第12話 人攫いを追うノルク
街道の道端で倒れている少女を発見した俺は、邪魔にならないよう木陰に移動した。
まだ涙を流しながら憔悴気味の少女に、俺は優しく声をかける。
「大丈夫か? とりあえず落ち着け。っとこれで泥を落とすといい」
そう言って、俺は水で濡らした布を差し出す。少女は呟くように、ありがとうございます……と言うと濡れた布で顔や体を拭き始めた。
こういう場面をマジマジと見る訳にはいかないので、俺はそっぽを向く。
そろそろいいかな、と思った俺は竹筒に入った水をポンと置く。
「飲むといい、声がかすれてる」
一言そう言い、俺は少女が自分で話してくれるのを待った。
待ち時間にレスティアが愚痴を言ってきた。
『なんだろう、ノルクがめちゃくちゃ優しい。私はこんなに優しくされた覚えないよ』
『じゃが、優しくしたくなるのも分かるの。可愛い子じゃ』
『出たよ、トルクのロリコン症。まだ治ってないんだね』
『違う! ワシはロリコンじゃない! 何度言わせればいいんじゃ……ワシはヴァルナ一筋じゃ』
『ヴァルナだって小さいじゃん。外見は子供だよね』
俺への愚痴からだんだんトルクへ飛び火していき、トルクがロリコンと言い出した。
トルクがロリコン? 信じられない、てっきり年上のお姉さん系が好きだと思っていた。
と、まあ今はそんなことより。やがて、少女が伏し目がちに話し始めた。
「あの、本当にありがとうございます……。私は、ルウと言います。見ての通り、兎人族です……」
「ルウか……。俺はノルク、冒険者だ。とりあえず、何があったのか話してくれないか?」
ルウは頷くと、出てくる言葉で必死に伝えてくれた。時間か過ぎるごとに、ランナの声は震えてくる。
掻い摘んで話すと、ルウはここから十数キロ離れた所に一族少数で住んでいるのだという。
だが、突如今日人攫いの集団が襲撃してきた。瞬く間に、制圧されルウ以外の一族はみんな連れ去られたのだという。
両親のお陰でルウは辛くも脱出して今に至る。
ルウの話しを聞いて、俺に疑問が思い浮かんだ。
「なあ、制圧されたって言ったけど……確か兎人族って亜人の中でも戦闘能力が高い種族だと思うんだけど」
「はい……その通りです。でも全く通用しませんでした。奴らは恐ろしい化け物を飼ってます。とても人が操れるような代物ではないと思います……」
「未知の化け物ってことか……」
俺はしばらく思案した。人が操れるようなものでないなら、スキルの可能性は低い。
俺のようにスキルの覚醒が起こったなら万に一つはある。
残る可能性としては……。
「古代遺物か……」
俺が一人でぶつぶつ呟いていると、ルウは両目に涙を溜めて、俺に助けを求めてきた。
「お願いです! お金なら払えるだけ払います! 力を貸して下さい……私の力じゃ……うぅ」
「………」
心配だろうな……。何とか力になってやりたい。
冒険者とは、ただクエストを受け迷宮探索をする職業じゃない。
その根底にあるのは、人助けの精神だ。自分の欲望を満たすためだけのものじゃない。
俺は冒険者として人として、クズにはなりたくない。愚かと言われるかもしれないが、それでいい。
俺にはそれだけの力があると自負している。力ある者は、その力を自らのためだけではなく、他人のために使うべきだ。
一応、レスティアとトルクにも許可を取る。
『いいよな? 二人とも』
『っていうか私に拒否権ないでしょ? ノルクの決めたことならいいよ』
『無論、ワシも構わん。腐った連中は神の裁きを受けなければならん』
意見が一致したので、俺はルウに協力することに決めた。
「ルウ、力不足かもしれないけど。できる限りの事はするよ」
「じゃ、じゃあ……」
「ああ、一族のみんなを助けよう」
こうして、俺はルウと共に人攫いを追うことになった。
◇
とりあえず村へ向かおうということになり、俺とルウは街道を進んでいた。
俺の場合、来た道を戻っている形になる。
歩きながら、俺は詳しい情報をルウから聞いていた。
「その人攫いっていうのに心当たりはあるのか? 意味もないのに襲ってはこないだろう」
「恐らくですけど……売買するためじゃないかと……。亜人の奴隷は高く売れます、若ければ若いほどその価値は高くなります」
「奴隷か……」
この国に奴隷制度は存在する。だが、あくまでも認められた範囲でだ。
犯罪を犯した者が奴隷となる事は認められている。
罪もない者が奴隷となるのは原則禁止だ。しかし、裏では普通に売買されているのが実情だ。
そういう連中はいくつものルートを持ち、足を掴ませないために対策を施している。
国も撲滅に動き出してはいるが、あまり効果は上げられていない。
顎に手を添え、深く思案していた俺の肩がつんつんとつつかれる。視線を向けると、ルウが何か話したそうにしている。
「どうかしたのか?」
「えーと……これから村に向かってるんですよね?」
「そのつもりだが……まずかったか?」
「まずいというか……連中は私を捕まえようと躍起になってます。村やその道中で待ち伏せされてる可能性は高いかと……」
どうやら、ルウは村の中では1番の上物らしい。確かに言われて見れば、顔は整っているし、胸も大きい。
ピコピコしている長耳も可愛らしい。
そりゃ、狙われる訳だ。じゃあ、どうするか?
「その一族のみんなが攫われた場所は分かってるのか?」
「いえ……逃げるのに必死で……」
「だよな……」
ほぼ分かり切っている質問をしてしまった。場所が分からないなら、教えてもらうまでだ。
俺は何も知らないふりをして、奴らに襲撃させようと提案した。
こちらから先に仕掛けられないこともないが、正確な位置が分からないので厳しい。
こちらが油断していれば、相手にも隙が生まれる。
勝利を確信した瞬間に一番の隙が生まれるというのは、トルクの言葉だ。
ある程度の位置ならルウが分かるらしい。
兎人族は鼻が利く。人の臭いなら感知できるそうだ。
方針を固めて、俺たちは村を目指して歩いた。
◇
村まであと少しという所までやってきた。先程からルウは鼻をスンスンしており、その様子もまた可愛らしい。
すると、ルウがピタリと立ち止まった。そして小声で俺に告げる。
「ノルクさん、あの茂みの中にいると思います」
「分かった。ルウは俺の後ろに、離れるなよ」
俺は何も気付いていないふりをして、近づいていく。茂みまであと数歩のところで、敵が仕掛けてきた。
ガサガサ、と音をたてながら襲いかかってくる刺客。フードを被っているためその表情は見て取れない。
よく見ると、両の拳にメリケンサックを装着している。
刃物でないことを考えると、できるだけ傷はつけたくないのだろう。
ブンッ、と振るわれた鉄拳が空を切りながら俺に迫ったのだった。
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