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時間稼ぎ

ルナ姉の射撃は外れた。

いや、避けられたと言った方がいいか。ルナ姉が外したなんて聞いたらきっと怒るだろうし。


元々威力がバカみたいに高い銃のせいで命中率は低く。その上で変な弾を使ったようだから余計に当たりにくいのだろう。

それに、あの威力の反動を考えたら体にダメージがあってもおかしくない。精密射撃が必要な状況でダメージはハンデになる。

これ以上は引き金を引かせるのは危険かも。


「気づいてるならお願い」


細かいステップで障害物を乗り越え、森を駆けていく。

私の後ろから遮るものを全て薙ぎ払う勢いで迫ってくるグリフォン。

細かい傷など無視して突っ込んでくる。


移動方向はシフィの指示。逃げられる方向とルナ姉の位置。グリフォンが居る場所を正確に教えてくれるので安心して前を向いて全力疾走できる。途中で森人が逃げ出す姿を見ると戦闘は難しいと思えた。


『ちょっとちょっと!! 追いつかれてきてる。体力落ちてない!?』

「ずっと全力疾走、できるわけない、でしょ!!」


障害物競走しながら何百メートルもトップスピードではいられない。立ち向かうにも間合いの問題がある。

懐に入るだけなら問題ないけど、その先の展開が私にとって最悪すぎるのだ。攻撃手段が外見だけでは判断しにくい。今は前足だけでも当たる訳にはいかない。


あの狼のように隠し技を持っていたら私一人では対処しきれない。

早くーー


「オイツメタ」

「なっ!?」


一瞬の減速。それに合わせた加速で私を追い越したグリフォンは前足で薙ぎ払ってくる。

飛んで威力を軽減させようとするも速度と威力は想定外。吹き飛ばされた私は木に背中を思いっきりぶつける。


痛みに顔が引き攣り、変な息が漏れる。

前足の一撃を防御しようとした左腕に酷い傷ができてる。そのせいで短剣を握るだけで激痛が走る。


骨を折られることはなかったけれど肉はかなり持っていかれた。涙が勝手に頬を伝う。


「くっ」


ポタポタと流れる血が森を汚す。

ここに森人がいれば思いっきり怒っていることだろう。なんて明後日に思考を投げないと意識さえも痛みで手放してしまいそうだ。


『な〜にやってるの! ほらほら。次来るよ』

「分かってる!」


無事な右手で落とした短剣を握りしめる。

少し動かすだけでも激痛の走る左腕。涙を瞳いっぱいに貯めながら奥歯を噛み締め、振り下ろされる翼を短剣でいなす。

滑るように草むらへと入り木々の隙間を抜いながら今出せる全力で走る。


ポタポタと血を流し続ける左腕の止血をしないと命に関わるけれど、そんな時間は与えられない。

後ろを見なくても分かる木々を薙ぎ払う音。


私一人では時間稼ぎすらままならない。一回のダメージが大きすぎる。


「早く来なさい。ミィ!!」


叫ぶ。

分かってるはずだ。私たちが大変であることくらい。あの子なら聞こえているはずなのだ。

だから求める。あの子の力が、必要なのだ。

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