倒すべき敵
シフィを連れて前線にたどり着く。
隠れながら様子を伺うアレドークさんに近づく。
「どうなってますか?」
「············」
無視された。
指で指示しているように見えるが、その後に何人かが顔を出しては連れ攫われる。無惨に轢き殺される。
なんなのだろうか?
無表情で指示するアレドークさんを見ていると狂気じみた想いを感じる。
口減らし。しているとしたら最悪。
「勝手にします」
下手に連携を取ろうとすれば私たちと同じことになる。
目の前で散る命を無視はできない。
短剣を手に巨鳥を目指すーー
「待て」
肩を掴まれ、動きを止められる。
振り払うことは難しくない。掴まれる力が想定よりもずっと弱いから。
目の前の命と情報。私の中で秤にかけて情報を選んだ。
ごめんなさい。
心の中で謝る。助けにはいけない。
「なんですか?」
「貴様が死ぬのはどうでもいいが、我らの邪魔だけはしないでもらおう」
「邪魔?」
「そうだ。我らの計画はすでに最終段階に進んでいる。あと少し。あと少しなのだ。兄者の夢がもうすぐ叶う」
空を見上げている。
その先には、四足の鳥。グリフォンと呼ばれるような魔物に向けられる視線は、まるで親類を見るよう。
「計画の内容なんて私は、私たちは知りません。村長さんからも聞いてないです」
何らかの大規模作戦があり、 戦士が足りないことだけは聞いている。ただ、その内容までは教えてくれなかった。よそ者である私たちに聞かせられるものではないのだろう。
「だが、邪魔をしようとしている。だから、止めている」
「邪魔してほしくないなら、概要だけでも教えてもらわないと困ります」
「······知る必要はない。知ったところで何もできはしない」
「なら、関係ないですね」
邪魔をするなと言いつつ聞くなと言われても困る。私たちは村長に頼まれてここにいるのだ。救える命を救ってなんの問題がある?
「分かった。触りだけ教える。だから、邪魔をしないでくれ」
「内容によります」
「ふん」
鼻を鳴らされた。
それだけ重要な計画なのか。話したくない計画なのか。
まぁ話したくないのは私が唯人ってこともあるだろう。嫌われ者である自覚はある。だからしつこく聞くしかないのだ。
「魔物は、食べたものによって変化するのは知っているか?」
「はい」
「そして、今食べられているのが誰か分かるな?」
「森人。いや、でも、それが狙いだとしたら······」
ハッとなる。
今も一人が空に連れていかれ、空を見上げれば複数の巨鳥に齧られて血の雨と肉片を降らせている。
あれによる変化で森人の意思が魔物に宿るとしたら、それはーー
「魔物を、戦力として運用するつもり。なのですか?」
「触りしか言わん」
「ですけど、その場合は統括する人が必要になる。無差別に襲うのではなく。統率をとりながら行動させる。つまり、あの魔物はーー」
「それ以上を口にするな。森が聞いている」
知っている者も数人しかいないということか。
村長さえも知らないから、私たちに依頼が飛んできた。
村長は村を救うつもりだった。
アレドークさんは立場を使って戦力を作るために食べさせるつもりだった。
その差が、現状として出ているのだろう。
「我らには倒すべき敵がいる。そのために、やるべきことがあるのだ」
「倒すべき敵。そのために、使い捨てると?」
「使い捨てるのではない。より強固にするのだ。我らの力を。そうすることで、先行している彼らに追いつき、全てを元の形に戻す」
「そう。そうですか」
手を払いのける。
向き直り、短剣を構えた。
私が今。倒すべき敵が見つかった。
村を救うため、成すべきことがーー




