第28章 戦争①
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聖樹暦20,023年2月21日
オレ達の乗るシルバーウィングの下には、巨大な南米遺跡風の神殿を背に、2,000人程の神と天使達が陣取っている。
此方の人員は100人で、20倍を相手にする事になりそうだ。
まあ、予想の範囲内だ。
『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』の神は100柱程と云う事だったが、現段階で倒せているのは22柱で、残り80柱程だ。
ハリルドラの住むデヴァロカに居るのはその内40柱程で、其れ以外の浮遊大陸に残り40柱程は住んでいる。
そして、『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』に所属して居ない者も合わせると、デヴァロカの神は220柱と比較的多い。
その『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』に所属して居ない神であっても、オレ達ドゥアールの者が攻めて来るとなれば、ハリルドラに協力する者も多く居るだろうと云う事は事前に聞いていた。
なので、最大で260柱の神とその配下の天使5,000人が待ち受けているだろうとは思っていた。
2,000人の内、神は160柱程。
最大予想数からすれば、そんなモンだろう。
オレ達もシルバーウィングから飛び降りて、敵陣の正面に並ぶ。
今回のメンバーは、お留守番のルナルーレとセレンを除いた妻達、ペット達は全員と配下は執行部と諜報守護部の準幹部以上で形成している。
大きい神にも対応出来る様に、20人は機動兵器に乗っての参戦だ。
全員レベル1,000億は超えたメンバーなので、正直天使達は、ものの数では無いが、出来れば無闇やたらと殺したくは無い。
居並ぶオレ達の前に、2柱の神が出て来た。
顔が2つ有る巨人と6本足のケンタウロスだ。
…………この2柱は、大神だ…………
「久しいな、応龍。
ハリルドラが応龍が攻めて来ると言ってオレ達を呼んだのだが、まさか、本当に来るとは思っていなかった。
ハリルドラを滅ぼすつもりなのか?」
ケンタウロスの方が、応龍に声を掛ける。
巨人の方は、腕を組んだまま無言だ。
「私は、私の主となったクルス神に従っているだけだ。
クルス神の命令であれば、ハリルドラ神も滅ぼすだろう」
「…………大神である、おまえが其処の幼い神に敗れたというのか?」
オレの事を“幼い神”と言ったと云う事は、オレに象徴が無い事が分かる様だ。
警戒が必要だな。
「そうだ。もしも、ハリルドラ神を攻める理由が知りたいならば、クルス神に聞くがいい」
「うむぅ〜…………ならば、クルスよ。
オレは、浮遊大陸エインへルアの大神ルーイルダーだ。
おまえは何故、ハリルドラを攻める。
いや、そもそも、争いが目的で此処に来たのか?」
「ルーイルダー。
おまえはハリルドラが中層世界で生まれた神を殺させているのは知っているか?」
「…………そういった思想を持った者が居る事は知っているが、ハリルドラが何をしているかは知らないな」
「オレを殺しに来た、シュウウキョーヴと云うドゥアールの神とアステリオスと云うデヴァロカの神から、オレを殺す様に指示していたのがハリルドラであると聞いた。
オレはその理由の確認と、理由によってはそのままハリルドラを殺す為に来た」
「アステリオスが………
もしも、ハリルドラが滅んだならば、此処、デヴァロカだけで無く、ミクチュリア全体に大きな影響が出るだろう。
おまえが応龍を倒す程の強者ならば、ハリルドラを倒し、今後二度とおまえの命を狙わないと誓わせるだけではダメなのか?」
「其れはハリルドラ次第だ。
ハリルドラの中層世界の神を殺す理由が真っ当なモノで有れば、オレ以外の者を殺すのも構わない。
しかし、しょうもない理由だったら、ハリルドラの存在自体がオレの邪魔になるから殺す。
その影響で、ミクチュリアに問題が起きたとしたら、其れはハリルドラを放置していた、おまえ達大神が責任を取って、なんとかすれば良い話しだ」
「…………ならば、オレがおまえを倒して、ハリルドラに止めを刺さないと誓わせるしかないな」
「其れは困るな。
オレがおまえ達を倒したら、ハリルドラがビビって逃げるかもしれない。
そうなると、オレはハリルドラを逃がさない為に此処に居る神全員を殺す事になる。
オレとしては、デヴァロカを守る為に此処に居るだけで、ハリルドラに賛同している訳では無いヤツらは極力殺さない様にしようと思っているんだが…………
さて、此処で質問だ、ルーイルダー。
おまえがオレに負けた場合には、此処に居る神全員分の秩序がミクチュリアから失われて、元凶のハリルドラは、どんな理由であれ、此処の連中に悪いから必ず殺すが、其れでもオレと戦うのか?」
「ぬぐぐ…………。
戦うならば、後ろの全ての者の命と秩序を背負えと言うか…………」
「ああ。ハリルドラが逃げようとするなら、此処の連中にいちいち戦う理由を聞いてやる時間や殺さない様に手加減してやる時間は無いからな」
「…………仕方ない。
元々、ハリルドラには、『応龍が先に仕掛けて来るから、自分がドゥアールを攻める理由を見届ける為に来てくれ』と、言われて来ただけだ。
当初の予定通り、我らはこの戦いを見届けるだけにしよう」
「そうか。なら、もういいな。
因みに、『見届ける』と言った以上、オレがハリルドラに止めを刺そうとした時に割って入ったら容赦無く殺すからな」
「…………ああ、神に二言は無い」
「じゃあ、みんな戦闘開始だ!!」
オレの号令で、全員ゆっくりと前進を始める。
2柱の大神は、上空へと離れて行った。
其れを見た敵陣も動き始める。
さあ、決戦だ!!
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両陣営がぶつかり合い、各所で激しい戦いが…………
激しい戦いが…………
オレ陣営の蹂躙が始まった!!
ものの数秒で、気を失った天使達が死屍累々と転がっている…………
だが、まあ、時間が掛かるのはこれからだ。
天使達は全員気絶で良いが神達には、『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』かどうかの確認をしながら、殺すかどうかの選別を行い戦う必要がある。
『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』では無い者は極力殺さないのと、仮に『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』だったとしても、フウクウ神の様に仕方なく所属する者も出来るだけ殺さない様に言ってあるので、聞き取りに時間が掛かるだろう。
何故なら、ウチの連中は手加減の要らない、“殺しちゃっても別にOK”なヤツと戦いたがるだろうから、とりあえず全員を気絶させる様な真似は絶対にしないからだ。
…………エリカが、殺る気になった様だ…………
「…………じゃあ、あなたは中層世界の神は偽物だから殺すべきだって思ってるのね?」
「当然だ!!中層世界など只のゴミ溜めよ。
そんなゴミの中から生まれた神など、ゴミだ!!」
エリカの前には、“某竜を探究するゲームの外伝版、名前だけ大きい少年が大冒険する話しの獣の王”の様な、恰幅の良いワニ男が立っている。
「悪かったわね、ウチの亭主がゴミ溜め生まれで。
でも、ウチの亭主の方が、あなたなんかよりもよっぽど良い神様だわ。
あなたみたいに、気を失った部下を平気で踏みつけて、気付きもしない様な人の上に立つ資格の全く無い神様なんかよりもよっぽどね!!」
「ふん!!弾除けにすらならん、石ころを踏んで何が悪い。
貴様もさっさと踏み付けて神モドキを殺してやる」
「本当にレンジ君の言ってる通り、神様なんて“所詮只の種族”ね。
神様を殺しちゃうなんて、気が引けてたけど、寧ろ今は殺意しか湧かないわ。
私のレンジ君をゴミ呼ばわりした事、さっさと死んで、さっさと後悔しなさい!!」
天使達を踏み付けて居る姿が一国の王として、よっぽど気に入らなかったのだろう。
エリカは瞬時に両足を斬り飛ばした。
「げひゃ!!よくもやりおったな!!」
足を失って前にベタンッと倒れたワニ男は、徐ろに近くに居た気を失った天使を掴むと、グシャグシャと食い始めた。
其れと同時に、光輪が輝き始める。
「ふん!!不味い!!
しかし、我が身体の一部となれた事を光栄に思うがいい」
そう言って“立ち上がった”ワニ男は、エリカを見てニヤリと笑う。
「我が光輪の力“食物連鎖”の前には、その程度の攻撃など無意味よ!!
しかし、踏み付けた程度で文句を言っていたのに、貴様のハンパな攻撃の所為で無駄に天使が死んでしまったなぁ。はっはっはぁ〜〜……!!」
「…………殺すわ」
エリカは一撃でワニ男を両断すると、そのまま、細切れになる迄、刻み続けた…………
「…………!!レ、レンさん!!ど、どうしたの?」
「…………あのワニは、“クルス流剣術2 一撃斬”で、倒すべきだった。
そうすれば、改心して、ピンチの時に助けてくれたかもしれない……」
“クルス流剣術2 一撃斬”は、剣を逆手に持って、相手に突っ込んで行って、渾身の一撃を入れる技だ。
まあ、“あの技”のまるパクリ技だ。
さすがレン。
彼女が生まれた時にはもうあの漫画は終わっていた筈だが造詣が深い。
「え?!でも、あの技は威力は有るけど隙は大きいし、敵が吹っ飛んじゃうから乱戦には向かないんじゃ…………」
エリカは、あの漫画を知らない様で、全く分かっていない…………
「…………うん、えっと……何でも無い……」
そう言って、レンはエリカから離れて行った。
もしかしたら、“無駄な犠牲を出した”と悔やんでいたエリカを励まそうとしたのかもしれない。
後で、エリカにはレンの伝えたかった物語を教えてあげよう。
トーメーは苦戦していた…………
「…………だから!!オイラの話し方は別にどうでもいいにゃ!!
さっさと、おまえが中層世界の神を殺すべきだと思っているかどうか、答えるにゃ!!」
「だって、おかしいじゃない!!
狼が語尾に『にゃ』を付けるなんて!!
私の事より、先ずはあなたの狼としてのプライドをハッキリさせなさいよ!!」
トーメーの前に居たのは、所謂、ウェアウルフの女性だった…………
トーメーの話し方が、どうしても彼女には受け入れられない様だ…………
「オイラは狼としても、ネコとしても高いプライドを持ってるにゃ!!
分かったら、さっさと答えるにゃ!!」
「其れが、おかしいって言ってるのよ!!
何で狼のプライドと一緒にネコのプライドも持ってるのよ!!
ネコのプライドなんて捨てて、ちゃんと狼としてのプライドを持ちなさいよ!!」
「だから、さっきも言ったにゃ!!
オイラは狼に転生する前はネコだったにゃ!!
だから、ネコとしてのプライドも捨てないのにゃ!!」
「聞いたわよ!!さっきも言ったでしょ!!
今はもう狼なんだから、ちゃんと狼一本で生きていきなさいよ!!」
「だから!!何回も言わせるにゃ!!
オイラの事はオイラが決めるにゃ!!
おまえにとやかく言われたく無いにゃ!!
其れに、おまえだって、狼のくせに立ち上がるから、“ネコ背”になってるにゃ!!」
「此れは“ネコ背”じゃなくて、“前屈み”よ!!」
今回は、トーメーの決着が1番時間が掛かりそうだ…………
エリカを気に掛けていた様なレンだったが、トーメーはスルーして行った…………
誰かが代わってあげれば直ぐに済むだろうに…………
セリンは、上空から、何かを探している様だった。
「…………!!あの者なら!!」
急降下するセリンの前には、美しい女神が居た。
しかし、神達の中では弱い部類に入り、光輪も無い。
わざわざ、狙いを定める程の相手には見えないが…………
現在、妻達とペット達は、産休中の者を除けば、レベルは大体似通っている。
レベル10兆を超えていれば、1億2億の差など有って無い様なものだ。
しかし、強さとなれば話しが違う。
相変わらず、トップはシロネコとクロリュウが競っていて、セリンはそこに食い込んで行ける可能性が有る程の強さになっている。
そんなセリンからすれば、わざわざ、狙いを定める程の敵では無いのだが…………
「あなたは、中層世界の神を殺すべきだというハリルドラの考えに賛同する者ですか?」
「え?!私?!わ、私はドゥアールから、このデヴァロカが攻められるから迎え撃つ必要が有るとハリルドラ様から言われて…………」
「く!!ハズレでしたか」
言うが早いか、セリンは、一瞬で女神の意識を奪って拘束すると、また、上空へと登った。
「……………………!!今度こそは!!」
またも急降下するセリン。
そして、また、美しい女神と対峙する。
「あなたは、中層世界の神を殺すべきだというハリルドラの考えに賛同する者ですか?」
「いいえ、私はハリルドラ様の考えには反対よ。
でも、ハリルドラ様には逆らえ…………」
「また、ハズレですか!!」
セリンは、またも一瞬で女神の意識を奪って拘束すると、上空へと登った。
またまた急降下するセリン。
そして、またまた、美しい女神と対峙する…………
「あなたは、ハリルドラの考えに賛同していますよね?」
「え?!何?どう言う事?!」
「あなたは、中層世界の神を殺すべきだというハリルドラの考えに賛同していますよね?」
「い、いいえ。その、其れが何か…………」
セリンは無言で、またまた一瞬で女神の意識を奪ってまたまた拘束すると、またまた上空へと登った…………
「こんなチャンスは、きっと二度と無い!!
なんとしても、“女らしい象徴”を手に入れなければ!!」
セリンは、生まれた時から“完璧な先祖返り”と言われ、アスモデウス家の分家の当主として、また、本家当主であるセレンを守る為に物心付く前から屈強な男性に囲まれて修行の日々を送って来た。
躾も厳しかった様で礼儀作法は完璧だし、ちょっとした仕草も洗礼させているが、本人の感性はやはり“戦士”のモノだ。
その、他の育ちの良い妻達との感覚の違いをもしかしたら、セリンはずっと悩んでいたのかもしれない。
オレとしては、セリンのそのギャップ萌えも魅力だと思っていたのだが、伝わっていなかったのだろうと反省した。
帰ったら、ちゃんとセリンの魅力を伝えてあげよう。
オレがそんな事を思っている間にまたも獲物を見つけたセリンが、舞い降りて行った…………
今回の遠征で、最も気合が入っているのは、何と言ってもセバスだ。
オレとの真無限ダンジョンでのレベルアップで、ちゃんと自信を取り戻していたが、やはり実際に命のやり取りの戦闘を行わないと完璧には踏ん切りが付かないのだろう。
いつもなら、一歩引いた位置で全体を見ながら行動するセバスが今日は最前列にいる。
もちろん、それでも全体の状況を把握している様だが、指示より先に自分が手を下している。
そして、おそらくセバスのターゲットは最奥に居る4柱だろう。
この4柱は、明らかに他の神達よりも強い。
もちろん、大神には足元にも及ばないが其れでもこの戦場では1番の強敵達であろう。
強敵狙いはセバスだけではないが、今回の戦場ではセバスが非常に有利だ。
尋問も、拘束も、他のメンバーとはスピードが違う。
最奥の1柱に最初に辿り付いたのは、やはりセバスだった。
セバスが辿り付いた神は、真っ黒なローブを全身に被り顔も見えない。
唯一見えている右手には、大鎌が握られている。
神は神でも死神の様だ。
背後の光輪が余計に死者を連想させる。
「あなたはハリルドラの賛同者ですか?」
死神は何も答えず、ゆらりっと鎌を持ち上げると、消えた…………
そして、セバスの背後に現れたかと思うと、鎌を振り下ろす。
しかし、その時には既にセバスは死神の背後に居た。
「無言は肯定とみなします」
セバスのナイフが死神の首を刎ねる。
パサっと、地面に死神のフードが落ちた。
しかし、フードだけだ…………。
「なるほど、“魂の光輪の力”で、自身を魂に出来ると言う訳ですか…………」
フードの落ちたローブの中には、頭どころか何も無い。
セバスは直ぐに、“火属性魔法”で、ローブを焼き払った。
すると、其処には光輪の前に右腕だけが浮かんでいた。
すかさず、セバスが右腕にナイフを投擲する。
カランッカランッと、地面に大鎌とセバスのナイフが落ちた。
だが、
「ナイフに血が付いていると云う事は、実体そのものは有ると云う事ですか…………
しかし、透明の時には、物理攻撃も魔法攻撃も無効の様ですね。
ずっと消えたままで居られるのも面倒です。
“呪属性魔法 ライフコロージョン”」
セバスは“光輪に向けて”魔法を放つ。
“呪属性魔法 ライフコロージョン”。
この魔法は生物を腐らせる魔法だ。
但し、徐々に侵食して行くモノで、急激にダメージを与えるモノではない。
よく使われるのは拷問だ。
徐々に身体が腐って行く恐怖は、普通に痛みを与えられるのとはまた違った恐ろしさがある。
神達は基本、光輪に対して何も対処しない。
何故なら、光輪は普通に触れない。すり抜けるのだ。
しかし、オレ達の研究で、“身体の一部”で、“実在している”事は分かっている。
なので、その事をちゃんと理解して認識していれば、“魔法が当たる”事は実証されている。
セバスの魔法を受けて、光輪が徐々にドロドロと溶け始める。
すると、光輪の前に、病的に痩せ細った男が現れた…………
「ワ、ワレのコウリンが…………」
光輪への攻撃のメリットは、神達が“光輪に攻撃は当たらない”と思って油断している事と、“光輪の力が出せなくなる”ことだ。
光輪はオレ達の仮説では、“生体魔法陣”の一種ではないかと考えている。
象徴を操る魔法を発動する触媒としての存在ではないかと思っているのだが、“生体”魔法陣の為、ダメージを負うし回復もする。
そして、ダメージを負うと“魔法陣”が欠けて効果を発動出来ないのではないか?と、考えているのだ。
実際に捕虜となった者達の献身的な実験協力の下、光輪が僅かに欠けるだけで光輪の力が出せない事も実証されている。
セバスは、動揺する死神を一瞬で斬り刻むと、即座に次の標的に向かったのだが…………
「セバスニヤン様、独り占めは良くありません」
セバスを追い抜く形で、シエラールルが前に出た。
セバスとシエラールルは、全く似ていない双子だが、ステータスの傾向も似ていない。
2人共、レベルに対して非常に高水準のステータスではあるが、中でもセバスは器用と知力が群を抜いて高く、シエラールルは力と俊敏が高い。
目的地へと向かう競争であれば、器用と知力でセバスが勝つが、純粋な100m走なら、力と俊敏でシエラールルに軍配が上がる。
そして、今行われている競争は後者だ。
シエラールルが先に到着した相手は、見上げる程の大きさの直立歩行のゾウだ。
「あなたはハリルドラの考えに賛同している者ですか?」
と、シエラールルが声を掛ける。
なんだか、先に声を掛けた者に戦闘の優先権が有る様だ。
「ゴミめ、消えろ!!」
シエラールルの言葉を完全に無視して、ゾウが拳を振り下ろす。
シエラールルは、大剣を振って、ゾウの拳を腕ごと上下に切り裂いた。
今の高レベルのメンバーの装備は以前の段階的な大きさ変更では無く、自由に変更出来る様にしてある。
レベルが非常に高くなった為、多少魔力操作が苦手でも、超一流の魔法使いよりも遥かに魔力操作が細かく行える様になっているからだ。
今のシエラールルの振り抜きも、拳に触れる瞬間に拳を斬れる程の大きさになり、手首に達する瞬間に腕ごと斬れる大きさに、腕を通り抜けるとまた、拳程になり、振り抜く時には元の大きさに戻っていた。
「ぐぎゃ!!我が腕が!!よくも!!」
怒ったゾウは、光輪を輝かせて長い鼻から鼻水を連発して撃ってきた!!
素早くそれらを避けたシエラールルは、ゾウをV字に斬り裂く。
“クルス流大剣術1 鋭角斬”だが、もちろん、シエラールルは技名を叫んだりしない。
シエラールルに斬られ、一瞬死んだかに見えたゾウだったが、怒りの形相で、シエラールルに鼻を叩きつけて来た。
シエラールルは、その攻撃を躱すと、一旦下がってセバスの元に向かう。
セバスはシエラールルに横取りされた事で、既に他の標的へと向かっていたが、シエラールルに気付いて足を止める。
「セバスニヤン様、此れを」
と、ステータスプレートを見せる。
「…………此れは…………」
セバスが珍しく、嬉しそうな表情をする…………。
いや、時々見せる残忍な笑顔の方だった…………。
「私も“一度殺してみる”。もしも、可能なら全員へと通達する」
そう言ったセバスは、踵を返して、巨ゾウへと向かった…………
予想は出来る、恐らく、巨ゾウはシエラールルの攻撃で、一度死んだのだ。
そして、生き返った。
その際に、シエラールルに“称号 神殺し”と巨ゾウの象徴が追加されていたのだろう。
その後の、みんなの動きで其れが正解だったと確信した。
巨ゾウは、全員に順番に何度も何度も殺されていたのだ…………
哀れなゾウさんは、100回殺しの目に遭っていた…………
そして、最も哀れな事に、殺されずに捕らえられていた…………
もしかしたら、彼はオレの配下全員に象徴を奪われるまで、殺され続ける運命かもしれない…………