっくりなのに、完全に“紛いモノ”だなんてとっても残念」
「そうですか?
主様の研究では、翼が2枚でも6枚でも速度向上効果は同じでしたから問題無いのでは?」
「ええ、寧ろ簡略化されている分、私達の翼の方が優秀でしょう」
「…………もしかして、“劣化品”のくせに私達をバカにしたの?」
「いいえ、バカにしたのではありません。
私達もあなた達も変わらないと言っただけです」
「セレン様、私はバカにしたつもりだったのですが?」
「え?!そうなの?
ごめんなさい、訂正します。
私はバカにしていません。
セリンはバカにしました」
「…………舐めやがって、下等種族がぁ〜……」
「ドゥリア、ムカつくのは分かるけど、口調が戻ってる」
「うるせぇ!!
トゥリア、てめぇも澄ました真似事はもうやめちまえ。
どうせ、このゴミ共はぶっ殺すんだから、澄ました振りなんかしても意味ねぇ!!」
「…………なんだか、イヤですね。
自分と同じ顔であんな汚い言葉を使うなんて…………。
ねぇ、セリン?」
「はい。しかし、あの表情のお陰で別の人物だとハッキリ思えたので良かったかもしれませんが」
「確かにそうね、セリンはあんな顔しないものね。
私もしてないと思うし」
「うるせぇよ!!
なんだ、テメェらは、自分達だけ良い子ちゃん振り続けやがって!!
テメェらもどうせ、オレらの末裔なんだから、こう云うのが普通なんだよ!!」
「いいえ、私達は此れが通常運転です。
まあ、見ていて不愉快なのはお互い様の様ですし、早速済ませてしまいましょうか」
「お待ち下さい、セレン様、少し確認したい事が有ります。
其処の2人、おまえ達は魔導神が現れる前から存在していた様な口振りだったが、魔導神に出会う前は一体何処の神に仕えていたんだ?」
「ああぁ〜〜ん?テメェ、なに上から聞いてやがるんだ?
なんでオレがテメェの質問に答えなきゃなんねぇんだよ!!」
「そうだ!!
あんなスライムヤロウの事なんざ、思い出したくもねぇんだよ!!」
「スライムヤロウ?ああ、フンドゥンキン神ですね。
ならば、あなた達はフンドゥンキン神が魔導神に罰を与えようとして派遣された天使だったと云う事ですか?」
「テメェら、あのスライムヤロウを知ってやがるのか?
まさか、テメェらあのスライムヤロウの手下って事か?」
「いいえ、違います。
そもそも、フンドゥンキン神はもう居ません。
ご主人様と敵対した為に、ラムさんに殺されましたから。
ただ、フンドゥンキン神からの情報で、フンドゥンキン神が幾度と無く魔導神への神罰を決行しては失敗し続けたと聞いていただけです」
「嘘を吐くな!!
あのヤロウが本体をコッチに来させる訳がねぇ!!
どうせ、分身体でも倒しただけだろうが!!」
「いいえ、主様が確認されているので、フンドゥンキン神の死は確実です。
其れに、フンドゥンキン神と対峙したのは、ミクチュリアのドゥアールに有るフンドゥンキン神の住む巨大樹だったそうですから。
元下僕ならご存知でしょう?
その巨大樹の中に本体が複数に分かれて隠れて居た事も」
「…………テメェらのボスは、ミクチュリアに行ったのか?どうやって?」
「ご主人様は、応龍様を倒して、ペットにされたのです。
その後、研究を重ね、今では私達もミクチュリアへ行く事が出来る様になりました」
「…………ウソだ…………応龍様が…………」
「そんなバカな…………大神が負けた?……」
「…………ねぇ。あなた達がもしも、ミクチュリアに戻って大人しく暮らすなら、主様にお願いしてみますが、どうされますか?」
「…………いや、オレらを救ってくれたのは、クスレン様だ。
クスレン様を裏切る訳にはいかねぇ…………」
「ああ、其れに驚いたのは、応龍様がクスレン様以外に敗れた事にだ。
クスレン様は、応龍様を間違い無く超えてる。
テメェらのボスもクスレン様に敵う訳がねぇ」
「…………義を通すなら、其れも良いでしょう。
セレン様、お待たせ致しました。始めましょう」
「…………そうだ、オレらに殺されに来やがれ!!」
「では、遠いご先祖様方、さようなら」
セレンの言葉と共にセレンとセリンは大剣を構える天使達を剣ごと大鎌で斬り裂いた…………
そのまま、2人共、天使達の五体をバラバラに斬り、全く同じ動きで、細切れにしていた。
「…………なんだか、セリンを殺してしまった様な自分を殺してしまった様な、イヤな感覚ですね…………」
「そうですね。
ですが、変わった天輪の力を持って居なくて幸いでした。
回収するか、悩まなくて済んだので」
「確かにそうね。
自分と同じ顔の研究材料は余り見たくないですね…………」
2人は、気持ちを切り替える為か、そのままゴーレムだらけの場所に向かって再度飛んで行った…………
アカリュウとホネリュウは、其々、“天使の様な”美女を乗せて居た。
3対6枚の翼だが、天輪の代わりに背後に光輪を輝かせている。
オレとセレンの娘、レイーヌと、セリンとの娘、レリーヌだ。
セレン、セリン、エル、トーナとの子供は何故かこうなった。
しかし、エルとトーナとの子供は“神”だったが、セレンとセリンとの子供は“神子”なのだ。
光輪の力も象徴も持って産まれていた。
しかし、他の子同様に神子だ。
種族“神”の条件がますます分からなくなってしまった…………
そんな2人が何故、アカリュウとホネリュウと共に居るのか。
其れは、この2人がアカリュウとホネリュウの弟子だからだ。
イレーヌとイリーヌの武器は手甲剣なのだ。
この手甲剣の使い手は、アカリュウとホネリュウだけで、他にこの武器に精通している者は居ない。
何故なら、竜は指が3本で剣を握り難いから、この武器を持たせただけで、本来なら普通の剣よりもデメリットの多い武器だからだ。
攻撃するにも動きや角度が限定されて、防御するにも衝撃が去なせない為に腕にそのまま負担が来る。
装備するにも、壊されて持ち替えるにも手間だ。
普通の剣の方が遥かに使い勝手が良いのに、わざわざこの武器を選ぶ理由が無い!!
本来なら…………
「アカ師匠、行ってきます!!」
「はい」
「私も行きます、ホネ師匠」
「ウム」
そう言ったイレーヌとイリーヌは、飛び立つと、ゴーレムの群れに突っ込んで行きながら光輪を輝かせて、クルクルと回り出す。
そして、回転したままゴーレムを斬り付け始める。
2人の回転は止まらない。
そして、ゴーレム達はまるで引き寄せられる様に2人に集まって来ては斬られて行く。
其れでも2人の回転は止まらない。
そして、周囲のゴーレムが完全に居なくなると、ようやく、2人は全く同じタイミングで、ピタッと止まった。
2人の光輪の力は“回転の光”。
2人は自分が回転すると共に、周囲のゴーレム達の流れも回転させて自分達に引き寄せていたのだ。
そう、2人の手甲剣は、この“回転の力”との相性は良かった。
なので、アカリュウとホネリュウを師匠と仰いで、手甲剣をマスターしようと日々特訓しているのだ。
因みに、アカリュウとホネリュウは、2人と全く同じ事が出来る。
アカリュウとホネリュウが“重力属性魔法”を使って此れをやっているところを見たイレーヌとイリーヌが真似をしたのだ。
弟子入りのきっかけは其れだった。
しかし、今では、2人は手甲剣を世に広めんと、手甲剣の究極を目指しアカリュウとホネリュウと共に更なる修行を行っている…………
因みに、この2人は、未だ独身で諜報守護部第000部隊所属の残念な娘達だ…………
トーメー一家は、5人共背に男女を乗せて戦場を駆けていた。
オレとレンの息子と娘、ロンとランの双子兄妹とその2人の子供達、ヤン、ユン、ヨンだ。
オレとレンは、孫の名前に反対したのだが、説得力が無さ過ぎてダメだった。
元はと言えば、オレとレンがロンとランに安直な名前を付けたのがいけなかった…………
ロンとランは双子で夫婦だが、この世界では結構普通なので、特に反対はしなかったのだが、ちゃんと理由を聞いてからにすべきだった…………
ロンとランは、はっきり言って、オレの要素は一切無い。
完全にレンのコピーの様なそっくり息子と娘だった。
裸になれば、もちろん違いは明らかなのだが、服を着ていると区別が付かない。
理由はレンに怒られるから言えないが、服を着ていると全く同じなのだ。
そんな2人が結婚した理由。
其れは、『自分達の子供もそっくりなのか知りたかったから』らしい…………
もしも、理由を知っていれば反対したのだが、産まれた時からずっと一緒に居た2人をオレもレンもお互いに好き合っていたのだと思ってしまったのだ…………
そして、2人の間には、そっくりなヤンが産まれた…………
その後、ユンとヨンが産まれた訳だが、みんなそっくり…………
この2人は、何人目で似て居ない子供が産まれて来るか、楽しみに、日々、孫を増やす努力を続けている…………
更にタチの悪い事に、トーメーとバイラヴィにも子供を増やす様に強要しているらしい…………
レンの時もそうだったが、トーメー達は何故か、ロンにもランにも従っている。
一度、心配になって、弱みでも握られてるのか聞いてみたが、
「よ、よ、弱みなんて、全然、全く、握られていないにゃ!!
そ、そもそも、おいらには、う、う、後ろ、後ろめたいこ、事なんて無いのにゃ!!」
と、言っていた。
その後ろでは、バイラヴィ達も、首が千切れそうな程、頷いていた…………
なので、『きっと、トーメー達はレン、ロン、ランの事が大好きなんだな!!』と、結論付ける事にして、それ以上は詮索しない事にした。
なので、今日もトーメー達は、ロン達に良い様に使われているのだ…………
“鬼”から胸のサイズを弄られてキレてしまったヒィを宥めに、親友で有り、義理の娘でも有る、パッツンパッツンのメイド服を着た女性?がやって来て、2人は肩を並べて、ゴーレムを殴り倒し始めた。
その女性?の名は、ヴィーナス。
“中層世界の神を認めない派”を仕切る、ハリルドラとの争いの時に、ヒィと激闘?を繰り広げた、美と化粧を司り、全ての女性の美しさと幸せを一身に背負う、ムッキムキの女神?だ。
そして、オレとヒィの最初の息子、ケンの妻でもある…………
ヒィはヴィーナスとの戦いの後、彼女をいたく気に入って、彼女もヒィと気が合ったのか2人はとても仲良くなって、ヒィは時々、ミクチュリアの彼女の所に遊びに行く様になった。
其れは、子供が産まれた後も続き、ヴィーナスとケンの出会いは、親友と親友の息子としての出会いだった。
そして、月日は流れ、ケンが成人した翌日、ケンは1人、ヴィーナスの元へ行き、結婚を前提に付き合って欲しいと言ったらしい…………
ヴィーナスは、ゴツい顔立ちでムッキムキの肉体だが、内面は非常に女性らしく、異常に肉体を鍛えている以外は、家事も料理も一流だ。
そんなヴィーナスを幼い頃から見ていたケンは、ずっと恋心を抱いていたそうだ。
特に、ケンの母親譲りの“心眼の力”は、幼い頃から母のヒィや祖父のシン王を遥かに凌いでおり、本当にヴィーナスの内面の美しさに惚れた様なのだ。
オレもヒィもヴィーナスの事は認めているし、見た目でとやかく言う事は無い。
しかし、問題は結婚した後の話しだ…………
ヴィーナスは、この世界、アールドゥアーデの上層世界、ドゥアールの神では無い。
彼女が見守っていたのは、ハリルドラが治めていたデヴァロカとその中層世界だ。
クルス家初の婿養子かな?と、思っていたのだが何と彼女は、侍らせて居た天使達も全員、他の神に任せ、身一つで、アールドゥアーデにやって来て、惑星ゼータのクルス商会でケンと2人して、普通の従業員として働き始めたのだ。
確かに驚いたが、ケンはもう成人しているし、ヴィーナスは只の友人だ。
2人が何処でどう暮らしていようと、オレは口出しするつもりは無かったのだが…………
2人は先ず、クルス商店の寮に入って一緒に暮らし始めた。
此処までは良かった。
しかし、結婚を機に、街の中に家を買って其処に暮らし始めたのだ。
そして、数日後、シン王がオレに土下座して来た…………
「クルス殿!!何卒、何卒、ヴィーナス様とケンを引き取って頂けないだろうか!!」
と…………
理由は、2人の新居に有った。
2人の新居は、惑星ゼータの一般的な家で、惑星ゼータの丈夫な樹木で建てられた家だ。
しかし、丈夫なのは一般人が住んでいての話しだった…………
神であるヴィーナスと、其れに相応しい男になる為、鍛えて来たケンは、一般人には想像出来ない程の高レベルだ。
そんな2人は新婚なのだ。
もちろん、毎晩直ぐに眠ったりする訳が無い。
2人の“夜の声と振動”は、王都中に響き、揺らした…………
初日は天変地異だと街中が大騒ぎになり、2日目は、王城にクレームが殺到して、3日目には、王都の病院は患者を抱えきれなくなった…………
しかし、本人達にこの事を直接言える者は居なかった。
2人は普通にクルス商会の従業員として、街の人達に受け入れられていたが、一応は王の孫の王子と神様だ。
そして、本人達には、一切悪気も無いし、本来なら苦情が起こる様な事では無い。
地震と騒音への苦情はあれど、本人達を否定する訳にもいかず、悩んだ結果、オレに丸投げる選択をしたそうだ…………
仕方が無いので、2人は出世と云う名目で、オレの配下に加えて、ミミッサス村に2人の新居を準備して上げた。
オレが作った建物ならば、ご近所トラブルになる事は無いので、建て替えてあげても良かったのだが、2人を恐れて、クルス商店の売り上げが下がっても困るので引き取ったのだ。
そんな訳で、ヴィーナスは第2メイド部隊に、ケンは諜報守護部に配属となった。
「ふふっ、ヴィちゃんの拳もすっかり“一途な愛の拳”になりましたね。
母親としてとても嬉しいです」
「いいえ、まだまだヒィちゃんの拳には追い付けていないわ。
やっぱり母は強いわね。
私も早く、ケンちゃんとの赤ちゃんが欲しいわ」
「ええ、早く孫の顔を見せて下さい」
「今夜も“頑張るわ”お母様!!」
…………などと、意味不明な会話をしながら、2人の撲殺は続いて行くのだった…………