ルナマールと妖精のたまり場
「あなたは誰かしら?」
たどり着いた妖精の集まっている場所。
ふわふわと多種多様な妖精たちが遊ぶその場所に不可解な壁が見えた。
そこには無い。見えもしない。だけどこれ以上先に進めない。壁ではないけれど壁と表現するのが一番適切と思われる状況に、誰かがいると判断した。
誰かがここに隠れている。
妖精たちという衣を被って。
だけど、誰?
返事がない。隠れているのだからわざわざ答えを出す必要はない。ということなのだろうか?
「返事がないなら」
拳銃を取り出して狙いを定める。
妖精たちに当たらないように引き金を引いた。
「容赦ないな!?」
視界が揺らいだ。
目の前を覆っていたであろう壁が消え去り、代わりに現れたのは森人の男性。
村長にそっくりなその姿に、わたしは一つの名前を口にする。
「あなた。ルーフェンって人かしら?」
「なんで分かった。隠蔽と言う点であれば完璧だったはずだ」
「妖精が溜まりすぎよ。そんなの、世界樹でもないとありえない。そうでしょ?」
世界樹。この世界に点在し、森人が守ってきた妖精に愛された巨樹。森人ならぬ守人としてそれを守護していた歴史は聞いている。
今では廃れているその役割を担っているのであろうこの村にして、妖精が集まるスポットは怪しさしかない。
「なるほど。キミも妖精が見えるのか。それは盲点だ」
「紗雪のことを言ってるのかしら?」
「さぁどうだろうね。それで、オレを見つけてどうしようと?」
「どうもしないわ。怪しそうな所に怪しそうな人がいたらとりあえず問い詰める。それだけよ」
「それだけ。か」
薄く笑う。
それが癪に障るが、今だけは流しておく。
下手に踏み込むべきではないと理性がストップをかける。いつもはブレーキなんてかけないけれど、この人は危険だと判断した。
胸の奥がざわざわする。
「キミはこの状況をどうしたい?」
眼下に広がる蹂躙劇。
一人ずつ無惨に殺されていく。木々に上手く溶け込んでいれば狙われることもないだろうに、なぜか頭や体を見える位置に出している。
あれがわざとなのか状況把握ができていないだけなのか判断できるほどの情報がない。
時折ミィが助けているようだけど、ジリ貧でしかない。上をどうにかしないと狙われるだけだ。
「助けたいかい?」
「さぁどうなのかしらね」
この村に愛着なんてものはない。
何人死のうがわたしには関係のない話。守るべきは紗雪とミィだけ。
小さく息を吐き、笑みを浮かべる。
「でも、壁が減るのは困るわね」
「そうかい。そう、か」
意図を理解したようで幾度か頷く。
世界樹のほうに一礼すると、腕を肩まで上げた。
「なら、始めるとしよう」
「あら、手伝ってくれるの?」
「この村に消えてもらっては困るからね。まぁ人数が少し減ったところで、村としての体さえ保てればいいとは思ってるがね」
「ふふっそうなのね」
ああ。この人も森人が嫌いなのか。
種族を変えることはできない。嫌っていても、その人生を全うするしかない。例え、怒っていようともどうしようもない現実は自らを押し殺す。
救おうが救わまいが、何も変化はしない。
目の前にあることをこなす。それだけでいいのだろう。




