相対
「なんでこちらに刃を向ける?」
苛立ちを隠さない。
私を睨みつけ、腰からナイフを取り出した。
武器の射程は私のよりも短いとしても、負けるつもりはないようで構えに隙が見えない。
「倒すべき敵が見えたから」
「倒すべき敵? 何を言うかと思えば、我らを敵とみなすか?」
「敵です。村を守るためにはあなたの存在は邪魔になります」
こちらの戦力を際限なく減らしていく人を放ってはおけない。叫び声を上げている人は、おそらく作戦を知らずに巻き込まれた人なのだろう。
残り何人が知らされずに命を差し出すのか。考えるだけで胸が痛む。
覚悟を決めた人がやるなら止めるのは難しい。命を捨てるつもりで体を出しているのだ。
だけど、そうではなく。命令されて仕方なくやっていたら襲われた時になんで!? となってしまう。その悲鳴が聞こえてくる。それを嫌がる妖精も多いようで、葉っぱの隙間から何人か覗いている。
この人を止めたところで全体の動きが止まるかは分からない。
それでも、救える命があるかもしれないのならやるべきだ。
足に力を入れ、跳ねるように距離を詰める。
正面に構えた短剣でナイフを狙う。
殺すつもりはなく。無力化して放り投げておけば、後は事態が収縮してから私とは関係ないところで解決する話だろう。
「甘い!!」
一喝と同時に突きつけられたナイフ。
狙いはバレバレだったからステップだけで回避。耳元に待機しているシフィから周囲の情報を受け取ると大きく後ろに下がって草むらに隠れる。
無力化しようとしていることはバレているようだ。
「殺す覚悟もない甘ちゃんってことかな」
『どーかな? 聡明最強シフィちゃんでもわっかんない』
「そうだね」
ふふっと笑ってみせる。
シフィと話していれば気持ちが落ち着く。逸る心を鎮めて頭の中で戦場を構築する。
対人戦は嫌という程に積んでいる。村のみんなに鍛えてもらった時は三人でボロボロにされたものだ。
その時は木刀だったけれど、今握っているのは殺せる武器。
下手なところを切りつければ命は容易く奪ってしまえる。
明らかに解体用のナイフだったあちらの物とは違う。
呼吸を整える。足音から近づいてきていることは分かる。
魔物の鳴き声。また指示されたのだろう。早くしなければ命が消える。
「覚悟を決める」
やるべき道筋を頭の中で作り上げる。
無傷で無力化できるほどの実力はない。先程の突きは素早く一朝一夕の修行でできるような動きではなかった。
『最高超絶天才シフィちゃんも手伝うからちゃっちゃと終わらせちゃお〜まだまだ終わりじゃないしね』
「だね」
倒すべき敵ではあるが、前哨戦にすぎない。本番は空にいる。あいつを倒さないとこの森に、世界樹に平穏は訪れない。