お披露目
私が向かったのはシフィの所だ。シフィのことだから呼べば来てくれるはずだけど、遊んでいるのならば聞かない可能性がある。
明らかに侵入禁止エリアである巨樹だけど、緊急事態なのだから文句は言わせない。いや、言われるよね。後でバレたら怒られるよね。
ため息が出るけど仕方ない。いつ攻撃が始まるか分からない状況で時間を無駄にはできないのだ。
「シフィ。聞こえる? シフィ」
登るのはさすがにはばかられるから下から呼んでみる。
中に入っても誰も何も言わない。というより、空の対策にてんてこまいの様子。
これならバレないかもしれない。
声をかけると、見たことない妖精たちが顔を出して手を振ってくる。遊んでると思っているのかもしれないけど緊急事態なのでできれば早くシフィに出てきて欲しい。
手だけ振り返しながらシフィの名前を呼ぶ。なんで出てこないのだろうか?
「手を借りたいの。早く出てきて」
時折、ひょっこりと顔を出してはいるから私に気づいてはいるのだろう。だけど出てこない。
なんなのだろうか。私を怒らせたいのならば作戦は成功している。
いっそのことこの樹を登って耳元で叫んであげようかと思うくらいだ。
辺りを見回して状況確認。
私やこの樹に注意を向けている人はいない。
「やるかぁ」
目の前には、登れるくらいの穴(洞って聞いたことがある)がある。そこに足を乗せて一気に上へと体を持ち上げる。
よく見れば色々な所にそれはあり、それを足場に登っていく。
脆いかと思ったが、予想よりも頑丈だ。
木登りはよくやっていたからするすると登れる。妖精たちに挨拶しながらシフィのいるところまでたどり着く。
「ほら。遊んでないでそろそろやるべきことやるよ」
『はいはい。素敵麗しシフィちゃんの力が必要なのは分かるけどね〜紗雪にはやってもらわなきゃいけないことがあるんだよ!』
「そのためにここで待ってた。なんで言わないわよね?」
『そだよ〜』
なら呼びなさいよ。
行かなかったら来るだろう。みたいな感覚で待たれても困る。放置して戦線復帰する可能性は考えなかったのだろうか?
考えてはいないかな。自分の力が絶対に必要になるという自覚があるなら私が体裁気にせずに近づくことは予測できるか。
『さてさて。お待ちかね。みんなが気にしてた人間。紗雪の登場ですよ〜安全を守るために戦ってくれるヒーローだぁ!!』
「ちょっと待って!?」
妖精たちが盛り上がっているのか拍手している。いや、拍手の音は聞こえないし、手以外で叩いてたりして頭の中?マークでいっぱいになりそうだけどちょっと待って。
「なんで私が、ううん。多分、ルナ姉たちを含んでるだろうけど、私たちがヒーロー扱いなの?」
『可愛い可愛いシフィちゃんの宣伝の賜物。素敵な贈り物でしょ?』
「もしかして森から出られなかった理由もーー」
『そそ〜逃げられたら困るからみんなで頑張った。うん。頑張った〜』
「はぁ」
肩を落とす。
ようはシフィの手のひらで動き回っていたってことだ。せめて連絡してよと思ってしまう。
まぁ頼まれて戦おうと思ったかは別問題だけど。
「それで、やってもらいたいことってなに?」
『ん〜みんなにお披露目したかっただけだよ? 受け入れられたならやることしゅーりょー』
「あっそう」
拍子抜けしてしまう。
もっと色々やらされるのかと思って身構えてしまったじゃない。
『さっみんな見てる。さっさと倒しちゃお〜』
「はいはい」
シフィを連れて樹から飛び降りる。ふんわりと着地すると妖精たちの方を振り返る。
自分たちの住処を守って。そういうような瞳に拳を突き出した。
やれることをやるとしよう。