第28章 戦争⑥
戦争⑥
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空に巨大な、余りにも巨大な龍が飛んでいた…………
ゆっくりと飛んで行くその龍は、何か小さな玉の様なモノを撒いていた…………
その玉は、空中に留まり、只々浮かんでいるだけだ。
兵士達が龍と玉に向かって行くが、誰一人、龍にも玉にも近付く事が出来ない様だった。
しばらくして、玉の上に映像が現れた。
映像には、先日飛んで行った龍と、その横の豪華な椅子に1人の男が座っている。
映像は段々と寄っていき、その男を大きく映した…………
「皆さん、こんにちは。オレはクルス。そして、こっちが応龍。
所謂、神だ。
オレは3人の新たな王候補を用意した。
3人の名は、ジャスティス、ルシファー、フライトだ。
この王候補達に賛同する者は、3人と共に現在の支配体制を打ち砕き、新たな世界を目指せ。
手始めに、この世界の奴隷を全て解放する。
解放された奴隷達、虐げられた市民達、君達は自由だ。
逃げても良いし、復讐をしても良い。
だが、世界を変えようと思うならば、新たな3人の王候補の下に集い立ち上がれ」
映像はそこで終わった。
そして、空から光が降り注いだ。
全世界を包み込む様な暖かい光が…………
街中で騒ぎが起こっていた。
奴隷達が暴れ回っているのだ。
神を名乗る男の宣言通り、奴隷達が解放されたからだ。
しかし、世界を変えようと立ち上がる者などいるだろうか…………
解放された奴隷達は、ただただ、今迄の憂さを晴らそうと暴れる者ばかり、世界は欲望と犯罪が横行するだけで、混沌としただけではないだろうか…………
「お館様、ご報告致します。
現在、ジャスティス様の軍が1,200人、ルシファー様の軍が3,500人、フライト様の軍が300人となっております。
お館様の予想通り、ジャスティス様の軍には元奴隷の天使種族、ルシファー様の軍には元奴隷の悪魔種族が集中している様です」
「…………残念ながら、やっぱりそうなったか。
仕方がない、次の段階だな…………」
「畏まりました。
では、ジャスティス様には天使種族の元奴隷の犯罪者を、ルシファー様には悪魔種族の元奴隷の犯罪者を中心に討伐を行って頂き、フライト様には犯罪者の説得を行って頂く様に指示致します」
「ああ…………」
今回のクーデターの1番のキモは、3人ともが種族の差の無い軍隊を作り上げる事だ。
新たに出来る3つの国は、全て、種族差別の無い国でなければならない。
なので、3人は、王都を目指して直進している訳ではない。
全て、こちらで管理しているのでニアミスする事も無い状態で、時々進軍の方向を変えながら効果的に進めている。
どの軍も天使種族の市民、天使種族の奴隷、悪魔種族の奴隷を平等に助けて回っていた訳だ。
しかし、助けても必ずしも3人に協力を申し出て来る訳ではない。
その繰り返しの内に、3人の戦力差が開いて来ていた。
理由はやはり種族だ。
天使種族であるジャスティスが助けた天使種族はジャスティスに協力する者が多く、逆に助けた悪魔種族は助けられても天使種族のジャスティスを信じられず非協力的だ。
ルシファーはその逆で、フライトは片翼の見た目からどちらからも協力者が少ない。
まあ、こうなる事は予想出来ていた。
だから、“奴隷を全員解放”したのだ。
支配者の天使種族バアル王家だけを悪とするのでは無く。
他の天使種族にも、悪魔種族にも、奴隷にも“悪を作る”為だ。
惑星エンビルの種族差別は、とても根深い。
王が代わり「差別をするな」と言ったくらいで変わる様な代物では無い。
出来るだけ多くの人の意識そのものを変える必要がある。
その為の、3人による軍の編成だ。
命を掛けて共に戦う仲間であれば、同じ釜の飯を食った友であれば本当の意味での差別意識の根絶に繋がるのではないかと云う思いから今回の計画を行っている。
しかし、ジャスティス達には言っていないが、最悪、簡単に解決する方法も有る。
天使種族を惑星エンジェルに、悪魔種族を惑星デビルに全員放り込んで仕舞えば解決なのだ。
その際に問題となっている天輪の力“天召”を奪って仕舞えば良い。
だが、そこまでやるのは最後の手段にしたいので、出来るだけ惑星エンビルの人々に変わって貰いたい訳だ。
クーデターだの革命だの言っても、所詮は戦争、人殺しだ。
其れを扇動するオレは、正しくは無いかもしれない…………
だが、オレはこう考える。
『惑星エンビルが変わってくれた方がオレにとって都合が良いんだし、このクーデターが無かったとしても、どうせ多くの奴隷が無意味に殺されているんだし、オレの身内は絶対に被害に合わせないから良しとしよう!!』と…………
敢えて言おう!!
神など所詮は只の種族でしか無い!!
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クルス商会の入社式、オオサカ国への新婚旅行、クルス商会周年祭でのボロ儲け、惑星ゼータへの新婚旅行を経て、6月も終わろうかと言う頃、惑星エンビルでは、とうとう3人の王候補が集った。
3人の軍勢は今や7万人、3人とも予定通り途中にレベルアップを行ってレベル3,000万を超えている。
そして、残るは王都を陥落させるのみとなっていた。
たった3ヶ月で此処迄来たのも、3人の熱意とオレの配下達の暗躍あってのモノだが、其れでも惑星エンビルの人々が、現状を変えたいと強く思っての事だろう。
「久しぶりだな、2人とも」
「ええ、ジャスティスもフライトも元気そうで何よりだわ」
「ああ。だが、クルス先生の計画通りとはいえ、たった3ヶ月で此処迄来れるとは思っていなかった」
「クルス先生が言っていたじゃないか。
準備9割実行1割だって。
クルス先生の下で学んだ準備9割の時間があったから、此処迄すんなり来れたのさ」
「確かにそうね。
でも、此れもクルス先生の言葉通り、『最後迄気を抜かない、終わった後も気を抜かない、確認が出来ても気を抜かない、自分の部屋に戻って、自分の部屋の安全が確認出来たら初めて気を抜いても良い』を最後迄貫きましょう」
「そうだな。
あの絶対的な強さのクルス先生ですら、そうしているんだ。
オレ達は、其れ以上に最後の最後迄、気を引き締めて行こう」
「でも、本当は、最後の最後で、“この腕輪”の効力で、クルス先生が颯爽と私の事を助けてくれるのが、私にとっては1番のハッピーエンドなんだけどね〜…………」
「ははっ……、其れは難しいな。
もしも、ルシファーがピンチになる様な事態になったら、オレとフライトが先生に怒られてしまうから、全力で阻止するからな」
「ああ。あの優しい先生が怒ったらどんな事になるか、恐ろしくて想像も出来ん」
「……………………そうね。想像したくないわね…………。恐ろしくて………」
「…………そうだな、想像が付かないな。恐ろしくて…………」
「御三方、今のお話はちゃんとクルス様に報告しておきますから、そろそろ本題に入られては如何ですか?」
「「「アレイスさん、お願いします!!報告しないで下さい!!」」」
「冗談ですよ。ご安心下さい。
今のこの状況は全てクルス様が現在見ておられますから」
そう言って、アレイスの指差す先には、オレの見つめる“空中監視魔導具2”がある。
「「「ああ〜〜!!」」」
3人は、決戦を前に、頭を抱えて蹲った…………
なんだか、覇気の無い感じで始まった作戦会議だが、アレイスの「この状況も見ておいででしょうね〜…………」と、言う呟きに、非常に熱い熱い会議へと変わった。
内容も、微に入り細を穿つ程の詰め込み具合だった。
作戦の概要としては、先ず王都北側に大量の罠を仕掛ける。
そして、ジャスティスは東、ルシファーは南、フライトは西から王城を目指して攻め込む。
標的は、国王トゥエルニート バアルと3人の王子だ。
全員を王城内で討てれば良し。
万が一、逃げられるとしたら、罠だらけの北か、無人の北側の罠や待ち伏せを警戒して人数の比較的少ない西側を突破するかのどちらかの可能性が高い。
その場合は敢えて逃がし、反抗勢力を組織させて再度其れを討つ予定になっている。
王家の再建に協力するヤツらは高確率で種族至上主義者なので、どうせ逃げるならソイツらの炙り出しに使う予定だ。
交代で休みながら罠の設置を行なって、3日後に王都へと攻め込む事になった…………
ジャスティス達の軍は総勢7万人になっていたが、王都へと攻め込むのは5万人だ。
残り2万人は、既に攻め落とした街の警護や復興に努めている。
そして、王都へ攻め込む5万人の内、王都内へ攻め込むのは2万人。
残りは、王都周囲で外部からの増援に備えると共に王都内の部隊の交代人員だ。
王城も同じく、城内には5,000人で攻め入って、残り1万5,000人が周囲へ残る。
王都の人口は500万人、兵力は3万人だが、王都市民のどれだけが味方となり、どれだけが敵となるかは未知数だ。
ジャスティス達の5万人の軍が進軍を開始した。
先ずは東、南、西の大門で戦端が開かれた。
と、言っても、ジャスティス達の軍が門に集結した訳では無い。
門には警備がいて、外壁には居なかったというだけだ。
天使種族も悪魔種族も全員空が飛べるのだ。
ご丁寧に城門破りなどする必要が無い。
本来なら、王都の周囲には結界が張られて大門を潜らねば中には入れないが、そんな結界は、レベル3,000万のジャスティス達3人がぶち壊せば良いだけだ。
大門での戦闘を尻目に、縦横に広い陣形を取ったジャスティス達は、各方位から一気に王城に向かって攻めて行った…………
王都上空を飛んで行くジャスティス達に、地上から僅かばかりの兵が攻撃を仕掛けて来るが、ジャスティス達の進軍は一切スピードを落とす事無く、王城迄辿り付いた。
さすがに王城の外壁には兵力が居たが、城への突入部隊は其れも無視して城へと向かう。
外壁の兵力は、王城を包囲する部隊が各個撃破して行っている。
そして、ジャスティス達3人は、オレの教え子達だ。
城への突入部隊も入り口から突入する様な事はしない。
5,000人が城の周囲に陣取り、城へ向けて、攻撃魔法の雨を降らせて行った…………
彼ら3人は、分かっている。
城の門から内部に入って、敵と戦いながら廊下を駆け上がり、玉座の間で敵の首魁と対峙するなど、殲滅戦においては、完全にナンセンスだ!!
敵の本拠地ならば、其れごと破壊して、瓦礫の中から出て来る首魁を討てば良いのだ。
今回欲しいのは、王と王子の首だけだ。
城の宝物など、燃えてしまっても一向に構わないのだ。
もちろん、城内には兵士だけで無く官僚も使用人もいるだろうが、ソイツらも武力が無いだけで敵なのだから巻き込んで殺したって全く問題無い。
唯一可哀想なのは、オレの奴隷解放を受けても逃げる力を持たなかった奴隷達だが、彼らは昨日の内にオレの優秀な配下達がちゃんと逃がしている。
なので、全て焼き払って良い!!
容赦無い魔法の雨が降り注ぎ、燃える瓦礫の山となった城から、反撃の魔法が飛んで来始めた。
ジャスティス側は油断無く、魔法を避けたり防いだりしていたが、一部の兵がやられてしまっていた。
バアル王家の天輪の力、“天壊”によるモノだろう。
今回の標的、国王トゥエルニート バアルと3人の王子による攻撃だ。
ジャスティス達3人は、直ぐに攻撃した者へ向けて単身、突っ込んで行った…………
ジャスティスの前には筋骨隆々で、背中の翼がオモチャに見える様な大男が居た。
「貴様!!よくも我が城を燃やしてくれたな!!」
「我が城?おまえが国王トゥエルニート バアルか?」
「我は、第1王子ファザット バアル様だ!!」
「なんだ、ハズレか。
まあ、標的の1人には違い無い。その首貰う!!」
ジャスティスは、オレの教え子だ。
自分の要件が済めば、例え相手が自分より遥かに弱く、丸腰であっても容赦無く斬り掛かる。
第1王子とやらは、一撃で首を落とされた。
しかし、ジャスティスの手は止まらない。
バラバラに斬り刻んで、キチンと鑑定して死亡確認を行なってから、復活の兆しが無いかしばらく様子を見てから、その場を立ち去った…………
「貴様!!オレ様をバアル王家第2王子の…………」
ルシファーの前には、手足を斬り飛ばされたヒョロ長い男が転がっていた。
その男が痛みと屈辱でルシファーに向かって声を上げたが、ルシファーは最後まで聞く事無く首を刎ねた…………
ルシファーは、オレの教え子だ。
先ずは相手を無力化して攻撃手段を奪ってから尋問し、必要な情報が手に入れば時間を無駄にはしない。
その後、ルシファーもキチンと確認を行なってから、一言も発する事無く次の標的に向かった。
フライトは両手で光属性魔法を連打しまくる小太りの天使種族に最小限の動きで躱しながら、どんどん迫って行くと斧で一刀両断にして、風属性魔法で細切れにして、即、次の標的に向かう。
次の標的は、第1王子よりも更にガタイが良く、厳しい表情に一際豪華な白銀の鎧に身を包んだ男だった。
男が剣を構えるとフライトは、その剣ごと、その男を横一文字に両断してから振り返り、脳天から真っ二つにし、更に此方も風属性魔法で細切れにした…………
フライトは、オレの教え子だ。
先ずは敵を全て殲滅してから、王と王子かどうかは、後から配下に確認させても全く問題無い。
そして、配下達の被害が最小限になる様に、近距離の強者から屠って行くのは当然だ。
豪華な鎧の男は国王だったのだが、ラスボスっぽい事を一切言う事無く、血溜まりになっていた…………
こうして、王城も王城に居た者達も完全に焼き払われて、結局誰も逃す事無くクーデターは完遂されたのだった…………
第1クルス島の研究棟、惑星監視室の一室で、オレは思わず一緒に状況を見ていた妻達に聞いてしまった…………
「…………なあ、オレの戦闘は、見ていてつまんないかな…………」
「ええっと、レンジ様。
戦闘というのは、見ていて楽しいとか、つまらないとかでは無いと思いますよ」
「ええ、あなた。戦闘は結果が全てですもの。
あなたの戦い方は其処に直結しているだけですわ」
「そうです。お父様の戦闘はとても合理的なだけです」
「はい、ご主人様の戦いは、準備から結果迄が完璧なだけです」
「そうそう、確かに全然盛り上がらないけど、安全第一だから」
「クリシュナさん!!
ええっと、そう!!主様の戦う姿は、とっても素敵です!!」
「はい、そうです!!ご主人様は素敵です!!」
「…………でも、やっぱり盛り上がらない?……」
「ええ!!レンさん、また?!
ええっと、そうそう!!レンジくん、勝てば良いんだよ、勝てば!!勝った方が全て正しいんだから!!」
「そうです、レンジ様。強さこそが全てです」
「ええっと……。クルス神様、占ってみますか?
多分、クルス神様が今後も苦戦される可能性は0%だとは思いますが…………」
みんなの優しい励ましが寧ろ悲しい今日この頃だった…………