第3話 神気習得を目指そう
俺は迷宮を無事に脱出することができた。途中魔物に遭遇することはあったが、レスティアの神気により回避することができた。
ミノタウロスもこの光に恐れおののき、逃げていったのだろう。まったく、神気とは恐ろしいものだ。
そして、俺はこの神気を習得しなければならない。レスティア曰く、
『神気の習得は神降ろしだけじゃなく、自身の強化に応用できるの。神気を身体に纏うことができれば、それだけで強力な武器になるから』
『ああ、そう言われたら確かに習得は必須になってくるな。今の俺は自衛手段すら持たないやつだからな。神気の習得で自衛ができるようになるなら、冒険者としてちゃんと活動できるようになる』
『それなんだけど、すぐに冒険者ギルドに戻るの? あのふざけた連中をぶっ飛ばしに行くの? ねえ、
ねえ……』
『なんで、そんなにぶっ飛ばしたいんだよ……。でも、まだ戻らない。おそらく、今の俺は死んだことになっているはずだ。そして生きていると知れれば、確実に口封じに来る。だから、万全の状態でギルドには戻る』
『ああーーーそゆこと。それなら了解、さっさと脱出して神気の習得を目指そう!』
そんなこんなで、迷宮を脱出した俺は自宅、まあ家とは呼べないようなぼろ屋に帰ってきた。
昔、馬小屋として使われていた小屋で、そこを改良してなんとか住めるようにした。
ここは、クルフ王国の迷宮都市アインだ。
今の俺は、その日生きるための金をその日に稼いでいる感じだ。貯金なんてまずないし、食料の保存もされていない。
その日のために精一杯生きているのだ。
◇
あくる日、俺は人目から離れた場所にやって来た。誰かに見られて、連絡でもされれば厄介だ。
周囲には木々が乱立しており、多少大きな音を出しても問題ないだろう。
早速、レスティアの指示に従いながら神気のは習得を始めていく。
『じゃ、始めていくねーー』
『よろしくお願いします。と、その前に一ついいか?』
『え、いいけど……な、なんでしょう?』
普段と違い、レスティアは身構えているようだ。それがおかしくて、俺は苦笑いする。
『そんな身構えなくてもいいよ。実体化ってできたりするの? なんか、ずっと頭の中で話してるとむず痒くて……頭も痛いし』
『んー、それはまだ無理かな。実体化するだけの神気の総量が足りないのよ、ノルクの治療で神気消耗して今はすっからかんだし。かと言って、フルの状態でも足りないんだけどね』
『神気の総量か……。それって鍛えれば増えるとか? 』
『ノーノー、そんなんじゃないよ。神気は神器を見つけて、神を味方に引き入れることができたら、増えていくの』
『なんだそりゃ、結局神器便りじゃないか……』
まあ、それも仕方ないか。神器がそれだけ重要ってことか……。ん……けど、神器ってどうやって探すんだ? 地図でもあるのかな、それとも……手がかりなしとか。
ありえない話しでもないよな。また、今度レスティアに聞いてみるか。
今は、神気の習得だ。
『おっほん、それでは改めまして始めまーす。まず、神気はすでにノルクの体の中を巡っているから、それを感知するところから。魔力を感じ取るみたいな感じでやってみて』
『分かった』
俺は言われた通り、魔力と同じようにやってみる。
スキルで魔法系を得られなくても、魔力とうのは全生命に統一して存在している。
なので、俺でも感知は可能なのだ。
目を瞑り、手のひら同士を合わせて集中していく。
「ふーー」
小さく息を吐き、さらなる集中状態へと入っていく。
すると、腹の辺りに光が感じられる。これが神気だろう。
そのまま胸、腕、足と全身を追って神気を感じ取る。
レスティアも感じているようで、『そうそう、そのまま』と呟く。
やがて全身を通う神気を感知した俺は、目を開ける。そして、レスティアに問う。
『レスティア、どうだった?』
『うんうん、感知はしっかりとできたようだね。なら、次のステップへ行こう。次は、神気の放出ね。これは、頭の中で具体的な放出のイメージを持つといいかも』
『よし、放出のイメージ、イメージ……』
『あーっと、ノルク。へその下の丹田辺りに神気を溜めてみて』
俺はレスティアのアドバイスを聞き、へその下辺りに神気を集中させていく。
なんか……腹が光ってるような気がする。目を瞑っているので、分からないが、そんな感じがする。
『溜まったら、それを一気にそこから放出する! ドカーンって派手に、派手に』
俺は溜まった神気を腹を突き出す形で放出を試みた。腹を引き、そして一気に解き放つ……!
ドオオオオオン……。俺の腹から白い光が直線上に解き放たれた。
腹から異様なものが出ているので、何とも言いづらい。
「………」
『なあ、これ……めちゃくちゃダサくね? 腹から出たんだけど……想像よりもキツいんだけど……』
『うん、ごめん……。お腹じゃなくても良かったかも。力を溜めるのに、分かりやすいのが丹田だったから……』
これが街中ならまだしも人目がない場所なので、俺だけの秘密にしておこう。
レスティアも切り替えて、教えを続けていく。
『じゃ、今のイメージを忘れないでね。それを手から出してみて。間違っても解き放つんじゃないからね、あくまで放出するだけに留めるんだよ』
『分かった。やってみる』
俺は先程のイメージを持ちながら、右手に神気を溜めていく。上達すれば、時間をかけずに放出の動作を行えるらしい。
ある程度溜まったのを確認し、右手に力を入れる。
すると、モワモワモワと神気が少しづつ出てきた。
『上手い上手い。それじゃそれを右手に纏ってみて』
『纏う、か……』
俺は左手を使いながら、神気を右手に纏わせていく。少し粗っぽいが、出来たと思う。
『よし! 神気を纏ったまま、あの岩を殴ってみて。前に見える大きいやつ』
『あれをか……? さすがにそれは……無理だと思うぞ?』
レスティアの目にはどう見えているのか分からないが、俺の目には中々大きい岩だ。
高さだけなら、俺の身長を超えている。
『いいから、いいから。やりなさい!』
『……どうなっても知らないからな』
俺は覚悟を決め、神気を纏った拳を構える。下半身に力を入れ、腰を落とす。
「行くぞ……うるあああ!」
押し出された拳は岩の中心を捉え、ミシ……ミシと音を鳴らす。
亀裂が複数走り、バラバラに砕け散った。
「うっそーん……。ただの拳だぞ……」
『ね? すごいでしょ、これが神気の力。まだ粗っぽいから、訓練は必要だけど、もっと滑らかに出来れば粉々に砕けてたよ』
『マジで……』
『そ、神気が使えればある程度は強くなれる』
俺はこの力があれば、冒険者としてクエストや迷宮探索を行えると思った。
もちろん、難易度の高いものは無理だろうが。
今までみたいに、雑用をやる必要は無くなる。
『ありがとう、レスティア。俺はまだまだ強くなれる』
◇
その日の夜、俺はレスティアから冒険者について問われていた。
『ねえ、なんでノルクは冒険者をやってるの?』
『うーん、単純に稼げるからかな。俺はさ、美味しいご飯を食べて、いい服を着て、ふかふかのベッドで寝て、大きな家を持ちたい。そんな夢があるんだよ。それを叶えるのに1番いいのが、冒険者だからかな』
『冒険者ってそんなに稼げるの?』
『ああ、冒険者は実力評価だからな。やったらやった分だけの報酬が貰える。けど、今の俺には実力がないからド底辺の生活を送ってる』
『じゃあ、それも終わりだね』
『ああ、絶対に終わらせる』
俺はそう固く決心し、目を閉じた。
それから1週間後――――俺は懐かしき冒険者ギルドの扉を叩いたのだった。
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