第27章 新たな力①
新たな力①
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「もしかしたら、其れが本当の理由かもしれないな…………」
聖樹暦20023年1月25日。
ドゥアール在住の『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』の面々の対応を行った翌日。
朝食後のタイミングで、昨日一緒に行ったメンバーから報告が有ると言われた。
今日は休みの筈のガリーも私服で来ている。
全員が、ステータスプレートを出して見せて来る。
そして、指差したのは称号だった…………
「称号 “神殺し”か…………」
「ええ、私達は全員有ったのですが、あなたがご存知無いと云う事は…………」
「ああ、オレにはその称号は増えていない。
2柱はオレが止めを刺してるんだがなぁ〜…………」
アールドゥアーデに応龍と共にやって来たシュウウキョーヴと、応龍の神殿の私室でトリモチに引っ掛っていたチオジージーの2柱は、色々と話しを聞いた結果、本人達のたっての希望でオレが止めを刺してあげた。
因みに、止めを刺さなかった東南君に関しては、現在、特別室で待機中だ。
今後の為に、東南君の特殊な能力に関しては解明しておく必要が有る。
そんな訳で、オレ自身2柱を殺している訳だが、オレの称号に“神殺し”は追加されていない。
「もしかして、神以外が神を殺したら“神殺し”になるのか?
…………そうみたいだな。
“森羅万象”で確認したけど、神同士だと“神殺し”にはならずに、神以外が神を殺したら“神殺し”になるみたいだな。
称号効果は、何か有るのか?」
「ええ、其れも問題でして…………」
と言って開いた、ラムの称号 “神殺し”には…………
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称号
神殺し
神を屠った者
進化を司る
ゼリー状生物を司る
生物の分裂を司る
溶解液を司る
タマネギの旨味を司る
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なんだか、最後によく分からないモノが有ったが、取り敢えず全員分を見てみよう。
次に神殺しをしたのは、シロネコだ。
シロネコの称号 神殺しは…………
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称号
神殺し
神を屠った者
進化を司る
戦乱を司る
槍術を司る
粘土を司る
鉄を司る
銀を司る
豚肉の旨味を司る
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何故か最後によく分からないモノが続くが、良し!!次に行こう!!
次はガリーだな!!
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称号
神殺し
神を屠った者
繁殖を司る
知恵を司る
自信を司る
火を司る
金属を司る
宝石を司る
肉の旨味を司る
野菜の旨味を司る
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なんだか、美味しさの幅がグレードアップしたが…………
最後は、ヒィだな!!
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称号
神殺し
神を屠った者
進化を司る
忍耐を司る
繁殖を司る
水を司る
砂を司る
白身魚の旨味を司る
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…………なんだろう…………
今回殺した神は、食べ物を司るヤツらの集まりだったのか?
其れとも、神は何かしら食べ物を司っているのか?
まあ、しかし、称号 神殺しを得た事で、ラム達があの神達に代わって、何かしら司る様になったのか?
其れに、どんな意味があるのか?が問題だな…………
「…………なあ、応龍。
オレが神を皆殺しにしようと考えていた時に『全ての神が死んだら秩序が失われて、ミクチュリアが崩壊する』って言ってたが、神が死ねば死ぬほど、ミクチュリアの秩序が減って行くと云う事で合ってるか?」
「うむ、そうだ。
ミクチュリアは、神の持つ秩序によって成り立っているからな」
「じゃあ、神を殺してもその秩序を奪える訳じゃ無いよな?」
「うむ、象徴はその神が何を司っているかを神の産まれや、生き様によって示されるモノだ。
相手を殺したからと言って奪ったり出来るモノでは無い」
「…………例えばだが、“タマネギの旨味を司る神”が死んだらどうなるんだ?」
「そうなれば、ミクチュリアのタマネギの味が少し落ちるな」
「少しだけなのか?
其れと、アールドゥアーデのタマネギの味はどうなるんだ?」
「タマネギの旨味を司る神が1人死んだだけであれば、味が落ちるのは少しだけだ。
タマネギの旨味を司る神は多く居るうえ、ネギ科の旨味を司る神も、野菜の旨味を司る神も、食べ物を司る神も居るからな。
其れと、アールドゥアーデのタマネギについてもほんの僅かだが味が落ちるだろう。
味の一部には神の恩恵が有るだろうからな」
「…………なら、タマネギの旨味を司る神が“界渡りの力”で中層世界に居る時の、タマネギの味はどうなる?」
「其れはもちろん、ミクチュリアのタマネギの味は少し落ちる。神が不在だからな。
逆に、中層世界のタマネギはその神が居る間は美味くなるだろう」
「…………さっき、象徴は殺しても奪えないと言っていたが、其れは“人間が神を殺しても奪えない”のか?
其れとも、神同士では奪えないが、“人間が神を殺しても奪えるかどうかは分からない”のか?」
「…………人間が神を殺して奪えるかどうかは、私は知らないな…………」
そう言う応龍に、ラム達のステータスプレートを見せる。
応龍は非常に驚いていたが、これでオレの質問の真意が分かった様だ。
「人間が神を殺して、“称号 神殺し”を得ると象徴を奪う事が出来るとは…………」
「まあ、普通は人間が神を殺す事は難しいよな?
だが、例えば、中層世界の神が人間を率いてミクチュリアに攻めて来たとして、中層世界の神が弱らせたところを人間に止めだけ刺させたら、象徴を奪える。
そうすれば、その中層世界は奪った象徴の効果で凄く豊かになるんじゃないか?」
「ふむ…………確かに…………」
「もしかしたら、其れが本当の理由かもしれないな…………」
「ハリルドラ神がその事を知って、中層世界からの神の排除を行っていると?」
「ああ、ついでに、破壊と再生を繰り返す様にしているのは、神に匹敵しそうな人間が生まれるのを防ぐ為かもな」
「なるほど、有り得るかもしれぬな…………」
「ところで、象徴を消す方法は有るのか?」
「いや、そもそも象徴を消す意味が無いからな」
「そうか…………
なら、象徴の消し方を考えないとな。
シロネコが戦乱を司ったままなのも良くないし、ラムとの子供がスライムだったらイヤだしな」
「あなた、もしかして私がゼリー状生物を司っていると、スライムの赤ちゃんが生まれる可能性が有ると考えられているのかしら?」
「何処まで、象徴が影響するモノなのかは分からないけど、対策をしておくに越した事は無いだろうからな。
消す事が出来て残しておくのと、消す事が出来ないのとでは、今後の神達とのいざこざの対策も変わって来るしな」
本来であれば、今日からはドゥアールの神達を訪問して周って敵かどうかの判断を進めるつもりだったが、急遽、“称号 神殺し対策”に取り組む事となってしまった…………
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象徴の研究が始まった。
ドゥアールの拠点にも、もちろんオレの研究用の工房と研究部用の部屋は準備してはいたが、研究部のメンバーはまだ、ドゥアールに来る程のレベルに達した者は少ない。
なので、象徴の研究はオレと研究部長を中心に行った。
先ずは、象徴とは一体何なのか?
応龍は秩序と云う言い方をしていたが、象徴はミクチュリアに於いては『存在や事象の方向性を定めて行くモノ』であろうと、結論付けた。
例えば、鉄の比重は7.8t、融点は1,538℃と地球ではなっているが、ミクチュリアではオレの“スキル 創造”で作った全く同じ純鉄でも、7tだったり9tだったり、1,300℃で溶けたり1,600℃で溶けたりするのだ。
そして、鉄を司るシロネコと金属を司るガリーがアールドゥアーデに戻ると、更に幅が広がって6.5tだったり9.5tだったり、1,200℃で溶けたり1,700℃で溶けたりする。
火や水も、温度や沸点なんかのバラつきが酷くなり、魔法を使った場合の魔力消費も増える事が多くなったりした。
因みに、食べ物の味については若干下がった気がするが、個体差がある為、正確には分からなかった。
アールドゥアーデに於いての、象徴を持つ者が現れた事の影響は、魔力消費だった。
オレが“スキル 創造”で鉄を生み出した場合や錬金術で加工した場合、魔力の消費が下がったのだ。
火属性魔法や水属性魔法も同様で、魔力の消費が下がった。
しかし、其れ以上の事は無かった。
なので、象徴は中層世界に於いては『安定性を上げて、魔力の消費を下げる』モノであろうと結論付けた。
次は、この象徴の“使い方”だ。
応龍からの情報で象徴の使い方は3段階有る事が分かった。
此れを実際に検証してみたのだ。
1つ目は、既に確認出来ていた。“象徴を持つ者が存在する”事だ。
此れについては、象徴がどんなモノかの研究で実証出来ている。
2つ目は、自分を象徴する“象徴”で、其れを更に“顕著にする”というモノだ。
鉄を司るならば、拳を鉄に、火を司るならば、指先から火を出したり出来ると云うモノだ。
現象としては、魔法やスキルで行えるモノと変わらないが、魔法やスキルとしては存在していない“何故か女性の服だけが溶ける溶解液”を作れたりしたのだ。
3つ目は、象徴を“光輪の力”として、“自在に操る”事が出来ると云うモノだ。
此れは、象徴の中でも特に確固とした一部の象徴が、光輪の力として現れ、光輪の力になれば周囲や他者にも影響を与えられる様な力になると云うモノだった。
鉄を司るならば鉄を生み出したり相手を鉄に変えたり出来、火を司るならば相手の火属性魔法を操って相手に向かわせたり出来る。
但し、自在に操れる様になるまでは、長い時間掛けて使いこなしていく必要がある様だ。
以前、保留にした“光輪を生み出すスキル”を使って、ラム達にも行って貰ったが、自在に操るとは言わない迄も、若干効果を与える程度には行使する事が出来た。
オレが行った場合には、一切反応しなかった事に比べれば、非常に幸先が良い。
オレと違って、象徴が有る事で光輪を認識し易くなったからだと思われる。
時間は掛かるだろうが、一応、今後も習熟に努めて貰う様にした。
もしも、タマネギの旨味を司る光輪の力が現れれば、非常に美味いタマネギが食べられるかもしれないからだ。
そして、象徴をどうやって取り除くか。
此れについては、異世界召喚スキルを無くした時と同じ方法が使えた。
“スキル 象徴強奪”と“スキル 象徴削除”の魔導具を作ったのだ。
ラム達から無くすだけなら惑星ゼータの時に作った“スキル 称号失効”だけで良かったが、もう1つの問題を解決して、今後の神との戦いを安全に行う為に象徴にのみ効果が有るモノにした。
神達の象徴は、ラム達の神殺しと違って称号に紐づいている訳では無いからだ。
其れに伴って、“スキル 鑑定2”も作った。
此れは、従来の鑑定に、“天輪鑑定”と“光輪鑑定”、“象徴鑑定”を追加したモノだ。
そして、此れらの実験には、“彼女”に協力して貰った…………
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「…………なるほど……。血の呪いを司る象徴か…………。
だから、打撃はOK、斬撃はNGだった訳だ…………」
彼女専用の特別室で、“スキル 鑑定2”を彼女に使用して、攻撃が出来なかった理由を確認した。
彼女、東南君は、現在、オレの“ディファレントホーム”内の一室で、超圧縮クロオリハルコンの中に居る。
唯一出ているのは、右の二の腕だけで、其れ以外は完全に固めている。
もちろん、食事も呼吸も出来ないが、神は魔力があれば問題無いと云う事だったので、安全の為にこうして置いたのだ。
そして、二の腕だけを出させていたのも、こう云う事態に備えてだ。
東南君の司る、血の呪いは、非常に危険なモノだった…………
血を浴びると女性は死ぬ。
そして、男性が浴びた場合はその伴侶の1人が死ぬと云うモノだった。
但し、あの時もしも、ラムが血を浴びていたとしても大丈夫だった。
この血の呪いも、“状態異常効果無効”で防げたからだ。
血の呪いの効果と対策が分かったところで、象徴を“奪う”実験を行ったが此方も問題なく出来た。
そして、自身に“スキル 鑑定2”を行ったところ、ちゃんと、オレの象徴となっていた。
但し、オレは神なので、称号に記載はされない。
あくまでも、象徴として追加された形だ。
そのまま、象徴の“削除”を行って、此方も問題無く出来た。
其れにしても、東南君…………
彼女は今迄出会った他の神達と比べて大量の象徴を持っていたのだが、気の毒としか言いようがない…………
“悪い男に騙される女”を司っていたり、“ダメな男に尽くす女”を司っていたり、“浪費癖の有る男に貢ぐ女”を司っていたり…………
世の中の不幸な女性の代表の様な象徴だった…………
こうなると、彼女の夫のアステリオスは、どうしようもない男ではないかと思ってしまう…………
なんだか、可哀想になったので、象徴を全て取って、一応は厳重に出入りを出来なくしてから、黒オリハルコンから出してあげた。すると…………
「!!クルス神!!あなた、なんて事を!!」
と言って泣き出してしまった…………
そして、その泣き顔は、“牛顔”ではなかったのだ。
女神らしい、途轍も無く美しい女性のモノだった。
「…………もしかして、“惚れた男の理想に近付く”象徴を奪った事を言っているのか?」
「ええ、そうよ!!
私があの人の理想の顔を手に入れるのに、一体、どれ程努力した事か…………」
彼女は、頑張って牛の顔になったらしい…………
「そうか……。其れは、悪い事をした…………。
もしも、アステリオスと和解出来た場合には、その象徴だけは返そう」
「!!象徴を返す?!どう云う事なの?」
「敵であるおまえにやり方迄は教えられないが、象徴を返す事は可能だからアステリオスと和解出来て、おまえが敵では無くなれば返してやるよ」
「本当に?!良かった…………。
此れで、あの人に捨てられなくて済みそう…………」
『捨てられなくて済みそう』って、とても良い夫婦関係には思えないが、まあ、本人達が其れで良いなら他人がとやかく言う事では無い。
とりあえず、東南君に一定範囲内から絶対に出ない様に言って、その場を後にしたのだった…………