第28章 戦争③
戦争③
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3月1日。昨日は一日中、家族とグデグデ過ごして、今日からはまた仕事だ。
先ずは、各所の報告から聞いた。
オレは昨日はサボった訳だが、配下達はちゃんと仕事してくれていて、各国への報告もキチンと終わっていた。
オレ達がアールドゥアーデに帰って来た事で、アールドゥアーデには、今迄無かった大量の象徴が齎された事になる。
其れによる状況の変化が有れば、各国王達からも情報を貰おうと思っている。
国と云う大きな組織だからこそ、小さな積み重ねで気付く事も有るだろうと思ったからだ。
なので、いつも通り包み隠さず全て伝えてある。
その後も、クルス商会の状況や学園や孤児院の状況も報告を聞き、最後に研究部からの報告だった。
此れは、わざと最後にした様だ。
最も話しが長くなる事が予想されたからだろう。
「…………東大陸に居た天使種族達の母星を発見しました」
「そうか、やっと見つかったか…………」
“東大陸に居た天使種族”。
彼らは、セレンやセリンのご先祖でもあるのだが、かつてこのアルファを侵略する為にやって来た者達でもある。
賢王から“異世界召喚問題”を押し付けられた時から、各惑星の確認の中で、この天使種族達の母星は探していた。
しかし、賢王が見つけていた“異世界召喚を行なっている星”でも、“人間が居る星”でも、該当する惑星は無かった。
賢王が長年“異世界召喚を行なっている星”を探していたとはいえ、たかが数人程度の人数で、この宇宙全ての星を確認する事など不可能だ。
其れに、賢王が行っていたのはアルファからだけだ。
オレの研究部は、この惑星を探しているチームだけでも、現在50人程おり、観測地点もアルファだけでなく、3の月、ゼータ、イプシロンからも行っている。
ゆくゆくはもっと増やす予定だ。
当たり前だが、アルファから見える範囲や方向には限界が有るからだ。
今回見つけたのも、イプシロンの観測データからだったらしい。
「…………つまり、その母星に天使種族達は今だに住んでるんだな?」
「はい、確かにその星の鉱物資源は枯渇してしまった様ですが、現在は天使種族の中にも奴隷階級の者がいる様で、“天変”で鉱物を作り続けさせられている様です」
「現在の国の数は?」
「1ヵ国のみです」
「確か、最強の天輪の力を持っているのは、バアル王家と云う話しだったが?」
「はい、そのバアル王家が惑星全土を支配しています」
「そうか………宇宙への進出は?」
「いいえ、現在は行われておりません。
宇宙に出る手段も現在は持っていない様です」
「…………それなら、放置するか…………」
「しかし、クルス様。
残念ながら、“天召”の力を持つ者がおりまして…………」
「異世界召喚は行われているのか?」
「いいえ、今はまだ…………
しかし、“天召”の力を持つ者は奴隷階級の者に複数おり、“勇者召喚”を行う可能性も捨て切れません…………」
「…………困ったな…………
あの星の天使種族は、完全に種族至上主義だったからなぁ〜…………」
「“天召”を持つ者を拉致して、天使種族を放逐している星へと送りますか?」
「うぅ〜〜ん…………
其れだと、今後“天召”持ちが生まれて来ないか、ずっと監視が必要になるからなぁ〜…………
出来れば為政者に、“異世界召喚”を行わない様にして貰いたい…………
因みに、クーデターの予兆とかは無いのか?」
「今のところは…………」
「…………セリンとエルを使って、クーデターを起こすか…………
ちょっと、大変だろうが、カリスマ性が有って、種族至上主義に囚われていなくて、正義感と柔軟性も持ち合わせている人物をピックアップしてみてくれ」
「…………新たな王にと云う事で御座いますね」
「そう云う事だ。
何方にせよ、行動に移すのはルナルーレのレベルアップまで終わってからになるから、しっかり厳選してくれ」
「畏まりました」
今後の仮称として、天使種族を放逐した星を惑星エンジェル、悪魔種族を放逐した星を惑星デビル、天使種族達の母星を惑星エンビルと呼ぶ事にして、人選も含め、更なる情報収集を行なって貰う事にした。
一通り報告を聞いて、とりあえず急ぐ案件もオレが直接対応しなければならない案件も無かったので、その日は、ガリーとリンドレージェを呼んで、今後の合同訓練についての会議を行った。
今回の強引なレベルアップの所為で、配下達のレベル差が著しくなってしまったからだ。
10兆オーバーの者達はもちろん、1,000億を超えてしまった者も居れば、10億くらいの者も居る。
更に、今回のレベルアップに参加していない、まだ1万にも満たない新人も居るのだ。
とても、10段階程度で振り分けられる幅では無い。
なので、思い切って100段階にした。
そして、管理はガリーとリンドレージェに加えて、補佐として新人のルクスとナルミンを抜擢した。
2人ともウチに来て、そろそろ1年だ。
もう直ぐ新年度で後輩も入って来る。
学園卒業生代表として、今後の指導係りとしての成長も期待しての人選だ。
ルクスの地獄の…………とっても楽しい子供達との触れ合い任務が終わったからと云うのもある。
訓練の段階分けの基準や、人数の振り分け等のルール改正を行なって、今月の合同訓練は3日後に行う事にして会議を終了した。
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合同訓練の賞品は、あいも変わらず“お願い聞いて上げるよチケット”だ。
しかし、今迄、この賞品を手にしたのは、黒火一族の天才少年ルクス唯一人だった…………
そう、たった一人だけだったのだが…………
「…………もしかして、この日の為に、ずっと特訓してたのか?」
「はい、全ては、この1撃の為に…………」
そう言ったシロリュウの口の中には、小さな光る輪があった…………
合同訓練初日。
クルス商会最強グループたる“原初のモノ”を中心のチームとの訓練を始めたのだが、午後の戦闘が始まって早々に、シロリュウの一撃を貰ってしまった…………。
シロリュウは午前中、いつもの様にシロネコ達と連携しながら、お気に入りの九頭龍顕現を中心に戦っていた。
おそらく、此れも布石だったのだ。
レベルが急激に上がり、今日はレベルアップでどれ程強くなっているかの確認を行なっているのだとオレに思わせる為に…………
そして、午後からは、ブレスを放った直後、突然、単身で肉弾戦を挑んで来た。
此れも午前同様に、レベルアップ効果の確認で攻撃していると思わせる為の行動だ。
そして、突然、爪を水に変えて伸ばして来た。
オレはシロリュウが既に“象徴を実用化”している事に驚いた。
だが、その程度では攻撃を喰らったりしない。
しかし、シロリュウは、オレの心理も完全に読んでいた。
オレの武器が闘気の白刃と黒刃になった事で、刀で攻撃を正面から受けられる様になった。
だから、シロリュウの使った象徴の威力がどれ程のモノか、オレが確認の為に攻撃を受けるだろうと思っていたのだろう。
実際、オレはシロリュウの水の爪を白刃で受けた、すると、水の爪は簡単に弾けたのだ。
オレは直ぐにこの飛び散った水も水弾だと判断して、其れを避けた瞬間に……胸元がチクリッとした。
見ると、シャツの1番上のボタンが針の様に変形していたのだ。
オレが水弾に目が行った一瞬の間にシロリュウが、“口の中の光輪の力”で、ボタンの形状を変えたのだろう。
そして、その針を伸ばしてオレを刺すのではなく、オレが姿勢を戻してシャツがオレに触れると、オレに刺さる程度の長さにして、オレに警戒させないようにしたのだ。
しっかりとオレの警戒を逸らしつつ、意表を突き、尚且つオレの肌とシャツとの距離まで完璧に計算された攻撃だった。
「やられたな、全部計算しての行動だったんだろ?」
「はい、特に主人様のボタンと肌との距離は私が誰よりも見ていますから、どんな角度でも1mmもズラさない様に何度も練習しました」
「そうか、じゃあ賞品を聞こうか?」
「其れは…………2人の時にお願い致します…………」
「ん?ああ、じゃあ、続きをしようか。
まだ再開したばかりだし、シロリュウの祝勝会は夕食の時にしよう」
その後、全員が光輪の力を使えて、口の中にでも顕現が出来ると仮定して戦闘を行ったが、見えない様に口の中に光輪を出す技術はシロリュウのオリジナルだった様で、他の者が行って来る事は無かった。
シロリュウから、今日の攻撃の詳細を聞いてから、みんなの大歓声と共に祝勝会を始めた。
今日の訓練に参加して居なかった者も大勢やって来て、いつもの様にドンちゃん騒ぎをした。
その夜…………
「…………主人様、私の望みは、主人様に抱いて頂きたいのです」
オレの私室のソファーで、珍しく、オレの対面に座ったシロリュウは真剣な目でそう言った。
「其れは、“変身魔法”で人間になってって事だよな?」
「はい」
「なあ、シロリュウ。
オレは、おまえが望むなら、人間の姿を維持できる魔導具を作って妻として迎えても良いんだぞ?」
「主人様、そのお言葉は大変嬉しく思います。ですが…………」
そう言って、シロリュウは首輪を優しくさする…………
「主人様にペットとして飼って頂く事が私の幸せなのです…………」
…………ドMなのか?
「其れに、妻となった場合は、他の奥様方の様に節度を持って主人様のお側に居なければなりませんし…………」
…………なるほど…………。
勝手にベットに入ったり、“そう云う時”を覗いたり、仕事に気分で付いて来たり、出来なくなるからか…………
確かに、シロリュウは誰よりも一緒に居る時間が長いし、1番触れ合っている。
妻になると、そういった我が儘が言えなくなるからか…………
なんだか、美味しいとこ取りで、ちょっとズルい気もするが、出会った頃は引っ込み思案で、片時もオレから離れなかったシロリュウが、勇気を出して『抱いて欲しい』と言って来ているのだ。
其れに、合同訓練での結果を出す迄、絶対に言わないと決めて、オレの見ていない所で必死に努力して来たのだろう。
多少の我が儘は受け入れてあげよう。
「分かった。シロリュウの気持ちに応えるよ」
「有難う御座います」
そう言って、“立ち上がった”シロリュウは、髪も肌も透ける様に白い、とても美しい女性になっていた。
そのまま、シロリュウをベットへと連れて行ったのだが…………
シロリュウは、完璧だった。
オレの好みを完全に網羅していたのだ。
“聖龍の眼”で、ずっと観察していたのは、伊達ではなかった…………
4日後…………
今日は、第4段階のメンバーなのだが、またもや、やられてしまった…………
初日の事も有り、オレは毎日ちゃんと警戒していた。
油断は一切無かったのだが、“アレは新たな対策をしないと無理だ”…………
「…………本当に凄まじいの一言だな、エシュアの力は…………」
「でしょ?伊達に、“運命”も“幸運”も司って無いんだから!!」
オレに攻撃を当てたのは、エシュアだ。
しかし、ぶっちゃけ、アレは無理だった…………
エシュアは、「私は、結婚前提の恋人前提のお友達だから、私も参加してもいいよね?」と、合同訓練の参加を表明して、初日からずっと観戦していた。
まあ、初日はレベルが高すぎて見えてはいなかっただろうが、ずっと見ていた。
そして、母親なのを良い事に、キスラエラをずっと解説役に使っていた。
キスラエラが言うには、過去のオレの対応や不測の行動を取った時などの事を聞かれたらしい。
そして、レベルに合わせて今日参加したのだが、開始早々、エシュアは全くあさっての方に魔法を放っていた。
その後も、延々と、誰も居ない方に魔法を放ち続けていた。
“運命”を司る、エシュアの行動だ。
意味が無い様でも、魔法を放った先にオレが移動する可能性が有るのだろうと、一応意識はしていたが、そのまま、昼食になった。
エシュアは昼食をさっさと食べて、みんなが休憩や作戦を立てたりする中、1人黙々と水晶玉で占っていた。
そして、午後の戦闘が始まって暫くした時、後頭部に、ゴンッと石がぶつかっていた…………
その真相は…………
エシュアは、“自分の最も運勢の良い”時間に、“運命と幸運”の象徴を使い、オレが移動した先に、偶然、魔法を使っても魔力が揺らがない現象が起きて、偶然、其処に“土属性魔法”を出現させて、偶然、オレが移動したタイミングで出現し、偶然、オレが其れに衝突する未来を引き当てたのだ…………
確かに、極々稀では有るが、魔力の揺らぎが発生せずに魔法が発動する事も有る。
そして、何か有る場所に、“ストーン”は発現しないが、出現と同時に其処に何かが移動して来る事は極僅かだがあり得る。
その、本当に極々僅かな可能性を“運命と幸運”の力を用いて、引き寄せたのだ。
しかし、本来は、ここまで自分に都合が良くはならないらしい。
相手がオレだからこその結果だと言っていた。
「普段は、自分に良い事が有る様にしようと思ったら、光輪の力を使っても“運命”と“幸運”だけを使うでしょ?
でも、今回だけは違うわ!!
今回は、“運命”、“幸運”、“愛”、“結婚”、“幸福”、“恋愛”、“性欲”、“知恵”、“世界”、“生命”、“上昇”の光輪の力を全て使って、成功させたの!!」
…………らしい…………
トンデモ能力では有るが、本人も凄く頑張ったのだろう。
「じゃあ、賞品を聞こうか」
「えっと、私と1日デートをお願いします!!」
「…………てっきり、結婚って言うと思ってたんだが、其れで良いのか?」
「うん!!だって、結婚は約束通り、クルス神様の心を射止めてからして貰うつもりだから!!」
『……デート1回の為に、此処まで全力で来られるとは…………。
オレは、そう云ういじらしいのにちょっと弱いんだよなぁ〜…………』
と、思ってました!!
オレは、大きな見落としをしていたのだ。
今回エシュアが使った光輪の力に、“性欲”が含まれていた事を!!
そして、2人とも子供では無いと云う事を!!
デートは、“1日”だと云う事を!!
「私、今の身体では、“初めて”だから、優しくしてね」
と、言ったエシュアは、非常に魅力的だった…………