空の王
「それで、何をするか決まったのかしら?」
「やりたいことはある。だけど、それが正しいことなのかは分からない。もしかしたら、もっと大変なことになるかも」
「いいじゃない。妖精の遊び場さえ残っていれば大きな問題はないでしょう。ミィなんてわたしたちより先に行動してるのよ。今更怖気付いたって意味ないわ」
「そうかなぁ」
「そうよ。それで、あの明らかに偉そうなあいつが狙いでいいのかしら?」
「うん」
「了解」
合流前に隠していたのであろう長銃を草むらから取り出し、スコープを覗いて狙いを定める。
「耳塞いでなさい」
「はい」
慌てて両手で耳を塞ぐと、ズドンと大きな音が鳴る。
バカみたいに威力重視した銃のようで、ルナ姉が反動で少し呻いている。
空に視線を上げれば、羽に大穴を空けたグリフォンの姿がある。
落ちてくる様子はないが、こちらを睨みつけている。
「来るかも」
「時間稼ぎお願い。わたしは次のやつを使うわ」
「次のって、えっ!?」
銃口がひしゃげて使い物にならない長銃。それだけヤバい弾を使ったのだろう。
銃関連はルナ姉にしか分からないけれど、こんな風に使い潰すのは初めて見た。
『来るよ。くっるよ〜さぁさぁ本番だぁ!!』
「ああ。もう」
周りにある木々なんて気にしないで突っ込んでくるグリフォンの着地位置を想像しながら回避行動に移る。
短剣を片手に持ちながら必死逃げ、着地したグリフォンに対して即座に抗戦できる位置を探す。
「きゃっ」
『うきゃ〜』
風圧に押され、吹き飛ばされる。
シフィが居ても関係ない威力。クルクル縦回転するシフィを視界の片隅に置きながら、木にぶつからないように注意する。
太い幹をした木々をなぎ倒して着地したグリフォンはジッと私を見つめ、大きく嘶いた。
咆哮に似たその鳴き声に耐えながら草むらの影で短剣を握りしめる。
空から狙う巨鳥はいないようだ。クルクル回りながら戻ってきたシフィが耳打ちしてくれる。
羽に空いた大穴のせいで閉じなくなっているのか、片翼だけ開いたままになっている。骨まで傷をつけたのかもしれないけれど、どこまでのダメージなのかは把握できない。
「悪いけど、引き返してくれないですか?」
「ムリダ」
口を開いたグリフォンの声は男性を思わせる低音。あの二足歩行した狼と同じように話せるだけの知力があるみたいだ。
アレドークさんが兄者と言っていたし、関係はあるのかもしれない。
「引き返せない理由は?」
会話を試みる。
口を開いたのだ。もしかしたら話す意思はあるのかもしれない。そうであれば情報を引き出せる。内容次第ではーー
「ケガレタチヲモツオロカモノタチニシュクセイスル。ソノタメノセンリョク。ソノタメノエサガヒツヨウ。モウジカンガナイ。ワガイアルウチニ」
「なるほど」
頷いてみせたが耳に上手く入ってこない。
言葉は通じているはずなのに、ノイズのように聞こえて聞き取りづらいのだ。
内容としては、唯人に対して何らかの行動を起こす。そのための力が必要ということだろう。
大規模作戦があると言っていたし、それに関連していると思われる。
「ジャマハユルサナイ」
時間はもう稼げないらしい。
私はサッと後ろに隠れ、背中を向けて走り出す。
同時に聞こえる。ズドンという轟音。ルナ姉の射撃結果を聞きながら顔を顰める。
「先に謝っておきます。ごめんなさい。全力で邪魔します。妖精たちのために」
唯人に対する大規模作戦なんて私にとってはどうでもいい。それよりも世界樹と妖精たちだ。
それらを守るために、空の王とも思えるグリフォンとの戦闘開始だ。