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第1話 迷宮で置き去りにされる

「おら! てめえは、ここの掃除でもしとけ!」


 本来であれば、公平な立場であるはずのギルド職員がバケツとモップを俺に投げつける。勢いよく投げられたバケツとモップを俺は全身で受け止める。


「ノルク! それが終わったら、中の掃除だからな……サボるんじゃねえぞ」


 睨みを利かせながら、職員は俺ことノルクにそう吐き捨てた。終始イライラしながら、職員は路地を抜けていった。ここは、裏路地のごみ捨て場だ。


「くそっ……職員だからって調子に乗りやがって……」


 職員が消えたのを見計らって、俺は毒を吐く。俺だって、こんなことしたくないんだよ。

 一端の冒険者として、登録してるのに雑用ばっかりやらせやがって。


 俺は冒険者ノルク、3年経った今も最低ランクのFランクである無能だ。

 そして、自分の力ではゴブリンすらもまともに倒せないため、冒険者ギルドの雑用として働いている。


 働いてると言っても、職員からはいつも煙たがられ駒として扱われている。


 何が公正公平を謳う冒険者ギルドだ。ただ弱い者いじめしてるだけじゃないか……。


「はああ……。仕方ない、今日もやるか」


 心の中では不満を持っているが、それを実際に言葉にしようとは思わない。俺は弱いから、何の力もないから人権があるかどうかも疑わしい。


 それもこれも、俺が授かったスキルのせいだ。


 ーーーーーースキル【霊降ろし】。自らに霊を降ろすことができるスキルだ。これが無能の証なのだ。


 降りてくる霊はランダムで、自分で決めることができない。そのため、冒険者として必要な戦う力を持つ霊を降ろせないのだ。


 もちろん、運が良ければ降りることもある。ただ、そんな運に頼るような戦い方でやっていけるわけがない。

 この世界は、言ってしまえばスキルが全てだ。強力なスキルを手に入れた者が勝つ。そんな世界なのだ。


 俺は愚痴を吐きながらも、せっせと掃除をする。


「うっ……くっせ……。あいつ、わざとここにゴミを捨ててるな……」


 手製の鼻栓をしていても強烈な匂いがすり抜けてくる。くそっ、いつか必ず成り上がってやる。

 幸せな人生を送るんだ。


 俺は改めてそう固く決心し、掃除を続けた。


  ◇


 ある日のこと、俺はいつも通り冒険者ギルドの掃除をしていた。

 すると、俺に雑用を押し付けてくる職員がやって来た。

 どうせまた、裏路地のゴミ捨て場の掃除をしろだろ。


「おい、ノルク。明日は迷宮の荷物持ちだ、俺の担当パーティーが必要って言っててな。準備しとけよ、報酬はいつも通りだからな」


「なっ、ちょ……それは割に合ってない」


「あ? 文句あんのか? お前がいいんなら、もう仕事はやんねえぞ」


「……分かりました。それでいいです」


 俺が了承すると、職員はフンっと鼻を鳴らして去っていった。掃除の報酬と一緒なんて、馬鹿げてる。


 迷宮に行くということは、命を賭けるということ。迷宮では何が起こるか分からないので、常に命の危険がつきまとう。


 せめて、死なないように念入りに準備していかないとな……。

 でも、あいつの担当パーティーって大丈夫かな。


「今日は早く帰るか……」


 俺はいつもより早めに仕事を切り上げ、ボロ屋へと帰還した。


 ◇


 翌日、俺は冒険者パーティーと共に、下位迷宮へとやって来ていた。

 想像していたよりも、穏やかなパーティーで一安心だ。


「おい、坊主。今日は荷物持ちよろしくな」


「はい、よろしくお願いします」


 4人組パーティーで、全員男だ。今回は、魔物狩りをメインで行くらしくその素材を運ぶ係として俺が雇われた。


 まあ、一日でも雑用から離れられるならいい息抜きにもなるか。けど、気は抜かない。俺には戦う手段がほぼない。


 この人達が俺を守ってくれる保障なんてない。自分の身は自分で守らなければならない。


「よし、行くぞ」


 パーティーのリーダーが全員に声をかけ、迷宮探索に向かった。


 ーーーーーー迷宮、15層にて


「お、おい……なんで、こんなとこにミノタウロスがいるんだよ……!」


 パーティーメンバーの一人が、声を震わせながら言う。残りのメンバーを肩をガタガタとさせながら、表情は絶望的だ。

 かくいう俺も絶望のどん底に叩き落されていた。お、終わった……。


「リーダーどうするんだ!? 戦うのか?」


「ば、ばか言ってんじゃねえ! 勝てるわけねえだろ……逃げるんだよ!」


「逃げられるのかよ……」


 15層でミノタウロスに遭遇するなんて、運が悪すぎる。並の冒険者が束になっても、そのパワーでやられる。


 俺は逸る気持ちを抑えながら、ゆっくりと一歩ずつ後ろへ下がる。

 落ち着け、落ち着くんだ……俺はこんなとこで死なない。


「ブモオオオオ!!」


 ミノタウロスは棍棒を担ぎ、激しい叫び声をあげる。この叫びにより、完全に全員萎縮してしまった。


「無理だ……無理だ……」


 リーダーはひどく顔を歪めている。そして、俺の顔を見た。


 ……は? なんだよ、その顔は……。お、おいまさかお前……


 リーダーは口の両端を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべる。それからの行動は速かった。

 リーダーは俺の襟首を乱雑に掴み、仲間に告げる。


「こいつを囮にする! お前らも手伝え!」


「……は? ふざけんな! 離せよ、このやろう!」


「黙れ、お前は万年雑用の無能だろ……。死んだって誰も悲しみはしねえよ。俺らのために死んでくれ……」


 リーダーは堂々と俺にそう言った。これが人間の本性だ。

 死地に立った時、本性は良く表れる。


 大した力もない俺は屈強な男達に捕まり、ミノタウロスの前に投げ出された。


「うわっ……痛った。くそっ、あ……」


「逃げるぞ! お前ら、土魔法で壁を作ってバリケードも作れ!」


 リーダーの一声で仲間達は余裕を取り戻し、土魔法で大きな壁を出現させ、俺とミノタウロスを遮った。


 完全にミノタウロスと二人きりの空間ができてしまい、俺は死を悟った。


 眼前のミノタウロスは鋭い眼力で俺を睨みつけている。俺は地面にヘタリ込み、無様な声を漏らす。


「あ、あぁ……来る、な。来るなあああ!!」


 俺の叫びを聞き、ミノタウロスはさらに歩く速度を速める。どうやら、俺を徹底的に痛ぶるつもりのようだ。


 退路を絶たれた俺はミノタウロスに距離を詰められ、振り上げられた棍棒が俺を容赦なく襲う。


 ドガアアアン。辛うじて棍棒を避けた俺だったが、ミノタウロスは流れるような動作で、棍棒を振り上げた。


 その行動を予測できなかった俺は真面に喰らってしまう。


「ぐふ……が……がはっ……」


 俺は血反吐を吐き、土の壁に激突する。すでに体からはおびただしい量の血が流れており、体が抉れている。


「はっはっ……うっ……」


 だんだんと意識が薄れてくる、薄目から見えるミノタウロスは俺を逃がすまいと近づいてくる。


 ああ……俺死ぬんだな。囮にされて死ぬなんて、クソすぎる人生だろ……。美味しい肉を食って見たかったな……。


 もう、いいや。俺は目を閉じこのまま死を待とうとしたが……。


 突然、俺の腹から白い光が……。


「……え、光?」


 そうか、俺もそろそろ天に召される時間なのか。そう思っていたのだが、光はどんどん大きくなっていく。


 ミノタウロスは眩い光に苦しそうにうめき声をあげている。


「モオオ……ブモオオオオ……」


 俺の視界一面が光に満たされ、俺は遂に意識を手放したのだった。その直後、




 ――――スキル【霊降ろし】が【神降ろし】に覚醒しました。



 

 そんな音声がノルクの頭に流れた。










読んでいただきありがとうございます。


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