第14話 パーティーを結成しました
ズオオオオ、とトルクが俺に降りてくる。これで前準備は万端だ……が、俺には気掛かりがあった。
ただ暴れ回っているだけのアシュラなら、遠慮なく攻撃できるんだが。
操られて苦しんでいるところを見ると、中々攻撃しづらい。
苦い表情で攻めあぐねていると、トルクが
『安心せい、あくまでもアシュラは召喚された聖獣じゃ。現実世界で実体が死んでもその魂は、元の世界に戻り再構築される。臆せずいけ』
『サンキュー、トルク。それなら……』
俺は拳を構え、集中する。対するアシュラは、細長い手脚を振り下ろし俺を潰そうとしてくる。
俺は左右にステップを取りながら、その全てをかわしていく。
それでも尚、アシュラの攻撃は止まらない。無差別に振り回し、連鎖的に攻撃してくる。
俺は蹴りなどで手脚を弾きながら、アシュラへの接近を試みる。一瞬の時に出来た隙を見逃さず、高速で近付く。
左足を前に踏み出し、神気を纏った右手を繰り出す。
「うおおお!! 闘拳技法・壱の型、神衝波!」
アシュラの右半身に強烈な衝撃が走る。やがて、神気が亀裂をほと走り内部から破壊する。
「くそ……図体がデカくて、全部は無理か」
右半身のみ抉られた形のアシュラは、苦痛の叫び声をあげながらも攻撃の手を緩めない。
右半身は抉った……。左も抉って終わりにする。
俺は再び回避を続けながら、攻撃のチャンスを窺う。
しかし、アシュラの潜在能力は俺が思っているよりも遥かに上だった。
突如、抉った右半身ががうねうねと不規則な動きを始めた。次の瞬間には、右半身が再生を始めやがて完全に再生した。
「ちょま……再生能力があるのか!?」
俺が驚きの声を上げると、トルクからお叱りを受けた。
『アホウが! 相手は魔物じゃないんじゃ、再生能力くらい持っとる。チンタラしてたら、こっちが先に時間切れになるぞ』
そういえばそうだった……。神降ろしは何時間も継続できない。いつか必ず終わりの時がくる。
俺はアシュラの胴体を狙うのをやめ、頭部の方から潰していく方針に切り替えた。
その間に、アシュラは次の攻撃を仕掛ける。
従来通りではない攻撃だ。悍ましい3つの口、そして6本の手を中央に集め、何かを放とうとしている。
キイイイイイインと甲高い音が響き渡り、エネルギーが収束されていく。そして、溜まり切ったのか……エネルギーの集合体が一筋の閃光となって俺に迫る。
俺は回避行動を取らず、迎え撃つ。
「闘拳技法・肆の型、神無破」
肆の型は唯一の防御の型だ。俺は右足、左足で交互に蹴り、ばつ印の神気で閃光を止める。
このままでは突破されるので、右と左の拳で殴りつけ、最後に右の拳でアッパーの要領で打ち上げる。
閃光は掻き消え、光の粒子となって舞う。俺はその中を突っ切り、アシュラへと迫る。
手脚による攻撃が来る前に、上空へ飛び上がり天井と足の裏を合わせる。
天井を足場として一気に急降下する。右手を引き、さらに神気を込める。
自由落下の速度も相まって、威力は増していく。
「闘拳技法・弍の型、神落!!」
アシュラの頭頂部にズンッと、地が震えるほどの衝撃が走る。
俺はそのまま地面に押し潰すように、力を込める。
「ぜああああ……!」
ブチュ、ブチュと頭部が潰れ、胴体そして脚にも拳が届く。
ドオンッと拳が地面にも突き刺さった。
拳により貫かれ、身体のほぼ全てを失ったアシュラは黒い煙となって消え去った。
俺は、固まったまま動かない人攫いの頭の元へ一歩また一歩と近付いていく。
「は、ハハ……アシュラが……。なん、なんだ。なんなんだお前は――――!!」
「ただの冒険者だよ」
「冒険者……Aランク、いやSランク冒険者か!?」
「いや、Eランク冒険者だ」
俺がそう言うと、男は頭を抱えうずくまった。狂気に染まった表情で、殺される、殺される……とブツブツ呟いている。
気味が悪いな……。なんか呪われそうだ。こいつらには聞くことがあるので、大人しくしてもらう。
男の傍まで行き、首筋に手刀を落とした。
「ふぅ……終わった」
あれ……? いつの間にか、神降ろしが終わっている。危なかった、ちょっとでも遅れていたらアシュラを倒せなかったかもしれない。
これからは、神降ろしの持続時間の延長も課題だな。
俺は辺りを見回し、ルウを探す。アシュラとの戦いに夢中になっていて何処にいるか分からない。
すると、背後からルウの声が聞こえてきた。
「ノルクさん! みんないました! でも……鍵がかかっていて」
「本当か! 良かった……。鍵なら―――」
俺は気絶している男の持ち物を確認し、内ポケットにあった鍵をルウに投げ渡した。
ルウは受け取るとすぐに兎人族が閉じ込められている牢へ向かった。
俺もその後をついて行った。死者は誰一人なく全員無事に脱出した。
◇
村からアジトまで兎人族を運んだと思われる大型のリヤカーに兎人族を乗せ、村まで戻った。
村には、5人の待ち伏せがいたはずなのだが……。全員が死んでいた。腹をパックリと一文字に切り裂かれ、血溜まりを作っていた。
とりあえず、死体を一箇所に集めて俺とルウは兎人族の治療を開始した。
幸いにもポーション類がまだ残っていたので焦ることはなかった。
村の人達に次々と感謝の言葉を述べられ、助けられて良かったと感慨にふけていると、ルウがやって来て両親に会って欲しいと言われた。
半ば押し切られる形で俺はルウに手を引かれていった。
急造で作られた簡素な家に着くと、包帯を腕や足に巻き付けた男女二人がいた。どことなくルウに似てる気がする。
正面に座った俺を見てルウが話し出す。
「私のパパとママです」
「これはどうも……」
ルウの発言に付け加えるように、パパさんとママさんが喋り出した。
「まずは、お礼を言わせて頂きたい。娘をいや……我々の一族を助けていただきありがとうございました」
「いえ、そんなに気になさらないで下さい。偶然、ルウを発見しただけの縁ですから」
礼を言われるのは嬉しいことだか、あまり言われ続けても遠慮してしまう。
俺自身、そこまで大きな事をしたつもりはない。
「それで、ルウのことなのですが……。この子は私達の本当の娘ではないのです」
そう言ったのは、ルウに負けず劣らずの美人ママさんだ。衝撃の告白に俺は思わず息を詰まらせる。
「ってことは義理ということですよね?」
「はい、兎人族の村というのは何もここだけではありません。他にもいくつか村があります。ルウはまだ赤ん坊の時に近くの森で私達が見つけました。すぐに兎人族だと分かり、村で育てることにしました」
「つまり、ルウはここではない別の村で生まれたと」
「そういうことになります。ひどい話ですが、ルウは捨てられたのではないかと……」
ママさんはルウの頭をさすりながら、そう話す。確かに、ひどい話だ。
捨てられた理由については、察しがつく。
「……口減らしですか?」
「恐らくですが……」
口減らし。村の人口が増えすぎてしまったため止むを得ず、子供なんかを村から追放することだ。
理由については様々あるが、大抵は食糧事情によるところが多い。
それで、この話を俺にしてどういうつもりなのだろうか?
俺のこの疑問はこの後の言葉で解決された。
「そこで、お願いなのですが……この子を一緒に連れて行ってはくれないでしょうか?」
「私からもお願いします! 迷惑は……かかるかもしれませんけど、必ずお役に立ちます!」
これまた、俺の想像の上を行く発言だった。ルウは一歩詰め寄り、言葉を重ねる。
「私は知りたいんです。本当の両親が誰なのか……。それに外の世界をもっと見てみたいです……」
「理由は分かったけど、本当に俺でいいのか? 大きな都市へ行けば一緒に行ってくれる人がいると思うけど……」
俺の言葉に返したのは、パパさんだった。俺の目を見つめながら、
「私達親としては、やはりどこぞの馬の骨とも知らない輩たちと一緒よりも、信頼に足る人と共に行って欲しいと思っています。その点、あなたであれば信頼できます。私のスキルがそう言ってますので」
「なるほど……そういうことでしたか。なら、ルウ。一緒に行こう、俺も頼れるパーティーメンバーが欲しいと思ってたんだ」
「あ、ありがとうございます!! 精一杯働きます」
「お、おう……ほどほどにな」
こうして、俺は兎人族のルウを仲間に加えたのだった。




