空の脅威
草むらを抜け出し、森の中を駆ける。
アレドークさんは私の相手なんてしてられないのか別のところに移動していた。
私のことは脅威と思われていないのだろう。それはそれでいい。見くびってもらう分には得しかない。
シフィから聞いた場所を覗き見る。
開けた場所で指示を出している。あそこだと上から狙い撃ちされそうなのにその気配はまるでない。
他の森人たちは少し体が出ただけでも狙われていた。そのことを鑑みれば、アレドークさんが特別であることは分かる。
「ミィたちの様子は?」
『あ〜えっと、ルナマールはちょっとね〜って感じ。ミィは近くにいないから空かも?』
「そっか」
それぞれで動いているのは問題かもしれない。前回の戦いはそれで大変な目にあった。
それでも、私たちの切れるカードはそれしかない。少ない手札でやりくりするには現状を見ながらやれることを見つけて対象していくしかない。
アレドークさんの姿を目で確認。
手のひらサイズの石を握りしめ、全力で投げつける。
「なっ!?」
それを防いだのはどこからともなく現れた森人。背中に石が直撃し、呻いている隙に巨鳥が連れて行ってしまう。
「何しに来た。穢らわしい血を流すつもりならば、遠慮してもらおうか」
「さっきの突きが攻撃目的でなかったのは、私を傷つけて血を流させたくなかったから。ですね?」
「そうだ。森に穢れを落とすわけにはいかない。願わくば、鳥に連れ攫われて遠くで命を落とすといい」
だから開けた場所に居るのか。
私が無防備に近づいたら空から巨鳥に襲われる。その対処をしている時に攻撃されれば怪我ではすまない。
ナイフを持っていないからやるとしたら殴ることになるだろうけど、女だからといって容赦してくれるわけもない。意識を刈り取るレベルの攻撃は平然と行うことだろう。
遠距離から攻撃しようとすれば近くの人を駒のように使い倒すことだろう。
人数減ってはいるから限界はあるとしても、使えるだけ使うのは目に見えている。
「困ったね」
『パッと行ってパッと斬れば?』
「できたら苦労はしない」
障害物抜きにしてもここから百メートルはある。開けた場所は半径で五十メートルといったところ。巨鳥の速度だとほんの数秒で私を咥えることだろう。
斬って通りすぎた瞬間巨鳥が暴走することも考えられる。
突っ込むのは無理だ。やれることなんて邪魔するために石を投げつけるくらい。
「あら。何やってるのかしら?」
「ルナ姉!?」
音もなく近づいてきたルナ姉に驚く。その後ろにはルーフェンさんも居て目を丸くした。
「なるほど。あの人がこれを扇動してるのね」
「分かるの?」
「森が騒いでるもの」
そういうものなのか。
森を守る人が森に嫌われたらどうしようもない。帰る場所を失ってまでやらないといけないことなのだろうか?
「ここは任せなさいな。頼れる助っ人が何とかしてくれるわ」
「他力本願すぎないかい?」
「でも、何とかするのはあなたの役目でしょ?」
「違いない」
いつ仲良くなったのか穏やかに談笑している。
そのままルーフェンさんが向かう。私たちはやるべきことのために別の所へと向かう。
止めてくれると信じるしかない。




