第28章 戦争⑤
戦争⑤
▪️▪️▪️▪️
玉座の様な一段高い位置の椅子に座り、目の前の3人を見る…………
此処は、今日の為に作った、惑星ゲートにある大神殿だ。
オレの後ろには、通常サイズの応龍、左右には天使達が並んでいる。
この天使達は、エル以外は、今日の演出の為にフウクウ神から借りて来た。
3人は戸惑いながら、黙って此方を見ている。
戸惑っているのは当然で、3人は気絶させて運んで来たので、目が覚めたら、いきなり此処に居た訳だ。
「初めまして、オレはクルス。
こっちは、応龍。所謂、神だ」
「神…………」
「神様?」
「…………」
「ああ。まあ、直ぐに信じなくても良い。
其れよりも、君達にお願いがあって此処に来て貰った」
「神がお願いですか?」
「ああ。君達3人に、オレの出す条件を満たした王になって貰いたい」
「「「王?!」」」
「ああ。条件は大きくは2つ。
1つは、種族差別も奴隷も無い健全な国家を作る事。
もう1つは、異世界召喚を禁止する事だ。
細かい内容は色々有るが、まあ、基本的には国家を運営して行く上で必要な事だから其方は後々で良い。
先ずは、この2つの条件を満たす国を作ってくれると約束してくれるかどうかからだ」
3人は、突然の事に、考え込んでしまったが、最初に声を出したのは、不良品だった。
「神、その条件を受け入れれば、あなたがオレを王にしてくれると云う事か?」
「オレ自身が直接、手を下す訳じゃないが確実に王になれる様に手を貸すつもりだ」
オレの言葉に不良品が考え始める。
今度は、ルシファーが聞いて来た。
「もしも、断った場合は?」
「元の所に戻す。それだけだ」
「神だからと云って、私を救ってくれる訳では無いと云う事ですか…………」
「まあ、今はな。だが、結果としては救われるだろう。
おまえが断ったら、別の者に声を掛ける。
その内、候補の3人が決まれば、新しい奴隷の居ない国になって結果おまえも解放される」
オレの言葉にルシファーが考え始めると、ジャスティスが聞いて来た。
「具体的には、どの様にして、オレ達を王にするんですか?」
「先ずは、応龍と共に3人の王が新たに生まれると惑星エンビル中…………
惑星エンビルと云うのは、君達が住んでいる星だ。
で、エンビル中に言って回る。
その時、ついでに、エンビル中から奴隷魔法陣と奴隷魔導具の効果を奪う。
その後、王候補の3人にオレの配下を付けて、各地の奴隷達を纏めながら領主をしている貴族達を倒して行かせて、最終的には、3人揃って王を倒して貰う予定だ」
「…………奴隷からの解放をそんなに簡単に全員に施せるのですか?」
「ああ、出来る」
「神よ!!ならば、何故、今迄助けてくださらなかった!!」
と、ルシファーが声を荒げた。
「あのな、神って云うのは只の種族なんだよ。
確かに、この応龍が、この世界を作った。
悪魔種族を含めて、色々な生き物を作ったのもこの応龍だ。
だが、其れは応龍が好きで作っただけだ。
今回の事も、オレの都合で行うだけだ。
だから、命令はしてないだろう?お願いだと言った筈だ。
オレの種族は神だが、普通の人間と同じ様に、商売をして生活しているし、さっき言ったオレの配下達にもちゃんと給料を払っている。
ハッキリ言うが、オレは惑星エンビルを救う為に、今回の計画を行おうと思っているんじゃない。
あくまで、オレの都合で、惑星エンビルを健全な国家体制にしようとしているだけだ」
「「「…………」」」
「神、オレは、あなたの計画に乗る。
あなたが自分の都合で、今の世界を変えようと言うなら信じられる」
と、不良品が前に出た。
すると、ジャスティスも、
「オレも神を信じる」
と、前に出た。
「…………神よ、さっきは声を荒げて申し訳ありませんでした。
私もあなたの考えには賛同します。
ですが、私の姿はご存知なんでしょう?」
「其れは、元に戻してやるから問題無い。
で、姿が戻れば、条件を満たした王になってくれるのか?」
「!!私の姿も戻せるのですか?」
「ああ。君には悪いが君の美しさも人々を纏める武器として考えている」
「構いません…………
あの時、呪いの薬を飲んだ事は後悔していません…………
でも、それでも、鏡を見るのが怖かった…………」
ルシファーは、そう言って崩れ落ちた…………
3人の了承を得たところで、3人の部屋へと案内した。
廊下から中に入ると、教室兼、食堂兼、談話室となっていて、その奥と左右に扉が有り、その先が個人部屋で、一応、2LDKバストイレ、キッチン付きだ。
男2人に時間が掛かっても良いから、しっかりと風呂に入って綺麗にしてから部屋に有る服に着替える様に言ってから、オレはルシファーと奥の部屋に入る。
「…………もう、痛みは消えただろ?
姿も元に戻っている筈だ。
念の為、待ってるから、風呂に行って、少しでもおかしなところがあったら言ってくれ」
ルシファーは、無言で頷くと風呂に向かった。
間もなく、彼女の泣き声が響いてきた…………
きっと上手く行ったんだろうとは思ったが、そのまま、彼女が出て来るのを待った…………
オレの妻達は、全員とても美人だ。
第1メイド部隊のメンバーだって美人揃いだ。
だが、今迄出会った中で、見た目が最も美しかったのは、ドゥアールの女神の1柱、東南君だろう。
彼女はまさに、神掛かった美しさだった。
しかし、ルシファーは、そんな東南君に勝るとも劣らない程美しかった。
そして、全身が元に戻った事を誰かに見せたかったのか、タオルも巻かず、全裸だった…………
更に、嬉しさの余り、そのまま全身を見せびらかした後に抱きついて来た…………
我慢したオレは偉い…………
着替え終わった3人を机に座らせて、オレは教壇に立つ。
因みに、3人の服装は、学生風ブレザーだ。
「先ず、今後について説明する。
君達は、これから3ヶ月間、この教室と向かいの訓練場で勉強と訓練をして貰う。
因みに此処での3ヶ月は、君達の居たエンビルでは1日なので、多少、予定よりも時間が掛かっても良い。
勉強に関しては、基礎教養に礼儀作法、政治と魔法とスキル、軍略と人心掌握について学んで貰う。
訓練に関しては、最低でも、レベル1,000万にはなって貰う」
「「「1,000万?!」」」
「ああ、言っておくが、其れはあくまで、行動を開始する迄の話しだ。
王を討つ頃には、3,000万は超えて貰う」
「「「3,000万?!」」」
「まあ、現段階では驚くかもしれないが、オレの配下の中では3,000万は弱い部類だ。
ちゃんと訓練を行えば期間内にそのくらいには普通になれる」
「神よ、レベル3,000万で弱いと云うのはどう云う意味なのでしょうか?」
不良品がそのままの意味を理解出来ずに質問して来た。
「どう云う意味も何も、そのままの意味だ。
オレの配下達はレベル3,000万よりも上のヤツの方が多いって事だ。
其れと、オレの事は今から、クルス先生と呼ぶ事。
其れから、不良品、君の名前を決めよう」
「「不良品?」」
「しかし、神……クルス先生。
オレの名前は既に不良品になってしまっている。
此処でだけの呼び名を決めても余り意味がない」
「其れは問題無いから大丈夫だ。
其れよりも、どんな名前が良い?」
「どんな……名前…………
考えた事も無かった…………
クルス先生、良い名前は無いだろうか?」
「そうだなぁ〜…………
フライトとかどうだ?
飛行とか、空の旅って意味だ」
「オレの名前が飛行?」
「ああ。君はこれから魔法も学ぶ。
そうすれば、君も飛べる」
「オレが、飛べる?!」
「ああ、そうだ。どうだ、フライトは?」
「その名前が良い。
オレも……オレも……飛ぶ事が…………」
「じゃあ、そうしよう。
ほら、このステータスプレートに、魔力を込めて自分の名前を確認してくれ」
涙ぐみながら、ステータスプレートに魔力を込める、“現不良品”。
「此れは、ステータスプレートと言って、鑑定が出来る魔導具だ。
今はまだ、君は不良品だな?
じゃあ、行くぞ。
君の名前は、“フライト”だ!!
よし、もう一度、魔力を込めてみてくれ」
“元不良品”、フライトは、とうとう泣き出した…………
「凄い……。本当に名前が変わるなんて…………」
「フライト、1つ言っておく。
君の翼は、生まれ持ってのモノだ。
オレなら、君にもう1枚の翼を与える事も出来るが、其れよりも君には自分の力で飛べる様になって欲しい。
そして、君の片翼が惑星エンビルの“見た目で差別しない”事の象徴になって貰いたい」
「神……クルス先生…………分かりました。
母から貰ったこの片翼を誇れる様に自分の力で、空を飛んでみせます!!」
「ああ、頑張って行こう。
そして、ジャスティス、君は自分の天輪の力とその効果は知っているか?」
「はい。天輪の力は“天召”、効果は別の世界から“人種族”と言う種族を呼び寄せる事です」
「そうだ。だが、その力は、オレの王の条件の1つ、異世界召喚の禁止に繋がる力だ。
君達が無事に王になったら、その“天召”は、全員から剥奪して貰う事になる。
もちろん、其れは君からもだ。
しかし、これから戦いが始まるのに、折角有る君の天輪を無駄にするのも勿体ない。
だから…………」
そう言って、ジャスティスにもステータスプレートを渡し、ジャスティスの天輪に手を翳す。
「…………今日から君の天輪の力はこの、“天壁”だ」
「!!天輪の力が変わった?
そんな、この力は失われた“天壁”?」
「…………そうか、君達は知らないだろうが、天使種族や悪魔種族が居るのは君達の住む惑星エンビルだけじゃない。
他の所にはちゃんと“天壁”を持つ者もいるんだよ。
じゃあ、3人の準備が出来たところで、授業を始めよう!!」
こうして、非常にこぢんまりとした、オレの学園編が始まったのだった…………
▪️▪️▪️▪️
先ずは、国語の授業だ!!
3人に“スキル 言語理解LV1〜LV9”の指輪を渡した。以上だ!!
次は、算数だ!!
足し算、引き算、掛け算、割り算と、小数、分数、確率と、万の上に億、億の上に兆、兆の上に京がある事を教えた。
次は、礼儀作法だ!!
シエラールル先生の授業を担任として、見守った。
次は、体育だ!!
ガリー先生による、黒火一族の幼児教育を担任として見守った。
最後は、家庭科だ!!
“スキル 料理LV1〜LV10”の指輪を渡して、第1メイド部隊のマルス先生による料理の授業を担任として見守った。
そして、自分で作った料理で夕食だ。
因みに、オレの分は、マルスが作ってくれている。
「じゃあ、みんな食べながら聞いて…………
なんで自分で作った料理を食べて泣いてるんだ?」
「いえ、その、こんなに美味いモノは食べた事がなくて…………」
「ええ、自分で作ったモノがこんなに美味いなんて…………」
「本当に……本当に美味しい…………」
「ああ、そうか。
ジャスティスとルシファーは奴隷でまともに食えてなかった様だし、フライトは狩った肉を焼いて食うだけだったから調味料が無かったんだもんな。
すまなかったな。
先ずは食事にすればよかった」
「いいえ!!滅相もありません!!
初めて入った風呂も、とても気持ち良かったですし、この服も服を着て初めて“心地よい”と感じました。
更に……更に、こんなにも美味い…………食事を…………」
ジャスティスは、また、泣き出した…………
しかし、食べる手は止まっていない…………
「本来なら、今の感動を十分に味わって貰いたいところだが、あくまで此れも授業だ。
いいか、今の感動をちゃんと記憶しろ。
そして、今後、活動を開始した時に、仲間に加わった者達に今度は君達が振る舞って同じ感動を与えるんだ。
そうすれば、君達がソイツらから得られる信頼も高くなる。
最後に、これが一番大切だ!!
君達は、惑星エンビルの全ての人が、こんな食事を毎日食べられる世界にしなければならないと云う事を絶対に忘れてはいけない!!」
「「「はい!!」」」
こうして、初日の授業は終了した。
そんな感じで、徐々にレベルを上げながら、授業を進める事、一週間程たった頃…………
「クルス先生。
宜しければ、惑星アルファを見てみる事は出来ないでしょうか?」
と、ルシファーが言って来た。
「ん?行ってみたいって事か?」
「いいえ、そうでは無いんですが、この神殿から出てしまうと時間が元に戻ってしまうそうなので…………
ただ、私達が目指すべき世界が一体どんなモノなのか、見てみたくて…………」
「…………なるほどな…………
でも、折角なら、実際に見てみる方がいいだろう。
明日は、予定変更で社会見学にしよう」
「社会見学?」
「ああ、世の中が実際にどんなモノなのか、直接見に行って学ぶ事だ。
今日の授業内容も変更しよう。
此れから、アルファや同盟惑星の国々の法律の仕組みや社会の仕組みを勉強して、明日の社会見学で其れがどういった形で人々の生活に繋がっているのかを体験して貰える様にしよう」
オレの配下達はとても優秀なので、オレの急な思い付きでもちゃんと対応してくれる。
オレの授業と共に、急遽やって来た臨時講師のダルグニヤン先生による授業で、非常に大まかだが簡単な各国の歴史と法律、現在取り組んでいる政策に産業、そのまま、クルス商会と産業ギルド、孤児院と学園についても教えて行った。
こう言う勉強は、比較的興味本位になりがちだが、この3人は違う。
3人には、この一週間で自身が王となり、国を治めると云う自覚がちゃんと芽生えている。
今回の社会見学もきっと、自分の目指す国のビジョンをより明確にする良い機会になるに違いない。
翌日、3人を連れてオレの“リターン”で、クルス商会本部会長室経由で、サーラールの街に出た。
「「「!!…………」」」
クルス商会本部の有るこのサーラールの街は、今や“世界最先端の街”と呼ばれていて、非常に活気が有る。
その活気に、人の多さに、人々の笑顔に3人は圧倒されていた。
そして、オレが街を歩けば…………
「あ!!かいちょーだ!!かいちょー、こんにちは!!」
「クルス会長。お疲れ様です」
「ああ、サリーにメルンもこんにちは。
今日はメルンは休みか?
サリーはママと買い物なのかな?」
「うん!!きょうは、サリーのあたらしいくつをかってもらうの!!」
「そうか。サリー、ちゃんと値段を見て、一番数字のいっぱい並んでるのを買って貰うんだぞ」
「!!会長!!サリーは今成長期で、直ぐに入らなくなるんですから余計な事は言わないでください!!」
「はは、まあ、良いじゃないか。
もしも、足りなかったら、オレの名前を出して給料の前払いでもして貰えばいい」
「そんな事は絶対しません!!」
「おお!!会長!!良いところに!!
今日からタレの味を変えたんだ。
1本食ってってくれよ!!」
「…………ロウの国の塩に、ザンの国の砂糖、パイの国のみかんを使ったのか。
うん!!確実に美味くなったよ!!」
「さすが会長、変わったとこだけじゃなくて、産地迄わかんのか。
ちょっと、値が張るんで儲けは減っちまうが、こっちの方がぜってぇ良いと思ってよ」
「ああ。絶対にこっちの方が売れるよ。
ゼータの調味料との僅かな味の違いを取り入れたのは、正解だと思うよ。
せっかくだから人数分、貰えるか?」
「まいど!!」
「あら、会長!!…………」
「こんにちは、会長さん…………」
「…………クルス先生。先生は、この世界の神なんですよね?」
「ん?前に言ったろ?
神って云うのは只の種族なんだ。
エンビルと違って、色んな種類の種族がこのアルファには居るだろ?
その中の一つさ。
まあ、アルファに住んでる神はオレと応龍だけだけどな。
良い例だろ?みんな、オレの種族なんか気にしてない。
この街の人達にとっては、オレはクルス商会って商会の会長って存在なんだよ」
「…………そう云うモノなんですか?」
「そう云うモノだ。
おっと、向こうからもう1人、“良い例”がやって来た」
「こんにちは領主様」
「こんにちは」
「領主様、また奥様連れて食べに来て下さいね」
「是非また行かせてもらう」
「おーい、ラル!!」
「!!これは父上、今日はどうされました?」
「今日は、この3人の社会見学なんだ」
「ああ、例の3人ですね。
ダルグニヤン殿から聞いています」
「3人とも、こっちはラル。
オレの息子で、この辺りの領主で公爵だ。
で、こっちの3人は、ジャスティス、ルシファー、フライトだ、ラル」
「初めまして。
私はこの街サーラールの領主をしている、ラル ルザスンです。
此処、ギルナーレ王国にて公爵の地位を頂いております」
「ええっと、ジャ、ジャスティスです」
「その、ルシファーです。初めまして」
「フライトです。初めまして」
「正直言って、ラル程、領民に愛されている領主はこのアルファでも、なかなか居ないが、君達には、こう云う風になって貰いたい訳だ」
「ええっと、其れよりも、クルス先生の息子って…………。
お父さんじゃなくて?」
「まあ、ラルの方が体格も良いし威厳も有るだろうが、オレが父親、ラルが息子だよ」
「ははっ、父上、恐らくそうではなく、私が父上に似ていないからでしょう」
『『『どっちもです!!』』』
「ああ、そう云う事か。ラルはオレの妻の1人の連れ子なんだよ。
だから、血も繋がってないし、ラルの方がオレより遥かに年上だしな」
「ええっと、そうなんですね…………」
「その!!聞いても良いですか?
領主として1番心掛けている事って何ですか?」
「最も心掛けている事は、父上の名に恥じない領主で在る事です。
父上の目指す誰もが幸福で豊かな世界。
努力した者が報われる世界。
その理想に何処よりも近付ける様にと常に心掛けています」
「“誰もが幸福で豊かな世界。努力した者が報われる世界。”ですか…………
クルス先生は、オレ達にはそんな事は…………」
「其れは、あなた方の惑星エンビルが、まだその段階では無いからでしょう。
私も最初は、この街から飢える者を無くす事から始めましたから」
「!!飢える者を無くす?!」
「ええ。私はこの街と5つの村から餓死者を無くすのに、領主になって2年掛かりました。
あなた方は、たった3人で世界中で其れを行わなければいけません。
ですから、高い理想よりも先ずは目の前の目標に取り組んで貰う為でしょう」
「そうですね。先ずはみんながメシを食える国を作ることからですね。
ありがとうございます」
ラルの言葉は間違っている。
オレは、“誰もが幸福で豊かな世界。努力した者が報われる世界。”を目指しているんじゃない。
オレは、“誰もが幸福で豊かな世界。努力した者が報われる世界。”を目指して貰っているのだ。
オレはみんなにそんな世界を目指して貰っているだけで、自分でやろうとは思っていない。
理由は簡単、面倒臭いからだ。
面倒臭いから自分で支配者にはならないし、面倒臭いから政治もしない。
今回のエンビルについてもそうだ。
オレが王を倒して支配するなら、1日で全て終わる。
だが、その後の管理が面倒臭いから、わざわざ王を育てているのだ。
ラルの話しに3人が耳を傾けている中、オレはそんな事を考えていた…………
▪️▪️▪️▪️
社会見学は、3人にとって非常に良い経験になった。
ラルから色々と聞いた後、孤児院と学園を見学し、ぐるっと街中を回って、以前は富裕層だけが住んでいた現在の商業の中心地や以前はスラムだった現在の住宅地などを見せた。
孤児達の身なりの良さや、明るい笑顔。
誰もが通える学園。
スラムも無く、道端で暮らす者もいない街に3人は驚き、感動し、そして、強い決意を持ってくれた。
ラルの話しを熱心に聞いていたので、授業の合間に特別講師として、キスラエラ、エリカ、アレクサリダーにも来て貰った。
3人は一応、現役の国王だ。
キスラエラとエリカは現在、奥さん業がメインで、国王はパートの様な感じだが、ちゃんと重要な案件は自身で判断する様にしているらしい。
ルシファーは、特にキスラエラとエリカから、奥さん業との両立について詳しく聞いていた。
幸せな結婚生活を望んでいる可能性と、オレの妻の座を狙っている可能性と、どちらもあり得る…………
授業もどんどんと進んで、体育も訓練とレベルアップを並行して行う様になり、3人もメキメキと成長して行った…………
「3人とも、今日で授業は終了だ。
最初に話した様に、此れから計画を進めて行く中で、状況の進み具合に合わせて、もう一度、レベルアップには勤しんでもらうが、其れは恐らく3人別々のタイミングになるだろう。
だから、今度、この3人が揃うのは王を討つ為に集結する時だ。
其れまでは各々計画を進めて行って貰う訳だが、目指す先は同じであると云う気持ちを持って貰う為に、お揃いの装備を準備した。
3人とも部屋に準備させているから、着替えて来てくれ」
3人の装備は、蒼を基調に金の装飾の入った軽鎧だ。
豪華さを出して目立つ様に、大きめの肩当てから白いマントが繋がり、マントには金の刺繍で大きく十字が記されている。
武器は、ジャスティスは片手剣、ルシファーは2本の短槍、フライトは斧だ。
3人専用にして、他の者が持つと結界で弾かれる仕様にして、装飾も一際豪華にしてある。
そして、お揃いのブレスレットだ。
此れは、妻達の結婚指輪同様に、“不老永寿”、“状態異常無効”、“病気無効”、“ステータス異常無効”、“緊急避難”、“緊急警報”、の効果が有る。
3人には、どんな事があろうと、絶対にこのブレスレットを外してはいけないと強調しておいた。
「…………最後に、君達にはオレの配下を30人付ける。
10人毎でローテーションを組む形だ。
はっきり言って、王を倒すだけであれば、このメンバーで事足りる。
だが、君達は『君達が王として認められる戦い』をしなければならない。
だから、オレの配下達は基本、前線に出て戦う事はしない。
物資の運搬、奴隷の解放、情報収集、君達の補佐と警護が主な仕事だ。
あくまで、君達自身が主導となって、王を討て!!
君達なら必ず出来る!!」
「「「はい!!」」」
3人の門出だが、涙は無い。
此処からが始まりなのだ!!