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第11話 助けを求める兎人族の少女

「うらああ!」


 俺はオーガの胴体に拳を打ち込む。勢いそのままに胴体に風穴か空く。

 後方から複数体で接近してくるオーガを回し蹴りで牽制し、上段の右蹴りで吹き飛ばす。


 さらに、十数体倒した所で一際大きな体躯のオーガが視界に映る。

 通常種のオーガと違い、体は青色で覆われている。


 ブルーオーガだ。レッドオーガと並ぶオーガの上位種で指揮官のオーガと思われる。

 つまり、こいつを倒せば終わる。


 指揮官までの道のりをまたも阻もうとするオーガを、俺は倒さずにブルーオーガに狙いを定める。


 地面に拳を打ちつけ、土煙を発生させる。大きな跳躍で空中に躍り出た俺は、オーガ達を飛び越えてブルーオーガの前に姿を見せた。


 やはり他のオーガとは一線を画すな……。鱗のような青い体に、禍々しい二本の角。歪んだ口元から覗かせる鋭い牙。


 相手に取って不足なし。練習してきたことを実践するには、ちょうどいい相手だ。

 俺はトルクにその旨を伝える。


『トルク、今こそ必殺の一撃を放つ時だ』


『じゃろうな。やってみい、お主の全てを拳に乗せろ』


『おう!』


 俺は籠手をはめた右手に神気をさらに纏わせていく。鈍色に光る籠手が白い光に覆われていく。

 神気を敵に流し込み、内部から破壊する攻撃。


 ブルーオーガが重そうな金棒を振り上げ、力一杯振り下ろしてくる。

 俺は左腕でその一撃を受け止める。


「ぐぅ……」


 とてつもない負荷が左腕にかかるが、俺は歯を食いしばり踏ん張る。

 そして、ブルーオーガの腹目掛けて右手で渾身のパンチを放つ。


「闘拳技法・壱の型……神衝波(ゴッド・インパクト)!!」


 ドパァァァンと激しい衝撃がブルーオーガを打つ。直後、ブルーオーガが粉々に吹き飛んだ。魔石すら残さぬ程の衝撃だった。


 その衝撃は大地を揺らし、大気を震わせた。


 見事に成功したので、レスティアそしてトルクが感嘆の声を漏らす。


『おおお……ノルクがやったよ……。日々の鍛錬の賜物だね』


『うむ。これでこそ、闘神の成せる技よ。良くやったノルク』


『ありがとう、何とか上手くいったよ。ただ……ま、魔石があああ……!!』


 俺は嬉しく思う反面、ブルーオーガの魔石すらも粉々に破壊してしまったことに後悔した。

 うぅ……全力で打ったのがいけなかったんだ。


 当たり前だ、というより神衝波を使用したのも間違いだった。


 ブルーオーガの魔石は高価で通常のオーガ数十体分にもなる。そのお金でついに馬小屋脱却と考えていたのだが……。


「くそおおお!!」


 俺は怒りのままに残りのオーガを殲滅した。魔石すら残さずに……。


 こうして、俺は無事緊張クエストを達成したのだった。


 ◇


 その後、共に来ていたスキンヘッド冒険者パーティーと合流した。

 無惨な惨状が広がる場を目撃したスキンヘッド達は、完全に気後れしてしまっていた。


 ひとたび俺が話しかけると、


「すいません、俺が全部倒しちゃいました。報酬は半分で分けましょうか?」


「いや……いいよ、いいよ。倒したのは君だ、俺たちは何もしてないからな。さてと……俺たちはもう帰るとするかな……。いや――村人が無事で良かったぜ」


 そう言って、そそくさと帰ってしまった。ふむ……どうやら少しやり過ぎてしまったようだ。


 完全にビビらせてしまった。これではまた、あることないこと吹聴されかねない。

 後で、念押ししておこう。


 そんなわけで、俺は村人達を呼ぶために山へと向かった。ギリギリ山に入る前に掴まえることが出来た。


 護衛しながら、村人全員を村へと送る。と言っても、家は崩れ村としての機能を失っている。

 それでも、村人達は命が無事だったから良かったと言っていた。


 村人達から個人的なお礼として、この村名産のフード付きローブを頂いた。

 なんでも、裁縫スキルの者が多くいるらしく衣服を作って売っているのだとか。


 最高級の布を使用したローブを頂き、感謝感激だ。


「この度は、本当にありがとうございました。ローブがボロボロになりましたら、またお越し下さい。その時は、村が復興していると思いますので」


「こちらこそありがとうございます。夜が寒くて震えていたので、助かります。クエストでも出してくれれば、俺がまた行きますんで。それじゃ、また」


 村人全員から手を振られ、俺も振り返す。久しぶりに人の温かみを感じた俺は気分良く帰還することができた。


 冒険者ギルドに帰還した俺は、受付カウンターでフィナさんからランク昇格したことを伝えられた。


「おめでとうございます、ノルク君。これでEランク昇格です。フロストさんから話しがあると思うから少し待っててね」


「ありがとうございます! さらなる高みを求めて頑張ります」


 まさか、俺がランク昇格することがあるなんて……。少し前の俺なら考えられなかったことだ。

 これも全部、レスティアのお陰かな。


 俺は心の中で精一杯の感謝をレスティアに伝えたのだった。


 ◇


 応接室に通された俺はフロストさんを待っていた。しばらくして、フロストさんがあくびをしながら入ってきた。


「よう、待たせたな。大した活躍じゃねえか」


「そんなことないですよ。そんなことより、報酬を」


 俺は忘れないうちに報酬を求めた。緊張クエストは緊急度が高いため、報酬は非常に高い。

 今回の報酬を合わせれば、夢の馬小屋脱却だ。


 ブルーオーガの魔石は取り損ねたが、仕方ないと割り切った。


「お、そうだったな。先に渡しとくわ、これが今回の報酬だ」


 フロストさんは苦笑し、報酬を俺に手渡す。俺は確認して、目を丸くした。

 ここまでの額が貰えるとは思っていなかった。


「10万エルも……本当にいいんですよね?」


「ああ、正当な報酬額だ。貰ってくれんと、俺も困るしな」


 俺は馬小屋脱却計画を実現できそうで、思わずニヤけてしまう。慌てて首を振り、表情を戻す。


 すると、眠そうな顔のフロストさんが、真面目な表情になり本題を話し出した。


「ここからが、本題だ。お前には一応話しておく。今回オーガの群れが村を襲ったが、ここ数十年そんなことは一度も起きていない。この意味が分かるか?」


「魔族が領土拡大に動き出す前兆ですか?」


「そうだ。それに、お前の話だとブルーオーガもいたそうじゃねえか……。こちらでも対策をしていくが、お前も注意してくれ。今回は魔物だったが、魔族が出てくると厄介だからな」


 俺はコクリと頷いた。魔族のヤバサは知っている。実際に遭遇した事はないが、話にはよく聞く。


 本題を終えた俺は挨拶をしてからギルドを出た。今日は疲れたから早めに寝たい。



 緊急クエストの一件から、1週間が経とうとしていた。

 俺は今、クエストの帰りで街道を歩いていた。


 そろそろ、フィナさんに探してもらっている宿屋が見つかるはずだ。

 レスティアも楽しみなようで、気分がいい。


『新しい家、楽しみだね』


『ああ、条件に合うのが見つかってればいいんだけど。……ん?』


『どうしたの、ノルク?』


『あ、いや……』


 俺は言葉を濁しながら、街道の端へ走った。人の腕らしきものが見える。


「これは……」


 そこには、ボロボロで傷付いた兎人族の少女が倒れていた。長く白い耳は泥や土で汚れ、衣服は所々破れており血痕も見られる。

 俺は体を揺すり、声をかける。


「おい、おい大丈夫か? 何があったんだ? 聞こえるか」


「……ん……だ、誰か。た、助けて下さい! 早くしないとママとパパ、みんなが……!」


 薄らと目を開いた少女は俺を認識するや否や、涙をボロボロ流しながら、俺に縋り付いてきた。


 かなり取り乱し、助けてくれと懇願する少女を見て、俺は只事ではないと直感で感じたのだった。





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