第6話 神器を手に入れろ
「ふわああ……」
俺は隙間から差し込んできた朝日で目覚めた。とても気持ち良い朝だ。
気のせいか、いつもより体が軽い気がする。
ガルム事件から2週間が経っていた。あの事件以来、俺のイメージというのは180度逆転した。
剣を受け止め握り潰す程の怪力の持ち主として定着していた。
ランクはまだFランクだが、もう少しでEランクに昇格できるだろうとフィナさんが言っていた。
フィナさんは担当の居なかった俺のために、担当に名乗りでてくれた。
俺もフィナさんにやってもらいたいと思っていたので、すぐに決まった。
簡単なクエストを受けながらなので、未だに馬小屋からの脱却は出来ていない。
今日は、神器探しに行こうと思っている。と言っても、手掛かりが何もないのでどうしようもないのだが。
そのあたりは、レスティアが知っていると信じている。
『おはよう、レスティア。突然だが、神器探しに心当たりはあるのか?』
『あるに決まってるでしょ。神器もね、神気を帯びているの。だから、神気を追っていけば自ずと神器の元にたどり着くってわけ』
『ほうほう、でその神気を探すってのはどうするの? 』
『ノルクにはまだ無理かな……。私がやるからノルクはその場所まで行ってくれればいいよ』
どうやら、俺はまだ神気を完璧に使いこなせないらしい。
神気を探れば、神器の場所は分かる。それで、何の神器か分かるのかな……?
『なあそれって、何の神器か分かるのか?』
『それは分からないね……。あくまでも神気を探るだけだから、実際に行ってみるまでのお楽しみってことで』
『あー、そういう感じか……。出来ればがっつり戦闘タイプがいいな……。剣神とか』
『ま、とりあえず探ってみるよ』
そう言ってレスティアは黙ってしまった。俺は増えたお金で買った新しい服に着替えて馬小屋を出た。
とりあえず、街中に出てみる。迷宮都市の朝は早い。ギルドのクエストは朝6時に追加されるため、いいクエストがないか皆探しに行くのだ。
屋台はまずまずといった感じだが、鍛冶屋や武器屋なんかはもうオープンしてる店もある。
そうして歩いていると、レスティアが話しかけてきた。
『ノルク! 運がいいね……早速一つ、この都市にあると思われるます』
『おお……! まじか。で、場所はどこなんだ?』
『え、とね……今いる場所からちょっと歩いて、右曲がってそこから左に曲がって……で―――』
『うん、もういいよ。道案内下手くそだったんだね。後は俺がするから、神器の場所だけ表示してくれ』
『うぅぅ……。分かりました、後はお願いします……』
女神は万能ではないらしい。それが今日分かった。まあ、道案内なんてすることもないしな。
それにしても……この神器の場所、随分離れてるな。中心街から外れてるのか?
やっぱりレスティアの言う通り、神器とはピカピカしてるものではないみたいだ。
俺は頭に浮かぶ神器の場所を目指し、歩を進めた。
そして、歩くこと1時間――――たどり着いたのは、
「ここ、だよな……」
見たことも無いボロ屋敷だった。大きさは一軒家で、そこそこでかい。
ただ、見た目は俺の馬小屋と同等レベルだ。
苔がびっしりと生え、木材も腐っているのか所々剥がれ落ちている。
看板らしきものには、微かにだが剣と剣が交差するマークが書かれている。
「武器屋かな……」
もうすでに閉まってしまっているかもしれないが、神器の反応はここからある。
入口らしき扉を押す。
キイイィィと軋む音をたてながら、ささっと中に入る。中に入って分かったことは、ここはしっかりと営業している、ということだろう。
明かりはついており、中の様子が確認できる。壁際には棚がびっしりと並べられ、乱雑に商品が置かれている。
『ノルク! こっちだよ、こっち』
入店そうそうレスティアに促され、神器まで小走りで移動する。
カウンターに近い棚の1番上に目当ての物はあった。
ドキドキ、ドキドキ、高鳴る心臓の音を感じながら、つま先立ちで手に取る。
俺がその手に持っていたのは、
「これ、籠手か……」
そう、籠手だ。肘あたりから手の甲までを防御できそうな金属製の籠手だった。
俺には何の神の神器なのか分からんが、レスティアなら分かる。
『なあ、レスティア。これって……』
『うん、籠手だね。なら、これは"闘神トルク"の神器だよ』
『闘神トルク……って凄いの?』
『徒手空拳の達人で、近接戦なら一二を争う程だよ。特に神気の纏いとは相性が良いから、今のノルクにはピッタリかもね』
俺はレスティアの解説を聞き、打ち震えていた。
ついに俺にも、戦う力が……。スキル【神降ろし】というのがどんなものなのか、早く体験してみたくて堪らない。
「よし、早速購入だ」
資金については、潤沢とは言えない。でもまあ、こんなに汚くて光沢もない籠手なら格安で買えるだろう。
俺はカウンターに行き、ロッキングチェアにてうたた寝している婆さんに声をかける。
「あのー、これ欲しいんですけど」
「………」
「あのー、これが欲しいんですけど!」
「………」
くそ、なんなんだこの婆さんは……。本当に聞こえてなさそうだな。仕方ない。
俺は婆さんの耳元に顔を近づけ、
「あのー! これが! 欲しいんですけど――!」
「黙らっしゃい!! そんな耳元で喋らんくても聞こえとるわい!!」
思いっきりカウンターを喰らった。耳がキーンってなってるんだけど……。
俺は耳を押さえながら、話しを続ける。
「これ、欲しいんですけど」
「ほお……お前さん、中々良い目をしておるようじゃの」
「え? これってそんなに高いんですか?」
「まあ、今な亡き爺さんが迷宮から持ち帰ったものじゃからのう」
俺は少しだけ焦っていた。嫌な予感がする。格安で買えるだろうと思っていたが、とんでもない値段のような気がする。
「そ、それはいくらなんでしょうか?」
「ふーむ、そうじゃの……60万エルかの?」
「はああああ!? 60万……それは少々高すぎでは……」
「嫌なら買わんでもええぞ。この婆は1エルたりともまけんからの」
「ぐぬぬぬぬ、一度戻ります……」
俺の現在の所持金は3万エル。馬小屋にあるのは、せいぜい1万エルほど。全然足りない。
意気消沈の面持ちで店を去ろうとする俺に、背後から婆さんの声が聞こえてくる。
「あー、そういえば……どこかのお貴族様がえらくこれを気に入っとたのー。三日後くらいに一度来ると言っておったかの」
バタン! 俺は勢いよく扉を閉めた。
あの婆さん、許さんぞ……こうなったら何が何でもあの神器を手に入れてやる。
『ノルク、どうするの?』
『うーん、婆さんの話しが本当なら時間がない。クエストを受け続けても、三日で60万は不可能だ』
『え? じゃあ、諦めるの?』
『いや、諦めないよ。闘神なんだ、仲間にしたいさ。………仕方ない、一か八かの賭けに出よう』
俺は決心した。お金のない俺でも一発逆転できる夢の賭けだ。
『なんなの、それ?』
『ふふふ……競馬だよ』
俺は全財産をかき集めるため、自宅である馬小屋に戻るのだった。
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