第29章 魔導神⑤
魔導神⑤
▪️▪️▪️▪️
黒火一族は、基本、美男美女揃いだ。
その中でも最高にイケメンな執事服の男が、後ろに手を組んで戦場全体を眺めている。
彼はただ見ている訳では無い。
ゴリゴリとゴーレムを倒し、どんどん進んで行く者ばっかりの戦場では当然、一切戦闘をせずにすり抜けて後方迄進んで来る敵もいる。
そんな敵に対して、超高速でナイフを投擲しては、また後ろ手に組んでいるのだ。
彼の名はグレン。
セバスとシャンシェの息子で、ルクスの記録を唯一追い抜いた、現在、クルス学園特別クラス卒業とクルス商会入社執行部所属、幹部就任、最高幹部就任の最年少記録保持者だ。
黒火一族として生きる事を誓う彼は、結婚をしていない。
しかし、彼のイケメンっぷりは尋常ではなく、ある時、恋人の人数を聞いたところ、200人を超えていた。
それ以降は、聞くのをやめた…………
オレも人の事は全く言えないが、彼はいつ刺されても仕方がない。
女性からも、男性からも…………
そんな、完璧超人なグレンの唯一の弱点、それは…………
「グレン!!いつも言ってるでしょ!!
動けば済むところは動いて倒しなさいよ!!
じゃないと、ナイフが散乱してたら回収の時に危ないでしょ!!」
そう言って、グレンに突っかかる少女。
彼女は『グレンを唯一振った女』と言われている。
「う!!レニア…………なんで居るんだよ…………」
「そんなの今来たところだからに決まってるじゃない。
それより、無駄にナイフを投げないのよ!!良いわね!!」
レニアはそう言うと、グレンのケツをバシンッと叩いて前線に向かって行った…………
レニアは、オレとサーニヤの娘だ。
そして、オレと第1メイド部隊との間に出来た最初の子供でもある。
そんな彼女が小さい頃は、まだ、クルス家家庭内ルールが余り無かった。
だから、幼いグレンがレニアに勇気を出して、産まれて初めて告白したのに、
「は?パパより弱っちい、あんたなんかに興味ないわ」
と、素気無く振ったのだ…………
其れ以降、グレンはオレの娘は絶対に口説かないと誓い、代わりに他の女の子を口説きまくったのだ…………
現在であれば、そんな悲劇は起こらない。
クルス家の家庭内ルールで『お父さんよりも強い男を恋人に求めてはいけない』と、小さな頃から教育されるからだ。
このルールが無かった為に、オレの娘達は歳が上の者ほど問題の有る恋愛をしている…………
レニアは未だ独身だ…………
顔は母親に似て、幼いが可愛いのに、人生イコール恋人居ない歴なのだ…………
家庭内ルールが出来てから、「パパよりも…………」とは、言わなくなったが、「あんたじゃダメ!!」と、言っているだけで、今でもオレよりも強い男を求めている様だ…………
シエラールルも戦場全体を見つめていた。
だが、グレンとは理由が違う。
彼女はメイド長としてメイド部隊の連携を見ているのだ。
執行部メイド部隊は、今や最も幹部の人数の少ない部隊となった。
そもそも、メイド部隊は身の回りの世話と臨時の諜報活動が仕事だ。
どう考えても人数が多過ぎだったのだ。
だから、其れを纏める幹部が多くなってしまっており、各部署の纏め役の様な事もさせていたが、現在は各部署もキチンと命令系統が確立されている為、基本本来の仕事をして貰っている。
しかし、執行部たるメイド部隊は、どの部署よりも強くなくてはならない。
メイドに強さを求めるのは本来おかしな話しだが、彼女達は執行部なのだ。
幸い今迄一度も行われずに済んではいるが、“裏切り者の粛正”を行うのは彼女達の仕事だ。
オレの配下は末端の研究者ですら、この世界では最高峰の強さだ。
そんな者達が“万が一裏切った場合”に常に備えて、メイド部隊の訓練は非常に厳しく、且つ、強者と戦う為の連携も欠かせない。
シエラールルの厳しい視線に晒されながらも、淡々とこなすベテランと、ビクビクしながら必死にミスが無いかを自分に確認しながら戦う新人。
最近は争い事も余り無かったので、シエラールルはここぞとばかりに日頃の訓練の成果を確かめていた…………
そんなシエラールルの見つめる中、ベテラン組のサーニヤ、アキナ、シーナリス、スーナリスの4人は、ゴーレムを強者に見立てて暗殺の練習とばかりにわざわざ死角からの攻撃をしたり、隙を生み出す様な立ち回りをしながら戦闘を行っていた。
この、クルス商会が誇る最強の合法ロリ集団の4人は普段から一緒に行動をしている訳では無い。
今日はたまたま、偶然にも同じベットで起きた為に、たまたま、偶然一緒に出撃しただけだ。
この4人は、ちょくちょくシエラールルが組み合わせて来るので、其れはもう息ピッタリな連携を見せている。
もちろん、組み合わせて来るのは任務ではなく、“アッチの方”だが…………
そんな4人に声を掛ける者が現れた…………
「おやおや、此処は戦場では無く、子供の遊び場だった様だ」
キザな男を絵に描いた様な男性の天使だ。
武器もキザな男の代名詞の様な派手な装飾のレイピアで、ご丁寧に反対の手で髪までかき上げている…………
「お嬢ちゃん達、怪我をしない内に、早くママのところ……ぐぎょぉ!!」
天使の男が最後まで喋る前に、シーナリスの右フックが顔面をくの字に曲げていた…………
オレはシーナリス、スーナリス姉妹は、見た目が非常に幼い事から、子供扱いされると怒って相手をボコボコにするのだと思っていた。
しかし、本人に聞いたところ、別に怒ってはいないらしい。
何故なら、自分達の幼い見た目は相手を油断させる為の非常に有効な武器で有ると考えていたからだ。
だが…………
シーナリスは、わざわざ持っていたナイフを仕舞って、拳で天使の全身を其れはもうボッコボコに殴りつけている…………
スーナリスは、天使の股間を何度も何度も繰り返し踏み付けている…………
そんな2人の顔は完全な無表情だ…………
やっぱり、何度見ても怒っている様にしか見えない…………
オレはちゃんと2人を女性扱いするので、オレの股間は無事なのかもしれない…………
▪️▪️▪️▪️
2人のキスラエラが、的確に魔核のみを撃ち抜きながら、360度1体のゴーレムも逃さず殲滅していた。
1人はもちろん本物のキスラエラだ。
そして、もう1人は、ビルスレイア女王国が無くなった為にキスラエラの影武者をお役御免になった、第16夫人のクリスティーナだ。
惑星アルファにあった3つの魔王が治める国は現在1つの国になっている。
ドルギルビル王国だ。
国王は、ラル ドルギルビル。
クルス家の長男と言える、ラムの息子、リムの弟のラルだ。
ラルはギルナーレの王女オルフィリアと結婚していたが、オレとキスラエラの娘レイリーシアと恋に落ちて、第2夫人として結婚したいと言って来た。
まあ、本人達の希望ならオレは別に構わなかったのだが、ビルスレイア女王国の宰相から待ったが掛かった。
ラルはこの時点で、ギルナーレ王国では次期国王と言われていた。
そして、レイリーシアは、ビルスレイア女王国で、次期女王と言われていたのだ。
キスラエラに寿命は無いから、ビルスレイア女王国の次期女王に関しては全く考えていなかった。
其れはオレだけで無く、キスラエラもレイリーシアもラルもだった。
しかし、宰相としては国民感情を考え、次期ギルナーレ王国国王筆頭のラルのところに嫁に出し、尚且つ第2夫人では国民が納得しないと言う。
そこでオレは、要らない一言を言ってしまった…………
「なら、合併すれば解決か?」
と、…………
ラルはそもそも、ギルナーレ王国の国王の座も断るつもりだったらしい。
オルフィリアの兄達が継げば良いと考えていた様だ。
しかし、合併に女王であるキスラエラが賛成してしまった。
サーラールの街の発展を初期から見ていたキスラエラは、ラルの政治手腕を非常に高く評価していたのだ。
そう言われると宰相も納得してしまい、ビルスレイア女王国を先ずはルザスン公爵領にすると云う事で、ギムルスタ ギルナーレ国王に交渉を行った…………
結果、ギムルスタ王は、ラルに王位を譲ってビルスレイア女王国と正式合併すると云う話しになってしまった。
その事を産業ギルドの会合で先行報告をしたところ、今度はお義理兄さんこと、ルザンクス ドルレア国王が待ったを掛けた。
ルザンクス王は、自分の娘をラルに嫁がせるから、ドルレア王国も合併させろと、オレに言って来た。
もちろんオレに決定権は無いと突っぱねたが、ギムルスタ王は賛成し、国民の感情を考えた結果、キスラエラと宰相も賛成。
そして、3ヵ国が統一されて、ラルが国王となった。
本人の承諾無しで…………
そんな訳で、影武者を廃業になってしまったクリスティーナだったのだが、3ヵ国の合併と今迄のビルスレイア女王国の上層部の慰労を兼ねたパーティーで、キスラエラと2人、重責からの解放感からか、ベロベロに酔ってしまい、2人して、オレにイタズラをして来たのだ。
2人がして来たイタズラ。
其れは全く同じ格好をして、魔力の波長もピッタリ合わせ、どちらがどちらか当てるゲームだった…………
どうやって当てるかは、ご想像にお任せするが、そのゲームの結果、クリスティーナは妊娠した…………
オレは男の責任をとって結婚したのだ…………
結婚に対してクリスティーナは遠慮していたが、そこはオレが譲らなかった。
もちろん、クリスティーナならば結婚しても良いと思っていたのも有るが、オレ自身の今後の戒めの為にもキチンと結婚と云う形を取ったのだ。
まあ、今では良い思い出だ!!
ラムは腰の刀に手を掛けて目を閉じていた…………
そして、前方の猛獣達の食べこぼしを目を閉じたまま、居合いで斬り裂いていた…………
本来ラムは、2刀で踊る様な連撃での戦闘を得意としているが、オレが遊び半分でやって見せた、対ゴーレム戦の極意、心眼でゴーレムの魔核を捉えて、抜刀術で体内の魔核のみを斬り裂く技を使っている。
まあ、いつもの如く、色々とパクリな訳だが、この世界に著作権を訴える者は居ないので、オレもラムも遠慮なく使っているのだ。
そして、ラムの前方で暴れている猛獣達…………
クルス商会平社員の、ブランド、ギムルスタ、ルザンクスだ…………
ラムの父、ブランドは配下の中では既に古株なのだが、ハッキリ言って戦闘以外は完全にポンコツなので、万年平社員をしている。
そして、ギムルスタとルザンクスだが、この2人はラルに王位を譲った後、なんと学園に入学して卒業してからクルス商会へ入社して来たのだ…………
クルス商会は現在クルス学園卒業生しか基本採用していない。
特別何かの事業を始めた時以外は、正直言って人員は足りているからだ。
なので、入社試験自体、学園を卒業しなければ受けられないのだが、学園の入学そのものは誰でも出来る。
其れをいい事に、ギムルスタとルザンクスの2人は学園へ入学し、大人気なく首席を競い合い、特別クラスを卒業して入社して来たのだ…………
特別クラス卒業生の2人は、当然、幹部候補の執行部への入社だった訳だが、ブランドを使って諜報守護部に左遷させた。
理由は執事としてちょくちょく顔を合わせるのがイヤだったからだ。
3人の所属は諜報守護部第000部隊。
諜報守護部なのに、諜報活動も警護活動もしない、戦闘と狩りと訓練しかしない部隊だ。
名目上はオレの直轄部隊で、命令権はオレか妻達か執行部最高幹部にしか無い。
隊長も副隊長も居らず、規定量の狩り以外は、今回の様に出動要請が無ければ、ずぅ〜〜〜〜っと訓練をしている変態集団だ。
ぶっちゃけ強くなりたいからと云う理由で入社して来たアホの溜まり場部隊なのだ…………
そして、残念な事に、オレの子供や孫も数人この部隊に所属している…………
そんな強さのみを求める猛獣の後始末をラムは、淡々とこなしてくれていた…………