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何が起こったのか分からなかった。

突然倒れるグリフォン。頭だけなくなってしまったアレドークさん。地面でピクリとも動かないミィ。私の横に立つルーシェンさん。

状況に頭が追いつかない。


「ミィ!」


ルナ姉の叫びで、ようやく体が動き出す。ノロノロとした速度でミィに近づく。

一歩地面を踏みしめる度に揺れる左腕に激痛が走り、涙が出そうになる。


「ミィは、平気なの?」

「ええ。呼吸はある。でも、血が止まらないわ」

「無事に終わったようだな」


終わった?

何が終わったと言うのだろうか?

状況が? 戦いが? それとも、ミィの命が?


ルーシェンさんを睨みつける。すっとぼけたように空を見上げる彼の視線追いかけると、何百と集まっていた巨鳥が退散していた。

頭を潰され、統率を失って暴れ出す可能性もあったのだからそれだけは助かったと言える。


でも、でもだ。


「何が無事ですか!!」


叫ぶ。

ミィを犠牲にして、多くの森人を失って。何が無事と言えるのか、と。


「ああ。そこの獣人のことを言ってるなら、キミたちの自身の怪我を言っているなら、これを飲むといい」


差し出されたのは透明で細長い容器に入った透明な液体。

めちゃくちゃ怪しいけれど、ルーシェンさんは至極真面目に差し出してくる。

数は三本。私たちに一つずつということなのだろう。


「シフィ」

『大丈夫。だいじょーぶ。この天才シフィちゃんが用意した保険だから』

「んんん?」


キャッキャと笑いながら私の周りをクルクル。楽しそうにするシフィを見て、仕方ないから先に飲もうと一本だけ受け取って口に含む。

一気に喉を通り抜ける液体。変化は一瞬であった。


「左腕の激痛が······」


わけも分からずに巻いてくれた布を取ると、傷が少し塞がっていた。跡はあるけど痛みはまるでない。

全身にあった気だるさも抜け落ち、傷跡がなければ傷を負ったことすら忘れてしまいそうなほどだ。


「これって」

「妖精の妙薬。妖精が恩を感じた時に差し出す薬の一つだ。その子は事前にお願いしていたようだな」

「ルナ姉。ミィ!」


経緯は置いておいて、効果のある代物だと理解した。早く飲ませないと間に合わないかもしれないと二人に駆け寄って薬の一つをルナ姉に渡し、ミィに呼びかける。

ミィ。ミィと声をかけるが目を開かない。呼吸もどんどんと弱くなっている。

背中に汚れが入ると困るから寝かせるわけにもいかない。


「支えて」

「いいわよ」


手段を考えている余裕はない。

薬を一気に呷って容器を投げ捨てる。ミィを支えてくれるルナ姉に瞬間だけ目配せする。


(ごめんね)


薬を口に含み、口移しで飲ませていく。一気に飲ませられないから少しずつ飲ませて反応を見る。

半分を超えてもまだ足りないのか目を開く気配がない。ただ、嚥下はしっかりしているようで喉は動いている。


幾度と重ねる唇。早く目を開いてと祈りながら最後まで飲ませる。


これで目を開かなければ、もうーー


「おねえ、ちゃん?」


薄く開かれた瞳が宙を見つめ、零れた言葉にホッと息を吐く。


間に合った。深い傷に見えたからダメかもしれないと思ったけど、持ち直してくれた。

傷を確認する。塞がってはいるが、だいぶ深く残ってはいる。しばらくは痛みがあるかもしれない。

私が無謀なことをしたばかりに······


「ごめんね」

「みぃ」


笑みを浮かべてくれる。

頬を撫で、少し眠るように言っておく。


ルーシェンさんが居たほうに視線を向けるが、そこには誰も居ない。

もう移動してしまったのだろう。お礼を言う暇すらなかった。


「さっわたしたちは村に戻りましょうか。ちゃんと村長に状況を話さないといけないもの」

「そう、だね」


ミィを受け取り、帰路につく。

状況を見れば、私たちの敗北と言ってもいい。再びあの巨鳥たちが襲ってきたら、私たちはーーううん。今はそんなことを考えても仕方がない。

あのグリフォンを倒せた。それだけが、この戦いでの戦果なのだ。

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