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【短編完結】深夜メシ 〜オヤジと俺の話〜

作者: 38ねこ猫

note掲載作品。


父と子のコミュニケーション。社会の端っこの小さな物語。

眠い。

毎日、毎日。

眠い。


深夜の夕飯。

もう慣れた。


ニューヨークのコントを見ながら

空になった器を洗わず、

寝そうになるのを耐えている。


お茶を一口ずつ飲みながら、

片付けない言い訳を自分にしている。

このお茶も夕飯のうち

飲み終わるまでは

食事が終わっていない。


そんな言い訳だ。


階段を降りてくる足音。

俺のいる部屋の引き戸が空いた。

「寝ろよ。」

親父だ。

俺は無言でやり過ごした。

「寝ろよ。」

もう一度言われてめんどくさい。

無視してやった。


なんのために起きてきたのか知らないけど、

玄関の引き戸を開ける音がした。


親父は、時々、夜中に外に行く。

ただ外に出て、

どこに行くわけでもなく、そこにいる。



俺は風呂に入るために、

食事の後片付けをする。


母が帰って来なくなって、5年。


深夜に帰宅する俺に、

飽きもせず、飯を作っておいてくれているのは

親父だ。


俺はその親父とまともに口をきいていない。


母が帰って来ないのは親父のせいだから。

親父が出て行けと言って追い出したから。


「風呂、入ったら抜いとけよ。」

外から帰ってきた親父はタバコの匂い。

臭くて嫌いだ。


子供の頃は、

タバコを吸っているところを

見たこともなかった。


俺は今、17で、

高校には行っていない。

1年で不良に絡まれて、

身を守るためにそばにあった石で

相手の頭を殴ったら大変なことになった。


血の噴き出た頭を

なんとも思わず、ただ見ていた。

なんとも思わないことが衝撃だった。


俺は何をして今を生きているのか。

親父は聞かない。


昼は寝て

夜はアルバイトに出かける。

親父にはどんなバイトかは言わない。


言っても仕方がない。


誰も近寄らないような街を見つけて、

誰も近寄らないような家に住みたい。


同級生の頭を割ったのに、

俺は、正当防衛で罪には問われなかった。

感情の置き場がどこにもない俺は

何も考えなくて良いことをした。



バイト先にいつもくる

中年のデブ。

「2時間」

カラオケのマイクを渡すと

にやけながら部屋に吸い込まれていく。


漏れ聞こえてくる歌は下手くそだし、

一人で大声で何が楽しいんだろう。

2時間も歌い狂っている。

普通、それだけ歌えば飽きるだろ。

延長、延長で、俺は定時になっても帰れない。


早く帰れよ、中年デブ。


そう思っていると、

デブがカウンターに来た。

「客はもう来ないのか?」

「お客様で最後です」

「三万やるからレジを閉めな」

なんの話だろう。

デブが払うのは7000円くらいで十分だ。

金払って早く帰れよ。

「レジ閉めな。」

うるさいから、計算してレジを閉めた。

入り口の鍵はとっくに閉めていた。

「君の首絞めて良い?」

別に構わないけど

デブに殺されるのは、ムカつく。

「君が頭を割った不良の父です。」


あの時、あの不良は死んだ。

俺の親父は不良の親父に金を持って行ったけど

何も終わっていなかった。


俺は、まあ良いかと思って、首を絞められた。

苦しい、って思うと

目の前が白くなった。

咳が出ると、

目の前の世界が元の色に戻った。


デブが泣きながら崩れ落ちる。

「君を殺しても帰って来ない。

俺を警察に突き出しても良い。」


泣きながら

カラオケ店のロビーで

うずくまっている。


死のうが生きようがどうでも良い。

デブに殺されようと構わなかった。


「すまない…すまない…」


店に流れる有線を切った。


デブを裏口から追い出して、

マイクを消毒した。


親父が作った飯を食べに帰ろう。

絞められた首が少し痛む。


自転車に乗って走る。

コンビニに寄ってパンを買った。


夕飯のお返しの

朝食のパン。


親父の目につく場所において、

深夜の夕食を口に運ぶ。


2階から親父が降りてくる。


俺を見て言う。

「早く寝ろよ」


無視した。


「早く寝ろよ」


うるさいから、

言ってやることにした。



「ごちそうさま、おやすみ」

あたたかい家族って、そう思います。

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