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第5話 ノルクは過去を消し去る

 勝負の日、俺はいつも通り冒険者ギルドへと向かう。今日で全てが終わるはずだ。


 俺の過去、全てを消し去る。あの男と共に……。

 それに、フロストさんも何か考えているみたいだった。俺から言うことはないので、好きにしてもらう。


 フロスト・フルバーンという男。噂では滅茶苦茶Sらしい。人をいたぶるのが好きと聞いた。

 冒険者ランクと性格が共にSだなんて笑える話だ。


 通りを歩いていると、レスティアが話しかけてきた。


『遂にこの時が来たね……』


『いや、だからなんでそんなに楽しそうなんだよ……』


『だってさあ……ムカつくじゃん、ああいうやつ……。いるんだよね、他の神にもああいうのが』


 レスティアの話し方から相当嫌っているやつなんだなと分かる。まあ、それも会ってみれば分かることだ。その時を楽しみにしておこう。


 ギルド前までやって来た俺は、扉を開き中へと入っていく。いつもより人は少なく感じるな。

 カウンターにいたガルムは、固まったまま動いていない。そして、汗を大量に流しながら俺に言う。


「な、ななんでお前が……い、生きて……」


「俺が生きているのが不思議ですかね? ガルムさん」


 これではっきりした、昨日の刺客はガルム指示のものだ。もういい、徹底的に追い詰めて終わらせてやる。


「ガルムさん、俺に謝ることがあるんじゃないですか?」


「は、はああ?! なぜ俺がお前なんかに……」


「心当たりありますよね……? あのパーティーから俺に死亡原因はなんて聞いたんですか?」


「そ、それは……お前が囮になってくれた、と」


 ガルムは焦りながらも会話を続けている。俺はガルムを終始睨みつけながら、問い詰めていく。


「馬鹿ですか? 誰が好き好んでミノタウロスの囮になるんですか。そんな奴は、よっぽど英雄願望が強いやつか、自殺志願者くらいですよ。それに、パーティーメンバーの中に土魔法が使える人がいました。ミノタウロスはスピードがあるタイプじゃないので、土魔法で壁を作りながら逃げることもできたと思うんですよね。けど、そうしなかった。あなたが、万が一の時は俺を囮にするように言ってたんじゃないですか?」


「ば、バカを言うな! そんなことがあるわけないだろ! ギルドは冒険者を守るのも仕事なのだ」


 俺は呆れてため息を吐く。冒険者を守るのも仕事なら、なぜ俺は守られなかったんだ? パーティーメンバーの人達は躊躇なく俺を囮に決め、行動に移したのだ。


「まだ、言い訳するんですか? なら証拠を見せてあげますよ。すいませーーん! お願いします!」


 俺は、外に向かって大きく声を上げる。これが合図だ、徹底的な証拠を見せるための。


「おーおー、やっと出番かよ……。待たせたな、ノルく」


「き、貴様……何をしに来た! フロスト、貴様ぁ!」


 ガルムは怒って、フロストさんを問いただすが、フロストさんは気にも留めていない様子だ。

 フロストさんはニヤリと笑い、空間から何かを引っ張り出す。


 あれは……フロストさんのスキルか……。初めてみた、空間系のスキルとは。道理で強いわけだ。


 藁でくるまれたものが数十体床に放り投げられる。

 フロストさんは頭部の藁を外し、全員の顔を見せつける。


「こいつらは昨日、ノルクを襲撃して殺そうとした奴らだ。とっ捕まえて、尋問したやペラペラと話してくれたぜ。誰が命令したのかを……」


 ガルムは顔を確認したようで、青ざめている。若干腰も引けているのか、変な体勢だ。


 まさか、フロストさんが参加してくるとは思ってなかったんだろうな。

 さっきの反応を見るに、この二人は互いに嫌っているようだったし。


 フロストさんはしゃがみこみ、襲撃者たちの頬をペチペチと叩き、起こす。


「……ん? もう、朝か……ひぃ!」


「よーお。悪いけど、全部話してくれないかなぁ? 頼むよ、話してくれたら解放してやるから」


 解放という一言を聞いて、全員が喉をゴクリと鳴らす。

 フロストさん……何をしたらここまでの反応を得られるんだよ。


 対するガルムはっと声には出していないが、表情と口パクで止めようとしている。首もぶんぶん振ってるし。


 だが、襲撃者達は所詮金で雇われた身、ガルムに対しての主従精神など持ち合わせていない。

 目を閉じ、覚悟を決めた様子で全てを語り出した。


「……ガルムに、そこのノルクってガキを殺せと頼まれた。参加してくれたら、10万エル。殺した奴には、さらに10万エルやると言われた……」


 その言葉をギルド一帯を氷づかせた。様子を見に来ていたフィナも愕然としている。

 そりゃそうだ、俺も動揺してる。

 俺にそんな価値があるとは思えないけど。


 一般人4人世帯が1ヶ月生活するのに、必要なお金は約20万エルとされている。

 冒険者だと、上級者ともなれば20万エル以上稼げてしまう。


 しかし、それは上級者の話しだ。Dランクあたりでも、10万エルは大金だ。

 それを1人の少年を殺すために懸けるとは……。


 ガルムにそんな金があるとも思えない……。まだ、何かありそうだな。


 怒りに満ちた表情でフィナはガルムに詰め寄る。


「ガルムさん……どういうことですか? 説明してください!」


「いや、ち、違う……。俺は何も知らない! こんな奴ら知らないぞ! それに、俺にそんな大金出せるわけないだろ!」


 必死に弁解するガルムにフロストさんが追い討ちをかける。


「おいおい、まだ認めねえのか……。あんたはもう終わってんだよ。なんなら、もっと追い詰めてやろうか……」


 そう言って、フロストさんはまた空間に手を突っ込み人を登場させる。

 こいつらは……俺を囮にした冒険者パーティーだ。


 まさか、フロストさん。こんな人達まで準備させてたのか。

 とことん、ガルムを追い詰めるつもりだな。


「おい、話せよ。今になって後悔してんだろ?」


「……迷宮探索前に、ガルムさんから言われたんだ……」


「や、やめろ! それ以上何も言うな!」


 ガルムは叫ぶが、パーティーリーダーの開いた口は止まらない。


「迷宮では何が起こるか分からないから、万が一の時は荷物持ちのやつを犠牲にして構わないと……。怖かったんだ、相手はミノタウロスだった。だから―――」


「やめろーーー!!」


「ガルムさん! あなた……!」


 ガルムが担当する冒険者パーティーが白状した。ガルムは叫ぶが、もう何を言っても届かない。

 周囲もざわざわし始めた。

 ガルムは、尻餅をついてへたり込んでしまった。


「ガルムさん、まだ言い訳しますか? 潔くギルドをやめて下さい。後は警備隊に引き渡しますから」


「……ノ、ルク。貴様……ノルく……! 貴様ーーー!!」


 ガルムは手元に一振りの剣を登場させた。剣を握り、俺を憎しみの目で睨みつける。

 こいつ……! 召喚魔法か……。こんなスキルを持っていたのか。


 ガルムはそのまま立ち上がり、剣を振り上げて俺に襲い掛かってきた。


「うらあああああ!!」


「危ない! ノルク君」


 俺は一歩も退かずに、右手に神気を纏わせる。そして、手のひらでガルムの剣を受け止めた。


 ガキイイイイン、と衝突音が鳴り響いた。ガルムの驚きの声を上げる。


「なっ……」


 俺は力を入れ、剣を握り潰した。パラパラと金属の破片が床に落ちる。


「もう昔の俺じゃないんですよ。今までの報いをしっかりと受けて下さい」


 俺にそう言われたガルムは、今度こそ終わりだと思ったのか顔を俯かせ黙り込んだ。

 だが、ここで思いもよらぬ人物がギルドに入ってきた。


「何を騒いでいる? また揉め事か……」


 その人物に気付いた者たちがそろって声をあげる。


「ギルドマスター?!」


 ギルドマスターが入ってきたことで希望を見出したのか、ガルムは縋り付くようにしてギルドマスターに乞う。


「ギルマス! 助けて下さい、俺ははめられたんです。万年無能のやつにはめられたんです!」


「そうだな、大体の話は聞いている。ギルドの金を横領していたガルムよ」


「……は?」


「証拠は出そろっている。大人しくするんだな、まあ殺人未遂にギルド職員としてあってはならない扱い……罪はさらに重くなりそうだな」


 ギルドマスターは力ないガルムを引き剥がし、カウンター奥へと入っていった。


 え、まさかガルムの奴。横領までしてたのかよ。道理で高額な報酬を用意できるわけだ。

 ああーーーにしても疲れた。でもこれで、俺の過去は消え去った。


 その後、ガルムは全ての罪を洗いざらい話し、警備隊に連行されていった。強制労働の刑になるだろうな。


 ◇


「え、と……このお金は?」


「君がこれまで働いた分の正常な額だ。受けとりなさい。これからも、()()()としての活躍を期待しているよ」


 ギルドマスターが小包を俺に差し出し、そんな言葉をくれたのだった。


 こうして、雑用・無能・最弱・万年Fランクと呼ばれた俺は、冒険者ノルクとして生まれ変わったのだ。










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