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第26章 ドゥアール⑤

ドゥアール⑤





▪️▪️▪️▪️





「僕は、降伏する。


僕自身は、中層世界で新たな神が生まれる事が悪いとは思っていない。

父上に従っていただけで、その父上も死んだから」



フウクウ神、彼はオレ達が近付くと迎えを寄越して応接室へと通し、開口一番そう言った。


「父親を殺された事を恨んではいないのか?」


「うん、むしろ感謝しているよ。

母上を彼処から助けてくれて。

ちょっと待ってて」



一旦出て行ったフウクウ神は、1人の天使を連れて来た。


シュウウキョーヴのところに居た熾天使 セラフィムの1人だ。

その天使が跪くと、


「クルス神様、この度は私を解放して下さり、有難う御座いました。


あの場では、他の者も居りました故、お礼を申し上げる訳にもいかず、失礼ながら、この場にて御礼申し上げます」

と、深く頭を下げて来た。



「クルス神様。

母上は、とても優秀な回復能力の天輪の力を持っていて、父上からかなり酷い目に遭っていたんだ。


僕も母上を引き取りたいと父上に訴えたけど、ダメだった。

だから、母上を父上から解放してくれたクルス神様に感謝しているんだ」



なるほど、シュウウキョーヴの神殿に有った“拷問部屋”は、“趣味の部屋”でもあったのだろう。


絶対に逆らわず、斬り刻んでも回復する。

本当に良い趣味をした神も居たものだ…………



「そうか。まあ、助かったのは偶然だから、余り気にしなくて良いが、何かあった時には協力してくれ。

貸しは貸しだからな」


「うん、何か有ればちゃんと借りを返すよ」


フウクウは、良い笑顔で応えた。

シュウウキョーヴと同じく、ブタの顔のオークなのだが、彼はちゃんと愛嬌がある。


やはり、神だろうと1人1人の個性が有り、人間と何ら変わらずどうしようも無いヤツも居れば、良いヤツも居るのだ。



そのまま、フウクウから話しを聞いた。


『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』の事は、シュウウキョーヴ以上の情報は無かったが、1つ新たに情報が手に入った。


フウクウの様にまだ幼い神の中に、打倒応龍を目指す者が4柱居ると云うのだ。



幼い神と言っても、年齢的な意味では無い。

そもそも、ミクチュリアには、朝も夜も無いので、日にちとか年とか云うモノが無い。



応龍によれば、天輪を持たない神が若い神で、まだ何も司って居ない神が幼い神だそうだ。

しかし、まだ何も司って居なくても、弱い神とは限らないらしい。

応龍には、オレを例に挙げられてしまった。


確かにオレは、何も司っては居ない。

ミクチュリア基準では幼い神だろう。


そんな感じで、打倒応龍を目指す神達の情報を貰って、フウクウの神殿を後にしたのだった…………





フウクウとは敵対しなかったので、完全消滅対象の可能性の1柱は回避出来たのだが、次のコウコントンは、何方とも言えない存在だ…………


しかし、完全消滅対象だったらしい…………



コウコントンは、ヒラメに手足が生えた姿をしていた。


この姿に対して、マーマンとか、サハギンだと言うならば、“女の敵”かもしれない。

しかし、見た目の話しをするなら、マーマンやサハギンと言えるのかは、疑わしい…………


だって、ヒラメだし…………


ヒラメの下の面に手と足が生えている姿なのだが、普通の魚で言うなら、彼は右手が2本と右足が2本有ると言う事だ。

此れを果たして、マーマンやサハギンと呼ぶだろうか…………



ヒィの刀捌きによって、手足を失い、5枚に下ろされた後にタタキにされて行く、コウコントンを見ながらそんな事を考えていた…………





▪️▪️▪️▪️





最後の1人、東南君は恐らく完全消滅対象では無いだろう。

何故なら、東南君は、女神だからだ!!


彼女の住まいは、地球に居た頃の夜の街を彷彿とさせる、光属性魔法の魔導具をふんだんに使ったネオン街の様な建物だった…………


入り口の派手な門の上にも、城門だろうに、“welcome”と書かれている…………


まあ、ウェルカムだと言うなら勝手に入ろう。


オレ達は城門の様な眩い門を開けて中に入った……その瞬間!!




「「「いらっしゃいませ!!」」」


と、ボーイの様な格好をした男性の天使が左右に10人づつ並んで、ピッタリ揃ったお辞儀で迎えられた…………


「東南君様がお待ちです!!どうぞ!!」


先導されるまま、奥に向かうと、キンキラキンの一際豪華な扉の前へ。


中には、ミラーボールの様な照明の下、非常に際どいノースリーブのドレスを着て、バッシバシにメイクをした、女性のミノタウロスがいた…………


そして、頭は牛だが、ムキムキでは無く、細っそりしていて、無駄にスタイルも良い…………



イメージされるミノタウロスとの違いは性別と体型だけでなく、背中の6枚の翼と背後に天輪が有る。

どちらかと言うと、女性のミノタウロスと言うよりは牛頭の天使の方が近いかもしれない。



「応龍様、お久しぶりです。

そして、貴方がクルス神ね」


派手派手な建物にミラーボールの部屋にも関わらず、非常に上品な口調で東南君は言った。


「ああ、オレがクルスだ。

東南君、先ず最初に聞いておきたいのは、おまえの名前の由来だ。

此処は、何処かを基準に南東に位置するから、東南君なのか?」


そう、最初に確認しなければならないのは“ソレ”だ!!

何故なら、この場所はオレが決めた方角で言うならば、“北”だからだ!!



そもそも、ミクチュリアは球形では無いし、太陽が無いので、方角と云うモノが無い。

なので、オレが勝手に応龍の神殿の向きで東西南北を決めた。


しかし、もし応龍が知らなかっただけで基準が存在するなら、其れに合わせた方が今後の神達との会話がスムーズになる。


そう思っての質問だったのだが…………



「え?ああ。違うわ。

私は応龍様と同じで、最初から天輪と象徴を持って生まれたの。


だから、名前もその象徴に合わせた名前になっているわ。


私の象徴は、『新たな出会いを実らせる事』を司っている。

名前の意味は、『妻を失うも新たな出会いから愛を実らせる』と、云う意味の名前よ」


「なるほど。

じゃあ、やっぱりミクチュリアには方角は無いって事で良いんだな?」


「ええ、方角と云うモノ事態が存在しないわ」


「分かった。なら、本題に入ろうか。

おまえが『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』なのは何でだ?」


「『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』?ああ、まあ、そのままの呼び方ね。

私は夫のアステリオス様が『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』だから、其れに協力しているわ」


「なら、アステリオスは何で中層世界の神を認めないんだ?」


「其れは、ハリルドラ様が認めないからでしょうね」


「アステリオスは、ハリルドラの配下なのか?」


「神同士に、そう言った関係は無いけれど、似たようなモノでしょうね。

アステリオス様は、ハリルドラ様への恩義から率先して何事もハリルドラ様に協力しているわ」


「じゃあ、ハリルドラが何で『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』を作っているのかは知っているか?」


「…………ハリルドラ様のお言葉では『中層世界に神が生まれる事で調和が乱れる』からだそうよ。

其れ以上の真意は、伺って居ないわ」


「そうか…………。分かった。

で、おまえもオレ達と殺し合うって事で良いんだよな?」


「ええ、私では、貴方や応龍様には敵わないでしょうけど、愛する夫の為に僅かでも貴方達の戦力を削らせて貰うわ」


「そうか、其れは残念だな。

順番的に今回はオレが相手なんだよ」


「!!あなた。あなたは順番決めに参加されなかったのですから、もう1度、私の番ですわ!!」


「え?オレは自分が最後のつもりで、くじ引きに参加しなかったんだけど…………」


「あなたはそんな事は仰りませんでしたわ。

私達は、順番が早い方がより多く回数が回って来ると思って、皆、1番を引きたがったんですのよ?」


「…………そ、そうか…………。じゃあ、ラム。気をつけて…………」


「ええ、行って参りますわ」


「つまり、其方の方をお相手すれば良いのかしら?」


「ああ、なんか、オレじゃないらしい…………」


「ええ。私がお相手致しますわ」


「では…………」


立ち上がった東南君は、奥に飾って有った2本のハルバードを左右に持って此方にゆっくり歩いて来た。

ラムも腰の2刀を抜くとゆっくりと東南君の前に向かう。


「参りますよ?」


「ええ、どうぞ」



先に仕掛けたのは、東南君だ。

左右のハルバードを縦横に振り抜く。


天輪の効果だろう。

光を引いて振り抜かれるハルバードは、東南君のステータスから考えてもかなり速い。


しかし、現在のラムは、大神で在る応龍を倒せる程のレベルだ。

東南君の攻撃も余裕を持って避ける。

そして、振り抜き切った東南君の両腕を斬り落としに掛かって、直ぐに飛び退いた。



「あら、気付かれてしまったみたいね。

表情には出していないつもりでしたけど…………」


「貴方を斬っていたら、どうなっていたのかしら?」


「もしも、貴方が私を斬れば、貴方は死にますね」


「…………余り、嘘がお得意ではないのですわね」


「ふふ、嘘かどうかは、是非ご自分で確認なさって下さい!!」


東南君は、再度、ハルバードを光らせて、連撃を放ってラムに迫っていた。



『困ったな…………。

鑑定した内容にも其れらしいモノは無いし、“森羅万象”も東南君を殺したらどうなるかは答えてくれない。


東南君は自分の命でオレ達の戦力を削ると言っていたが、オレが相手だと言っても何の動揺も無かった。

つまり、ラムが直感したであろう“殺したら不味い”と云うのはきっと、正解だ。


オレが東南君を殺しても、何かしら戦力が削れると云う事だ。


もしも、“殺した相手を呪い殺す”様な能力だった場合、さっきのオレとラムとのやり取りで、オレを挑発してオレと戦おうとした筈だ。


最大戦力であるオレが共倒れになってくれるのが、道連れとしては1番良い結果だろう…………

しかし、そうはしなかった…………


東南君の言葉、「もしも、貴方が私を斬れば、貴方は死にますね」と、云うのは殺したらでは無いという事かもしれない。


例えば、“危害を加える”とか、“傷付ける”、“返り血を浴びる”などの可能性もある。

なら、攻撃そのものが不味いかもしれない』



と、オレが考えている中、2人の攻防は完全に東南君ペースだった。

しかし、ラムは敢えてゆっくりと防いでいる様だ。


恐らく、体力の温存では無い。

何かを狙っているのだろうと思われる。


そして、しばらくラムが防戦一方の様な状態が続き、ラムが一瞬、姿勢を崩した!!

其れに反応した東南君が、追い討ちを掛けようとするが、もちろん、ラムの罠だ。


ラムは迫って来る東南君に、ニヤッと笑うと回し蹴りを入れようと身体を捻る。

東南君は慌てて飛び退いたが、そこまでがラムの罠だった様だ。



「斬るのはダメでも、打撃ならば良いと云う事かしら?」


「…………ご想像にお任せするわ…………」


どうやら、斬撃を受け様とする東南君に対して、打撃が有効か確認する為の布石をずっと打っていた様だ。


刀を返したラムは、念の為だろう、手首足首の骨を峰打ちで砕き、もう一度距離を取った…………


「く!!」


武器を落とし尻餅を付くと、東南君はキッとラムを睨む。


「…………私の負けね。殺しなさい…………」


「東南君さん、同じ女として貴方の覚悟は分かるつもりですわ。

ですから、貴方が夫の為に“ワザと死のうとしている”事も分かりますわ。


止めを刺すと私にとって不味いのでしょう?」


「…………ふふ、やっぱり、私も“女のカン”に従って、クルス神を挑発するべきだったわ。

貴方の相手をするのは、ダメな様な気がしてたのよね…………」


ラムは、座り込んでいる東南君に手刀を入れて、意識を刈り取ったのだった…………





こうして、7柱の、ドゥアールに居る『中層世界で新たに生まれる神を認めない派』の対応を終えて、ドゥアールの拠点へと帰ったのだった…………



その日の夜は、レンに『人を見た目で判断してはいけません!!』と、しっかり身体に教え込んだ!!

久しぶりに使ったオレの“変身魔法”は、細部に至るまで、完全再現だ!!







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